§ 降り注ぐ蝉の喧騒は、僕らを放ってはおかないようだった。 むせ返るほどに青い夏。 入道雲は、木々に隠れてまだ見えない。 「雨降ったらヤだね」 そんなことを言いながら道々、僕はナツキに訊くともなしに訊く。水着を詰めたバッグをぶら下げて、時々蹴ったりしながらの山の道。学校まではまだ遠い。 「今頃みんなは着いたかな」 「どうだろ、まだじゃない?」 足元で揺れるナツキの影が、小さく小首を傾げる。腐れ縁の美少女は、シルエットでも僕には雄弁らしい。少しクセのあるショートヘアも、天真爛漫とした雰囲気も。その影が全部教えてくれる。 「バスとかテントで成長しちゃったらどうなるんだろ」 「……それ、私に訊く?」 「女子は何か聞いてるんじゃないの」 「……ん、まあ、ホルモン検査とかはするけどさ」 唇を尖らせているのだろう、少しつんけんした声でナツキが言う。いつもなら僕の隣で、肘で小突いたり手の甲をつねったりするところだけれど。背丈もほぼ同じ、生まれ月も趣味や思い出だって同じ幼馴染。いつもはサイダーみたいに快活な少女が、今日はどうも大人しい。 「あーあ、楽しみにしてたのになぁ」 いつもは爽やかな元気っ娘がぼやくように言う。肩もとに黒のショートカットを揺らし、いつもみたいにクセっ毛を跳ねさせているのだろう。手に取るようにわかるその姿。大型犬を思わせるその可愛らしさも、人懐っこさも。瞳は少し赤みがかった茶色。気を抜くとすぐアホ毛が立って僕にからかわれる。そんな少女が不平をかこっているのだから、少し不憫ではあった。 「予兆はあったの?」 「ちょっと熱っぽかったかな」 「言ってたね」 「あと、胸が苦しくなったりドキドキしたり、……ちょっと、ヘンな気分になったり」 「……大変だね」 「今は何ともないよ」 「なら良いけど、さ。でもさ……」 そして、一つため息をつくと、 「なんでよりによって、今デッカくなっちゃうかな」 僕は、ナツキの方に振り返ったのだった。 「し、しかたないでしょ! だってなっちゃったんだもん……」 バツが悪そうにこぼす人影。けれど、そこにナツキの顔はない。視界にバンっと飛び込んできたのは、乳白色の柔らかな曲面だった。 それは、僕より太いむっちり太もも。早熟13歳女子の肉付きはむちむちとしていて、健康的な柔らかさが白く眩いほど。あまりにエッチな太ももが視界いっぱいに広がるのだから、僕は思わずドキリとしてしまう。 そんな太ももが、僕の目の高さにそびえているのだ。 「ちょっと、人の脚ジロジロ見るなし……」 不意打ちの肉感に固まっていると、視線を遮るようにしゃがみ込んでしまう少女。白ワンピースに包まれた長い躯体が折りたたまれて、ようやくナツキのご機嫌斜めな表情が上空から下りてきた。 身長3倍。未だにこのナツキのサイズ感に、まだまだ慣れ切れない。 「しっ、仕方ないでしょ! もう太ももとしか目が合わないんだもん……」 「……シュウのエッチ」 ショートカットの黒髪を揺らし、ジト目で僕を覗き込むナツキ。あどけなさの残る顔立ちが、はるか上空から僕を見下ろしてくる。3倍まで成長した少女も、どうもその大きさを持て余し気味だ。 「何センチになったのさ」 「聞かないでよ」 「恥ずかしがっても意味無いでしょ。なっちゃったんだもん」 「……512㎝。あと数センチは伸びる、かもだけど……」 ふうん、とだけ言う。受け流した風を装って、けれど内心衝撃は隠せない。あの等身大の黒髪娘が、こんなにもおっきくなっちゃうなんて。確かに最近は、急にオトナびてきた体つきに困惑したりしてはいたけれど……。なんだか突然胸もお尻も大きくなって、置いてかれる気がして少し怖かった。全部全部同じだった僕らの形が、変わっていくようで。そこに、女子特有の急成長。155㎝と156㎝、もう少しで追い越せるかなと思った身長も、一気に突き放されてしまった。