本記事は、「冒色の性夢-09」の下書き段階の文章をそのまま投下したものになります。そのため、完成品とは内容が異なる場合がございます。
その点を理解した上でそれでも読みたいという方は、どうぞご覧になってください。
過去三回、僕はこの淫夢の世界の創造主・クイーンサキュバスの置き手紙をもらった。
一度目は満員電車ステージの開始前。
二度目はプールサイドステージの開始前。
三度目は今まさに攻略中のホテルステージの開始前。
どのタイミングも、いわゆる節目――淫夢の世界における舞台が変わり、新たな始まりを告げる時に手紙が来たのだ。
それらの前例に比して、今のタイミングはイレギュラー。
ホテルステージ7部屋目。まだステージ攻略の真っ最中。
この不可解なタイミングで僕の前に出現した便箋は、急いで書いたらしき乱れた筆跡で、次の内容が書かれていた――
* * *
警告!
人違いの勇者ちゃんに警告!
この先に、反則者処罰用の特殊な誘惑美女がいるわ。
彼女はその役割ゆえに強力な権限を持っていて、最初から『女の子側から勇者を直接的に射精させない』ルールの例外になっているの!
気をつけなさい! あなたにとって、極めて危険な誘惑美女よ!
ただし、普段の彼女は仕事が来るまで寝ていて動かないから、関わり合いになりさえしなければあなたはやり過ごせるわ。
だからくれぐれも、絶対に、彼女を起こしたらダメよ!
絶対によ! 絶対だからね!
* * *
「起こさなければ大丈夫。起こしたら即アウト、か」
ベッドの上に寝転がりながら、手紙の内容を反芻する。
頬をかきながら、その異様な雰囲気を僕は重く受け止める。
過去三回の手紙にあったような、悪ふざけめいた感じが無い。
いつもの『ハァイ、勇者ちゃん♡』という感じの冒頭で始まってない。
加えてその手紙の内容は、『次の誘惑美女が危険』という事前警告。
今回のように事前に警告が入る例は今までの誘惑美女に無かった。
そして一番見逃せないのが、初期状態で『女の子から僕をじかに射精させない』この世界のルールの例外になっている、というチート要素。
ここまで材料が揃えば、嫌でも察するしかない。
次の誘惑美女が、今までとは違う特別な存在だということを。
「救いなのは、敵が基本的に寝ていて動かない、という点か」
僕にとって唯一にして最大のアドバンテージだ。
もし僕がまともに次の誘惑美女と対峙してしまったら、おおかた僕は抵抗の余地なく快楽に堕とされてしまうのだろう。
いや、それ以前に次の相手は最初からルールの例外であるゆえ、僕を力づくで拘束して無理やり射精させることも考えられる。
ただしそれらは、あくまで相手が起きていればの話。
寝ていて動かないのなら、ただ僕はやり過ごしてしまえばいい。
「手を出したら一発ゲームオーバーの、事前警告つきの敵か。昔のRPGでもあったっけか。たしか名前は、きゅうきょくキマ……」
現実逃避ぎみに、あるいは自分の欲情を抑えるために、かつて遊んだゲームの思い出に僕が浸ろうとしたとき。
ふいに『反則者処罰用』という置き手紙のフレーズが脳裏に引っかかり、僕の記憶の海から一つの心当たりを浮かび上がらせた。
プールサイドステージの四番目。五人目の誘惑美女に会う直前。
体を休めるため、僕がステージに居座って一〇分ほど経った頃だったか。
いつまでも進もうとしない僕をとがめるように、逆走方向のドアから、危険な気配を放つ謎の女が現れたのは。
「まさか、あいつと今から会うってことになるのか?」
もしそうなら、感動の再会だ! ……もちろん皮肉だ。
思えばあの時から、僕の中に『同じ部屋に居座り続ける』という選択肢は自然と消えていた。二度と彼女に会いたくなかったからだ。
プールサイドで初めて彼女を見た時、僕は怖気にかられてすぐに逃げた。距離が遠くてよく見えなかったから、僕は彼女の風貌を知らずに済んだ。
だけど今回は――相手が寝静まっている間とはいえ――僕は危険な彼女に自分から会いに行くことになるのだ。
「……ごくり」
僕は緊張して、つばを飲み込んだ。
――00:10
――00:09
――00:08
サイドテーブルのデジタル時計が時を刻んでいく。
一定の重さがベッドに乗ればタイマーが進むホテルステージ固有の仕掛けは、僕がベッドに寝転んでいることで通常通り進んでいる。
今までのステージの前例通りなら次の八部屋目がホテルステージのラストになるが、タイマーを用いたロック解除は次も在るのだろうか。
前の部屋では僕を釣る罠として使われたが、あれが唯一の例外であることを祈る。
――0:02
――0:01
――0:00
ピー! かちゃっ!
