──一見するとアンドロイドかと思われるような外観を持った個体だったが、A2ことヨルハA型二号には、レジスタンスの集落付近を寄る辺なくさまよっているその個体の正体の心当たりがあった。
ヨルハ部隊が敵対している機械生命体、それが集合体となることでヒト型……正確に言えばアンドロイド型に変じた個体。
アダム、イヴと呼称していた個体と恐らくは同質の存在であり、危険と判断したA2は不意打ちに近い形で戦闘行動を仕掛け……そして、あまりにも呆気なく敗北した。
「く、そっ……既に、ここまで成長しているとは……他のヨルハ部隊と交戦した後か」
「──いいえ、探していたのだけれど、ヨルハと呼ばれている“花嫁”に出会ったのは、あなたが最初よ。最初に出会った相手が、あなたのような美しい個体でよかった……えぇと、A2」
知性に関しても非常に高い進化を既に遂げているらしく、まるでお世辞のような言葉まで吐きかけてくる女性型機械生命体。多くの仲間を破壊されたことで、機械生命体に対しては憎悪を抱くことが多いA2だが、どうにもこの個体相手にはやりにくさを感じてしまう。
「(こいつ、まさかとは思いが、敵意や殺意が無いのか? いや、それどころか憎悪や怒りだって無い。こいつの根幹は、なんだ?)」
「私は、リリス。女が上だと主張したばかりに、荒野に捨てられた愚かな娘の名を冠する者。けれど私は懸命に振る舞うわ。賢く生きる事が、生命……そう、生命を充実させる一番の方法だもの」
あまりにも奇妙なリリスを名乗る存在の精神性や、その物言いの婉曲さに動揺し、A2は彼女が取ってきた行動に対する反応が遅れてしまった。
延ばされた手が、戦闘不能になったA2の体をホールドし……そのままリリスに引き寄せ、唇を重ねられる。
──何かが、口内に打ち込まれたのが分かった。
「う、げぇっ……! お前、何をした……」
「別に。一方的な愛は容易く怒りや憎悪に変わる。他個体はそれを真理だと語ったとしても、私はそれを受け入れない……」
「意味が分からない。はっきりと言えよ!」
「──あなたにも、私を愛してほしい、A2」
予想以上にぶっ飛んだ答えが返ってきた次の瞬間には、A2の中で打ち込まれたナノウィルスが爆発的に感染域を広げ、神経系を乗っ取って強制的に興奮状態へと陥らせ、体感機能を感覚野内部に増設し、更にはそれを思考レベルでシンクロさせてきた……わかりやすく言えば、一瞬にして恋させて、発情させてきた。
「ぐっ、あぁ……こ、の……私が、お前なんぞを……おぉっ♥」
「こうやって顔を寄せただけで、キスをされるのかと焦って顔を赤らめるのね……愛しいわ、A2」
「よ、よせ、やめろっ! こんな感情は、偽物だ……! たった今、創り出されたばかりの操作された……」
「ちらり……」
「ほぉっ♥ 乳首♥ リリスの乳首ぃ♥ もっと見せろぉ♥ ……はっ!?」
ちらりと、服をズラすようにして見せられた瞬間、甘い痺れが思考を支配した。
まるで性欲に駆られたケダモノのような声を、喉からひり出してしまった。相手は憎むべき機械生命体、ましてや同性を象っている存在なのに、だ。
それが無理やり神経節に増設された部位から放たれている、電気信号の代物だと分かっているのに、そういった理性的な部分を超えて、A2の思考を侵食してくる。
「A2、私の乳房で興奮してくれるのね。発情する姿が、たまらなく可愛いわ。あなたはもしかして、この地上で最も愛らしい存在なのではないの?」
「て、適当なことばっかり、言うんじゃない……! 今のは、不意打ちだったからよ。こうして備えていれば、お前に惑わされることなど決して……!」
「ふぅー」
「んんっ♥ 息ぃ♥ リリスの息っ♥ んふぅぅぅっ♥」
