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呪いのすごろく

夏休み。五人でゲーム部の部室を大掃除していた時のこと。棚の奥から真っ黒な木製の箱が出てきた。ボロボロのゲームブックや粉化しているボードゲームの残骸がひしめく中で、その箱は異彩を放っていた。古いのは一目見てわかるものの、妙に状態が良かった。 「えー、何それなにそれ」 「開けてみてよ」 五人全員が集まってくる中、私は黒い箱の紐をほどき、蓋を開けた。中には薄い革製の本が一冊。いや、本というか……二つ折りの厚紙に革のカバーをかぶせたものだ。ゲームブックだろうか。他の古いゲームたちはもうボロボロで崩壊を始めているのに、この本だけは箱の中にゴミ一つなかった。 「何それ本?」 「さあ……」 広げてみると、厚紙に描かれていたのはすごろくのマップだった。全長60マス程度のすごろくを中心に、周囲には水彩画の筆致で白壁のお城と色とりどりの花を抱く草原が描かれている。年代物なのは間違いないのに、この厚紙はどこも欠けていないし絵も掠れていない。何だか奇妙だった。 「すごろくかー」 「あ、まだなんか入ってるよ」 箱の中に、ボロボロの紙切れが一枚。ご達筆で読みづらかったけど「呪いのゲーム、やるべからず」と書かれているらしかった。これが俄かに皆の興味を惹いた。 「えっマジ? 呪いのゲーム?」 「えー面白そー。やってみる?」 「こわ~」 掃除に飽きてきたのも手伝って、すぐに五人全員の意見がまとまった。ちょっと遊んでみよう、と。極々単純なすごろくゲームらしいということもあって、皆気軽だった。部室の奥から出てきた呪いのゲームというのも話として面白い。夏休みだし。 捨てる側に選り分けていた古い駒を五つ並べて、私たちはダイスを握った。口先では呪われる~怖い~と女子五人キャッキャしていたものの、誰一人本音ではそんなもの信じていなかった。最初の一人がダイスを投げるまでは。 「じゃあ私からね」 赤枝さんがダイスを転がすと4が出たので駒を四つ進めると、小さな字で「角が生える」と書かれたマス目に止まった。なんじゃそりゃ、と思った瞬間、 「いっ」 赤枝さんが小さな声を出して額を抑えた。そして信じられないことが起きた。彼女の額から薄灰色のとんがったモノがせり出してきて、瞬く間に伸びていったのだ。 「あ、え、え」 あっという間に、彼女の額からは一角獣のような見事な角が生えていた。生気に満ちたそれはドッキリでもファッションでもなく、それが生きた本物の角であることは誰の目にも明白だった。一瞬の沈黙ののち、悲鳴が上がった。 「え、ちょ、待ってそれ……本物?」 取り乱しそうな赤枝さんを宥めながら、四人代わる代わる角に触れてみると、固いザラザラした感触があった。生きている。生々しい命の脈動を感じる。根本は彼女の額と切れ目なく接続しており、作り物でないことを改めて思い知った。 「うそ、これ、マジで……呪い?」 涙目の赤枝さん含む五人全員が神妙にそれぞれ顔を見合わせた。 「ちょ、止めよ。一旦先生呼んでこよ」 「……うん」 ゲームを中止しよう。すぐにそう決定した。が、ゲーム側はそれを認めてくれなかった。突如すごろくが光りだし、私たちは反射的に顔を手や腕で覆った。 「わっ!?」「ひゃっ!?」「何!?」 閃光が収まり恐る恐る目を開くと……信じられないところに私たちは立っていた。ついさっきまで埃だらけの部室に立っていたはずなのに、見知らぬ薄灰色の空間に五人全員が移されている。足元にはスタートと書かれた大きな枠。そして数歩先に赤枝さんだけが離れて立っている。 「え……」「どこ? ここ」「何……どうしたの」 パニック寸前の雰囲気だったが、皆本当は察していた。足元を見ればすぐわかる。厚紙だ。ものすごく広く丈夫? な厚紙の地面。それはさっきまで私たちが見下ろしていた呪いのすごろくのマップに相違なかった。赤枝さんの足元には元凶である「角が生える」の文字が見える。 「う……うそーっ!」「私たち、え、これ……小さくなってる!?」