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人形違い催眠

なんか最近クラスが変だ。特定の男子が妙にモテてる。学年トップの美人が彼氏と別れてある男子と付き合いだした。そして同じくらい可愛い子も後に続き、同じ男子と付き合いだした。最初はビックリした。二股じゃん。しかも……相手はハッキリ言って冴えない男子だ。前髪長くて陰気な土田くん。何か特技があるわけでもない。しかし、誰もこの二股に異を唱えないのだ。まるでさも当然かのように。しかもそれは徐々に広がっていき、多くの女子が彼となんか……それも結構アレなことをやっていることがわかった。本人たちの口から。さも自慢げに。私はドン引きしたが、何故か誰も常識的な反応はみせず、気にも留めない。おかしい。何かが。死ぬほど不気味だった。極めつけは彼と女子たちが白昼堂々教室で授業中に熱烈なキスを交わし始めた時。しかし、クラスの誰も……先生ですら注意しない。女子たちが服を脱ぎだしたので、 「ちょ、ちょっと! 何やってんの!?」 思わず立ち上がって叫んだ。すると土田くんは私の方を見た後、 「ああ、ごめん、忘れてた」 と言うと私の方に近づき、左手の平をかざした。 「君はもう僕のすることに違和感を持たなくなる」 と呟いた。 (は?) と困惑する私をおいて、彼は自分の席に戻って女子たちに服を脱ぐよう言った。そしてそれにみんな従いだしたので私はまた叫んだ。 「いやだから何やってんの!」 すると土田くんは心底驚いたような素振りで振り返り、私を見つめた。まるでツチノコでも発見したかのようだ。彼はもう一度私の目の前に着て左手をかざした。私はそれを払いのけて再度文句を言った。すると彼は硬直した。ありえないものを見たかのように。その反応が私をまた苛立たせた。 「みんなもおかしいと思うでしょ!?」 私はクラス中に問いかけたが……驚くべきことに誰も私に賛同しない。先生まで。ありえないものを見てるのはこっちだよ。しかし土田くんは脱ぎかけの女子たちに服を着て席に戻るよう言って、みんなそれに従った。嘘でしょもう。どうなってんのこれ。 その後は平和だったが、土田くんは何度もチラチラ私の方を見てきて、私は苛立ちと共に少しずつ恐怖も覚えだした。大体なんとなく状況がつかめてきたからだ。見て見ぬフリをした方がよかったかもしれない。 放課後は部活にも出ずサッサと帰ろうとしたが、みんなが教室のドアの前に立ちふさがった。土田くんは私の方に近づき、わけのわからないことを尋ねてきた。どこまで知ってるのとか、君もそうなの? とか、何だか探る風だったが、サッパリわからない。私にわかるのは土田くんがみんなに命令を聞かせているのであろうということだけで、それもついさっきの推測だ。 逆に私から質問を返した。すると彼は意外にも素直に答えてくれた。おそらく私は何も知らないと……脅威ではないと察したのだろう。彼曰く、道端の怪しいおばあちゃんから催眠の力を買ったらしい。それでクラスのみんなを……下手すりゃ高校中を操っていたのだ。何故か私には催眠が効かなかった。理由は……私にもわからないけど、まあ相性が悪いか何かだったんだろう。 「とにかく。もう変なことしないでよね。みんなの催眠も解いて。自力で彼女作って」 効かないなら強気に出られる。しかし彼は結局催眠は解かなかった。私は帰してくれたが、正直明日からが憂鬱だった。こういうのどこにいえばいいんだろう。警察? 催眠でお終いかな……ていうか信じてくれないか。みんなはあくまで土田くんを庇ってしまうんだろうし……。関わらないのが一番かな。 だが、彼はその日から私に積極的に関わってくるようになった。何度も私に催眠をかけてきた。みんなが私の手足を掴んで逃げられないようにするので躱しようがない。不登校になろうかと思ったけど、なんであんな奴のために私が出席や成績棒にふらなきゃならないんだと怒りがこみ上げてくる。