「す、すみません……」
昼下がりのオフィス内で、俺は自分の頭を下げていた。
そりゃあ、糞みたいな上司に頭を下げたりとか、アホみたいな理由であれこれ要望を付け加えてくるクライアントに頭を下げるのは多少癪だが……元よりそこまでプライドが高いわけじゃない。特段印象に残ることも少ない顔がくっついた頭くらい、下げることはわけなかった。もちろんわざとミスをするなんて馬鹿な真似はしないが、俺程度の頭を下げることでこの人との接点が生まれるのなら……それはそれで儲けものだ。いくらでも水飲み鳥よろしく下げてやる。
「謝らないくていいから。脱字はここと、ここ。それとスライドの順番がズレ。あとグラフの項目名が間違っていたわ」
俺の前で手にした資料をめくりながら淡々と説明する女性は……俺とは正反対の女性だった。女性ながらに身長は高く、確か170cm。ヒールを履いたらそこらの男よりは確実に背が高い。長く伸ばした黒髪は大和撫子というイメージそのまま。つややかで、癖もなく真っ直ぐでサラサラとしていた。一方で顔立ちについてはややツンとした印象を与えつつも、整った目鼻立ちは美しさを携えている。一目見たら忘れられない俺の憧れ……明莉先輩だ。
「あの、明莉先輩……すみませんでした」
「謝らなくていいから。最近ミスが多いわよ。気を付けて」
「はい……」
「それじゃ、修正頼むわね」
「あ、あの……」
「期日は明日までに、よろしく」
明莉先輩は最低限の修正点と事務連絡を終え、自分の仕事へと戻ってしまった。俺はもう仕事にとりかかった先輩に取りつく言葉が見つからず、結局一言また「すみませんでした」と残すだけだった。
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「ほーらよ、どんまい」
「おお……はぁ」
夕方の休憩時間、俺は同僚とエレベーター横の休憩所に腰を掛けていた。自動販売機から缶コーヒーを奢ってもらい、並んでそれを口に運ぶ。思わずため息が漏れたところ、隣から軽く背中を叩かれた。
「なーに沈んでんだよ。いいじゃねーか、明莉先輩とお話しできたんだからよ~」
「何がお話だよ。あれは注意だろ」
「いいじゃねーか、それでもコミュニケーション取れたんだからよ。あーあ、俺も明莉先輩に叱られて~」
「お前は気楽だよな。俺は明莉先輩に見放されんじゃねーかって気が気じゃねーよ」
「バーカ、見放されるも何も、最初っから俺らみたいな凡人は、あーゆー上位層とは住む世界がチゲ―んだよ、興味がねーの」
「……」
「お、噂をすれば、だ。おい、見てみろよ」
「あ……?」
同僚がニヤつきながら俺の肩を軽くゆすって指をさしてくる。エレベーター前の廊下には凛としたスーツの女性……件の明莉先輩がこちらに向かって歩いてきていた。その隣には……ブランド物のスーツを着た男が並んでいる。確か企画部の男で、俺らの少し上。有名大学出身の先輩社員だったはずだ。
「明利さん。この間のディナーのこと、考えてくれたかい?」
「ごめんなさい、今日は予定があるの」
「連れないなぁ。僕はいつでも待ってるから、そのうち考えてくれよ」
「ええ、そのうちね。ところでこの間の企画はどう?」
「ああ、そのことだったら……」
決して見えない距離じゃないはずだ。ほんの数メートル。だが、明莉先輩の視線が俺らに向けられることは一度たりともなかった。ブランドスーツの男と明莉先輩がエレベーターに消えていくのを見て、同僚は口の端を上げて見せた。
