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ディフェンダー戦隊レッド 3

「レッドさん!射線上に誘い込んでください!」

「分かった!5秒後に道路に出るぞ!」


きっかり5秒後に大通りに面した百貨店のガラスが破壊され、レッドに殴り飛ばされた怪人が道路まで転がり出てきた。


「目標ロックオン!ファイア!」


車線上に待機していたピンクが『対怪人用ライフル:スコーピオン』を発射。犬型の怪人の胴に特殊な弾丸が突き刺さる。


先ほどまで縦横無尽の動きを見せていた犬型怪人はスコーピオンに撃たれ、ショックを起こしたかのように直立不動で動かなくなった。


間髪を入れずレッドが距離を詰め、光り輝く右拳を怪人の胸元に叩き込んだ。


「爆散!レッドナックル!」


爆音が響き渡り、怪人だったものは炭化して崩れ去っていく。


レッドは仕事を終え、通信回線を開いた。


「ブルー、そちらの様子はどうだ」

『こちらブルー。なんとか片付いたぜ……。グリーンも無事だ。帰投する』

「そうか。俺とピンクも戻る。基地で会おう」


交信を終わると、疲弊した様子のピンクに声をかける。


「やるな。今のはうまかったぞ。……大丈夫か?」

「ありがとうございます。平気です」

「無理はするなよ。君は正規ルートで入った隊員じゃない。体力は俺たちに劣って当然だ。いざという時支援ができないようでは困る」

「そんな……。支援は勿論ですし、私だって戦えますよ」

「分かっている。自分が後どれだけ動けるかは把握しておけということだ」

「……分かりました」


ピンクも一人前のディフェンダーとなったということか。最近は若干自分の力を過信し始めているようにも見える。


自信をつけてきたのはいいが、少々納得できていない様子を見ると、意外と我が強い性格なのかもしれない。


レッドはピンクを伴い基地に戻るのだった。







1ヶ月後。チームは再び会議室へ集まった。


いつにも増して重苦しい空気が室内に溢れていた。


『状況は悪化の一途を辿っている』


『怪人の出現は最早日常となりつつある。市民のシェルター避難が本格的に始まった。……それもこれも、先日の一件が理由だ』


会議室は静まり返っている。ブルーは顔を背け、ピンクは視線を落とし、レッドは音が鳴るほど拳を握りしめた。


『先ほど、改めてグリーンの死亡が確認された』


『胸部に怪人の一撃を受け、即死したようだ。ディフェンダー戦隊全員がその場にいたことが幸いし、3人の攻撃でどうにかなりはしたが……』

『この損失は計り知れない』

『今後の作戦立案方法を直ちに練り直さねばならない。グリーンがもういないということを、皆に受け入れてもらうしかない』

『……以上だ。情報部とピンクはこの後地下会議室へ。レッド、ブルー。今日は何もせずに休め』


室内に灯りが戻る。


皆がゾロゾロと出ていく。誰もレッドとブルーにかける言葉が見つからず、うなだれて出ていく。


ピンクが一瞬立ち止まり、何かを言おうと口を開きかけた。


レッドが顔を上げた。口元しか見えないが、ピンクはその形相に閉口するほかなかった。やがて顔を背けて出て行った。


「あんま虐めんなよ」


見れば、ブルーがこちらを見て笑っていた。笑顔ではあったが、痛々しい程覇気がなかった。身体中傷だらけで見るからに満身創痍だが、表情の理由はそれでは無いようだった。


「?…何のことだ?」

「気づいてないのか……。その様子じゃ、お前も相当参ってるな。気遣いのレッドさんはどこ行ったんだよ」

「…そんなふうに言われたことねえよ」

「……そうだったかな」


互いに訓練生時代の言葉遣いに戻っていた。彼らの間にいるはずのグリーンの姿が無いことが、彼ら2人をより強く結びつけるようだった。


「ピンクに助けられたな」

「……」


やがてブルーが先に部屋を出た。彼も限界のようだった。


レッドは力無く天井を見上げた。







初めて見る怪人だった。


今までの奴らより2回りはデカい体格。棘だらけの体。


グリーンの狙撃が頭部に炸裂したが、外傷が無い。

ブルーの刀の一撃。特殊合金のはずの刀が怪人の皮膚に負けて折れ飛ぶ。

一撃でピンクのシールドが吹き飛ばされた。愕然とし、恐怖で動けなくなるピンク。

レッドはピンクを突き飛ばし、代わりに怪人の攻撃をモロに受けた。過去最大級の一撃を喰らって背後のビルまで吹き飛ばされ、瓦礫の中に消える。


束の間の失神から目覚めたレッドが見たものは、地面に倒れ伏すブルーとグリーン、そして罠を駆使して何とか立ち回るピンクの姿だった。


なぜグリーンがここにいる?遠距離攻撃が意味をなさないと知って、狙撃地点からここまで援護に来たのか?