ので、意地で登校を続けた。 土田くんはもう学校を支配してやりたい放題するより私を何とかできないかの試行錯誤にハマったらしく、新たな犠牲者は私の知る限り出なくなった。無敵だと思っていた催眠が効かない相手がいるってなると、もう安心して悪行はできないのだろう。世界に私一人ってわけでもないだろうし。多分。 彼なりに色々考えているらしく、かけようとしてくる催眠の内容は日々変わった。忘れろ、その場で片足立ち、口調の変更、そして…… 「髪の先を指でくるくるしろ~!」 アホみたいな内容になってきたので私は思わずプッと笑った。すると彼は机を蹴って教室から出ていった。バーカ。 (やれやれ……) 何だか可哀相にも思えてきたので、戻ってきたらかかったふりしてあげようかなといういたずら心も湧いてくる。私は人差し指は自分の髪の先を軽く巻いた。 (こうかな?) そして指を髪から離した際にふっと思った。仮に効いたとしてどうすんの。こんな催眠かかったところで別に……ねえ。 翌日土田くんが近寄ってきた際、私は人差し指で自分の髪を巻いてみせた。すると彼が子供みたいに顔を輝かせたので思わず噴き出した。彼は真っ赤になって教室から出ていった。バーカ。 それからしばらく土田くんは私に催眠をかけようとしなくなったが、ある日私は自分が暇なとき髪を指でまくようになっていることに気づいた。今までそんな癖なかったのに。気づけば無意識にやっている。慌ててやめるが、それを目撃されたらしく、土田くんはニヤニヤしながら私への挑戦を再開した。 「かかってるよね? 工藤さん」 「……かかってないけど?」 私は動揺していた。てっきり自分は彼の力に無敵なんだとばかり思っていたからだ。心を許してしまったのが不味かったんだろうか。 そして私はまた髪先を指で巻いていることを指摘され、さらに動揺してしまった。指を髪から離した瞬間に彼が左手をかざし、素早く言った。 「明日から髪を伸ばせ」 (えっ!?) あ、そんだけ。洗脳されるのかと思ったからちょっと拍子抜け。しかし土田くんは満足したらしく、私の前から去っていった。この髪巻く癖やめないとな……。ふう。 それからしばらく経ち。私の髪は肩にかかっていた。土田くんが久々に私に催眠をかけようとした時の指摘で気づき、私はドキッとしてしまった。 「えっ!? いや、これは……」 たまたま髪を切ろうと思わなかっただけで……いやそれが催眠? もしかして効いてたの!? と思った瞬間。視界を覆わんばかりの左手の向こうから声が響いた。 「僕の人形になれ」 (にんぎょ……) 本命の洗脳催眠だったのだろう。動揺と不意打ちで私は心の安定を崩されたままその言葉を聞いてしまった。 「よし」 彼は手を戻すと言った。 「お手」 言われた瞬間、反射的に右手を差し出してしまった。が、ハッとしてそのまま顎に喰らわして私は逃げた。やばい。今のは……ホントに体が勝手に……あいつの催眠……効いて……いや。いやいや! そう思うからかかっちゃうんだ! 私は心の中で何度も私はあいつの人形なんかじゃないと自分に言い聞かせながら家に逃げ帰った。それから鏡の前で何度も自分は人形じゃないと頭の中で反芻した。効果があったかはわからない。 翌日から、あいつは何かと私に命令をするようになった。私の身体は反射的に従いそうになるが、私は自分の意志でそれを抑えてやめさせる。私がまだ抵抗することに奴は驚くと同時に面白がっていて、クラスのみんなに私を拘束させてから無理やり追加の催眠をかけてきた。内容は勿論あいつの人形になること。私は必死にかからないかからない、自分はこいつの人形じゃないと自分に言い聞かせたけど、毎日人形化の催眠をかけられ日に日に体が思わず命令に従いそうになるのを止めるのが難しくなっていった。 (不味い。このままだと私……) あいつの玩具にされてしまう。