今じゃ、その膝と背比べだ。 「僕も、成長期なんだけどなぁ」 「なら3倍になってみる?」 「……ごめん」 “謝るな”とデコピンしようとして、ナツキがそっと手を引っ込める。代わりに、ムスッとしてジッと親友を見つめる少女。僕の小ささに当惑しているようだった。当たり前だ、だって、一夜にして幼馴染が人形サイズになってしまったのだから。けれどそれは僕にとっても同じこと。しゃがんでる女の子に見下ろされるだなんて、初めてで。思わず僕らは、ぎこちなく視線を交わすばかりだった。 「ま、悪いことばっかじゃないよ。オトナの服も着れるし。ほら、これまで子供用の服しかなかったでしょ? 男子はサイズ揃ってるのに。やっとオシャレ出来るって、ちょっと楽しみ」 再び立ち上がると、一気に上空の世界へ飛び立ってしまう美少女。ひらりと白ワンピースをはためかせ、軽やかに、けれど大きな一歩で踏み出していく。僕は後ろから、肩もとで揺れる後ろ髪を見上げるだけだ。やっぱりいつものクセっ毛。けれどそれが今日は、はるか遠くに感じる。 「でも、林間学校はやっぱ、行きたかった、……かな」 「色々するって言ったよね。川遊びとか、バーベキューとか。思い出になるんだろうなぁ……」 「ちょっと、思い出させないでよっ!」 デリカシーのなさに唇を尖らせるナツキは、でもいつもほどの勢いがない。自分でも残念なんだろう。なんだかその顔を見ると、罪悪感が芽生えてきた。 「まあ、僕らも遊べばいいよ。花火とかさ、しようよ」 「そう言うシュウの方こそ、なんで皆といないのさ」 「そ、それは、ちょっと熱があって……」 「そんな子がプールなんか行っていいの?」 「もう治ったの!」 対して少女は“ふーん?”と返すだけ。新品のサンダルで石っころを蹴りながら、のろのろ歩いたり、止まったり。普通に歩くと、速すぎて僕が追い付けないのだ。 それから、ぽつりと、 「……花火は良いかもね」 そう呟いた。 「あと私、蛍も見たい。あの川、夜出るんだって。川遊びも出来るしね」 「行こうよ。僕も行くからさ」 「ん、ありがと」 少し気を取り直したらしい。小さくなった世界を改めて見回し新鮮さに目を輝かせたり、ちょっと駆けてみたり。おっきな少女の足取りが、軽くなる。 それから、クルッとターンすると、 「約束だからね!」 ニッと、笑いかけたのだった。 ⁂ プールサイドには、蝉の喧騒が溢れてうるさいくらいだった。儚い蝉たちの、自身を蒸発させて発散するような強烈な声。その生命力に圧倒されて、少し頭がぼうっとしてしまう。なんだか、僕自身が夏になったみたいだ。 肌に温い風が通る。シャワーを浴びて少し冷えた肌も、夏の日差しで既に乾きつつあった。キラキラ光るプールの水面が綺麗で、思わず見惚れてしまう。 そんな時。 「なにボーっとしてんのさっ♪」 やおら左右にそびえたったのは、むっちり長いおみ脚だった。 「ふふっ♪ もう私に跨ぎ越されちゃうね♪」 ハッと見上げれば、頭上にあるのはスク水に包まれたお股。どうも、僕の上に仁王立ちになっているらしい。そして得意げに、僕をその美脚と背比べさせるのだ。 「ちょ、ちょっと、やめなって……」 幼馴染の脚の間に挟まれて、ドギマギしてしまうのも当然のこと。だってそれは、中学生男子には刺激が強すぎる光景だったから。もう僕よりぶっとい太ももが、体を取り囲むように両脇にそびえている。つま先から脚の根元まで、むっちりと曲線的な肉柱がその存在をあらわにして、生々しいくらいだ。乳白色の、眩いほどに美しい幼馴染の生脚、生肌。そこから、じんわりとした巨大娘の体温が肌から肌に染みついてきて、急に心がソワついてしまう。 抱ききれないほど太く柔らかそうなナツキのおみ脚。まだまだ成長期を迎えたばかりの僕に、エッチに育った姿を誇らしげに見せつけている。