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夏目なつめ
夏目なつめ

fantia


常夏のフェリス

§ ────それで。 ────それで、どうなったんだっけ。  波打ち際で俺は、なぜ青空を仰いでいるんだ? 海藻まみれでびしょ濡れの体を横たえて、なぜ俺は呆然としている?  たしか俺は、新天地を求めていたはずで。  そうだ、元居た土地に見切りをつけて、新大陸を目指したんだっけ。  それで、ツテを頼って、船出して。嵐が来たのは覚えているから……。  答えは明白だった。 「難破、かぁ……」  頬を撫でるのはぬるい南国の風、空いっぱいに広がるのは切ないほどのターコイズブルー。最後に寄港したのは大陸南端の獣人国だから、その先に陸はないはずだ。大洋の孤島にひとり漂着。端的に言って、ピンチだった。  あーあ。  大地に身を投げ出して、他人事のように思う。投げやりになるのは当然だ。今から、当てのないサバイバル生活が始まる。すぐに行動に移るには、ショックが多すぎた。  鮮やかな空、湿潤な空気にからりとした太陽。リゾート地であれば、これ以上の場所は他にあるまい。生還したら、あるいは大陸からのバカンス先として売り出したいくらいだ。とはいえ今は、見知らぬ空の青さが恨めしい。夜になって、見える星座が違ったらどうすれば。今から既に怖くなってくる。  ぐったりした身を横たえたまま、俺は珍しく俺は自失していた。無謀な賭けと豪快さが俺の本分のはず。だがそれが祟って危機に瀕しているのだから、打ちひしがれるのは当然だ。おまけに、必死に海で藻掻いたせいで力が入らない。掻いても掻いても押し寄せる波、仰げば打ち付ける大雨。死なずにいたのは僥倖だが、素直に喜べる幸運とも言えない。  どうするべきか。  そんな折だった。    不意に、砂の踏みしめる音が聞こえてくる。気配からして小型獣ではない。何か、大きなものが近づいてくる。まずい、今の状態では逃げられない。  けれど、次に聞こえてきたのは存外に澄んだ音で。 〈 ᑕᓕᑲᐃᓗᓄ?〉  独特の声が聞こえてきたのだ。 「に、人間……?!」  重い首をもたげて見やれば、遠くにあるのは人影。少女と思しき影が、砂浜を歩きやってくる。はるか遠く、けれどみるみる鮮明になっていくその姿。からりと小麦色の肌に豊かな銀髪、南国然としたその姿。水着か東方の踊り子のような服装は、胸と腰回りをわずかに隠すだけだ。編み上げサンダルもひどくエキゾチックで、見知らぬ土地の者であるのは一目でわかる。本当に、異郷にたどり着いてしまったらしい。  そして、表情まで見える距離になった時。  俺は思わず息を呑む。  驚くほどの美貌を持った、猫耳娘が立っていたからだ。 「お前……ケットシーか?」  訝しげにこちらを見る青い瞳、その上にぴょんと立つのは猫人の耳だった。警戒しているのか機敏に動いて、銀髪をサラサラと揺らしている。銀糸が映える、健康的に焼いた褐色肌。妖精の美貌と獣人の健康美を備えたそれは、南洋の太陽が似合うとびきりの美少女だった。  それだけじゃない。何より俺を驚かせたのは、豊満な肉体美。  デカい。胸も尻も、はち切れそうなくらいだ。 〈……?〉  キョトンと小首をかしげれば、ゆさっと揺れる巨乳。いや、もはや爆乳の域だ。人間ではありえないボリュームとハリを誇る様はまるで女神、視覚の性災害とも言うべき肉付きだった。それが南国的な露出度で肌を晒しているのだから、俺はもう釘付けだ。  思わず魅入られてしまう俺。それが彼女の不安を誘ったのか、しゃがみ込み、突つき、揺すり、 「ᖃᓄᐃᑉᐱᑦ……?」 「……何だって?」  面妖な言葉で話しかける。耳には快いが何ぶん何を言っているかさっぱりだ。音階のような音の高低と長短が合わさって、歌のように聞こえる。