不登校になろうか。いやでも……出てこいって言われたら従うかも……ていうか親にどう説明すれば……あいつ家まで来て親も洗脳してくるかも。色々な事が頭を駆け巡る。何か対抗策はないか。抜け道は……あいつの玩具になんてなりたくない……。 (玩具……) 頭の中である連想ゲームが繋がった。人形になれというのは……あいつは多分自分の命令を何でも聞くようになれという意味で言っていて私もそう受け取っていたけど……。人形という言葉には別の解釈もあるよね。私の中での受け取り方を変えてみたらどうだろう。無意味な催眠に変換できたりしないだろうか。 子供の頃遊んでいた着せ替え人形を引っ張り出し、私は一時間ずーっと見つめ続けた。人形とは……人形のことだ。 翌日、私は催眠をかけられている間思考を切り替えた。あいつの口から人形というワードが出た瞬間、家の着せ替え人形を思い出し、頭の中に浮かべるよう努めた。それが功を奏したかはわからないが、身体の従順は悪化しなくなった。その後も半月ほどやつのチャレンジは続けられたが、私は人形というワードを玩具の方の人形に結び付けて乗り切った。あいつもワード変えればいいのに……と思ったが、私の対抗策は読心でもしない限りわかんないか。どうやら限界らしいと解釈したのか、奴はとうとう私に人形になれという催眠をかけるのを諦めた。 久しぶりに催眠をかけられることなく一日を終えた私はベッドに転がり天井に向かって勝利のピースを掲げた。その時、指が何だかおかしいことに気づいた。 (……ん?) 綺麗だった。滅茶苦茶に。まるでマネキンのような……。 起き上がって手のひらを眺めた。補正後の写真並みに、私の皮膚が綺麗になっている。え、これ何? 気持ち悪い。病気か何か……いや。 ずっと頭の中で反芻し続けていたからか、すぐに悟った。 (私は……人形) 脳裏で着せ替え人形が浮かぶ。お風呂で自分の体を確認すると、全身が均質な肌色一色の肌になっていた。全く気がつかなかった。体毛もほとんどなくなってる。脱毛なんてしてないのに。何これ……。まるで人形みたいだ。催眠の効果? いやまさか。催眠ってこんな……物理的な変化を起こすものじゃ……いや。あいつの催眠は魔法みたいなものだったからそれで……いやなんで? 私が人形をいうワードを玩具の方の人形と結びつけたから? それで体が……マジで物理的に人形に寄ってる? (ヤダもう……) あいつの催眠がまさかここまで魔法染みたものだったなんて。困ったなあ……治らないよねこれ多分。あいつが反対の催眠でもかけてくれない限り……。それは絶対望めないことだ。効いてたってバレたら嬉々としてまた何か仕掛けてくるだろう。 あいつも諦めたみたいだし、バレずに高校生活やり過ごせることを祈ろう。私は肩より伸びかけている髪の先を指に巻きながら祈った。 「なんか工藤さん最近肌キレ―じゃない?」 「ほんと! 人形みたーい!」 昼休み、友達が私の肌に触れ、一番出してほしくない表現をした。土田の野郎は目ざとく反応し、私の方を見た。そして見比べるかのように視線を左右に這わせたあと、近づいてきた。 「手見せて」 命令にはもう従わないようになっている。が、顔の綺麗すぎる肌は丸見えだ。 「あぁ~」 ヤバい。見破られた。彼はすぐにクラスメイトに私を拘束させて、肌をもっとよく確認した。 「いやこんな風になるとは思わなかったよ……人形になれってそういう風に解釈してたの?」 私が意図して防衛したのではなくアホ過ぎて素で間違われていたのだと取られたことのが腹立つ。いちいち訂正はしないけど。 「うん。いいよそれで。どこまでいけるか見て見ようじゃん」 彼も物理的な変化をもたらしたのは初らしく、興味津々だった。そして再度私に人形化の催眠をかけ始めた。 (えっと……わ、私どうすれば……) パニックになりながらも、脳裏には玩具の方の人形が浮かぶ。