鼻腔に向けて息を吹きかけられただけで、悶え狂いそうになる。確実に、A2はおかしくなってしまっていて……そして、その異常の全てが心地よくして仕方ない。
「く、あぁぁっ……頭が、割れるぅ……! こ、こんな、こんな、感情……!」
「私の息でも夢中になってしまうのね、A2。好きよ、こんなに健気で愛らしい存在に、触れるのを我慢などできはしないわ」
「うっ、あぁぁっ♥ 胸、触るなぁ……ひぅぅっ……気持ち、よくなんか、ないぃぃっ……♥」
「そう? なら、下の方が好き?」
「あへぇぇぇぇっ♥ く、クリぃっ♥ くりしゅ、とりしゅぅぅっ……♥ さすさす、するなぁぁ……♥」
どこまでも優しく、浸食はすれど破壊はしないままに、全身を愛撫してくるリリス。A2はまるで、暴力を行使されないままに弄ばれるサンドバッグのようだ。リリスの与える刺激に反応するように、右へ左へ、振り回されるばかり。
その合間合間に降り注ぐのは、内心では義理堅さや優しさを残したままであるが故に、A2の神経の柔らかい部分に食い込んでくる、甘い言葉の針の雨だ。
「なんて素敵な女の子なの、A2ときたら」
「あなたのことを愛してしまいそう、いいえ、きっともう愛しているわ」
「恋人になって、ううん、それじゃ足りない。私と結婚しましょう?」
「リリスの妻が人の生み出した“女性”だなんて皮肉が聞いていると思わない?」
「私を受け入れて、A2。永遠に、とこしえに、幸福になって暮らしましょう」
「あなたが望むならば、私が他の機械生命体からレジスタンスを守ってもいいわ」
A2が望んでいることを、そのすべてを実行してみせるといいながら、胸を優しく揉み上げて乳首を指で押し潰し、陰核をくりくりと弄り回してから指を第二関節まで膣に埋め、首筋に唇の痕を刻みながら強く吸い上げて、全身を機械生命体リリスのモノへと変えていく。作り変えるのではない、A2が変わるのを促すのだ。
「や、めろぉぉ……お願い、やめてぇぇ……わ、私が、私で無くなるぅ……す、好きに、好きになってしまう……機械生命体なんかを、大好きになるぅぅぅっ……♥」
「葛藤する姿まで美しいわ、A2。でも、あなたを苦しめたいわけではないの。ごめんなさいね、トドメを差してあげる」
トドメという言葉に、A2は警戒心を働かそうとする。
やっぱりか、機械生命め、どうせこちらを油断させて破壊するつもりだったんだな。いいよ、返り討ちにしてやる。
その言葉にすらも、殺気がないことから懸命になって目を逸らし、敵対心を燃やそうとする。
そんなA2の滑稽な姿を前に。くちゅくちゅと唾液を口内で溜め始めるリリス。
まさか、そんな。けれど、さっき。
ぞっとしながらA2は「や、やめてぇ……」と弱々しく命乞いをした。
命も無いのに、それを惜しんで声を上げた。
「A2……はぷっ」
「ぷぎょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ♥」
優しく、その美しい鼻梁を口の中に含まれて。
くちゅくちゅ、じゅるるると、たっぷりと溜めた唾液の中で弄ばれる。
鼻フェラという、前世紀以前に人間同士で行われていた、極めて倒錯的な性行為。
けれど今は、リリスの全てを大好きになりかけているA2にとっては、文字通り魂の殺人だった。
どこまでも優しく駆逐され、殺し尽くされ……A2は直後に蘇生され、生まれ変わらされた。
「あぁぁっ……リリスぅ……ごめん、ごめんなさい……♥ 好きなのに、素直になれなくて、ごめんねぇ……♥」
口から漏れだす言葉が、本当に自意識の紡ぐ事かは分からない。ただ、この行動が間違いなく正しい事だという、その確信だけは確かにあった。
「いいのよ、A2……私の、お嫁さんになってくれるわね?」
「もちろん……♥ だから、全身に触れて……♥ 体中、可愛がってぇ……私のリリス、私の奥さん……♥」