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夏目なつめ
夏目なつめ

fantia


銀のつぼみと白百合の頃

§  軽率だったと、自分でも思う。    何もかもスケールが違う、そんな国に行けば何か変わるだろうと、そう思ったのだ。  結果が、これ。野垂れ死に寸前の、すっかんぴん。委細は省くが、死にかけだった。 「ばっかじゃねぇの、俺……」  地に伏し呻く。男が一匹、異国の路傍。文字通り路頭に迷うとは。人目を離れ茂みの中に紛れ干からびているうち、さすがに自分が惨めになってきた。おまけに、異国の雰囲気の中に身を置くものだから、孤立無援の感が強い。  まさか、この俺が餓死するとは。  餓死、夭死、客死。こんな死に方、夢にも思わなんだ。  ああ、そろそろダメかもしれない。灼けるような空腹が急に収まってきた。ジワジワ視界も歪んでくる。存外穏やかに死に瀕していく俺。それならせめて最期は自分らしく死のうと、強がって目を閉じようとした、その時。  不意に、周囲が暗くなったのに気付いた。  何かが、こちらを見下ろしている。 「…………」  物憂く横を向けば、目に飛び込むのは小さなローファー。そこから白いストッキングの脚が伸びているのを見るに、どうも子供がしゃがみ込んでいるらしい。厄介だ。ガキは嫌いだ。もったいぶって死んでやろうという時に、粗暴なガキが居合わせたら目も当てられない。  けれど、降ってきた声は意外にも静かなもので。 「……生きてますか?」  ジリリと砂をにじりながら、俺に覗き込む子供らしき影。落ち着いていて、声の幼さの割に大人びた口調だ。少なくとも粗暴ではない。透き通った声は耳に優しく凛と響き、いつまでも聞いていたくなる透明度だった。 「……もしかして、地面の感触をお楽しみのところでしたか? お亡くなりでしたら保健所に通報しますけど」 「……人を、動物みたいに言うな」  苦々しく言い、ようやく頭をもたげる俺。興味もある。こんな澄んだ声をしているのは、どんな娘か。そう思い、頭上を仰いで。  言葉を失った。  愛らしさの権化に出会ってしまったからだ。 「……?」  キョトンと俺を見下ろしていたのは、恐ろしく、恐ろしく清純な少女だった。いや、幼女と言うべきその年頃。煌めく銀髪にベレー帽をちょこんとかぶせているのもかわいらしく、白スト、ノースリーブシャツにスカートと上品な服装をしている。一言で言えば、育ちの良さそうな美幼女だ。つぶらな碧眼には穏やかな光を漂わせ、いかにも利発そう。それが、整った顔立ちでこちらを見下ろしている。  天使。  幼い天使という他ない。  今際のきわに、見習い天使が舞い降りたのかと思った。 「あの……、あまり人を下から見ないでくれますか。スカートの中が見えてしまいそうで……」  銀髪の奥、眉を寄せて少し困ったように言う。それから、こほんと一つ咳払いをする。 「……立ってください。女の子を、下からジロジロ見るものではありませんよ」  こうも言われると、立ち上がらざるを得ない。死にかけの体に鞭打ってよろよろ立ち上がる俺を、少女はどう見たのだろう。青い目を静かに澄ませ、ジッと俺を見上げる華奢な体。不安になるほど小さな体は、やはり10歳を数えてまだ3年は経っていないだろう容貌だった。 「ほら、立てるじゃないですか」 「これでも、限界なんだよ……」  カラカラの口でものを言うべきじゃない。咳き込み、喉が切れそうになる。すべて見通すような透明な視線の前に立てば、なおさらだ。ベレー帽の頭頂部、輝く銀髪の下から、サファイアの瞳が冷静にこちらを見ている。ふわりと漂う花の香り、そよぐ銀髪に、あどけなく澄んだ、幼女の美貌。何か言ってやろうと言葉を探す。だが、上目遣いの美少女にどうしようもなく胸が弾んでしまうのも確か。