本記事は、「冒色の性夢-04」の下書き段階の文章をそのまま投下したものになります。そのため、完成品とは内容が異なる場合がございます。
その点を理解した上でそれでも読みたいという方は、どうぞご覧になってください。
トビラを開けると、視界一面がピンクに染まった。
「うわっ、またか!」
とっさに僕は鼻と口を手でかばう。
トビラの中から出てきたピンク色のガス、すなわち媚薬ガスを直に吸わないためだ。
それでも所詮は気休め。僕が全裸である以上はガスの皮膚接触もあるし、手で防げたガスの量もどれだけ減らせたことやら。
トビラを開けたら媚薬ガス、というパターンは満員電車ステージの始まりにもあった。まさか同じパターンが、今後のステージ開始時でも起こるのだろうか?
「次からトビラを開ける時はもういっそ、呼吸を止めた方がいいかなぁ」
そんな方針を考えながら、ガスが晴れた先に僕を待ち受けていたものは――
* * *
縦に長く、それでいて深い水たまりがあった。
青い塗装がほどこされた直方体状の長いくぼみに、大量の水が貯められている。くぼみの外周には細かい格子状の板があって、水たまりからこぼれる水を板の下に流していた。
いかにも人が泳ぐことを想定して作られたような地形に、ひと目で僕は舞台のテーマに確信を得る。
「プールか……!」
塩素の匂いといい、排水溝といい、プールの外周に描かれた水深や距離の標示といい。ここがプールを再現したステージであることは一目瞭然。
ただ、一般的なプールとは少し違う点もいくつかあるが。
まず1つめ。左右と天井の壁がガラス張りなのだ。天井から太陽の光がプールサイドに降り注いでる。日焼けでもさせたいのだろうか?
次に2つめ。地面が柔らかい。足の裏に伝わってくる感触が床というよりビート板っぽい。試しに尻もちをついても、痛くない。
そして3つめ。おそらく一番重要。向かいの壁にトビラがある。左右および天井とは違う塗装された普通の壁に、両開きのドアがあった。
おそらくあのドアはゴールだ。ドアの奥に進んでいくことで、ステージを進める事ができるのだろう。
便宜上、このステージを「プールサイドステージ」と名付ける。
プールサイドステージに入ったばかりの僕が今いる地点は、プールの長方形になぞらえるなら左下の角だ。
出口たるドアがある位置は、左上の角。最短コースは必然的に、直線を進むような形になる。
直線という意味では満員電車のコースも同じだったが、混雑と揺れがない分、こっちのほうが楽だ。
気を良くしながら僕は歩き出そうとしたが、ふと気になることができて一旦止まった。
「泳げるかな?」
ここはプール。プールといえば水泳。泳ぐのはアリなのでは?
たとえばプールサイドで僕を誘惑する女の子が現れたとして、泳ぐのがアリなら僕はプールを泳いで渡る戦略を選べる。
選択肢を増やすという意味では、水泳の可否はぜひとも確認したい。
戦略上、必要だからやるのだ。別に僕が泳ぎたくて泳ぐというわけではない。
「ひゃっほー!!」
――どっぽーん!!
喜びの声をあげて、僕はプールに飛び込んだ。
* * *
「ぷあっ、冷たっ!」
頭を水中から出して、僕は息をつく。
冷たいといっても、温水のプールでそこまで冷たくなかった。泳ぐのに適した、市民プールっぽい水温だ。
クロールの動作で軽く泳いでみる。裸の肌に感じる水の感触がすごく心地良い。
性的な誘惑とは関係ない、運動によるさわやかな気持ちよさを僕はひさしぶりに味わった。
「って、いけないいけない。楽しんでどうする」
危うくガチ水泳に移りかけたところで正気に戻って、何気なしに僕が右手を伸ばしたとき。
「ん?」
右手が、なにかに押される感触を覚えた。
プールの中央側に右手を伸ばして、なにか透明な力に押し返されたのだ。
まるで同じ軸の磁石を近づけても、斥力で押し返されるのと同じようだった。
試しに、今度は泳いでプールの中央に行こうとしてみる。
「あ、あれ? 行けない……」
本気で泳いでみても、透明な力が逆に押し返してくる。
このプールは25メートル長で5つのレーンがあるが、僕が使えたのは左端の1つのみ。右側の4つは行こうとしても、謎の力に押し返されて行くことができなかった。
その確認の過程で結局25メートルを泳ぎきってしまい、僕はプールから出て息を整える。
呼吸をくり返す中で僕は間近にあるものを見つけて、一連の不可解な現象に答えを見つけた。
『立入禁止:この先は夢の中で再現されていません』
こんなメッセージが書かれたバリケードが、左端のレーンと右側の4つのレーンを区切るように置かれていたのだ。
「なるほどね……通理で、行けなかったわけだ」
よく3Dゲームでプレイヤーが行けない場所に行こうとしても、透明の壁に遮られるのと似たような理屈だ。
ゲーム側が作っていない場所にプレイヤーを行かせないための仕組み。それを淫夢の世界でも採用しているだけのことだ。
泳ぎきった今になって気づくマヌケな話になるが、ステージ入口側にも同じバリケードがあった。もっと早く見つけておけば、無駄に泳いで体力をロスすることは無かったかもしれない。
「プールに目を奪われすぎちゃったな……」
油断を反省しつつも、僕の内心は清々しさに満ちていた。
性的な誘惑の無いなかで泳いだことで、心がスッキリした気分だ。邪心が洗い流されたようで、すこぶる気分がいい。
こんな健康的な気分を自分にもたらしてくれた水泳が、まさか誘惑に堕ちる原因になるなんてそれこそあり得ないだろう。
爽快な心境が消えないうちに、僕は次のステージに繋がるであろう両開きドアに向かった。