本記事は、「冒色の性夢-05」の下書き段階の文章をそのまま投下したものになります。そのため、完成品とは内容が異なる場合がございます。
その点を理解した上でそれでも読みたいという方は、どうぞご覧になってください。
前回の続きではなく、前回の選択肢とは別ルートの話になります。
「いや」
直前に思いとどまって、僕は床を踏まずにドアから離れた。
自動ドアは開かなかった。開くスイッチとなる床を僕が踏まなかったからだ。
「ふぅ……。危ない危ない」
床にしゃがんで、僕はひと息ついた。
2番目のプールステージで黒ビキニのお姉さんの誘惑を跳ね除けてから、僕を誘惑する女の子は現れてこない。
現状、これは僕にとって唯一の好材料だ。だけどこんな状態がいつまでも続くとは思えない。
そろそろ次の5番目ステージで誘惑してくる女の子が出ると僕は見た。3番目、そして今いる4番目と誘惑が無いステージが続いたのだから。
だとしたら感度が倍増した今の僕の体調で行くのはマズイ。間違くいなく勝ち目がなくなってしまう。
ここはいったん休んで少しでも肌の感度を下げる、あるいは今の体調に慣れる必要があると僕は判断した。
「すぅー……。ふぅー……」
ゆっくりと息を吸い、そして吐く。
深呼吸をくり返す。体の中の毒素を吐き出すように。
そうして僕が次の5番目ステージに進まないまま停滞を続けていて、10分ほど経った頃だろうか。
「……ん?」
異変を目にして、僕は首をかしげた。
プールの向かい側、遠くの自動ドアが開いたのだ。
今、僕は5番目のステージに続く自動ドアのそばにいる。その向かい側、逆走方向の3番目ステージの自動ドアが開いた。
おかしい。
今までステージとステージの間の出入り口を通ったのは僕だけだ。僕以外の人物は、誘惑を担当する女の子は今まで誰もステージの垣根だけは超えなかった。
そんな今までの暗黙の法則に比して、向かいの自動ドアから現れた人物は異端だった。
いったい何者だろう? 遠目からではよく見えない。
とりあえず体の形からして、女性だというコトがかろうじてわかるくらい……。
「……っ!」
電撃的な恐怖が、僕の全身を支配した。
不思議のダンジョンという系統のゲームをご存知だろうか?
プレイヤーが一部屋ごとにランダムに変わるダンジョンを探索し、モンスターや罠に対処しつつ宝を回収していくゲームのことだ。
この手のゲームには一部屋に長く居続けるとペナルティがある。強制的にゲームオーバーになったり、理不尽に強いモンスターと戦闘させられたり。
え? なぜ今、唐突にこんな話題を出したのかって?
今、僕が迎えている状況と似ているからだ。
いつまでも同じ場所に居座り続ける僕を、咎めるように現れたあの女からは、
「嫌な予感しかしないっ!」
僕はまわれ右して、出口に向かって逃げた。
体中の細胞が産毛に至るまで僕に警告を発している。あの女に関わったら一巻の終わりだと。
内から湧き上がる自衛本能に僕は逆らわず、次の5番目ステージのドアを通り抜けたのだった。
* * *
ひとりでに開いていく自動ドアを、僕は走って通りぬける。
休んだおかげで敏感肌はややマシにはなっている。とはいえ、女の子が現れないに越したことは無い。
願わくば3番目、4番目に続いてここの5番目ステージでも誘惑は無しにしてほしい!
そんな僕のささやかな願いごとは、
「……まぁ、さすがにそんな都合のいい話は無いよなぁ」
ドアのそばでたたずむ女の子を目にしたことで、たやすく打ち砕かれた。
妹みたい――これが彼女を目にして、まっさきに抱いた第一印象だ。
身長は僕より頭一つ低い。青味がかった黒髪はやや短く、ボブカットに整えられてた頭の両側面にヘアピンでアクセントを加えている。同じく深い墨色をした眉の下には勝ち気そうな瞳がついていて、兄に小言を言う妹というイメージがピッタリあう。
僕に妹はいないが、彼女を見て思わず「お兄ちゃんのバカ!」と罵倒してくる想像がなんとなく浮かび上がって、苦笑しかけたのだが。
「うっ……」
何気なく目線を下げて、笑ってる場合じゃないと自覚する。
彼女が着ているのは、スクール水着だった。
……いや、別に僕はスク水フェチとかではない。
問題なのは水着の下、中身の肉体の方だ。
年下の妹というイメージに許されていい躰じゃない。
スク水に支えられた乳房は指が何本でも入りそうなほど豊満。鎖骨の下では谷間が深い線を描いている。水着のハイレグ部分に目を向けると、肉付きのいい腰回りと太ももがこちらの欲情をこれでもかと誘ってくる。
どうなってるんだ、この淫夢の世界は。ボン・キュッ・ボンしかいないじゃないか。
心のなかで苦々しく僕が毒づいていると。
「――!」
ふいに、スク水妹が動き出した。
僕のそばに近づいて、右手の指を股間に近づけてくる。
「やめっ――」
とっさに僕は両手で自分の勃起した肉棒を庇って、
「――あっぶっ!」
首筋に近づけてきた指先を、上体をそらしてかわした。
フェイントだ。スク水妹は股間を撫でると見せかけ、実際は首筋を狙っていたのだ。
フェイントをかわされたのが気に食わないのか、スク水妹のほっぺたがぶーたれて膨れ上がる。
「…………」
初撃をかわしてホッとしながらも、僕は危機感を持ち続けていた。
休んでマシになったとはいえ、感度上昇の影響はまだ深刻だ。女体と触れ合ってしまったら理性がもつかどうかはわからない。
僕は股間を触らせまいと腕を下げてガードを固め、スク水妹の様子を伺っていると。
「……ん?」
スク水妹が予想外の動きを見せてきて、首をかしげた。
彼女は僕に背を向けて離れていったのだ。
どういうつもりなのか意図をはかりかねて僕がスク水妹を見ていると、彼女は僕に首だけ向けて視線を返し、壁を指差した。
指が指す先、壁には透明なビニールで守られた張り紙がある。
この張り紙を読め、と彼女は言いたいのだろうか?