白く滑らかな頬、深い蒼玉色の瞳。長い銀髪は静かに輝いていて、無音の世界をまとったような美しさだった。  半ば魅入られる俺。だが、 「……あの、私の顔に何かついてますか?」 「いや、そうじゃなく……」  子供相手に見惚れただなどと、言えるわけがない。訝しむ幼女から目をそらし、歯切れ悪く言う俺。対する美ロリは、若干の面倒くささを覚え始めたようだった。“義務感で話しかけたけど、どうしよう”、そんなことを思っている様子だ。   「……それで、どうして倒れてなんかいたんですか?」 「それが、なんだ、なんというか……」  だが、黙ってしまうと無表情な少女はジッとこちらを見つめるばかり。その、現実離れした美ロリに見つめられると、こちらが辛い。半ば、絞り出すように言った。 「その、あれだ、──腹が減って……」  そんな俺の言葉に、ダウナーな幼女も目を丸くしたようだった。育ちの良さそうな彼女のことだ、飢餓状態なんて知らないのだろう。俺だって餓死寸前になったのは初めてだ。それが、まさかこんな愛らしい少女の前でだなんて。 「お腹が、減って……??」 「その、あれだ、この国に来て、ろくに飯も食えてなくて……。就職難ってやつだ」  そんなもの、聡明な娘には理解できない話だろう。どうしたらいいものかといった顔でこちらを見下ろし、 「……あの、こちらにお友達はいなかったんですか? 頼れる人とか……」  至極、もっともなことを言うのだった。返す言葉もなかった。いや、無いではない。というか、あった。あったはずだった。だが、そこら辺のままならなさを説明している余裕は今の俺にはない。  それを、彼女は肯定と受け取ったようだった。 「無謀すぎる……」  赤面する俺に、聡明な幼女も呆れたことだろう。さほど表情は表に出さないが、それでもその声音は雄弁だった。 「仕方ありませんね……。あなたに合わせていたのですが、これでは埒もあいませんし」  ため息を吐くと、目をつむる幼女。  それから、祈るように指を組み、小さく息を呑むと、 「巻き込まれないでくださいね」  わずかに、身に光を灯し始めた。  それどころじゃない。  少しずつ、少しずつその影が大きくなっていく。  間違いない。  巨大化している。  俄かには信じがたい光景だった。  形はそのままに、ぐんっ……、ぐんっと巨大化していく華奢な影。目を瞑ったあどけない顔が、俺より高く、大きくなっていき、ついには影を落とす。腰元から少女を見上げているような気分だ。  小刻みな巨大化の度、ふわりと揺れるスカートと、風をはらむ長い銀髪。靴底が砂を巻き込む音も、次第に重く鈍くなっていく。視界はスルスルと落ちて、今や白ストの丸っこい膝すら頭の上だった。  やがて、それも収まり。  思慮深い瞼が、ゆっくりこちらを見下ろすと。 「……やっぱり、劣等種はその大きさがお似合いですね」  そうのたまったのだった。  ああ、来るんじゃなかった、こんな国。どいつもこいつも、3倍の巨躯を持つだなんて。その上、これほどのものを見せつけられて、無力感を覚えないはずがない。物の大きさを変えられる彼女たち。今更だが、俺の言葉はこいつにとっては異国語のはず。それを流暢に操る知能があれば、野垂れ死にかけることもないだろう。ズルい話だった。    そんな嫉妬の視線で奴を見上げた時。  視界に広がったのは、幼女の愛らしい手のひら。  その、巨大な肌色が大きく口を開いていて……。 「ぐぇっ?!」  首根っこを摘ままれて、俺は猫のように持ち上げられてしまう。小男が悲鳴を漏らすのは当然のこと。対する幼女は、静かな瞳でこちらを見つめている。そして、俺を立たせると。 「ほら、ちゃんと立ってください」  山のような巨体で、幼女が俺を見下ろした。目の前には丸っこい少女の膝。白ストに包まれたそれは、けれど俺の頭ほどもある。