健康美ってこういうのを言うんだろう。大きくなった美少女は、若々しい生命力に満ちていた。 「ふふっ♪ もう膝とお話しできるね♪ 今度私のニーソと背比べさせてあげる♪」 股下の僕を覗き込み、クスクス笑うナツキ。 けれど僕の意識は、美少女の発育良好生脚に夢中だった。 抱き着いたらどうなっちゃうんだろう。どんなに柔らかくて暖かくて、むっちりした感触に襲われるんだろう。そう思うだけで、ちょっと股間が心許なくなる。当たり前だ。さっきまでワンピースで隠されていたはずの少女の脚。裸足、生ふくらはぎ、生太もも、鼠径部のラインまで、その全部が全部生々しい肉感を晒している。だのに、爽やかで健康的な明るさに満ちていて。段々、頭がクラクラしてくる。 おまけに。 ポタタッと、何かが頭を打った時。 「……?」 見上げた頬を打ったのは、大粒の温く甘い雫。ポタッポタタッと、スク水お股から雫がしたたり落ちてくるのだ。美少女の裸を伝い、水着でドリップされた雫は意味深に熱を帯びていい香りさえしてくる。そんなエッチなアロマが、僕の脳にしみ込んでくるような気がして。 自分のお股から水を滴らせている、そのことにナツキは気づいているんだろうか。意識すると急に幼馴染のでっかい体がエッチに思えてきて、慌てて僕は飛びのいた。 「ちょ、ちょっと!」 「ん? 何?」 「…………何でもないッ!」 そう言ったっきり、ドキドキを振り払うようにプールに飛び込む僕。 「あっ、ズルい!」 少女の声も置いてきぼりにして、一気に僕は水の中へ身を投げ出し、 「ひゃああっ!?」 そして、その冷たさに悲鳴を上げるのだ。 瞬間僕を包んだのは、いかがわしい熱を洗い流すような、爽やかな清水だった。川から綺麗な水を引いているから余計に爽冷だ。甘い雫にふやけた肌が、キュッと輪郭を取り戻す。なんだか、最高に夏って感じだった。 「バカ、ゆっくり入んないと危ないよ」 「し、心臓が止まるかと思った……」 そう言いながらも、ソワソワと羨ましそうな3倍娘。誰もいるわけないのにキョロキョロとあたりを見回し、ちょっと後ろに下がると、 「えいっ!」 一気に、駆け出したのだ。 「ば、バカっ!」 フワッと舞い上がる巨体、ショートの黒髪。太陽を一瞬隠した少女の体は、次の瞬間、ものすごい勢いで降ってきて──! 「わあぁっ!?」 “どっぱんっ!”と、巨大な水柱を上げるのだ。巨体の立てる大波に巻き込まれ、プールの端っこまで流されていく僕。けれど少女の方もそれどころではないらしく、 「痛ぁっ!?」 予想外に浅い水底に、したたかにお尻を打ち付けたところだった。 「何これっ、水全然溜まってないじゃん!」 「見ての通り満タンだよ」 「もうッ、知ってるって!」 不満そうに天を仰ぎながら、尻もちをついた格好で叫ぶナツキ。まだ巨大化して数日、記憶と現実の間のギャップにはまだ慣れないらしい。 「あーあ、もう泳ぐことも出来ないや……」 そう言うナツキは、座っているというのにおへそから上が完全に水面から覗いていた。ビニールプールにでも座っているみたいだ。 「巨大娘用のプール行く?」 「いい、シュウ溺れちゃうし。……あと、巨大娘って言うのやめて!」 喚くように言って、ナツキが“ザバンッ!”と身をプールに投げ出す。大波で悲鳴を上げる小人。それが面白いのか、気を取り直して少女は“ふふっ♪”と笑った。 「あ、これ、ちょっと気持ちいいかも……♪」 ぷかぷかと浮かぶ、というより横たわっているナツキ。わずかに浮かんではいるようだけれど、足湯に無理やり浸かっているような格好だ。 「いいなぁ、私も泳ぎたいなー」 自分の周囲を小魚のように泳ぎ回る僕に、ナツキは不服そうに言う。どこか、失われた子供時代を惜しむような響きさえある。でも流れる雲や水の煌めきに目を奪われて、じきにそんな気持ちも薄れていったらしい。