操り人形にはされたくないし……しょうがないか。まさか本当にお人形にされちゃうなんてことは……ないよね? 見た目がある程度綺麗になるだけでさ……。 一か月後。私の身体はえらいことになってしまった。樹脂みたいなツルツルした均質な皮膚に覆われ、まるで等身大フィギュアのような容姿になってしまったのだ。その上、胸の乳首が消えてしまい、股間も着せ替え人形みたいに何もない平坦なゾーンに変貌してしまった。トイレには一週間近く行っていないけど、特に支障はおきてない。 だいぶ伸びた毛先を指でクルクルしながら、私はため息をついた。本当に人形にされちゃったよ。どうしよう……。何かポジティブに考えるべきことがあるとするなら、股間がこうなったのであいつの玩具にされることは無くなったということくらい。いやよくない。これからどうすんの私。 あいつに頼んで人間に戻してもらうしかなさそうだけど……頭を下げたくない。それに、頼んだところで戻してもらえるとも思えない。 奴は自分の催眠が目に見えて効いているのが嬉しいのか、或いはもう純粋な能力の探求でもしているのか、追加で色々な催眠を私にかけだした。金髪になれという催眠。染めろというのではない。奴は物理的な変化を起こしたいのだ。何度も金髪化の催眠をかけられ続け、私の髪は徐々に色が薄くなっていった。黒から黄土色になり、そして黄色に。未だ続く人形化催眠と混ざったのか、最終的に現実の金髪でなくアニメみたいな色合いのマジな黄色に染め上げられてしまった。これもう催眠というより魔法じゃない? 更に、逃げないこと。これで私は登校を拒否することができなくされた。こんな奴に屈したくないと逃げずにいたことが仇になった。それがなければ効かなかったかもしれない。 学校がおかしくなってからいつの間にか一年近くが経過し、私は様変わりしていた。去年の今頃はこんなことになるなんて思わなかったなぁ……。私は腰まで届くビビッドな黄色の髪と、ツルツルテカテカした人形の肌と顔を持った、生きたお人形に作り替えられてしまっていた。しかも脳内で結び付けていたのが着せ替え人形だったのが悪かったのか、身体が90センチくらいにまで縮んでしまっていた。まるで幼児だ。高校二年生なのに……。しかも、声が出なくなってしまった。人形は喋らないからだろう。極め付きに、身体が強張って動きづらい。このままだとマジで人生終わっちゃう。完全な人形にされてしまう。こんな体にされるぐらいだったら、素直にあいつの操り人形にされていた方がマシだったかもしれない……。 ただ、私に完全な人形に……つまり実質死んでほしいとまでは流石にあいつも思っていなかったのか、進級と共に新たな催眠も始まった。人形でも人が見ていない間は自由に動いていいんだという、なんじゃそりゃな催眠。子供向けの話では内緒で玩具が動いているみたいな話たまにあるけど……。わざわざそんなことするぐらいなら元に戻してよと思う。人形化催眠は相変わらず続いてるし。きっと私を排除したい、黙らせたいんだろう。催眠が効かない(効いてるけど)相手を消して後顧の憂いなく好き放題するために。でも、殺したいわけじゃない。ので、折衷案といったところなのだろうか……。 とうとう自力で動くのが難しくなってくると、私は登校できなくなった。逃げるなって催眠あるけど、物理的に動けないんじゃどうしようもない。人に見られていない間は普通に動けるけど、それだけじゃ登校は無理だ。身体も小さくなってるし。 そこであいつは先生を操り私を運ばせた。高校まで。まるでマネキン人形のように抱きかかえられて車に載せられたり降ろされたりするのは例えようもなく悔しかった。身体がほとんど動かない。喋れないので先生に助けを求めることもできやしない。 家庭科室の後ろの方に設置された私は、土田にここが新たな居場所だと告げられた。 (ふざけないでよ!) と叫びたいけど、もう人前ではかなりゆっくりとしか動けなくされてしまった私は真顔のまま彼をまっすぐ見つめることしかできない。 彼が日課の人形化催眠を私にかけたあと部屋を出ていくと、ガチガチになっていた私の身体が解凍された。すぐ家庭科室から出ようとしたけど、扉の前で足が止まる。手を伸ばしても扉を開けられない。そのための力が入らない。 (な……なんで?) 多分きっと……逃げるなの催眠。こんなところまで効いてくるなんて……。私は絶望しながら、扉の前に立ちながら手をブンブン振り回した。そのうち誰かが来てくれたが、その瞬間私は固まって動けなくなり、入ってきた男子生徒はうざったそうな顔をしながら扉の前に立っていたデカい人形を教室の奥に置きなおしてしまった。 放課後になっても私は家庭科室から出られず、ここで一夜を過ごす羽目に。いや……一夜じゃない。あいつが、誰かが私を「持ち出して」くれない限り、私は永遠に……ここに幽閉されるんだ。 (い……いやだぁー! 誰か助けてぇー!) 私の叫びは口から音になって出てくることはなく、奥行きの無い人形の口が静かに開閉するだけだった。 それから一週間ほどで、人形化の催眠が完成した。私は人に見られている限り、指一本動かすことができなくなってしまったのだ。まるで魔法で石にされてしまったかのように、どれだけ力を込めてもピクリともしない。 土田はまるで大プロジェクトを終えた責任者のようにふーっと息を吐き、もう終わった、どこ行ってもいいよと言い残して去った。 (元に……戻してよぉ) 彼が出て行って体が解凍されたあと、私は恐る恐る扉に手をかけた。開いた。逃げれる。 でも、廊下で誰かの視線を受けた瞬間全身が固まり身動きがとれなくなる。 「なにこの人形」「デカっ」「これ家庭科室のやつでしょ」「誰だよもう」 (わ……私だよ! 工藤だよ!) しかし、もう誰も私のことを覚えていないらしく、私は家庭科室に戻されてしまった。逃げるには人目のない夜しかなさそうだ。でも……一体どこへ? 家に……帰れるかなあ。 深夜に高校から抜け出し、慎重に人目を避けながら私は家に帰ろうとした。しかし途中で体が動かなくなり、大学生の集団が近づいてくるのから逃げられなかった。 「何これ」「あの店のじゃない?」「あ~、あそこかー」 (店? なに? いいから早くどっかいってよ! 動けないじゃない!) しかし不運にも今時珍しい親切な大学生たちだったらしく、私は見知らぬアンティークショップに届けられ、そこのショーウィンドウの中に収められてしまった。 (私人形じゃありません! ここから出してください!) 良いことしたと上機嫌な大学生たちが去っていくのをガラスの裏から眺めつつ、私は予想もしていなかった檻の中で絶望した。 翌日、すぐに私は買い取られた。勿論、ただのお人形として。私は自分がお金で売り買いされていくやり取りを黙って聞いていることしかできず、腸が煮えくり返る思いだった。 夜になれば動けるんだ。逃げてやる。そう誓いつつ、私は自分が梱包されていくのを黙って受け入れるしかなかった。 買い手は見知らぬ若い男の人。ルックスは悪くない。90センチの人形を買うくらいなので、家も広く綺麗に整頓されていた。ドール趣味らしく私は色んな人形が飾られている部屋の中央に新しく飾られることになった。最悪。まるでコレクションだ。 私を怒らせたのは同じサイズの大きな人形の隣に飾られたこと。私は人形じゃないよ! 混ぜないで! 彼が部屋から出ていくとようやく動けるようになったが、昼は脱出に向かない。外に出たって動けなくなるだけだ。今は大人しくしよう。私は隣に座っている大きな人形を眺めた。綺麗。率直にそう感じた。よく手入れされているのか素人目にも何となくわかった。フリフリのドレスも可愛い。 その後、部屋に戻ってきたお兄さんに私は服を脱がされた。 (ギャーッ、やめてー! 変態!) とはいえ私の身体はすっかりお人形であり、たとえ身体が動いてももはや隠すところもない惨めな有様なんだけど……。 