美しい旋律は、けれど耳なじみのある言語ではない。試しに異国の言葉を幾つか呟いたが、困惑を生むばかり。幸い害意がなさそうなのが救いだが、これではにっちもさっちもいかない。  戸惑い、ゆっくりもう一度話す美少女。 〈お前、****か?〉 「か……?」 〈お前、***から来たか?〉  歌の合間から顔を覗かせる、どこかで聞いた語彙。これは……、フェー語? 古典語も古典語だ。それに大陸の獣人言葉が混ざって、よくわからなくなっている。それでも二、三語、知っている言葉で意思疎通を図ると、 「あー……。フネ、アメ、タスケル、……わかるか?」 〈タスケ……? わかった。…………***!!〉  やおら振り返り、大声で何かに呼びかける猫耳娘。  そして、森の方から声が返ってくると。 〈何?〉 〈***?〉  にわかに、異種族娘たちがわらわら集まってきた。猫人種族の常か、どの娘も異様な美貌と肉体美。服装や髪色などは違うが、褐色美少女であるのはどれも同じ。むっちむちの肉体を揺らして、こちらへやってくる。  そして、ざっと8人ほど終結したとき。  俺は、ようやく違和感に気付く。  妙に、彼女らの顔が遠い。いや、異様に遠い。遠近感が狂い、その女体が天にそびえているように感じる。頭でも打ったのだろうか。  ぐったり横たわりつつ、訝しまずにはいられない俺。  けれど、次いで俺を襲ったのは褐色美少女のたおやかな手で。  俺は、胴体を掴まれてしまったのだ。  “まるごと”、まるで、瓶でも掴むかのように。 「ぐえっ?!」  あまりに巨大な手に掴まれ、たやすく持ち上げられる俺。その大きさは俺を瓶の鷲掴みにしてしまえるほどで、もはや巨大なヤシのようだった。そして、無理やり立たされれば、目前にはしゃがみこんだむっちり美脚たち。極太ふくらはぎと太ももが押し付け合わされ、はみ出して、肉感が匂い立つ。その暴力的な肉付きに360度囲まれ、けれどその顔ははるか上空。8人の爆乳が、しゃがみながらにして俺を見下ろしている。  疑いようもない。  巨人種だ。  獣耳巨人族の島に迷い込んでしまった。  およそ7m。4倍もの美少女に、取り囲まれてしまったのだ。 〈こいつ、小さい〉 〈小人? ***か? ……**の子供?〉  美少女の檻に囲まれて、俺は呆然とするばかりだった。もう、太ももどころか足首でさえ俺の胴と同じサイズ、破格の巨体が俺を取り囲んでいるのだ。その巨躯を前にすれば、俺など小さな花瓶程度のもの。おそらくその体重は数トンを下るまい。比較にならない巨体に数、とてもじゃないが逃げ出す気も起きない。  巨獣たちに囲まれた小動物。それが今の俺だった。 「ま、待て待て! なんだお前たち、どうしてそんなにデカいんだ?!」  片や16本もの極太太ももたちは、喋った喋ったと驚くだけ。しゃがみこみ俺へかがみこむと、むっちり潰れた太ももとふくらはぎを見せつけてやまない。視界でむにむに膨らむ、健康的なむちむちおみ脚。目線の高さに居並ぶそのM字開脚はあまりに肉感的で、かつ、常軌を逸して巨大だった。申し訳程度に巻いたパレオからは、紐ビキニのような下着が丸見えだ。  それは胸も同じ、水着のような出で立ち。あるものは一枚布を交差させて、爆乳を下から持ち上げている。クロスホルタービキニに似たその姿は、煽情的としか言いようがない。  そんな巨大娘を前に、俺は逃げ出すことなど不可能。四方を囲まれて、逃げだしても腕を伸ばしただけで捕まるだろう。その官能的な甘い香りに包まれて、ひとりその肉感に視界を犯されることしかできない。 〈ミミナシだ〉 〈子供の***かな?〉 〈どこから****?〉 〈海から来たみたい〉 〈***だね〉  とぎれとぎれに聞こえてくる単語から見るに、俺を子供か何かと勘違いしているらしい。いや、小人にさえ見えないだろう。