くよくよ悩まないのはナツキのいいところだった。 「海も行きたいな。ちょっと遠いかな。服も買いに行きたいんだよね。シュウ、ちゃんと付き合ってよ? 約束したからね?」 水面に黒髪を漂わせ、気持ちよさそうに肢体を広げる少女。快げに水をまとわせ、清涼感ある声音で語り掛ける。 だけれど、僕の答えはどこか生返事。 それもそのはず。 ナツキの巨大さを、至近距離でまざまざと見せつけられていたのだから。 「で、でっか…………!」 縦にそびえていた巨体が横になれば、ナツキの迫力は倍増だった。立たれると遠近法で歪んでしまい、高さはわかるものの大きさがわからなくなってしまうらしい。少し慣れ始めたつもりでいたナツキの巨大さを、再び突き付けられた気分だ。 実際それは、美少女大陸とでも言うべき光景だった。 水面から顔を覗かせる大きな胸。ぴっちりとした水着に包まれた柔らかな体。胸やお尻を模した、紺色の彫刻みたいだ。それをいろんな角度から見上げるうち、立体感にクラクラしてしまう。急にオトナになってドキドキしていた体、同じ背丈の時でさえ主張の激しかった女の子の体を、体積27倍のスケールで見せつけられている。子供のままの僕に、一足先にオトナになったその体を。子供用のスク水というのも倒錯的だった。こんなにむちむちオトナボディなのに、小学校と同じ紺色のスベスベ水着。そのギャップが、頭を混乱させる。 「シュウもさ、早く大きくなってよ。……ま、20㎝も変わらないけどさ。筋肉とかつけようよ。じゃないと怖くて触れないもん」 「……手伝ってよね」 「大丈夫。私と遊んでたらすぐだよ。ほら、私おっきいもん」 半ば自嘲的な響きを含んではいたが、特別気に病んでいる風でもなくナツキが言う。涼しさが気持ちよく、心のモヤモヤも気にならないらしい。陽に当たって温もった胸に水をかけ、気持ちよさそうな顔をしている。水に濡れ、鈍く輝くスク水のマットな質感。水面から膨らむそれは無機質で、けれど造形はいかにも柔らかそう。生地がお腹に張り付いて、くびれやお腹の丸み、おへそのくぼみが浮き出ている。それもなんだか、ひどく僕の胸をドキドキさせた。 何度見ても不思議な水着の陰影。そこにとてつもないスケールで広がる少女の肉感が合わさって、僕はどうしても目が離せずにいた。脱げばじっとり重たいただの布。女児用のそれが起伏の激しい体でパツパツになって、独特の光沢を帯びて煌めいている。少女の形をした磁器みたいだ。硬質な見た目は、触ったらきっと柔らかいんだろう。でも、相手は幼馴染で……。 僕だって中学生男子だった。ダメだとわかってるのに見てしまう。おまけに、巨大少女でぬくもった水がぬらぬら漂ってきて。罪悪感も胸をくすぐり、僕はソワソワし通しだ。 けれど、長く黙っている僕に、ナツキも訝しんだらしい。 「ん、どしたの?」 くるりとこちらを向く少女。その顔に、かつての面影が正確に重なる。 そう、何も変わってない。少しも変わってない。ちょっとクセっ毛なショートカットに、瞳は少し赤みがかった茶。笑みは人懐っこくて馴染み深くって、安心感のある優しい笑み。 でも、同時に気づかされる。 ナツキって、こんなに美人だったんだって。 瞳の中、こんなにきれいな色が入り混じってたんだって。 可愛らしさの中に、あどけなさの中に、少し大人っぽい目じりの艶がある。まつげが長い。唇も少し色づいた。そして水面を枕にこちらに振り向く様が、妙に大人っぽくて。 思わずドキリとしてしまう。 「なにさそんな顔して。お姉さんの水着姿、見惚れちゃった?」 「ち、違うって!!」 クスッと笑うナツキの余裕さが悔しくって、ムキになる僕。恥ずかしさをはぐらかすように水をかけてやったら、ナツキに反撃されてしまう。ビニールプールほどはありそうな手のひらで水を掬ってかけるだけで、僕なんてめちゃくちゃだ。 