「レッドさん!?気がついたんですね!!」

「!!あ、ああ……」

「私が動きを封じます!レッドさんは必殺技の用意を!!」


そう言いながら手首の装置を操作して壁面につけておいたワイヤーを起動する。死角から伸びてきたワイヤーが怪人の四肢に絡みつき、高圧電流を流し込む。


「グルァアア!!」


悍ましい苦悶の声を上げる怪人。


「今です!!レッドさん!!」

「…!!よ…よし!!」


怪人めがけて走り出すレッド。


「こいつっ……さっきはよくもやりやがったなっ!!」

「!?危ないっ!!」

「なっ!?ぐわっ!!!」


怪人の体から高速で伸びてきた極太の触手がレッドの体を絡め取ってしまった。


「う、動けんっ……!!」

「レッドさん!!くっ…!」


振り下ろされる2本目の触手を何とかかわすピンク。距離を取り、デバイスを取り出した。


「何をしてる!?危険だ!!」

「これで一気に方を付けます!!」


直後、背後の空間から身の丈ほどもある砲身が現れた。どこからともなく現れたそれは放電しながら空間にぴたりと固定され、音もなく動いて怪人に狙いを定める。


開発部からもたらされた試作型のプラズマ砲だ。一度きりしか撃てず、まだ試射すら済んでいない。できるだけ使いたくは無かった。


ピンクが開発を主導し、つい先日完成したのだった。


「何だあれは…!?」

「発射!!」


直径30cmほどのビームが発射された。

青白い光は怪人の頭部を正確に射抜く。


敵は完全に動かなくなった。


主人の死に呼応するように触手が腐り落ち、レッドは自由になった。


「グリーン!!おい!!返事をしろグリーン!!」

「あ……」

「どうしたんだ!?」


駆け寄るレッドが見たものは、胸に大きな空洞を空けたグリーンに必死に呼びかけるブルーの姿だった。







「……」


グリーンの死。

怪人への憎しみ。

より強くなった、平和な世界を願う心。

彼のためにも負けられない。


違和感。


ある記憶とそれについての感情が、レッドの頭の中の大部分を占め始めていた。


『ごめんなさい、レッドさん……。またご迷惑をおかけしてしまいました』

『ピンクに助けられたな』


作戦直後のピンクの呟くような一言と、先ほどのブルーの言葉が反響し続ける。


巧みに罠を使い分け、怪人の動きを封じ、そしてトドメを刺した。


彼女の誠実な謝罪の言葉。彼女無しの状況だったらどうなっていたかという仮定。そして、彼女に助けられたという現実。


「俺が………ピンクに………」


ピンクを助けたからああした形になっただけであって、彼が1人で戦えばあんな怪人など倒せたのだ。

グリーンが死ぬことも無かった。


そう、彼が1人で戦えば。


「俺が……平和を守る」







ピンクは焦土となった市街地に足を踏み入れた。


グリーンがいなくなってから2ヶ月が経つ。怪人は毎日出現し、日々市民の犠牲者が出ていた。


だが、ディフェンダー戦隊もここにきて怪人への対策が固まりつつあった。


情報部と開発部の連携をピンクが主導したことにより、最新のレーダーによる迅速な怪人の補足が可能になった。

開発部は次々と新兵器を生み出してはディフェンダー戦隊に提供し、各々の装備も充実しつつある。


だが、別の問題が生まれていた。


「レッドさん…」


焦げた土煙の中に立つ人影を確認し、ピンクは安堵のため息を漏らした。


5体同時に出現した怪人を蹴散らしたレッドはピンクを一瞥すると、無線に手を当てた。


「…被害状況は?」

『レッド!生きてたんなら無線に出なさいよ!!……市民は百五十人ほどが行方不明になってる。もっと増えるかも』

「ヨウコ。次の怪人はどこだ」

『北西だけど……って、あんたまた行くつもり?ダメだってば!ちゃんと基地に戻って休みなさい!!』

「……北西だな」


一方的に通信を切ると、迷いの無い足取りで歩き出す。


ピンクがレッドの肩を掴んだ。

「ダメですよ、レッドさん。ヨウコさんの言う通り、ちゃんと基地に戻って休んでください」

「……どけ」

「どきませんよ。こんな状況だからこそ、何かあってレッドさんまで欠けたら…」

「話は終わった。邪魔だ」


ピンクの手を払いのけ、レッドの姿が消える。高速移動だ。


「レッドさん……」

『ピンク、応答して』

「はい、ヨウコさん……」

『あいつ、また独断専行ね。帰ったらガミガミ言っとくわ』

「すみません。でも…」

『……分かった。でも、こんなんじゃ遅かれ早かれ問題になるわね』

「………」


ピンクはレッドの消えた瓦礫の中に佇んだ。







グリーンが死んでからのレッドはまるで人が変わったかのようだった。


怪人の発生を聞くや否や1人で現地に急行し、周囲の静止も聞かずに単独で怪人を倒す。ブルーやピンクとの連携を考える素振りすらない。