「閉じ込められたの!?」 これが夢じゃないらしいことを察すると私含む皆が慌てた。私たちは……ゲームの中に閉じ込められてしまったのだ。というよりかは自分たちが駒になったと言うべきか。最悪だった。遊んではいけない呪いのゲームという達筆な忠告は本物だった。これが現実だなんて信じられない。こんなことになるなんて……。 「いやー!」「助けてー!」「土田さんのせいだよ! こんなすごろく遊ぼうなんて言うから!」「はぁ!? 見つけたの工藤さんじゃん!」 たちまちのうちに醜い言い争いが始まり、私たちはスタート地点に立ち止まったまま十数分を無駄にした。その間に分かったことは、恐らく外と連絡はとれないこと。スマホは圏外だし叫んでも誰も来ないし……。というか、ここは部室とは別空間なんじゃないかって気がする。だって小さくなったんなら大きな部室が周りに見えないとおかしい。でも周囲も空? も薄灰色の空間が広がるだけで、何も見えない。そして、私たちはこのスタートと書かれた駒の枠線から出ることはできないってこと。見えない壁があって勝手に進むことも戻ることも、ゲームから降りることもできないらしかった。赤枝さんだけが4マス先で座り込んだまま涙目で自分に生えた角を擦っていた。 「やるしかないよ、もう」 どれぐらいギャーギャー言ってたのかわからないけど、ようやく静寂のターンになった後、悪原さんがポツリと言った。 「……そうだね」 「ほら、こういうのってゴールしたら戻れるもんじゃない? ……多分」 いつまでもこの変な世界でジッとしていても始まらない。帰れる方法は……帰れるかもしれない方法はゲームを最後まで遊ぶことしかない。それは五人全員認めざるを得ない現状だった。 「えっと……赤枝さんが振って……」 「次誰だっけ?」 「私……」 加古さんが暗い声でそう言うと、死にそうな顔でダイスを投げた。足元に転がったダイスは2の面を上に向けていた。 彼女は2マス分、スタート地点から歩を進めた。さっきまではどうしても壊せなかった透明な壁がまるで存在しないかのように、スッと出ていったのが感覚的に納得しがたく、気持ち悪かった。 「あわ……」 彼女が自分の足元を見つめたそう言ったのち、また変化が発生した。「尻尾が生える」と書かれたマス目の説明通りに、彼女のお尻から細い尻尾がニュルンと飛び出す。スカートの中からのぞく先端は、まるでトランプのスペードのような形状をしていて、色は真っ黒だ。悪魔の尻尾みたいだった。 「うわ~」 彼女はショックを受けているようだったが、流石に十数分経って否応なく状況を受け入れた今、初手ほどは荒れなかった。自分の新たな部位を擦り、感触を確かめている。 次は私だった。覚悟を決めてダイスを振る。3だ。私は3マス進み、先行する二人の間に挟まった。そこに待っていたのは「羽根が生える」の文字。 「いたぁっ!?」 鋭いナイフで切り裂かれるような痛みが肩甲骨を縦に走った。制服の背中側がモコモコ膨れあがり、不自然に抑えつけられているような痛みが生じる。その痛みは、さっきまで存在しなかった部位からきているものだった。本物なんだ。神経通じてるんだ。それを本能にもハッキリ思い知らされつつ、私は痛みに耐えかねて制服の上着と、ついで下着まで急いで脱ぎ捨てた。 広がる権利を得た羽根が、私の背中から勢いよく広がる。まるで蝶のような形をした白い羽根。動かそうとするとパタパタ動かせた。嘘でしょ……ホントに本物なんだ、夢じゃないんだ……。 ここまでで最悪の出目だったかもしれない。だってもう服着られないんだもん。ゲームが終わるまで上半身裸? 最悪。男子いなくてよかった。 続く悪原さんが同じく3を出し、私と並んだ。彼女はまるで真っ黒な羽毛を持ったカラスのような羽根を生やした。同じ目でも人によって違うのかな。そして最後に土田さんが6を出し、「髪が伸びる」を踏んだ。 「イェーイ!」 唯一マシな変化マスを踏めたことで彼女はまるで勝者のように振る舞ったが、平安貴族みたいに伸びた髪はどう見てもこの中で一番邪魔そうだった。 