しゃがんだままの幼女に見下ろされる感覚は奇妙で、面妖で、どうにも慣れることがなかった。 「どうしたんですか小人さん。……言葉、通じてますよね?」  清楚な幼女の、率直な失礼さに鼻白む。捨て猫でも覗き込むようにでっかいジト目で俺を見つめ、その視線には遠慮がない。……飛び切りの美少女に、この体格差で見つめられるのがどんな気持ちか。知らず知らずそれに魅了されそうになる自分を、手放しで許すわけにはいかなかった。 「……あのな、人をあまり馬鹿にしてくれるな」  最後の意地で、幼女に恨み言を言う俺。飢餓状態で体はぐったり、目の前の巨体に心は少し気圧され気味。  対する幼女は、そんな小男の声が耳に馴染まないご様子で。 「……えっと、もう少し大きな声で話してもらえますか?」  不意打ちで、顔を目前に近づけられるのだ。  パチリと幼女が瞬きすれば、まつげが風を送る距離。さらさらときらめく銀髪が白百合に似た香りをそよがせ、一瞬、一瞬俺の気を弛緩させた。  もう、声も出ない。  限界だった。 「ちっくしょう……」  幼女の脚にすがり、へなへなと座り込む。彼女にしてみれば、それが快いはずがない。反射的にそれを払いのける。  それから、一つため息を吐くと。 「しかたありません。……目の前で餓死されるのもイヤなので」  俺を、摘み上げ。 「とりあえず、捨て犬は私のお家で保護しまーす」  小人を連れ、小さく巨大な足で立ち去っていったのだった。  ⁂  シルフィアと言ったその幼女の部屋は、予想を大きく外れるものではなかった。  本棚に、子供用のロフトベッド。ぬいぐるみなどもあるが、女児然としているというよりは、落ち着いた雰囲気の部屋。全体的にパステルカラーの水色をしているのが、いかにも彼女の住む空間だと思わせた。  で、その中で。  俺は、幼女の審問にかけられていた。  ……いや、正確に言えば弁明していたというべきかもしれない。  一通り餌を施されたところで、「で?」と言うように見下ろされて。状況的に、答えないわけにもいかなかったのだ。とはいえ、答えられることも大してない。底なしの馬鹿が一念発起で海外進出、目にもとまらぬ速さで大失敗。聡明な少女に、説いて聞かせられる話ではない。  最終的に絞り出したのは、貧弱なキラーカードだった。 「仕方ないんだよ、大人は色々あるっていうか……」  足をぶらぶらさせながら、退屈そうに俺の話を聞くシルフィア。小人種の泣き言になど興味ないのだろう。というか、“何を言っているかわからない”といった顔だ。彼女の語彙にあるかは知らないが、バカじゃないかと言いたげだった。  目の前で、行ったり来たりする幼女の美脚。粉雪をまとったような足が、色っぽく小娘の脚線美を彩っている。子供の脚に目を奪われるだけでも自尊心の危機だというのに、当のシルフィアは退屈げ。おまけに、あくびさえする始末。  それが、プライドの折れた心に響いた。 「お前……、もう少し態度ってものはないのか?」 「ちゃんと聞いてるじゃないですか。相応のふるまいだと思いますけど」 「初対面の大人にする態度じゃないって言ってるんだっ!」 「ふーん?」  もう、年齢を振りかざすのも無様な話。だが、やはり小娘にこの扱いは納得がいかない。がなり立てる俺に、ジト目ロリは企みある目を向ける。 「それなら……」  それから、少し足を伸ばすと。 「えい」  ツンっと、つま先で俺を押し倒した。 「わっ?!」 「ばーか。こんなチビのどこが大人ですか。あなたの国では“大きな人”って書くんでしょう? 自分で言ってて惨めにならないんですか?」  牛に追突されたような衝撃とともに、俺にのしかかる白ストロリ足。柔らかくもずっしり重たいそれは100kgを超える巨獣のようで、とてもじゃないが敵う相手ではない。汚くわめきながら、タイツのぴっちり張り付く柔らかあんよを押し返す。