僕が張り紙に目を向けた直後、スク水妹はプールサイドを歩いて離れていく。
とりあえず彼女は僕が張り紙を読むのを妨害しないようだ。
さっそく僕は文章に目を通してみると――
『警告!
このプールには男性の触覚に作用して、全身が性感帯になるかのごとく肉体の感度を倍増する成分が含まれています!
なので男性は、ぜえ~~~ったい、プールに入らないでください!
え? もう既にプールに入っちゃった?
ご愁傷様です♡
m9(^Д^)プギャーwwwwwwwwwwwwwwwww』
「…………………………」
口をあんぐり開けながら、脳裏に過去のいきさつがよみがえる。
プールステージ1番目と2番目で、僕は思いっきり泳いでしまった。
1番目に至っては「ひゃっほー」なんて言ってはしゃぎながら、おもっくそ水泳を楽しんでしまった。
罠だなんて、かけらも思わなかった。
「……ムッカあぁぁぁぁぁぁ!」
煽り全開の張り紙への怒り、自分のマヌケぶりへの苦笑。
それらをない交ぜにした複雑な思いを噛みしめ、僕は拳を握りしめた。
* * *
とりあえず、過ぎたことを悔やんでも仕方がない。
今はこのステージを突破することが最優先だ。
気を取り直して、僕がプールサイドを歩こうと足を上げた、その直後。
――ピッ!
「……ん?」
施設中に、かん高い音が響き渡った。
音のした方角は正面、視線の先、プールサイドの中央。
そこには先ほど僕から距離を取ったスク水妹が、浮き袋タイプのプールマットを床に敷いてしゃがんでいた。
太陽のマークがついたボトル状の容器を持って、中から油らしきものを出して体に塗っている。
サンオイル――俗に言う日焼け止めを塗っているのだろうか? 太陽のまぶしさに反射して、肌の色が輝いて見える。
そして、もうひとつ。スク水妹がサンオイルを体に塗っているそばに、液晶画面のついた表示盤があった。
スポーツの国際大会でよくある、タイム表示のための表示盤だ。
遠くからでもわかるよう画面に大きく描かれた時間表示が、1秒ごとに数値を更新している。
――01:30
――01:29
――01:28
嫌な予感を覚え、僕は反射的に走ろうと足を上げ、
「うっく、走るのはまだ無理か……!」
内股に敏感肌の快感が走って、歩きに切り替える。
あのタイマーの表示は十中八九なんらかのタイムリミットだ。
時間切れになったら僕の不利になることが起こると見て間違いない。
スク水妹はプールサイド中央でサンオイルを塗っている。しゃがんだ体勢を崩してその場から動き出すような様子は無い。
だけど、そんな安全はいつまでも続かないと僕は確信していた。
タイムリミットを迎えた時、スク水妹は僕を誘惑しに行くのだろう。サンオイルで艶やかさを増した、極上の女体をもってして。
要は条件付きの鬼ごっこだ。
時間制限を超え、動き出したスク水妹に捕まったら僕の負け。
捕まらずに僕がこのステージを脱出したら僕の勝ち。
となれば僕にできる最善手は、スク水妹が動けない間にプールサイドを突っ切って、出口から抜け出してしまうことだが……。
「むぅ……ギリギリで間に合わないか?」
自分の歩行ペースから僕は推測を立てる。
敏感肌の悪影響が残っている今、タイムリミット以内にプールサイドを渡り切ることはできないと。
――00:42
――00:41
――00:40
刻一刻と数値を変えるタイムの表示盤を僕は通り過ぎる。
そのすぐ横、サンオイルを塗るスク水妹もスルー。
これでプールサイドの半分を踏破したことになる。
時間制限の初期値は01:30。すなわち90秒。
残りは40秒。単純計算で、半分を通るのに50秒かかった。
やはり間に合わない。時間内に渡り切るのは……いや!
敏感肌を我慢してペースを上げれば、あるいは!
「ふっ、ふんっ、ふんっ、ふんっ!」
僕は歩きから早歩きにスピードのギアを上げた。
空気と肌の擦れ方が激しくなる。感度の上がった体には辛い。
ふんふんと気合の入った声を上げるのは、そんな辛さから自分を誤魔化すためだ。
幸い、出口の自動ドアという明確なゴールがあるためか、予想していた以上に苦しくはなかった。
「あと、もう少し……!」
プールサイドを渡りきって出口の自動ドアまでたどり着くまで、残りの距離はプールサイド全体の4分の1。
いや、あと5分の1!
あと、6歩!
――00:02
――00:01
――00:00
――ピーッ! ピーッ! ピーッ! ピーッ!
ここでタイムアップを告げるアラーム音が鳴り響いた。
僕が出口の自動ドアまでたどり着くまであと4歩!
「あと、ちょっと……!」
出口まであと2歩! あと1歩!
自動ドアが開いて、道が開く!
僕は、禁断の果実を求める勇者のごとく手を伸ばし、ついにドアを通り抜けてこのステージから脱出する――!
その寸前。
あと1センチ、あと1ミリで。
伸ばした手が、後ろから女の子の手に掴まれた。