本記事は、「冒色の性夢-03」の下書き段階の文章をそのまま投下したものになります。そのため、完成品とは内容が異なる場合がございます。
その点を理解した上でそれでも読みたいという方は、どうぞご覧になってください。
歩きながら、5・6号車で会った赤髪ツインテールの容姿を思い出す。
リボンでまとめた赤いツインテール、赤い瞳、ツンツンした基本表情。
冷静に考えると、彼女の容姿は僕が過去に読んだライトノベルのキャラと特長が似ている。いや、ほぼ一致していた。
確か名前は、な…………駄目だ、思い出せない。
「ん? ちょっと待て、思い出せないといえば!」
既視感を自覚してピンときた。
爆乳エルフのときと同じだ。彼女も僕がむかし読んだライトノベルのキャラに似ていたが、そのキャラ名は思い出せなかったのだ。
おそらく淫夢の世界で僕を誘惑する女の子は、僕の記憶を元に既存の二次元キャラから作られるのだろう。その方が、いちいちゼロから僕好みの美少女を生み作り出すよりずっと楽に作り出せるから。
なのに、僕が彼女らの名前を思い出せないのはなぜか? 名前を思い出せたほうが、「あのキャラとまぐわえる」と僕を強く誘惑できるだろうに。
「僕が彼女らの名前を知っていると、この淫夢にとって都合の悪いことでもあるのか……?」
そこまで考えが及んだ、ちょうどそのとき。
僕は7号車と8号車の間の連結部にたどり着いて、
「えっ」
意外な光景をまのあたりにして、僕は声がもれた。
* * *
「ど、どういうことだ……!?」
目の前の8号車の光景が受け入れられず、僕は自問する。
都合が悪いのではなく、都合が良すぎるのだ、ゆえに、かえって怪しい。
まず、今まで電車のドア付近を避けていたスーツ男たちが、8号車ではドア付近でも混雑していた。
5号車から始まったピンクのガス――足元に充満する媚薬ガスも、8号車ではきれいさっぱり無くなっていた。
そうじて、本当の普通の意味での『満員電車』にちかしい状態。
そしてなにより、8号車で僕にとって一気に有利になる要素がひとつ増えた。
いや、僕の不利になる大きな要素がひとつ減ったと言い換えるべきか。
なぜならこの8号車では、今までと違って――
「女の子が、いない……」
僕の誘惑をになう女の子が、影も形も見当たらないのだ。
満席の椅子にも。満杯のつり革にも、女の子はいなかった。
ところ狭しと混雑するスーツ男たちの中に隠れている可能性までは否定できない。
それでも、僕の籠絡を狙ってくる女の子がいないという事実は、一抹の寂しさとともに僕に安心感を与えてくれた。
よかった、この車両では誘惑は無いんだ。
……。
残念、なんて思ってないぞ!
僕は下を見る。
ペニスの勃起はまだ収まっていない。
だけど今までの誘惑と媚薬ガスの蓄積でムラムラしてたときと比べると、こころなしか少しだけ勃起が落ち着いている気がする。
そりゃそうだ。僕に男色の趣味が無い以上、男だらけのこの車両の中で欲情する要素などあるわけがない。
「よし……先へ進もう」
安心を胸に秘めながら、僕は前に足を進ませた。
* * *
勃起を収める意味でも、僕は歩きながら今までのいきさつを振り返っていく。
ここに来るまでで会った爆乳エルフと赤髪ツインテールの共通点がもう1つあった。
ふたりとも、一言も喋らなかったのだ。
僕を誘惑する時は、混雑や罠といったギミックを使って女体を僕に押しつけることに終始していた。けど、言葉を使った誘惑はいままで一度も無かったのだ。
僕はアニメやゲームに毒された現代日本の男子高校生。
この淫夢の世界はそんな僕の二次元美少女のイメージを借りて、僕を誘惑するための女の子を生み出している。
けど、視覚的にわかりやすい外見はともかく、喋り方や心理といったより細かい部分はトレースできないのかもしれない。
いや、できないというより、トレースしないほうが淫夢にとって都合がいいのだろう。
そりゃそうだ。爆乳エルフと赤髪ツインテールが完全に原作通りだったら、二人は僕を誘惑していたはずがない。
僕が知る限り、ふたりとも原作では簡単に男に体を許すような性格じゃないからだ(原作主人公という例外はいるけど)。
僕の二次元知識から美少女の外見を再現するまでは原作通りで、誘惑するための人格をインプットするのは淫夢側の創作というわけだ。
つまり、この淫夢で僕を誘惑するために現れる女の子はすべて、
「姿かたちをマネただけの、偽物ってことか……!」
たどり着いた結論に、僕は一縷の希望を見出した。
淫夢の世界に出てくる女の子が外見だけの偽物とわかった以上、そのマイナスイメージゆえに誘惑をはねのけやすくなるかもしれない!
そんな希望的観測を抱きながら、僕が混雑の中を歩いていくと。
8号車の最奥を目にしたとき、今までの車両と違うことに僕は気づいた。
「次の車両への道が……無い!」
前までの車両にはあったはずの、車両と車両をつなぐ連結部が無い。
この電車は、8両編成だったのだ。この8号車で行き止まり。
Uターンして戻らないといけないのか? そう考えかけて、僕は思いとどまった。
8号車の最奥の壁に、ある見覚えのあるものが僕の目に映ったからだ。
「……扉だ」
最初に僕が淫夢の世界で目覚めたときに見かけた、白い扉。
それが、8号車の最奥の壁の中央にあった。
僕はまるで招かれるように混雑をかき分けて進み、扉の正面に立った。
「この扉を通り抜ければ……夢の世界から、出られる?」
自分で口にしておいてなんだが、僕は可能性は低いと感じた。
ここはサキュバスクイーンが僕と違う世界の勇者に対抗するために生み出した淫夢の世界。今までのたった2人の誘惑だけで終わるとは思えない。
しかし、可能性は無きにしもあらず、という思いも少なからずあった。サキュバスクイーンが手違いで僕を淫夢に招いてしまったことに気づいたのかも、と。
とりあえず、確認するのは簡単だ。扉を開ければいい。
逸る心臓の鼓動に緊張しながら、僕はドアノブを回して――
「えっ」
ドアノブを回せない。
回そうとしても、ガチャガチャ音が鳴るだけでドアはびくともしない。
どうなってるんだと僕はドアをよく見ると、すぐに開かない原因がわかった。
「鍵穴がある……!」
このドアは、鍵がかかっていたのだ。
鍵を手に入れて鍵穴に入れない限り、このドアの奥に進むことはできない。
当然ながら、こんなドアの鍵など僕は持っていない。
ただの普通の男子高校生ゆえにピッキング能力も無い。
となれば、このドアの先に進むには鍵を手に入れるしかない。
「くそぉ、しらみつぶしに探すしかないか……?」
今まで来た道を戻るハメになるとは。
そんなことを思いながら、僕は後ろに振り返る。
女の子が、僕の真後ろにいた。