そしてググッと持ち上げるも、ふっくら足裏はパタンと俺を押し倒してしまった。 「……あはっ、私の足2つとちょうど同じ大きさですね。そんな体で、何が大人ですかばーか」  涼しい声が、滑らかに俺を罵倒する。同時にグイグイ押し付けられる、幼い足裏。地面の代わりに踏み潰す、最大級の侮辱で俺を煽るのだ。伸ばされたのは、粉糖たっぷりのお菓子のように愛らしい足の先。それが、俺より重い巨躯でじゃれつくと、そのままのしかかって俺に無力を教え込む。  俺の抵抗を封殺したところで、“ほら、勝てないでしょ?”とでも言うように足裏を見せつけるシルフィア。指をくねらせ、ピンっと顔を弾いて、それからすりすりと顔面を踏みつけた。まともに生きてくれば、他人に足裏をなすりつけられることなどまずあるまい。まして相手は十二歳の女の子。激怒するのは当然だ。 「なっ、何すんだこの野郎!! 誰が大人を……」  けれど、喚きたてる小男に蓋をするように、 「うるさいでーす」 「ぐッ?!」  再び、足裏が降ってくる。それも、今度は顔面に。そして顔を踏み潰されると、俺は完全にぷっくりあんよの下敷き。幼女の柔らかさとタイツの滑らかさが、有無言わさず顔面を圧し潰す。煽るように顔面をグリグリ踏み付け、足拭きマットにするかのようだった。 「∂※〇*△!!!!」  女子小学生に顔面を踏まれているなんて。屈辱を通り越して、もはやどう感情を処理すればいいかもわからない。天使のような幼女に、踏まれて、罵倒されて、足裏をなすりつけられて。しかもそれに、俺は抵抗することも対抗することも出来ないのだからなお始末に負えなかった。 「はーい、息吸ってくださーい」  踏みつけ攻撃から解放され、放心状態の俺。片や今もシルフィアは、足を掲げて俺を見下ろしている。白タイツに包まれた脚、広がったスカートはわずかに、わずかにその中の様子をちらつかせていた。タイツの表面に、うっすら浮かび上がるショーツのライン。それに、ついつい視線が引き寄せられてしまう。 「……?」  そんな小男の視線の先を追って、シルフィアも自分の下着へとたどり着く。  色白の頬がかぁっと朱に染まったのは、次の瞬間のこと。 「……ちょ、ちょっと、見ないでくださいっ!」  珍しく慌てた様子でスカートを抑えるシルフィア。視線を顔ごと“ドゴッ!”と踏み潰し、グリグリおしおきも忘れない。問答無用で押し付けられる、ぷにぷに足裏。純白の嵐に打ち潰され、小人をぐちゃぐちゃにして。  取り繕うように、咳払いを一つする。 「ま、まあ、小人相手に本気になる必要もないですが? ……でもヘンタイさんに気持ち悪い目で見られるのは嫌で当然です!」 「人のことをヘンタイヘンタイって……、これだからガキは」 「なっ……!」  羞恥心でやや余裕を失った美幼女は、その言葉にキッとこちらをねめつけた。  それから、おみ足鈍器を振り上げると、 「ヘンタイじゃないと言いますが……」  頭上に広がる、幼女のふっくらぷにぷにの足裏。白ストのマットな純白に、足指や踵、指の付け根の膨らみの肌が淡く滲んで妙に色っぽい。そして、一度指をくねらせると、シルフィアは……。 「この……」  そう言って白ストおみ足を振り下ろし、 「不審者のっ」  “ズドッ!!”と矮躯へ叩き込んでは、 「どこがっ」  “ぐりぐりぃッ♡”とねじ込むと、 「ヘンタイじゃないって言うんですか!」  重く、激しく俺を踏みにじったのだ。上半身を丸ごと踏み潰す白スト足裏。ぷにぷにの柔らかさが、拷問レベルの質量を叩き込む。上位種、何より美少女の巨体に触れて、問答無用で掻き立てられる歓喜と、それを上から粉砕する絶対的重圧と。  その矛盾が、俺をバグらせた。


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