「な? あんな上物の男ですら、軽くあしらわれてんだぜ? 俺らなんか、最初っから手の届く相手じゃねーんだよ。だったら叱られるでもなんでも、接点もっといたらいいじゃねーか。どうせ変わりゃしねーんだからよ」
「……」
「んじゃ、俺は仕事戻るわ。おめーもいつまでも気にしてねーで、ちゃちゃっと仕事しちまえよ~。風俗でもいってスッキリして来いって。生オナホスタンドとか安くてイイぞ~」
「うるせぇな。さっさと行けよ」
同僚はそう軽口を残すと、俺の肩を叩いてオフィスの方へと戻っていった。
……わかっている。明莉先輩と住む世界が違うことくらい。「謝らなくていい」という言葉だって、別に優しさで言っているんじゃない。単純に興味がないだけだろう。怒る気すらない。最初から期待もしていないってことだ。
明莉先輩は美人なだけでなく、仕事だってできる。俺の部署でも成績は群を抜いて伸び続けているし、出身も名門大学だ。対して俺はどうだ? 仕事ができるわけでもなければ、顔がいいわけでもない。金だって毎月安月給。奨学金と家賃や生活費、公共料金でかつかつの毎日だ。
明莉先輩が、高根の花だとするならば、俺はマイナーすぎて名前も知らない雑草だ。良くてタンポポとかドクダミってところだろう。あんなふうに声をかけることもできず、明莉先輩の姿を遠くから眺めることしかできない。彼女といい仲になるなんて、それこそ妄想の中でしかできないことだった。
「……本当、いい女だよな」
頭の中で俺に微笑みかけてくれる彼女も、俺に全く興味のない彼女も、どっちも美しく、胸をときめかせる。当然のようにスタイルもいい。すらりとした体つきはスレンダーという言葉がよく似合う。だが一方で胸の方はしっかりとデカい……。正直言うと謝っている最中だって、スーツがパツパツになるほどのあの巨乳に、視線が奪われていた程だ。
あんな人と付き合えたらどれだけいいんだろう。デートしたら幸せだろうし……ベッドを共にできたら、それこそ天にも昇る気持ちなんだろうな。
「……ぅ、やべ……」
先輩とのセックスを妄想していたら、ついつい勃起してしまった。
最近はずっと、こんな調子だ。何をするにも、明莉先輩のことが頭に浮かんじまう。オフィスで誰もいなくなった後、会社のトイレでこっそり……二人で営業に行った先だとか……慰安旅行。シンプルに仕事の後のアフターデートとか……挙げだしたらキリがない。
「何やってんだかなぁ、しゃんとしろ俺」
妄想するのは勝手だろうが、同僚の言うように接点を持つためにミスを続けるのは違う。あまりにミスが続くようじゃ、余計にダメな男の烙印を押され、彼女の関心に上がることはないだろう。いいかげんちゃんと仕事をするためにも、ひとまずこの性欲をどうにかしなければならない。
「……帰りに生オナホスタンドにでも寄るか」
俺は小さく独り言ち、オフィスにつま先を向けた。
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資料の修正、そこから押し付けられた仕事やらなんやらを済ませていくと、気が付けば時刻は九時を回っていた。これでようやく、至福の時間が訪れる。俺は駅の裏側にあるネオン街に足を踏み入れ、怪しげな看板を眺めて回った。
ガールズバーとかキャバクラ、ピンサロ、ソープ。ファッションヘルスに、メンズエステ。それらの並びに一つ、「生オナホスタンド―450―」と書かれた看板があった。
「いらっしゃーせー」