笑顔を見せることも無くなった。ピンクが敵を撃破した報告に被せるように無線を入れてはその倍の数の撃破報告をすることもあった。


何かに急かされているような様子であり、余裕が感じられなくなった。


ある日ついにピンクがレッドに詰問した。


「いい加減にしてください!最近のレッドさんはおかしいです!」


会議中だった。周囲の人間は静まり返り、2人の動向を見守った。


「おかしいだと?」

「そうです!1人で勝手に行動してるじゃないですか!」

「それの何がいけないんだ」

「各個撃破されるリスクがあります!私達はチームなんですよ?怪人は集団でくるのに、数の少ないこっちがバラバラになったら意味がないじゃないですか!」

「俺が1人で全員倒せばいいだろう」

「〜〜〜っ!!訳のわからないことを言わないでくださいっ!!」


「ディフェンダー戦隊は俺1人で十分だ」


「……え?」

「現場に行く」

「ちょ、ちょっと待ってください!レッドさん!」


踵を返して会議室から出ていくレッド。後に残された面々は言葉もなく、困惑したように顔を見合わせるしか無かった。







その日の夜。


「また会議か。あんたも時間の無駄が好きなようだな」


地下会議室に呼び出されたレッドは、ホログラムの司令と対面していた。


『君が訓練生の時代から見ている。一体どういうことなんだ、レッド』

「何のことだ」

『とぼけるな。昼間の会議でのことだ。ディフェンダーが1人では戦隊ではない』

「最も強い俺が1人で現地へ行けばいい。ブルーもピンクも不要だ。もう戦わせず、バックアップに回らせろ」

『本気で言っているのか』

「ああ」

『……ピンクの言っていたことは本当のようだな』

「なに?」


司令は腕を組み、レッドにこう告げた。


『レッド。今日付けで君をリーダーから外す。後任はピンクに任せ、君は彼女の指揮下となる』

「……何だと?俺は耳が悪くなったのか?もう一度言ってくれ」

『…入ってきたまえ』


レッドの言葉には答えず、司令は隣室の人間を会議室に呼び寄せた。


「……レッドさん」


ピンクが立っていた。

任務の帰りに立ち寄ったのか、完全装備の状態だ。怪訝な顔をするレッドに向け、ピンクは告げた。


「私から司令にお願いしました。レッドさんは疲労が限界で、一度お休み頂こうとお伝えしたんです」

「勝手なことをするな、ピンク。お前は俺のサポートをしていればいい」

「……レッドさんがいない間は、私達が何とかします。一度任務を忘れて休養をーーー」

「黙れっ!!!お前達だけで何ができるんだ!?俺より弱いお前らが何人集まっても市民の平和を守れはしないだろうがッ!!!」


レッドの怒声が薄暗い地下会議室に響いた。


10秒ほど経ったか。司令が口を開いた。


『ディフェンダー戦隊のことは今後ピンクに仕切らせる。あとは彼女と話せ』


そういうが早いかホログラムがたちどころに消えてしまった。言い返そうとしたレッドは言葉を飲み込むハメになった。


会議室のスライドドアが開いた音がした。

見ればピンクが会議室を出たところだった。


「レッドさん。ついてきてください」







「こんなところに連れてきて、どうするつもりだ」


ここは訓練用の地下施設だった。

ディフェンダー戦隊の訓練や新兵器の実験に使用するスペースで、直径50mほどのドーム型の空間だった。


「私がリーダーだと司令は仰いましたが、レッドさんは認めてくれないと思います」

「当然だ。お前に付き合っている暇はない。俺は市民を守ーーー」

「なら、レッドさんは自分より強い人間の言うことなら聞くんですね?」

「ああ、いたらな」

「だったらーーー」


ピンクは振り返り、レッドを正面から見据えて言い放った。


「私と勝負してください。私が勝ったらリーダーと認めてください」

「…………何を言ってる?」

「装備はそれでいいですか?この部屋は情報部がモニターしているので、言えばすぐに装備が出てきますよ」


そう言って背中のライフルを構えるピンク。照準をレッドの頭部に合わせた。


「言い訳は聞きたくないので、準備は万全にしてください。もし後からゴタゴタ言ってきたら、その場で撃ちますよ」

「本気か?……いいだろう、やってやる」

「ほとんど丸腰みたいですけど」

「お前とは体の出来が違うからな。ちんけなおもちゃなんぞ使う必要が無いんだよ」


レッドの物言いにピンクの口元が冷たく引き締まった。


「もう始めるか?お前は準備で忙しいんだろ?」

「…もう準備はできています。装填されているのはゴム弾なのでご安心を」

「実弾にしとけよ。それで対等だ」


ピンクは黙ってライフルを構えた。


訓練場のスピーカーから開始を告げる『ビーーーッ』と言う音が鳴り響いた。


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