本記事は、「冒色の性夢-08」の下書き段階の文章をそのまま投下したものになります。そのため、完成品とは内容が異なる場合がございます。
その点を理解した上でそれでも読みたいという方は、どうぞご覧になってください。
――今後、僕になんらかの【媚薬ガスの副作用】が訪れる。
その一報を知ったホテルステージ突入前の時点で、僕が予想していた副作用は『地味だけど厄介』なタイプの効果だ。
RPGゲームのデバフ、すなわち能力の一時的下降みたいに。
欲情が強まるとか、感度が上がるとか、僕を動きにくくするものを想定していた。
あくまで『動きにくくする』だ。すなわち、僕の行動をダイレクトにどうこうするものは予想していなかったのだ。
「それがまさか、一時的オートパイロットとは……!」
ベッドの上で横になりながら、僕は頭を抱えていた。
今いる部屋は4部屋目。誘惑美女から逃れた直後の部屋だ。
前回の誘惑との戦いにて、僕は一時的とはいえ、あろうことか自分から誘惑にハマりにいくような行動をとってしまった。
嘘偽りなく、あの時の愚行を釈明すると次の通りだ。
『体が勝手に動いて、女体に溺れに行った』
自分でも言い訳クサイと思うが、本当にそうなのだ。
一時的に、自分の意志ではない何かに体を乗っ取られていた。
正気に戻れた時には、危うく誘惑美女とキスする寸前だった。
ゲームをプレイ中に他人がコントローラーを無理やり奪ってきて、ゲームオーバー寸前でコントローラーを返されたような感じだった。
僕の持論の話になるが、「体が勝手に動いた」はラブコメ主人公がヒロインにセクハラした時の一番みっともない言い訳だ。
しかしまさか、その言い訳を媚薬ガスの副作用として、自分の身で実体験するハメになるとは思わなんだ。
「そうだ。あれはあくまで副作用だ。副作用だ……!」
ぶつぶつ呟いて、僕は自分に言い聞かせる。
「体が勝手に動いた」のは、あくまで媚薬ガスの副作用だ。
もしそうでなかったら。無意識のうちに性欲が抑えられなくなったのなら。
このさき僕は、自分自身を信じられなくなってしまう!
――00:03
――00:02
――00:01
――00:00
――ピー!
――かちゃっ!
アラーム音と鍵が開く音を、僕はベッドの上で聞く。
ベッドにかかる負荷に応じてデジタル時計のタイマーが動くしかけ。
このギミックが出口の解錠に関わるのは、今後も変わらないようだ。
「スゥ……ふぅ。先を急ごう」
僕はゆっくり一呼吸おいてから、ベッドを降りて出口ドアに歩いていった。
この部屋のタイマーの待ち時間は一〇分。一〇分間、ゆっくり休んだ。
これ以上この部屋にいる意味は無い。長居は無用だ。
僕はドアノブを回してドアを開け、次の部屋に入った。
* * *
ホテルステージ5部屋目に入室。
誘惑美女の気配が無いことを確認して、僕は部屋の探索を開始した。
パッと見では、今までの部屋となんら変わりない。
やや狭めのダブルベッド、サイドテーブルの上にデジタル時計、室内にどことなく漂う高級感。
この分ではバスルームも今までと変わりなさそうだと思いながら、僕が玄関のある短い廊下に向かった、そんなときだ。
「あれっ?」
疑問の声が、短く僕の口から漏れた。
隣り合う二つのドアを目撃したからだ。
片方は凸凹ガラスのついた折り曲がり式のドア。
もう片方は赤・青の入室表示がついたドア。
前の部屋まで、目の前のドアは二つではなく一つだった。
風呂とトイレが一緒の、ユニットバスの部屋だけのハズだった。
室内の様相はだいたい予想はつくが、一応ドアを開けて中を見てみると――
「やっぱり。ここの部屋は前までと違って、風呂とトイレが別々なんだ」
案の定の間取りを目にして、僕は納得の息を吐いた。
親の都合で遠出に付き合った時に何度かホテルには泊まったが、風呂・トイレが別の部屋は高いのか、一度たりとも泊まったことが無い。
その経緯ゆえ、風呂とトイレが分かれた光景を僕は目新しく感じた。
特にお風呂部屋の方なんか、タオル類に風呂イスまで用意されていて――
「ヴェッ!?」
風呂イスを目撃した瞬間、僕は変な声が出た。
驚いたからだ。
僕が見たのは風呂イスだ。
プラスチックの、箱型の、座るのに安定感がありそうな、なんの変哲もない風呂イスだ。
ただし。
イスの真ん中に、意味深な凹型のへこみがあることを除けば……。
「って、スケベ椅子じゃないか! 僕にそんな趣味はないぞ!?」
不本意ながら、この手のエログッズは最近のアニメの下ネタでよく見かけるので、浅い知識ながら僕は知っている。
使い方? 正式名称? そこまでは知らん。知ってたまるか。
僕はスケベ椅子から目をそらし、ベッドの方に向かった。
ぶっちゃけるが、僕は女体のふとももとおっぱいとお尻は全部好きだ。けど、鞭やロウソクや〇〇○ビーズといったアブノーマルには全く興味ない。
そういう趣向が好きな人がいるのは別に否定しないが、とりあえず僕の好みではないことは断言できる。
妙なテンションになったまま、僕はベッドの上に飛び込んだ。
ベッドに負荷をかけ、ドアを解錠するためのタイマーを連動させる。
「さて、またしばらくここでお昼寝と……」
――ピー!
――かちゃっ!
「って、はやっ!?」
三秒も経ってない。
というか、今回の部屋のタイマーの初期値は0:02だった。
待ち時間、たった二秒だ。
「二秒だけベッドに乗ればクリアって……なにかの罠でもあるのか?」
怪しいむず痒さを感じて、僕は次の部屋に行くのはいったん待つことにした。
なんの備えもなく次の部屋に行くのはまずいと感じたのだ。
ベッドに腰掛け、手を額に添え、記憶の海を漁っていく。
今までの統計上、誘惑美女が誘惑をしかけるタイミングは、誘惑なしのカラ部屋が二回続いた後が多い。
さらに、こういったカラ部屋で新しく出されたギミックがそのまま誘惑美女の部屋で採用されるパターンも過去に何度かあった。
これらの前例の積み重ねから導き出される予測は、
「次の部屋で誘惑美女が現れ、別々の風呂場またはトイレでなにか仕掛けてくる……」
可能性の高い予測だと僕は睨んでいた。
少なくとも次の部屋は、まさしく『誘惑なし』が二回続いた後だ。
風呂とトイレを下見しておくぐらいの備えはしておきたい。
僕はベッドから離れ、別々となった風呂場とトイレをざっと見回した。
「む、トイレ狭いな。次の部屋では避けよう、誘惑美女と同室したら詰む」
トイレのドアを閉め、バスルームの俯瞰のみに専念。
誘惑美女を振り切る際の逃げ方をシミュレートしていく。
そうして僕がバスルームを見回していて、ふと流し台の鏡が目に入ったとき。
「まだ目にハートマークがあるのか……」
鏡に映る自分の瞳、その中心にハートマークがある。
このホテルステージに着いてから続いている性欲の凶兆。
あくまで凶兆。ただちに体に影響するようなものじゃない。
そう自分に言い聞かせながら、僕は下見を終えて部屋の出口に向かった。
自身の下腹部の滾りが、ここ最近ずっと収まらない事実に目をそらしながら。