──三つの命がまとめて消えた。
一つは銃弾で頭を弾き飛ばされ、一つは剣閃で首を切り落とされ、一つは高度から投げ落とされて全身が何体生物のように砕けた。
生命を失った肉塊が、それぞれに橘吉絵、加藤理佐子、三島ゆりといった名前がついていたことなど、もう誰も気にすることはない。
少なくとも、彼女たちを殺戮した者たちは、目の前の肉塊に僅かばかりに価値も見出していなかった。
「日本は治安がいいんじゃなかったのか? 人のいる家に集団で放火しようとするティーンエイジャーなんて、ロアナプラでも“少し”しか見たことないぜ」
「どこの国だろうが腐れた輩は年代を問わずいるものよ……悪鬼外道の類と見たなら、容赦なく殺めて屠るだけ。ましてや、主のご学友の家を焼こうなんてね」
「ほほほ、久しぶりに新鮮な悲鳴を聞くことが出来たぞよ。やはり時には弱いものを捻りつぶして、その恐怖を味わわねば妖の本分は満たせぬなぁ」
拳銃を手にした入れ墨の女、体にぴったりと張り付く装束のくノ一、背中に黒い羽根を湛えた着物姿の天狗。
とある小学校に通う少女たちの手で、無様なマン媚びを披露するペット嫁の彼女たちだが、本性は紛れもなく残酷と悪に属する存在である。まだ子供と言ってよい年齢の相手を殺めても、例え正当防衛に近い形とは言え、罪悪感など微塵もなく、むしろ明確に楽しんで殺めている面まである。
「いやー、笑えた、笑えた。たかがボウガン如きであたしを相手に狩る側のつもりでいたんだぜ? 蹴り殺してやるだけでも良かったけれど、風水エンジンで体の中の“氣”を根こそぎ奪ってミイラにしてやった!」
「わざわざ苦しめて殺すほど、大した価値なんざない連中だったろう。ライフル一発で死ぬ程度だったのに、アンタたちは過剰なんだよ」
顔面を砕かれたカサカサのミイラと、ライフル弾で頭部をフッ飛ばされた肥満体を引きずって、別の女たちが帰ってくる。その間にも、周囲から絶望の悲鳴や恐怖の絶叫が響き渡っていて、次々と幼い命が消えていく。一方的に奪う側だと、田舎の鬱屈から勘違いしていた者たちの命が、一方的に奪われていく。
……やがて全ての悲鳴が止んで、一人の例外もなく命を奪い去られ、ついでにその死体に関しても原型を留めぬほどに粉砕された頃、家の住人の一人である野咲春花が帰ってきた。
女たちは春花の前には、そもそも姿を現さない。彼女が温和で心優しい性格だと、春花の妹ごしに聞いており、アンダーグラウンドの住人の自分たちとは縁が無いのを知っているからだ。
「……? なんの匂いだろう」
ただ、家に入る前に春花は何度か鼻をすんすんと鳴らし、どこかで嗅いだことのある匂いに首を傾げる。
それは確かに覚えのある匂いなのだが、嗅ぎ慣れ過ぎていて春花にはすぐに分からない。
そんなことをしていると、妹の祥子が東京にいた頃の学友たちを連れて、玄関まで春花を迎えに来てくれる。
「お姉ちゃん、おかえりー」
「お姉さん、お邪魔してまーす」
「しょーちゃん、お借りしてまーす」
「ただいま、しょーちゃん。みんなも、しょーちゃんの為にありがとうね?」
無邪気に笑う少女たちが、まさかこの家を放火しようとしていた学友たちを皆殺しにした後だなどと、春花は気づこうはずもない。
ましてや、先ほど春花の鼻腔に香ったのが……極限まで薄まった“人間の匂い”だなどとは。
……この日、春花をイジメていたクラスメイトたちは一人を除いて全員が謎の失踪を遂げ、彼女を庇ってくれていた相場晄も学校に出てこなくなった。
担任の南京子も当然のように責任を取らされて更迭され、教室には春花と……いじめの主犯である小黒妙子だけが残された。
※
「──みんながいなくなったの、あたしのせいかも知れないの」
春花の膝枕の上で、ぽつりと妙子は告白する。
二人は元々親友関係であり、春花が晄と接近したことから妙子が彼女を無視するようになり、取り巻きたちがいじめを行うようになっていたのだ。
春花自身はずっと妙子のことを信じており、周囲の目が無くなればすぐにその関係は修復された……しかし、妙子にはまだ告白するべき罪が残っている。
「妙ちゃんは、悪くないよ。みんな、田舎の空気で鬱屈して私に当たってただけで……」
「でも、あたし……あの日、あいつらが春花の家に火をつけにいくとか言ってたの、聞き流した。止めなかった……」