「これで一巡?」 「……だね」 最初に赤枝さんが角を生やしてからどれぐらい経ったのだろう。長かった一ターンがようやく終わった。すごろくは60マス程度だったと思うから、あと10回以上はマス目を踏んでいかなくちゃならない。中身ちゃんと見てればよかったなあ。そしたら覚悟ができたのに。いや場合によっては絶望かな……? そんなこんなで、思いもよらなかった呪いのゲームが幕を開けたのだった。 それからもゲームによって私たちの体には様々な変化が生じていった。赤枝さんは次に「毛が赤くなる」を踏んで髪の毛と眉毛がアニメキャラみたいに赤く染まったし、加古さんはヤギみたいな丸まる角を二本生やしたせいで悪魔みたいになってきたし、私は……「体が小さくなる」という恐ろしいマスを踏んでしまった。 「え……うそ」 次の瞬間、ガクッと全身から力が抜けて、私はいつの間にか宙に浮いていた。床にお尻から落下してしりもちをつき、起き上がると……皆が巨人のように大きくなっているのが見えた。 「ひぇ……」 私は震えた。一瞬で私は人形みたいに……15センチ程度の小人になってしまっていたのだ。ただ体のサイズが変わっただけなのに、これまでで一番の疎外感だった。自分一人だけが全く別の存在になってしまったかのような孤立感。皆が同じ種族の仲間だと、本能が認めない。人間の脳は自分の十倍ある巨人にシンパシーを感じるようにはできていないらしかった。 「えっ!? えっ!? どこ!? 工藤さん大丈夫!?」 マスが離れている人には縮んだ私が見えないみたい。それがますます恐ろしかった。追い越される際に踏まれたりしたらどうしよう……。死ぬ、よね? 小学生の時に見た、車に轢かれたカマキリの姿が脳裏をよぎり、全身の毛が逆立った。しかも服は一緒に小さくなってくれなかったので、私は全裸のままゲームを続行せざるを得なかった。 その後、生えていた羽根で飛べることが判明し事なきを得たが、ダイスが大きくって両手で投げないといけないのには閉口した。自分が小さくなったことが否応なしにつきつけられる。嫌だなあ。ペリカンの嘴が生えた土田さんや手足が猫の手みたいになった悪原さんとどっちが不便かは甲乙つけがたそうだけど。 化け物みたいになりつつある自分たちに嘆きつつも、私たちはダイスを振り続けて進むしかなかった。幸いにも「変化ゾーン」の最後に私と加古さん以外は「元に戻る」のマスを仲良く踏み抜き、何事も無かったかのように元の人間に戻ることができた。手を取り合って喜び合う三人を、私と加古さんは心底羨んだ。私はピンク髪になったうえ蝶の羽を持った小人のままで、加古さんに至ってはヤギの角に蝙蝠の翼、スペード型の細長く黒い尻尾のコンボで、悪魔娘みたいになってしまっているからだ。 (これって……クリアしたら元に戻る……よね? まさか一生このまま、なんて……こと、は……) 元に戻れなかったことで生じる、新たな不安と焦り。最初は五人全員変化していたせいか、何となくゴールすれば元に戻れるのだろうみたいな空気で皆進んでいたけれど……。「元に戻る」のコマの存在が発覚した今、前提が揺らぐのを感じる。まさか現実世界に戻っても小さいままだったら……お終いだ。もう二度とまともな生活は望めない。加古さんの角だの尻尾だのは手術で切除すればいいかもしれないけど、私は……小さくなった体は……。 (だ、大丈夫。ゴールしてクリアすればきっと……) そう必死に自分に言い聞かせ、私は押しつぶされそうな重い重い恐怖と戦った。 変化ゾーン終了後、ゲームは新たな領域に入った。別にアナウンスがあったわけではないが、マス目の効果が明らかに別の種類に切り替わったので、多分何かしらの区切りを超えたであろうことは間違いない。そしてその新しい種類の効果とは……。 「ぶりっ子になる」 「えー! やだぁー!」 赤枝さんの悲鳴が轟いた。カッと足元から白い光が放たれると、その瞬間に彼女は別人になってしまった。 「あ、赤枝さん……?」 加古さんが恐る恐る話しかけると、赤枝さんはカラオケでふざけた時にしか出さないような甲高いアニメ声で、 「うんっ、だいじょーぶっ! 