私はフリフリのアリスの衣装を着せられ、椅子に座らされた。長い金髪と合わせたのだろうか。可愛らしい水色のエプロンドレスに白いタイツ、頭にリボンカチューシャをセットされ、私は何度も撮影された。死ぬほど恥ずかしい。 (やめてー! やめてくださいー!) 許可なき撮影は色んな角度やポーズで何度も行われ、私は動けたら穴に入りたい気分だった。 夜、彼が寝たので私は行動開始した。サッサと逃げよう。でも、ふと視線を下に落とし、ふんわり広がったスカートを手で握った。 (ちょっとだけ……) 洗面台を探して鏡の前に立った。可愛い。そう思ってしまった。可愛らしいアリスのお人形が映っている。 (これが……私?) こんな可愛い私初めてだ。っていやいや! これは私じゃない! こんなのは! 私は人間なんだから! (でも……) あ、そうだ。この格好で逃げちゃダメか。きっとお高いんだろう。元の服探して着替えないと。 自分の服は見つけられなかったけど、私は人形ルームで自分にピッタリ合うサイズの可愛い服をいっぱい見つけた。きっと私の隣の子に着せられているものなのだろう。夜になっても動き出さない先輩をチラッと見つめた。大事にされてるんだろうな。 (いいな……) って何!? 私なに思ってんの!? 黄色い髪を指で巻きながら私は考えた。他の服も着てみたいかも。そしてすぐ逃走へ思考を切り替えようとするが、どうせまたどっかで誰かに拾われて変なところへ連れていかれるんじゃないかと思ってしまう。寝室のドアをチラと見た。この人はきっと……当たりだ。ここより大事にされそうなところなんて……いやいや! そういう問題じゃない! でも……まあ、安全に帰れるとも限らないわけだし、この人は酷く扱ったりしなさそうだし……もうちょっと様子見でもいいかも? 私はすぐには逃げ出さないことに決め、座らされていた位置に戻った。 それから、私はこの人の新しいお人形として暮らすようになった。可愛い服を着せてもらって可愛いポーズとらされて撮影されたり飾られたりするのはこそばゆかったけど悪くない気分だった。日中は自由だし。私は一応彼が帰ってきたら元の位置に戻るようにしていたものの、「生きている」ことは割と早々に把握されたらしく、より一層可愛がられるようになった。隣の先輩より、他の小さなドールたちよりずーっと。私は一番のお人形だった。 これなら人形になるのも、そんなに悪くないかもしれない……。ズルズルと私は脱出も事情を説明することもせず、心地よい耽溺に身を委ねていった。 ある日、ご主人様が仕事に出かけていったときに思った。流石にいい加減説明すべきかな。私が人形だってこと……。 (……ん?) あれ? いや私が人形なのは普通に知られて……説明することじゃなくない? (いやそうじゃなくて……あれ?) 何か大事なことを言わないといけなかった気がする。それは私が人形……じゃないことって……。 (いや私……人形だよね?) なんかよくわからなくなってきた。モヤモヤする。自分は人形なのに、そう思うと胸が締め付けられるような気がする。そうじゃない気もするけど……なんだっけ。 椅子から降りた私は自分の手のひらを見つめた。私はそうだ……あいつの催眠でこうなったんだけど……逃げるなの催眠はもう無意味だし、金髪化も終わってるし……人形なのは元からだ。あいつの操り人形にならずに済んだのはよかった。 (う~ん) わかんない。何かが思い出せないでいる気がする。二本の指で腰まで届く毛先をくるくる巻きながら、私は答えの出ない悩みに頭を抱え続けた。

Comments

コメントありがとうございます。お気に召したら幸いです。

opq

角度新颖啊,不错。

磊 杨


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