本当は皮肉交じりで「頑張って」と声までかけたのだが、それは春花にどう思われるかが怖くて言えなかった。春花のスカートが、ぎゅっとつよく握られる。
「一歩間違えたら、春花も、春花の家族も、もういなかったかも知れない……」
「……でも、みんな無事だし。あの日も、変なことは何にも無かったよ。しょーちゃんの友達が、東京から大勢来てくれたけど」
当然、真っ当な世界の住人である春花も妙子も、祥子の学友たちと彼女たちの“恋人”たちが殺戮を行ったことなど、思い当たりもしない。
春花は、妙子の金色に染めた髪を優しく撫でる。
「妙ちゃんは、悪くない。悪いのは、私……いなくなっちゃってから、相場くんのいろんなこと聞いた。妙ちゃんは、守ってくれようとしたんだよね?」
「……拗ねて、攻撃しただけ。あたし、そんないい子じゃない」
「私は、妙ちゃんとまた仲良くなれて、嬉しい……妙ちゃんは?」
妙子は膝枕から体を起こすと、春花の体に抱き着いて、すんすんと鼻を鳴らす。
一方的だった同性への思慕は、二人きりの時間を経て、春花の方にも芽生えていた。
「妙ちゃん……」
「あっ……春花……はる、かぁ……♥」
くちっ……と春花の指が妙子のスカートの中に入る。
妙子は春花が思った以上に積極的なことに驚いた様子を見せたが、甘えるように腰を彼女に向って擦り付ける。
東京で軽いイジメにあった後、祥子が転校してから“こういうこと”を覚え、時どき春花相手にしていたことは、勿論言わない。
「妙ちゃん、普段は強気なのに、甘えん坊だね……♥ ここ、私の指を離したくないって、きゅうきゅう抱きしめてくるよ……♥」
「は、春花ぁ……♥ そ、そんなえっちな言い方……ど、どこで覚えて……♥」
「妙ちゃんが好きだから、自然に出て来ちゃうの……♥ ほら、指、もう二本目……えっちだね、妙ちゃん♥ スケベな妙ちゃん、だぁいすき……♥」
「春花ぁ……好き♥ あたしも好きぃ♥」
春花と再び仲良くなれただけでも奇跡なのに、こんなことをする関係にまでなれて、妙子は眼に涙を浮かべながら春花に甘える。春花は妹にしてあげたように……妹からされたように……妙子の秘所を指で掻き混ぜ、首筋を痕がつくほど強く吸い、自分の胸と妙子の胸をこすり合わせる。
「あっ、あっ……♥ 春花っ♥ 春花ぁ……♥ あ、あたし……すぐ、イッちゃいそう……♥」
「ダメだよ、妙ちゃん? これは、お仕置きも兼ねてるの……妙ちゃんの、禊だよ♥」
「いっ、ぎひぃぃぃぃぃっ♥」
陰核をぎゅぅぅっ……と強く指で摘ままれ、絶頂することを禁じられる。
妙子はまるで金魚のように口をぱくぱくと開閉しながら春花にすがりつき、イカせてほしいと懸命に懇願する。
「ごめん、なさいぃっ……あたしが、悪かったからぁ……♥ もう、春花から離れたりしない♥ あたしが春花のこと守るからぁぁぁっ♥ い、イカせて、春花ぁぁっ♥」
「……いいよ、妙ちゃん♥ これでもう、妙ちゃんは私から離れていけないね♥」
指をパッとはなされた瞬間、失禁混じりの絶頂を迎える妙子。
そんな妙子を強く抱きしめ、耳の中につぷっ……と舌を挿し入れる春花。
……ミスミソウの花は、雪の下でじっと春を待ち、やがて美しい花を咲かせる。
冷たい雪のような時間を過ごした二人の絆も、きっと今後は大輪の花を咲かすだろう。
※
「やっぱり、転校してきてよかったのう」
春花の祖父である野咲満雄は、孫たちの顔を見る為に息子の元を訪れていた。
最初の方こそイジメめいたことがあり、春花たちの身を案じたが、今は孫二人は楽しく学校に通っているそうだ……祥子は、少しクラスメイトと“仲が良すぎる”と苦言を呈されているようだが。
何事も雨降って地固まる……そんなことを想いながら歩いていると、ふと長身のメイドとすれ違った。
「……う、うん?」
田舎町にまるで似合わないその風体に振り替えると、その美しいメイドは軽々と青年の体を肩に抱えて、爛々と眼を輝かせながら町の外へと向かっていく。
青年が悲痛な視線を満雄の方へと向けたが、あまりの光景に息を呑んで体が動かない。
「ごきげんよう、お爺様。可愛らしいでしょう……哀れにも恋人を寝取られたので、私の妻になりますの」
こちらの視線に気づいたらしいメイド服姿の巨女が、優雅に挨拶しながらそう言い放つ。
弾かれたように後を追い、曲がった角を見つめるが、そこにはもうメイドの姿も青年の姿も、ほんの数瞬前まであったものは何も見当たらなくなっていた。