心配してくれてありがと、てへへっ!」 と見てるだけで寒気がするようなあざとく媚びた喋り方で、おまけに身体をくねくねさせながら答えた。 赤枝さんは満面の笑みを浮かべたまま、至上の男を相手にでもしているかのような全力の上目遣いのままだったが、私たちの沈黙に対し静かな赤面で答えた。本人も恥ずかしいと思っているのだろうか。でも止められない……んだろうか。ゾッとしてしまう。私たちもこれからあんな風になってしまうと思うと……。 次は加古さんの番。彼女が踏んだマス目の効果は、「泣き虫になる」だった。同じように足元が光り、一瞬で加古さんの人格は捻じ曲げられてしまった。 「ううぅ~、や、やだよぉ~っ!」 高校生とは思えないような愚図り方で泣き出す彼女は、ゲームの呪いで泣いているのか本当に本心から泣いているのか見分けがつかなかった。 (次は、私……) こんな簡単に、あっけなく……自分が自分でなくなってしまうなんて、なんて恐ろしいゲームだろう。でも性格を変えられるだけなら化け物になるよりはマシ……? いや、内面を変えられるって考えようによってはもっと……。 私は両手で大きなダイスをえいやっと投げ飛ばすと、5が出た。蝶の羽をパタパタ羽ばたかせて飛んでいくと、地面には「引っ込み思案になる」と書かれていた。 「そんなっ」 地面に書かれている文字が光り、私の身体を照らす。瞬間、私の身体がおかしくなった。動かせない。いや、頭で動かそうとしている指示と、実際に出力される動きが一致しなくなった。 「工藤さん、大丈夫?」 「……」(こ、声が……) 私は喋ろうとしているのだが、喉から声が出ていかない。声帯が振るわない。私は両手を斜め下に伸ばしたまま、時折小声で「あぅ……」などとこぼしながらモジモジしていることしかできなくなってしまった。 (ああ……そんな) 私自身の意志はさっきまでと変わりない……はず。でも、身体が言うことをきかない。まるで「引っ込み思案」という結果が先にあり、それに強制的に従わされているかのような、不気味な心と体の不一致だった。これからずっと……ゲームクリアまでこうなの? 私、まともに喋れないの? しかも、目を凝らして先を見渡すと、変化ゾーンがしばらく続いたように、性格改変ゾーンももう三ターン程度は続くらしい。ううぅ……。これ以上酷いの引いたらどうしよう……。でも進むしかない。私たちは自分が自分でなくなる恐怖と恥辱に耐え忍びながら、ダイスを振り続けた。ゴールできればきっと元に戻れる、それだけが唯一の拠り所だった。 途中には一か所だけ「元に戻る」マスがあったものの、今回は誰も踏むことができなかった。 「最悪かと存じます……私はずっとこのような調子なのでしょうか……」 背筋をピシッと伸ばし、スカートの前で両手を重ねて土田さんがそう言った。彼女は不自然なほど丁寧にされてしまった。 「ふぇぇん、元に、元に戻してぇぇぇ……」 泣き虫ビビりにされた加古さん。身体も変わらず悪魔のままだ。 「私たち、本当にクリアできるんでしょうか……クリアしてもずっとこのままなんじゃないですか? このまま進んだって……きっと無駄……」 やや丁寧かつネガティブにされた悪原さん。性格改変ゾーンはかなりの爪痕を私たちに残していった。お互い死ぬほど恥ずかしいし気まずいので、励まし合うことも難しくなってしまった。 「きっと大丈夫だよっ」 片足立ちでピースサインを作りながら語尾を上げて話す赤枝さん。顔はもうずっとリンゴのように赤い。そして私は……。 「……っ」(さ、最悪……っ) 最終的に「あざとい引っ込み思案」にされてしまった私は、両手で軽い握りこぶしを作って顎近くに当てながら、上目遣いで周囲の様子を伺うことしかできなかった。いっちばん嫌なやつ……! なんでよりによってこんな……い、いやだぁー。誰か何とかしてー。 でも……きっと最後のゾーンにも、「元に戻る」マスがあるはず。何とかして……それを踏むんだ。絶対に……。 最後(?)のゾーンは、また効果の様子が変わった。