彼女らにしてみれば、俺は膝にも届かない仔猫サイズ。チビもチビで、仔猫でも囲んで見下ろしている気分だろう。 〈そこで倒れてた〉 〈連れて**か?〉 〈怪我して**かもしれない〉  断片的に聞こえてくる歌声のような会話。  だが、やはり彼女らに害意はないらしい。  俺は、助かったようだ。  そう思うと、途端に力が抜けてきて。 「あ、あれ……?」  へなへなと、倒れ込む俺。あの、どうしようもなく肉感的な褐色美脚に縋り付いてしまう。むっちぃ……と俺を受け止める、あまりに強靭なおみ脚。ミルクココアのようなスベスベ生肌に、思わず心が躍った。 〈大丈夫か?!〉 〈連れてかなくちゃ〉 〈濡れてるし、***しないと〉 〈その***使ったら?〉  その言葉にうなずく、ひときわ豊満な褐色猫耳娘。それから、胸元の布へ手をかけると── 〈これ、使え〉  生乳を包んでいた布を、解いてしまう。  ブラ代わりの一枚布を、目の前で解いてしまったのだ。 「なっ……?!」  だが、言葉を遮ったのは“どさっ♡”と降ってきた褐色おっぱい。こうもり傘からさえ溢れ出しそうな生爆乳が、目の前にずっしりまろび出てくる。上空で弾力たっぷりにゆさゆさ暴れる異種族おっぱい。そこから、甘く南国的なアロマが漂い始めた。    その上、アロマのたっぷり染みついた乳布を、俺に巻き付けると。  小人を、破廉恥な乳布で完全にくるんでしまった。 「ばっ!? お、おい、やめろ! 出せ、出せぇっ……!!」  暴れるのは当然だった。美少女の脱ぎたて乳布に包まれ、赤ん坊のように抱きしめられる。男なら興奮必至のしっとり甘い香りに包まれ、身動き一つ取れはしない。おまけに目前には悩ましく生々しい生爆乳が揺れているのだ。だが、俺はそのどたぷんおっぱいへと抱きしめられると、 〈じゃあ***しよう〉  “むにいぃッ♡”と圧し包まれ、完全にその支配下に置かれてしまう。顔面を包み込む、しっとりむっちり生爆乳。フローラルな香りを孕んだそれはしっとり蒸れて、俺を抱きしめ離さない。  まずい。逃げられない。おそらく7mを超える巨躯では、降りるだけで一苦労だろう。おまけに今は、その褐色の腕にしっかり抱かれて身じろぎすら許されなかった。途方もないボリュームのバストに押し付けられ、挟み込まれ、包み込まれて、その肉感を味わわされるだけだ。 「ふ、服を着ろ!! バカかお前ら、蛮族か?!」  とんでもないインモラル。だが、周囲の異種族娘たちは動じもしない。目線の高さに来た俺の姿を、銘々覗き込むだけだ。どうも大陸とは、羞恥心の基準が違うらしい。大変なところに来てしまった。俺はただ、華やかな香りの褐色肌に溺れながら、美少女の視線の嵐に戸惑うほかない。  一方、巨大猫耳娘は立ち上がると。 〈じゃあ、行こう〉  そのまま、俺を森へと連れ去ってしまうのだった。   §  結果的に言えば。  結果的に言えば、俺は助かった。  どころか、歓待されたと言っていい。  子供と思われた俺は厚く介抱され、およそ、不自由な思いはしなかったかもしれない。  けれど、それがただ安穏としたものであるはずがなかった。  翌朝からの日々。  それは、耽美な異世界。女性だらけ、異種族だらけ、巨娘だらけ。  気づけば俺は、とんでもない世界へと、たった一人立たされることになっていた。  困惑し通しなのは、当然だ。  何かというと話しかけてくる美少女たち。だが俺には、そびえたつ巨大な小麦色の肌しか目に入らない。目前で揺れる、たくましくもむっちりとドエロい太ももたち。男には毒すぎるその肉感を、隠しもしないのだから過酷だった。  朝も、昼も、晩も。  愛玩され続ける、苛烈な日々の始まりだった。

常夏のフェリス

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