もはや聞き慣れた電子的アラーム音と、ドアのロック解除の音。
僕はベッドから体を起こし、軽く背伸びを行う。
今回のタイマーの時間は15分だった。今までで最長だ。それだけの事前休憩が必要となるあたり、次の誘惑美女の危険度が伺える。
僕はベッドから降りて、部屋の玄関に向かって歩きはじめた。
その道中、玄関まであと三・四歩のところで、壁にドアを一つだけ発見する。
二つじゃなくて、一つ。
「あっ。風呂とトイレが別々じゃなくなってる」
ユニットバスの形態に戻った風呂場に、今さらながら僕は気づいた。
置き手紙を読むのに注意を取られて気づくのが遅れたが、前回・前々回のトイレと風呂が別々の部屋でなくなっているのだ。
バスタブと便座が同じ室内に同居している。その間の壁際には洗面台があり、顔を見るための鏡も設置されている。
何気なしに僕は風呂場の中の鏡をちらと見て、
「……まだ、目の中にハートが映っているのか」
自分の瞳に宿る性欲の象徴に辟易して、僕は眉をひそめた。
ホテルステージに来てからずっとこの『目がハート』の症状は続いているが、結局これは一体なんなのだろうか?
実害を感じないのがかえって薄気味悪い。視界に異常は特に無いし、視力が悪くなるといった効果も無い。
『目がハート』は僕に直接的な妨害を行ったためしが無いのだ。
『体が勝手に動いて女体に溺れる』媚薬ガスの副作用、と……違っ、て……。
「うぅッ、まずい……!」
僕の中で、危機感の水位が大幅に上がった!
『体が勝手に動く』媚薬ガスの副作用に悩まされている今の状況。
これは、次の誘惑美女とは極めて相性が悪い。
起こさなければ大丈夫で、起こしたら危険な敵なのに。
前回のように体が勝手に動いて、眠ってる誘惑美女を僕が襲ったら……!
「と、とりあえず気をしっかり持とう。平常心、平常心」
深呼吸を繰り返して、背筋にまとわりつく悪寒を振り払う。
こんな時は、目的意識をしっかり持とう。僕はなんとしても、現実世界に帰るんだ。
緊張する自分の心を奮い立たせて、僕は次の部屋に行くべく玄関ドアに歩いていった。
* * *
ドアを開き、ホテルステージ八部屋目に足を踏み入れる。
危険な誘惑美女が寝ているベッドの方を見ないように、僕が壁に視線を向けていると。
「な、なにこれ?」
予想外のものを見て、僕は驚愕の感嘆をもらした。
大きな薄型テレビがあった。
壁際に設置された事務机の正面に。
机から天井まで届くほど巨大な、薄型テレビが壁に掛けられていたのだ!
色欲だらけな淫夢の世界に、最新技術の薄型テレビ。
この事実だけでも異質だが、さらにテレビに映っていた内容も異様だ。
「まるで、監視カメラの映像だ……!」
縦四列・横四行に画面が十六分割されていて、それぞれの箇所で違う場所の映像を映していた。
僕がこの淫夢の世界で通ってきた満員電車、プールサイド、ホテルの個室。クイーンサキュバスの置き手紙を読んだ時の白い部屋まで映っている。
僕がまだ通っていない部屋や、室内の廊下らしき道も映っている。もしかして、この先で僕が通ることになるステージも映しているのだろうか?