自動ドアが開くと、店員のやる気のない声と、爽やかな音楽が出迎える。風俗店としてはかなり明るい店内は、店員の制服もあいまってコンビニの様な親しみやすさがあった。だが、受付店員の奥をみれば、ここがまぎれもなく風俗店だということがよくわかる。待合用の座席をぐるりと取り囲むように設置されたガラス扉は、コンビニのドリンクコーナーの様。そのガラスドアの向こうには……水色やピンクの光の中に、全頭マスクをした女達が待機していた。
俺は受付の店員に声をかけ、メニューを見ながら時間分の代金を支払った。
「ありあとぁーっす。カーテン空いている生オナホだったらどれ使ってもいいンで、時間来たらアラームなるんで、その時には出てください。生ハメオプション等の追加支払いはブース内の清算機でおなしゃーっす」
「どうも」
店員に軽く会釈をし、ガラスドアの向こうで男を誘う女達を見定めた。
生オナホスタンドというのは、最近になって広がり始めた全く新しい風俗の営業形態だ。所属する嬢には全員全頭マスクを被せ、体つきのみで勝負するのが特徴だ。生オナホ達はあくまでもオナホ扱いのため、使う側としてもただ抜くための穴として使うのだから、あれこれ妙な気遣いなど必要ない。その分利用料も安くなる。利用者側も店舗側も、双方にとってインスタントに済ませられる風俗店が、生オナホスタンドだった。
「……お……」
両脇を見せたり、ガニ股で腰を揺らして見せるオナホ達の中、艶めかしく舌を動かすオナホを発見する。
ずいぶんと長身のオナホだった。身長はおそらく170cm前後。すらりとした体つきをしているが、胸はだぷんっとでっかい……♡ 髪の長い女らしく、全頭マスクの項あたりから背中の方へと長い黒髪が垂れていた。相当遊んでいるのか、あるいはこれは営業のためのアピールのなのか、乳首とクリ……そして、長く艶めかしい舌にピアスをつけている。
「んれぇっろ……れぇろ、んれぇ~~~ろぉ~~……♡」
「……♡」
ピアスのついた舌でのフェラというのは、実は何度か経験がある。普通の舌では多少舌のざらざらとした感触がある一方で、どうしても平たい肉がくっついているという感覚からは逃れることができない。だが、舌ピアスがあるだけで、あの丸く硬い金属がアクセントになってくるのだ。裏筋やカリに合わせて動かされるとたまらない……♡ 舌に付けられた銀色の丸ピアスを見ていると、俺のチンポはスラックスを押し上げてしまっていた。
「こいつにするか」
ドアのロックを外して、中へと足を踏み入れる。扉を閉めると同時に、フィルムカーテンが閉じられて、俺とオナホ二人だけの空間になった。
狭い空間の中、壁際に用意されたハンガーに、俺はスーツとシャツを脱いでひっかけていく。
「ん゛っふぅぅ~、ふぅぅ~~……ん゛ふぅぅ、んっふぅぅ♡」
基本的に当たりはずれの少ない生オナホスタンドではあるが……このオナホはアタリだろう。目の前で男が脱いでいるという状況に燃えているのか、俺がスーツを脱いでハンガーにかけていく段階で、オナホは息を荒げ、雌穴から垂れたマンコ汁が床に水たまりを作っている。俺はにやりと笑って、オナホの全頭マスクの頭を掴んで、その場にしゃがませた。
「そんなに嬉しいか? おら、しゃぶれ」
「あっむ、んっむっぢゅ、ぢゅっるる♡」
「うぉ……」
オナホは俺のチンポを差し出された途端に、すぐさましゃぶり始める。先端からキスをするとか、なるべく触れないようにおずおずとするだとか、そういった躊躇も何もない。ペットが大好物のおやつを与えられた時のように、夢中でしゃぶり出したのだ。
「あむ、ちゅぷ♡ ぢゅるる、んっぢゅぅ♡ ちゅる、れぅ♡ れろ、れろぉ♡ んっぢゅる、ぢゅるるぅ♡」
「あ゛~、いい……♡」
「んふむ、ずっぢゅ、ぢゅるるう、んっむぢゅるっ、ずぢゅ、ぢゅるるっ、んっぢゅ♡」