皆もう戦々恐々としていたのだけど、意外にも意外。これまでに比べると信じられないぐらい軽い変化だった。 「きゃあーっ!」 どう聞いても喜んでるとしか思えないような調子の悲鳴と共に、赤枝さんの全身が桃色の光に包まれる。次の瞬間、彼女はとんでもない格好で地面に降り立った。フリル満載の横にふんわる広がるピンクのスカート。胸元と腰にひっついたアホみたいに大きなリボン。ぺったんこの白とピンクのブーツ。ハートの意匠がついた白い手袋。おまけに髪もアニメのようにまっピンクに染まり、現実ではお目にかかったことのないようなデカい白リボンでポニーテールに結わいている。 「えへへ~っ、私、魔法少女になっちゃったぁっ」 あざとくポージングを決め、笑顔を崩さず耳まで赤く染める赤枝さん。心の中では死ぬほど恥ずかしがっていて不本意ではあるだろうけど……可愛い。ピンクの魔法少女のコスプレを全身バチっと決めた赤枝さんは中々可愛らしかった。 「ぷっ」「ふふ……」 流石に彼女の格好に緊張感も吹き飛んでしまい、久々に皆が笑った。赤枝さんは腰をクネクネさせながら 「もぉ~っ、笑わないでよぉ~っ」 とピンクな顔で叫んでいたけど……。 どうやら衣装? が変わるゾーンらしい。なんだ……それだけ!? 一気に空気が和らいだ。二番手の加古さんは黒い水着にされてしまったが、女子しかいないし、既に全裸の私もいるし、これまでと比べたら明らかにマシなので、むしろホッとしていた。 そして私。全裸じゃなくなるならなんでもいいや。私が踏んだマスはチアガール。ピンク色に白いラインが入ったチアガールの衣装が私を包む。ご丁寧に背中には羽根用の穴も空いていて、苦にならない。サイズも合ってるし。 「可愛い~。良かったじゃない」 「……えへ……」 あざとい引っ込み思案なのは据え置きなので上目遣いでそう呟くことしかできなかったが、私自身嬉しいというか安心できた。全裸よりゃマシ。普通に衣装自体も可愛いし。両手がポンポンで塞がっちゃったのがちょっと不便かな。……ってあれ? (外せない……?) 私の両手はポンポンを握ったまま開かない。あ……そういう? これはちょっと困るかも……まあダイスは何とか触れるからいいか……。この先まだ衣装変更マスを最低二回は踏むはずだし。 同時に、この衣装はひょっとしたら自分の意志で脱げないのではないかという疑念が浮かんだ。だとしたら「なんだ~、服変わるだけかー」と安心してもいられないかも……。でも私は両手が塞がっているので試せない。誰かに訊いてみようとも、引っ込み思案継続中の私は声が出せない。私以外は両手が塞がっていないためか、誰も「脱げないかも」という発想自体がないようだった。 (ま……まあ、クリアすればきっと……) さっきまでと変わらない願望を希望に据え置き、私たちは束の間のコスプレ大会を楽しんだ。騎士とかシスターとかメイドとかウェディングドレスとか、そういうのばっかりで露骨に変な衣装がなかったために、かなり空気が良かった。むしろ皆次の変化を楽しみにしているかのような和やかな空気。しかし……。 (お願い……1、出て!) 私が放ったこのゾーン最後のダイスは、「元に戻る」マスを踏ませてくれなかった。「メイドになる」を踏んだ私はチアガールと制服とメイドが混ざったような、派手で可愛らしいアニメっぽい格好にされてしまった。このゾーンはどうも上書きではなくドンドン混ざっていくらしい。最も、後で踏んだマスの方が影響は強めだけど。 (ま、まあ……可愛くて良かったかな。いや恥ずかしいけどね……) しかし元に戻れなかったのは痛恨だ。クリアしたら元に戻れる仕様じゃなかったら……どうしよう。妖精メイドさんなんて嫌だよ……見世物じゃん、 私の心配をよそに、最終結果が決まっていった。赤枝さんは魔法少女と女騎士とアイドルを踏み、結局魔法少女みたいな格好だった。加古さんは水着と女騎士とドレスで、なんか……見事悪魔娘みたいな出で立ちを作り上げてしまった。露出の多い、ビキニアーマー……の布版みたいな。