「なんでこんな映像が、淫夢の世界に……」
今までの部屋から逸脱した、奇妙な緊張感に僕は立ち尽くす。
ちなみに十六分割された画面の中で、ただひとつ、右下の角だけは黒いだけでなにも映っていない。
この黒い部分について気にならないと言ったら嘘になるが、今の段階で知ることはできないだろうと僕は直感する。
そろそろ他の手がかりを求めて、薄型テレビの存在感のあまり後回しにした、もうひとつの場違いな物に僕は注目した。
「パソコンだ。……マウスは無いけど」
壁際に設置された事務机の上に、壁に掛かった薄型テレビとは別に、もうひとつの液晶モニターが置かれていた。こっちは普通のパソコンでよく見るやつだ。
事務机の下にはパソコンの筐体が置かれていて、裏を見ると薄型テレビと液晶モニターにコードが繋がっている。
デュアルディスプレイというやつだ。表示できる画面を広げるために、一つのパソコンで二つの画面に接続する手法が使われているのだ。
つまり、薄型テレビの監視カメラじみた映像はこのパソコンと繋がっている。
となれば気になるのはもう一つの画面、普通のモニターの方になにが映っているか――
* * *
・LV.1 満員電車
1 2 3 休
・LV.2 プールサイド
1 2 3 休
・LV.3 ホテルの個室
1 2 3★ 休
・LV.4 学園校舎
1 2 3
・LAST ???
1
オシオキ開始まであと 24:19
* * *
「…………」
目を見開いて沈黙しながら、僕の頭で思考が加速する。
液晶モニターの映像には、一つの表示ウィンドウが映っていた。
内容は二つに分かれていて、上に広く下に狭く、表示領域を分けている。
ウィンドウの上部分は、僕が今いる場所を指しているのだろう。
★マークのある所――今回の場合だと、『LV.3 ホテルの個室』の三部屋目に僕はいると示している。
さりげなく次の『LV.4』が学校を舞台にしていると判明したが、それは今は置いておくこととしよう。
問題はウィンドウの下部分。『オシオキ開始まであと』という物騒な文章と時間表示。
これに、『普段の彼女は仕事が来るまで寝ていて動かない』という、置き手紙の文章が僕の脳内から共鳴する。
「間違いない……この部屋の誘惑美女は、居座り行為へのオシオキが仕事なんだ」
反則者処罰用の誘惑美女の、出勤を管理するためのシステム。
もし僕が進むのをやめて一つのエリアに居続り続け、このパソコンのカウントがゼロになったら、彼女が起きて僕をオシオキしに行く。
以前、僕がプールサイドで体を休めていたときに、逆走方向から謎の女が現れたように。
「……」
僕は玄関まで歩いていって、出口ドアを開けようとこころみた。
だが、やはりというべきか、ドアノブは回らなかった。
誘惑美女を見てもいない男に道を開けてくれるほど、この淫夢の世界は甘くない。薄々わかっていた。
もはやプールサイドで僕が見た謎の危険な女と、この部屋の誘惑美女が同一人物であることに疑いの余地は無い。
できることなら彼女との対峙は避けたかったし、そのために一縷の望みにすがってもみたが、やはり駄目なようだ。
このホテルステージの慣例通り、誘惑美女とベッドに乗って、デジタル時計の解錠タイマーを連動させるしか僕に道は無い。
たとえそれが、極めて危険だとわかっていても。
………………せめて緊張感を解きほぐすため、深呼吸の時間を多めに取ることぐらいは、自分を許すことにしよう。
僕は深呼吸を数十回ほど繰り返して、平常心を保とうと努めてから、
「すぅー……はぁー……。よし、覚悟は決まった!」
まったく覚悟は決まっていないが、それでも無理やり己を鼓舞して、僕は鍵がかかったままの玄関ドアを後にして歩き出した。
ベッドの左で立ち止まり、九時の方角に体を向ける。
今まで頑なに見ようとしなかった誘惑美女のいる方を、僕は見る。
追記:続き