「あははっ♪ シュウはもう私には勝てないよ~♪ おっきくなって数少ない良かったことかもね? これまでのナマイキ、全部返してあげるんだから♪」 慌てて泳いで逃げる僕を見て、ナツキも興が乗ったらしい。立ち上がってこちらにジャブジャブ歩いてくる。背後で起こる恐ろしい水音が、次には大波となって襲ってきた。振り返れば白い太腿が巨柱となって迫ってくる。僕には深い水深も、ナツキにとっては足湯程度のものだった。 「泳ぎも頑張らないとね? 水泳が一番鍛えられるらしいよ。ほら頑張れ頑張れ~♪」 凄まじいスピードの美脚に追い立てられ、必死で泳ぐも無駄だった。これでも泳ぎに自信はある方なのに、とてもじゃないけど逃げられない。その上、この乱流。水を切ってやってくる太ももに“べちんっ!”とぶつかっては健康的な弾力を思い知らされ、踏まれそうになっては足裏を見上げさせられる。ナツキの足裏なんて初めて見た。ふっくら柔らかそうな素足が降ってきて、自分が小動物になったことを一気に思い知らされた気分だ。 頭上から降ってくる温い水。スク水から染み出た雫がまたも僕を打つ。あたり一面はナツキの影。目に見えるのは眩い太ももとスク水お股ばかりで、泳ぎ過ぎたのか胸が苦しい。なんだか、ナツキのオモチャにされたみたいだ。 けれど、そんなこと腐れ縁の少女は知りもしなかった。 「ふふっ、無駄だよ~♪」 一気に僕を跨ぎ越すナツキ。 そして、思いっきり水面へと倒れ込んだのだ。 「わ゛っ!?」 かつてない大波に悲鳴を上げる。2mほども水柱があがって、まるで機雷でも爆発したみたいだ。そしてザバッと巨体が浮上してくれば。 僕は、胡坐をかいたナツキの、美脚監獄の中だった。 「もうギブアップ? シュウのザ~コ♡」 クスクスと笑みを浮かべ、僕を胡坐の間に捕らえてしまうナツキ。はるか上空に張り出した胸からはぽたぽた水が滴ってきて、目の前は濃紺のお腹。もう恥ずかしがることなく、自分の大きさを誇示している。 やばい。勝てない。 とてもじゃないけど敵う相手じゃない。 身の危険を感じて泳ぎ去ろうとする僕を、けれどナツキは逃がしてはくれなかった。 「ふふっ、逃げられないよ~だ♪」 そう言うが早いか、僕の行く手に突如太ももがそびえ立ったのだ。 クジラのように水しぶきを上げ浮上した太もも。反対側に押し流されれば、そちらでも既にもう一つの太ももが通せんぼ。脚の間から逃げ出そうとすると、今度はビート板より大きな手のひらが行く手を阻む。 ふらふらになって、でも懸命にそれをかいくぐって。 ようやく美少女の巨体から離れられたと思った、その時。 「逃げられないよ~♪ だって、もうこんなこともできちゃうんだよ?」 やおら、イルカのように水中を泳いできたのは白い足。 それが、僕を掬い上げるように浮上してきて……! 「わっ!?」 僕を乗せた綺麗な足先が、水面に飛び上がる、ピンっと空を指差す。そうすればツルツルの少女の美脚はウォータースライダーも同然。脚にまたがったまま勢いよく滑り落ち、そのスク水ボディへと激突してしまう。 「わ゛ッ!」 「ふふっ♪ 捕まえた♪」 そしてついに僕は、幼馴染に抱き上げられてしまうのだった。 「あはっ♡ シュウ仔猫みたい♪ かわい~♪」 不穏に笑うスク水お姫様。手の中に感じる僕の小ささに少し驚いて、けれどその微弱な抵抗は姫を喜ばせたらしい。なんだか、愛しくなってしまったように僕を見つめて。 僕を一度高く掲げると。 「ちょっ、待っ……!」 思いっきり、小人の矮躯を抱きしめたのだ。 もう、声も出なかった。 前に大きく張り出した胸が“むんにぃッ♡”と当たったと思えば、そこに埋もれるように“ぎゅうぅ~~~っ♡”と押し付けられる僕の体。スク水をパッツパツに押し広げる爆乳が、僕を遺憾なく圧し包む。