少ししゃぶられただけでわかる。これは営業だとか仕事だからじゃない。こいつは根っからの好き者で、チンポをしゃぶるのが好きな女だ。俺の腰骨を左右からしっかりと掴んでしゃぶり上げて来る。唇を窄めてひょっとこみたいな顔になりながらも、だ。窄めた唇の下では、ピアス付きの長い舌が俺のチンポに絡みついて、裏筋やカリをコリコリと刺激してくる♡ 普段は自分で意識することのないカリの形状も、こうして異物を当てられるとしっかりとわかる……♡
「んっぢゅ、んぢゅっぶぅう、ずっぢゅる、ぢゅるぶぢゅっ、んっぢゅ、ぢゅるるるる♡」
さて、向こうも楽しんでいるんだ。こっちも楽しませてもらおう。ここからが生オナホスタンドのいいところだ。全頭マスクということは、極限まで女の顔面の個性は削ぎ取られているということになる。ならば、その削ぎ取られた部分に何を妄想しようとこちらの自由。幸いこのオナホは、鼻筋は整っている……俺が妄想するのは当然……明莉先輩だった。
「ああ、先輩ッ、明莉先輩……うまいか、よ。俺のチンポぉ……!」
「んっぢゅっぶ……ッ♡♡♡ んっぢゅ、ぢゅるる、ぶっぢゅぅう♡」
俺には決して手の届かない先輩。美しく、エロく、いつの日か押し倒したい先輩……ッ♡♡♡ あの先輩が俺のチンポをしゃぶってくれたら。こんな下品に舐め回して、味わってくれたら……あの綺麗な顔にチンポをぶち込めたら……ッ!♡
風俗嬢ですらない生オナホに、自分を重ねて犯している後輩を知ったら、きっと先輩は軽蔑するだろう。だが、だからこそ興奮する。俺とは別の世界に生きている女を、こういう時くらい好きにしたっていいだろう。
目の前のオナホに明莉先輩を重ね、俺は全頭マスクの頭を両手でつかみ……。
「おっら゛ッ!」
「んむっぢゅっぶぅぅぅ♡♡」
ひょっとこ顔に伸びていた口を潰すように、喉の奥までぶち込んだ♡ チンポの根元を鼻にくっつけるようにしたから、きっと苦しいんだろう。オナホが咳き込み、鼻から汁が漏れる。だがそれでも、オナホも俺の腰から手を放そうとはせず、逆にギュッと抱きしめてきた♡ いいんだな? もとより止めるつもりもないが、これなら大手を振って犯せるってもんだ。俺は頭を掴んだまま、腰を前後に振り始めた。
「あぁ゛っ、明莉ッ、明莉ッ♡♡♡ くっそ、毎日毎日、エッロい顔しやがってッ、チンポしゃぶらせたくなる顔しやがってよぉお゛ッ!♡♡」
「ぐぽっ♡ ぐっぽ♡ ぐっぽ♡♡ ぐぷぷぷ~~~ぢゅるる♡♡ あむ、ちゅぷ、ちゅる、れぅ♡ れろ、れろぉ♡♡ ん゛っぶ、んっぶ、んぢゅっる、ぢゅっぶ、んぢゅっぶぉっ、ぢゅっぶぉ♡」
「あ゛~~~くっそ、明莉ッ、明莉ッ、明莉ッ、明莉ッ♡ 出すっ、出すぞ明莉ッ、俺のザーメン飲めよっ♡♡」
「んんんぅッ、んむっ♡♡ んっぢゅむ♡♡ ンぉっ、おっぶ、んぢゅっるぶぢゅるるる♡♡ ん゛っふぅぅ~~~んぢゅるるる♡♡ ぢゅっぶ、ぢゅっぶ、ぢゅるるる、ぶっぢゅっ、ずぢゅるるる♡♡」
「ぐぅぅ、す、吸い付きあがった……! くっそ、そんなに欲しいかよッ♡♡ 毎日毎日、お前のこと考えて生産した子種汁だ♡ 一滴たりとも、無駄にすんじゃねえぞ、ありがたく、飲め゛ッ♡♡♡」
「んっぶ、ぐっぶぉっ、ごぶっ、んっぶ、ぢゅっぶ、ぐぶっ、んっぶっんっぢゅるるる♡♡ あむ、ちゅぷ、ちゅる、れぅ♡ れろ、れろぉ♡♡ ずぢゅるっ、ぢゅっぢゅっぢゅっぢゅるるるるるずぢゅるる♡♡♡♡ んっぶ、んっぶ、ぐぶっぢゅっぶ、ぢゅるるる、んっぢゅるるる♡♡」
「お゛、お゛、出るッ、でっるッ、ぅ、いぐっ……明莉ッ、出る……ッ!」
