縮小カルテ
Added 2021-06-29 12:34:27 +0000 UTC§ 白衣の天使は、ふわふわしていた。 「今日から担当になります~♪」 沙織と呼んでくださいね~と言うナースは、声音と同じゆるい笑み、淡い髪色、甘い笑み、どこか相手に安心感を与える美人。亜麻色の髪がそう思わせるのかその丸く人懐っこそうな目のせいだろうか、ぱっとあたりが明るくなった思いだった。 「これからよろしくお願いしますね?」 ゴールデンレトリバーの仔犬のようなお姉さん、そのゆるふわとした空気に思わず心が弾む。薬品臭い空気と硬いベッド、無機質な空間に挿入された甘い香りも心をくすぐり、これだけで一目ぼれしてしまいそうなほど。何より、病身にあれば女性のはつらつとした生命力が眩しくて、半ば圧倒される思いで俺は彼女を見上げるのだった。 その上。 「あの~、聞いてます~?」 「え? あ、は、はい!」 ベッドの上の俺に屈みこむ、その胸元が大きくて大きくて。ナース服の中、ずっしり吊り下がる乳房が視線を誘う。タイトなナース服に浮かび上がる体のライン、華奢な体に豊満な胸、尻。女性的な体つきは柔らかそうで、これまで見たどんな人より美しかった。 「なにか質問はございますか?」 「……いえ、特には」 「じゃあ、次は院内を案内しますね♪」 そう言って、俺をベッドから降ろす沙織さん。 触れてもらえる喜びに、体とともに心がフワッと軽くなる。 「では行きましょう」 スタスタと、歩く後ろ姿も美しい。バイオリンに似た曲線的なシルエットを見れば、それだけで心が躍るようだ。 ここに入院してよかった。 改めてそう思った。 頭上にある、豊満な尻に見惚れつつ。 身の丈80㎝の、縮んでしまった体を恥じながら。 ⁂ 病魔に蝕まれているとわかった時、既に俺は縮小の一途を辿っていた。 どこでこんな奇病に罹ったのか、いつの間にか俺は縮小病者の仲間入りをはたしてしまっていたのだ。 絶望したのは言うまでもない。 縮小病者は人にあらず。一応或る程度体を元に戻せる薬はあるらしいが、根治にはいたらない。その上、ろくに働けもしない小さな存在からの医療費など期待できるものではなく、研究は遅々として進まないのが現状だった。 だから。 楽園のようなこの病院に入ることが出来たのは、奇跡という他なかった。半ばボランティア目的なのだろう、費用は格安、設備こそ少ないが、スタッフが多いのも魅力だった。 何より、目の前にいるこの女性。 交互に伸ばされる白スト美脚、ヒラヒラと目の前ではためくミニスカートに、むちっとした大きなお尻。股下から美人のお尻を見上げられる日が来るなんて。俺は半ば陶然としながら、その巨尻を追っていた。 そのせいだろうか。 「こちらが……」 不意に沙織さんが立ち止まった時。 「わっ!?」 俺は思いっきり、美人ナースの尻に突っ込むことになったのだった。 顔に広がる、ぱむっ、と柔らかい感触。けれど一瞬遅れて襲ってきたのは肉感たっぷりな弾力で、俺は毬のように跳ね飛ばされてしまう。 「あら?」 「ごっ、ごめんなさい……!」 巨尻に跳ね飛ばされた俺は、尻もちをつきつつ思わず陳謝する。相手は巨大な女性、機嫌を損ねれば俺など一撃だろおう。 けれど、沙織さんは特に気にも留めない様子で。 「怪我しちゃダメですよ? また縮んでしまいますからね~」 「は、はは……」 思えば際どい発言だが、事実なのだから仕方ない。少しでも免疫が働けば、大慌てで組織をそっくり再構成しようとするのがこの病気なのだ。それ自体に問題はない。ただ、再構成の時縮んでしまうのがご愛嬌だが。 けれどそんな俺の気持ちを知ってか知らずか。 「さ、行きましょうか」 クスリ、と笑って沙織さんは俺に手を伸ばした。 ⁂ つつがなく、そう、つつがなく入院生活は続いて行った。 と言っても、寝て起きて食べて出して寝ての繰り返し。たまに投薬はされるのだが、それとて飲めばいいだけの話。しかも優しいナースさんの甲斐甲斐しい介助が加われば、むしろ生活としては快適になったほどだった。 何より、小さな俺が治るように、怪我しないようにと世話してくれる女性がいることがなんとも嬉しくて。 半ば社会から放逐された身としては、唯一頼れるのは彼女たちだけ。その上、守ってくれる、治してくれるとなれば、もう神々しくさえ思えてくる始末。ナイチンゲールの影にキスした兵士って、こんな気分だったんじゃないか。そんなほどまでに、沙織さんへの依存心は高まっていった。 単調な入院生活の中、むちむちナースに悶々としつつ、寄りかかる日々。 これを楽園と言わずして何と言おうか。 だが、一つ。 唯一つ、気がかりなことがあった。 どうもこの病院、様子がおかしい。 まず第一に、医者が圧倒的に少ない。 人の出入りが少ないし、異常にバリアフリーにこだわっているように見えて敷地は大きな段差で囲まれている。退院することが滅多にないのに、なんで患者でパンクしないのも合点がいかない。 だがなによりおかしいのは、ほかの患者をまるで見かけないことだ。 もちろん、この体じゃ部屋の外にろくに出られないというのもある。このフロア以外は行ったことがないし、どうも許可がないと行けないらしい。