張り詰めたポリウレタン生地の奥から、襲ってきたのはむんにり柔らかな母性。一瞬思い出すのは、かたいカバーにぎっしり詰まったビーズクッション。でも次の瞬間には、僕は強烈な体格差ハグに締め上げられていて……! 「ダメっ、だって、ナツキぃ……!!」 これまでは手から溢れる程度だった巨乳、それが全身を包み込んでいるのだから混乱するのは当然だった。記憶と今の感触が交錯して、頭がバグってしまいそう。おまけに、スク水幼馴染という特大の背徳感。必死でおっぱいを押し返す。けれどおっぱいはぎっちり詰まった水風船みたいに“むんにゅうぅ~~っ♡♡”とたわんで抵抗を吸い取るだけ。押しても押しても向こうに分厚いおっぱいが続いている感覚が、ゾクゾクゾクッと背筋を駆け巡る。 「やめっ、これ、ダメ……っ!」 手が滑ればスク水のスベスベ質感が手に焼きつき脳を沸騰させた。その上、切ない曲率がおっぱいのボリュームを思い知らせて。地平線みたいに大きく悩ましいナツキのおっぱいライン。その奥から、男子の体からは想像もつかない絶妙な柔らかさが塊となって押し寄せてくる。 僕はもう、同い年のこの母性に抗うことができない。 「ほら、ぎゅ~~ってしてあげる♪ 指一本動かせないでしょ♪ シュウはもう私のオモチャなんだから♪」 もがく僕の抵抗を、まるごと幼馴染ボディが包み込んだ。目の前には喋るスク水おっぱいがせめぎあうばかりで、何が何だかわからない。ただただ肌にスベスベの質感がこすれて、後には柔らかさの余韻が残っていって。 思い知ってしまう。 ナツキ、こんなにエッチなカラダになってたんだ。 いや、本当は知ってた。ずっと知らないフリをしてた。 でももう無理。忘れられない。こんな気持ちよさを知らされたら、僕は、僕は──! イケない感覚が芽生え始める。何かが捻じ曲げられそうになる。さっきまで一緒に隣を歩いてた少女の、知っちゃいけないものを知ってしまった。スイカやカブトムシでいっぱいだった馬鹿な頭に、とんでもないものが注ぎ込まれてる。幼馴染娘に愛でられて、何かがコワれてく。これ以上はダメ、でも、このハグが気持ちよくって……。 急にしおらしくなった僕に、ナツキも一瞬無邪気な感情を抱いた様子。でも、それは一瞬のこと。 「やっとわかった? 藻掻いても無~駄っ♪ だってこんなに体格、差、が、…………あれ?」 何かに気付いてしまったらしい。スク水お姫様は、僕を抱き上げると。 「ちょ、ちょっと、さ……」 かあぁ……っと、顔を赤らめたのだった。 「み、見ないでよ……」 「元気にならないでよっ!!」 元気っ娘が顔を真っ赤にして、小人に食い掛る。もっともな言い分ではあるけれど、無理な相談だ。だって、経験の少ない中学生男子に、3倍みっちりおっぱいが襲い掛かったのだから。しかも相手はエッチなスク水で武装していて、質感も弾力も威力は倍増。普通の大きさのナツキに抱き着かれたって、皆おかしくなっちゃうだろう。どころか中1なんて、なんとかのぞき見しようとして頑張るお年頃。そんな子供に、どたぷんおっぱいで密着するなんて……。 「…………ナツキのエッチ」 「なっ、なんで私がエッチなのっ!?」 「む、胸におしつけたんだよ!? しかも無抵抗同然の僕を……。ナツキのエッチ!」 「なっ!?」 思ってもみなかった反撃に、パクパク口を開いたり閉じたりするナツキ。けれど、振り返ってみればそれは本当のこと。僕に勝てるのが嬉しくて、自分が何をしてるか気づかなかったのだ。反論が無理と知るや、俯き黙りこくる3倍娘。赤面して耳まで真っ赤、きっとプールの水も巨娘体熱に熱くなってるはず。煌めく水面と蝉の声の中、僕らはヘンな沈黙の中で気まずくなるばかりだ。 しばらく、唇をむにむにさせながら言葉を探したナツキ。 それから、チラチラとこちらを見て。 「……おっぱい、好きなの?」 