どっびゅぅぅぅ~~~~~~~~~~~……♡
最近は激務でオナニーしている暇もなかったからだろうか。このオナホの使い心地が良かったということもあるだろう。いつも以上にたっぷりと出ていることがはっきりわかる♡ 尿道を駆け上がる濃厚な精液。オナニーで味わう漏れ出すような射精とは違う、目の前の雌を犯すという意思を表したような、激しい射精♡ ふと、裸足の脚に湿り気を感じる。見るとオナホは、俺のイラマチオに潮を噴いてしまったようだった。
「んっぶぉっ、おっ、んぉお゛っ、んっむ、んっぐ♡ んぁ、あっはぁ……んっぐ、ごぎゅっ……♡」
加えて俺のザーメンも、言葉通りにしっかりと一滴残らず飲み干して見せる。それも美味そうに、口をゆがめながら……♡ やっぱりこの女相当なスケベ穴だ。どうしたもんか。生オナホはフェラ抜きが基本だが、追加支払いで生ハメもできるはずだ。だが……。
俺は部屋の壁にある清算機の金額と、銀行口座の中身を頭の中で照らし合わせた。いくらオナホ相手とはいえ、風俗嬢であることにかわりはない。生ハメはそれなりに金額が張る。今日は給料日前……射精を終えたこともあって、俺の頭の中の理性はNGのプラカードを振り回していた。
生ハメを誘っておマンコを揺らすオナホの頬に手を触れ、俺は語り掛ける。
「悪いな、今日はここまでだ。乱暴に使って悪かった……」
「えぇ……そんなぁ……♡」
「でも、すげぇ、最高だった……また使わしてくれよ。そん時は下も、な?」
「……んっふふぅ♡ 絶対、また来てねェ?♡」
「ああ。じゃあな」
オナホの頬を軽く撫で、俺はシャツの袖に腕を通した。
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「いよぅ」
「おお」
ある日の終業間際のこと、エレベーター横の自販機にいると、同僚に声をかけられた。
「どうしたよお前、最近調子いいじゃねーか。何だ、女でもできて明莉先輩のことは吹っ切れたか?」
「そんなんじゃねーよ」
「なんだよ、俺が明莉先輩に叱ってもらおうと思ってたのにな~。じゃ、回復祝いってことで奢ってくれよ」
「わかってるよ、あの時はありがとな。んで、どれがいい?」
「モンスター。あ、ゼロの方な?」
「お前、俺の時は缶コーヒーだったろ!?」
軽口を叩きながらも、希望通りの物を奢ってやる。実際のところ、同僚の風俗にでも行けという助言がいい方向に働いたのは事実だからだ。
やはりというか、最近のミスは性欲に原因があったらしい。あの日生オナホスタンドで抜いてからというもの、資料作りでの妙なミスもなくなり、営業も積極的に行うことがッできた。やはり心のどこかで「明利先輩に認められたい」「失望されたくない」という気持ちがあったのだろう。変に気負いすることのなくなった俺は、ここ最近順調に仕事の成績を伸ばしていった。その礼をするというのも悪くないだろう。
まあ例の意味としては仕事がうまくいったというよりも……もっと大きな変化に対してだが。
「いいじゃねーかよ、最近明莉先輩とも仲いいみたいだし」
「ん、んん……まあな」
もう一つの変化は、明莉先輩が俺によく話しかけるようになったことだった。以前の様な修正点があった時の報告だとか、業務上行われる最低限の会話じゃない。こうしたほうがいいといったアドバイスや、もっとこういうことができるはずだという激励の言葉等。仕事ができるから褒められる以外にも、彼女から声かけしてくれる機会が格段に増えたのだった。
「かーっ、羨ましいねぇ。でもよかったじゃねーか。認められたみたいで」
「ああ……ありがとな?」