それでも、同じフロアに患者がもっといていいものだし、その気配さえ薄いというのはおかしいんじゃないか。 一度、あたりを探りに行った方がいいかもしれない。 深まる疑問にある夜、ついに俺は病室を抜け出すことにした。 「夜の病院、……風情があるな」 月明かりの照らす中、おっかなびっくり広い廊下を歩いていく。隣の部屋に人はなし。その隣にも、更にまた隣にも。 「……ん、ここは誰かいるのか……?」 だが一つ、隙間から光の漏れるドアがあって。 「あのぉ……」 覗いたドアの隙間、ベッド周りのカーテンには確かに、人影が浮かび上がっていた。 それも、都合3人。女性看護師らしき影が1つと、哀れ、2人に囲まれ体格差が如実に表れた小さな患者の姿。 夜の検診か? ナースコールでも入ったのか? とにかく、患者の実在は確認できた。邪魔しても悪いしここは……。 そう思い、踵を返そうとした、その時。 「助けて、誰か、誰かああ!!」 弾けるような悲鳴が響いたのだ。もがき必死に暴れる縮小病者。だが健康的な巨体を誇るナースたちはそれを止めもせず、2人の間から逃げられないのを、あれは、笑っている……? そして、注射器を手にすると。 「ああ、あぁぁ……」 シュルシュルと、縮んでいく体、しぼんでいく叫び声。 それは、縮小薬の強制投与に他ならなかった。 「ヒッ!?」 思わず悲鳴を上げ俺は、一目散に逃げ始めた。何が起きたかもわからないまま、ただあの2人から逃げなければならないことだけは確かだった。誰かに助けを求めなければ。もし彼女らに捕まれば、縮められる。そうしたらもう、俺は、俺は──!! そして俺は人影を求め、階段を決死の覚悟で一段一段飛び降り、なんとか人の多い場所へと転がり込んだのだった。 「た、助けて、……え?」 だが、飛び込んだ俺の目に映ったのは。 「あら? どうかなされましたか?」 林立する、真っ白な柱に、肌色の柱。なめらかな曲線が空までひしめいて、俺を見下ろしている。 それは、看護師らの更衣室。半裸になり、純白のナース服に着替えている、その最中だった。 「たしか、病室は上の階だったと思いますけど」 「ナースコールすれば伺ったのに」 「悪夢でも見ましたか?」 腰を折り、次々に語り掛ける美ナースたち。下着同然の姿なのにも構わず、まるで子供にでも対するような語り口だ。 そんな中、沙織さんが現れて。 「あらあら、どうしたんですか?」 しゃがみ込み、俺に覆いかぶさるように話しかけてきた。ド迫力のしゃがみパンチラ、ひざを折ることで膨らんだふくらはぎもエイのように太さを強調され、目の前には白ストを脱いだスベスベおみ脚と純白おパンツ。自分の内腿とその間を見せつけるかのような体勢に、思わず俺は声を失う。俺より太いむっちり太腿の存在感もすさまじく、しっとり汗を帯びた肉感が股間を刺激してやまない。一瞬俺は惚け、それから欲情した。 だが、今はこんなことをしている場合ではない。 「さ、さっき看護師が、患者に、しゅ……」 「しゅ?」 「縮小薬を……!!」 震える声、裏返った声音で俺は叫んだ。未だに悲鳴は耳にこだましている。巨体によって強引に押さえつけられ、強制投薬によって人権も尊厳も踏みにじられていく哀れな患者。今はどれほど小さくなっているか、何をされているか、知りたくもない。一刻も早く彼女らを止めてもらわねば。そう思ったのだ。 けれど。 「ああなんだ、そんなことでしたか」 「……え?」 ナースたちは一様に、拍子抜けしたとばかりに笑みを漏らしていた。今から脱ごうとしていた者、服をはだけた者、下着だけの者、そのどれもがクスクス俺を見下ろし、その反応を面白がるように笑っていたのだ。 「だ、だって、患者が縮められてるんですよ?! 早く行って止めてください! じゃないと彼が、もっと、縮んで、戻れなく……!!」 縮小の恥辱を知っている分熱を帯びてしまう俺の声。だが彼女らは構うことなく俺を取り囲んでしゃがみ込み、その様子を楽しむだけ。それはまるで、何もかも知っているかのようで。 「大丈夫ですよ~」 「どうせいつか縮むんですし」 「ちょっと早まったくらい別にいいじゃないですか」 「は? 何を……。ちょ、ちょっと、持ち上げないでください!!」 突然後ろから伸びてきた細い腕、それに持ち上げられると俺は羽交い絞めにされてしまう。たっぷりとしたバストに埋もれ挟まれ、足は他のナースに取り押さえられて。 そして正面には、注射器を持った沙織さんがいた。 「あ、サイズフェチって知ってます?」 「さ、サイズ……?」 「知ってましたか? 私たちみ~んなサイズフェチ♡ じゃないとこんな職、就かないと思いませんか?」 「何を言って……」 「うふふっ、極限まで縮んだ姿、見せてもらいますからね……♡」 そう言うが早いか。 ニコニコとゆるふわナースの天使は俺の腕を掴み。 細い針を、俺の腕に突き立てた。 「あ、あああぁぁ……!」 ぐにゃあっと歪んだ視界の中、聞こえてきたのは小さくなっていく自分の声。穴の開いた風船のようにしぼんでいく感覚が生々しく、沙織さんの腕が、ナースの胸が、女体が、世界が、膨満していく。 そして。 「……あはっ♡ す~っごく可愛いですよ~♡♡ 犯したくなっちゃくくらい♡」 そんな声と共に、4分の1まで縮んだ俺の体へ一斉にナースの腕が襲い掛かった。