ぽつりと、そう言った。 「え……?」 「言って。……言わないと私、下ろさないから」 体を人質に取って、とんでもないことを言い始める美少女。恥ずかしさで、思考が急反発してしまったみたいだ。こうなった時のナツキは手ごわい。嘘をついても無駄。譲らないし騙せない。 僕は、既に負かされていたようだった。 「……す、好きに決まってるでしょ、男子、だし……」 「じゃあ、私のは?」 「そ、それは……」 「言って!」 「分かったっ、分かったから持ち上げないでっ! 好きだから、その、好き、好きだって!!」 手の中で叫ぶ僕を、ようやく巨大娘はおろしてくれる。そして、頬を赤く染めたまま、 「……ホント?」 いじらしく、そう訊いた。 「……もう、言ったでしょ」 「……シュウのエッチ」 「……お互い様でしょ」 小さく言うと、お互い黙りこくってしまう。 気まずい沈黙を、うるさい蝉の音が埋めていく。大量のノイズで聴覚が飽和して、却ってナツキの気配があたりに充満した。なんだか、雰囲気がじっとり湿っぽい。こんなに爽やかに晴れているのに、プールがキラキラ煌めいているというのに、重い、じっとり重い。 「ね、ねえ……」 こくりと唾を飲み込んで、ナツキが僕を見つめる。慣れないことをしようとしてソワソワ落ち着かない、そんな時にナツキがよくするそぶりだ。でも今日は、ちょっと雰囲気が違う。手の中のイケないオモチャに、困っている、けれど胸を高鳴らせてもいる、そんな複雑な表情。鼓動とともに、“とくっ♡ とくっ♡”と胸が震えて水面に波紋を立てている。頬にかかる、緊張混じりの浅い吐息。胴を掴むナツキの手はじっとり熱を帯びて、壊れない強さで、でも絶対に逃げられない強さで僕を握りしめていた。僕はこの、幼馴染の手から逃げられない。 「…………み、見たい?」 かぁ……っと頬を染めながら、うつむきがちに、伏し目がちに、でも確かな声音でナツキが言う。胸を見せつけるように、僕を自分の膝に座らせて。乳房の真正面の、特等席。目と鼻の先には、スク水おっぱいが膨らんでいる。 “ばるぅっ♡”と膨らんで、膨満感さえ催すほどの幼馴染おっぱい。もう僕なんか簡単に埋もれてしまうサイズだ。同い年の巨乳なんて、未熟な僕にはあまりに過剰な刺激だった。 「シュウなら、いい、けど……」 「で、でも……」 いくら大きくなっても、ナツキはナツキだ。いつもいつも一緒にいたその存在は、一心同体も同然。何もかも知っている。何もかも知られている。そんな相手と、こ、こんなことをするなんて……。超えちゃいけない壁に感じた。何かが壊れてしまう気がした。何も考えず肩を組んで、何も考えずじゃれあって。そんな日々が遠くへ行ってしまう。それが、ひどく怖かった。 「私のなんか、イヤ、かな……。それとも私がおっきすぎるから……?」 「違うよ! ただ、ナツキは幼馴染だし、こんなの、ダメ、だって……」 ずっと一緒にいた腐れ縁。家族以上に近い存在。そう思えば思うほど、目の前のおっきなお胸が存在感を増して見えた。それは禁忌だった。タブーが僕を見下ろしている。触れちゃイケないもの、そっと迂回しなきゃいけない、馴染み深い聖域。それがいま、生々しい存在感で僕を待っている。 ただ、それをうまく表現できなくて。 「ナツキのこと、好き、だから……」 吐いてしまうのは、率直すぎる言葉。今度は、ナツキが赤面する番だった。 「っ!? …………シュウのバカ」 少し、何か複雑な表情で僕を見下ろしていたナツキ。なんだか、表情がやけにオトナっぽい。そして、念を押すように、一言。 「シュウ、こんなの、初めて、だよね」 「あっ、当たり前でしょ!?」 その声に、一度、巨大少女が深呼吸する。 それから、無言で僕の腕を取ると、 「…………他の子に、取られたくない」 自分の胸に、思いっきり押し付けたのだ。