「さーな、俺はおめーに缶コーヒー奢っただけだよ」
「そっち、どうなんだ?」
「ぜ~んぜん、ダ~メダメ。ま、これ飲んで気合入れたら、なんとかやるさ。んじゃな」
「おう。無理すんなよ」
同僚と別れて手を振ったところ、俺は缶コーヒーを飲み干そうと口を付ける。だが、同僚と入れ替わりにこちらへやって来た人影に、俺は目を見開いた。
すらりとした体躯。少しでも間違えればバランスが悪いと評されそうなデカい胸……つややかなロングヘアと、整った顔立ち。間違えるはずもない相手に、背筋がぞくりと波打った。
「明莉先輩……」
「どうも。お疲れ様」
「お疲れ様です」
「今日はもう終わり?」
「はい。あとは終業報告書いて終わりっす」
「そ。それは良かったわ」
明莉先輩はそういいながら、俺の隣で自販機のコーヒーに指を伸ばした。俺が普段使う缶とかペットボトルの奴じゃなくて、本格コーヒーが出るタイプの奴だ。
「あの、明莉、先輩」
「何?」
「それ、美味いんすか? 俺その、コーヒーとかよくわかんなくって」
「ふふ、これは紅茶よ? ミルクティーなの」
「あ、え、そうなんですか!? すみません、俺細かいところか気が付かなくって」
「そんなことないわ。以前と比べて資料のミスはなくなったし、むしろ先回りして提案できることも多くなったでしょう? とてもよくなってると思うわ?」
「いやぁ……そんな……」
まさか、話せるどころかこんな風に褒められる日が来るなんて。年甲斐もなく顔が赤くなってしまう。何かこんな時、気の利いたことが言えればいいのだが、俺の頭は真っ白になっていた。せめて今晩飲みに誘うとか……。
「溜まっていたものが、吐き出せたかしらね……?」
「え?」
溜まっていたもの? 唐突な物言いに、俺は聞き返す。にんまりと笑った先輩はミルクティーを口に近づけながら、そっと口を開いて、舌を出してくる……。俺は見逃さなかった。見逃せなかった。長いピンク色の舌には真珠のように……銀色の丸ピアスが見えたことを。そして俺が……あの日誰と一時を共にしたのかを……理解してしまう。
「……ッ♡♡♡♡♡」
「ふふ……ほら、細かいところ、気が付くじゃない♡」
「え……ぁ……♡♡♡♡♡♡」
「……お店全然来てくれないから……こっちから声、かけちゃった……♡♡♡♡」
「ぁ……♡♡♡♡♡♡」
「もうあれで、終わりなの?♡♡♡♡♡♡」
突然のことに、脳みそが追い付かない。だが、明莉先輩の視線はニヤついたまま俺をじっと見つめて話さない。なんといえばいい? なんて誘えばいい? 俺の頭は上手く動いてくれずに、苦し紛れに問いかけるしかできない……。
「オナホに、なって……くれるんですか?♡♡♡」
「……オナホって、オナニーに使う道具よね?」
「……♡♡♡」
「道具に拒否権なんてないでしょう?♡♡♡♡」
気が付けば、俺は先輩を壁に押しやっていた。ミルクティーのカップを横によけさせて、顔を間近に寄せて……。もう何が考えられるわけでもない。だから、心の内から湧き出た言葉を、そのまま口にした。
「お前の家で、ヤらせろ」
先輩はその言葉を聞くなり、胸元から一枚のカードを取り出した。
「合鍵……今夜にでも……ね?♡」
艶めかしい声が俺の耳に残ってる。壁と俺の間からすり抜けた先輩は、そのままエレベーターから降りて行った。心臓が、うるさい。股間が痛いほど、膨らんでる。俺ははやる気持ちを抑えながら、終業報告を書いて会社を後にした。
緒又しゆう
2023-05-23 13:08:03 +0000 UTCクオン
2023-05-23 10:17:24 +0000 UTC