ヤギの角と蝙蝠の翼、黒い尻尾も据え置きなので、もうすっかり悪魔のアニメキャラのコスプレみたいになっている。 「こんなのやだよ~」 「まあ、これはこれでまとまっていてよろしいのではないでしょうか」 加古さんにそうコメントする土田さんは、秘書+ウェイトレス+メイドでカチッとしたメイドさんに仕上がった。丁寧な口調と凛とした背筋が相まって、すごくメイドさんっぽい。 「わ、私なんかがこんな可愛い服着ていいんでしょうか……」 悪原さんは踊り子とウェディングドレス、そしてアイドルでヒラッヒラの煌びやかな姿に仕上がった。とっても綺麗。 ゴールはもう目前。あと最大二回振れば全員ゴールだ。最後が可愛いコスプレ大会だったためか、だいぶ緊張が抜けてしまっている。だから、最後の罠に気づくのに時間がかかった。一番先頭にいる加古さんの顔が青ざめていくのに皆が気づきだした。 「……どうかなされましたか?」 土田さんが尋ねると、加古さんは今にも倒れそうな青い顔で、震える手で先を指さした。 「最後の……6マス……やばい、です……」 ゴールから数えて6マス。つまり、最低一回は絶対に踏まなければならない最終ゾーン。そこはコスプレゾーンじゃなかった。全てのマスに恐ろしい文字が書かれている。「石像になる」「フィギュアになる」「ぬいぐるみになる」「一回休み」「最初に戻る」「ゲームになる」 さっきまでの空気が嘘のように、私たちは静まり返った。そんな……最後の最後に、こんな罠が……。ひ、ひどい……なんて意地の悪さなの。 「ね、ねえ……あの石像とかフィギュアとかって……大丈夫、なのかな……」 悪原さんの問いに、誰も答えられない。書かれた変化は必ず起きる。それは確実。じゃあ……石像になっちゃったら、それって……どうなるの? ダイス、振れるの? ていうか動けるの? ていうか……実質、死ぬってこと……だったり……。 赤枝さんはダイスを握りしめたまま振ろうとしない。そりゃそうだ。確実に、安全にゴールするには一回休みを中継するしかないのだから。もしも他のマスを踏んだら……「最初に戻る」は散歩譲ってマシとして、他は……どうなるかわからない。もしかしたらリタイア、ゲームオーバーっ意味なのかも……ていうか最後にコレってことは、恐らく……。 「ね、ねえみんなっ。このままずっとここにいるっていうのは、ダメかなっ?」 赤枝さんがアニメ声で確認した。気持は痛いほどわかるけど……それでも事態は解決しないのは誰の目にも明らかだった。痛いほどの沈黙。私含め、皆は残酷な視線を赤枝さんに向けざるを得なかった……「早く振れ」と。もしかしたら石像になってもダイスは振らせてもらえるかもしれない。その可能性だってある。だとしたら進んだほうがいい。ゲームオーバーかもしれないけど。いずれにせよ、誰かが踏むまでわからないから……。 「わ……わかったってば。もうっ、皆怖い顔してっ。いいもん、私に任せてっ」 赤枝さんは変わらぬ笑顔と明るい口調でそう言ったが、明らかに声は震えていた。震える手で振ったダイスは床に転がり……4の面が上を向いた。向いてしまった。四つ先は、「フィギュアになる」だ。 「……だ」 沈痛な静寂の後、赤枝さんが口を開いた。 「いやだっ、進まないもんっ!」 しかし、そう叫んだ瞬間、彼女の体が宙を進みだした。 「あっ、ま、待って、押さないで!」 彼女は両手を何かにつけて後ろを振り向いた。しかし……何もない。見えない壁が彼女を押し出しているのだ。 「助けてっ、誰かぁっ!」 私たちは絶望的な表情で彼女を見送ることしかできなかった。自分のマス目からは出られないからだ。……ダイスを振るまでは。 (ごめん……ごめんなさい) 喋れないので私は必死に心の中で謝った。さっき「いいから進めよ」と視線を送った一人として。 「嫌だあぁぁぁ!」 ニマス先にせり出された赤枝さんの体が絶叫と共に真っ白な光に包まれる。その光は見る間に小さくなっていき、やがて……地面の上に、私よりちょっと大きいぐらいの、小さなフィギュアが置かれていた。ピンクの髪と派手な可愛い衣装をまとった魔法少女のようなキャラクターのフィギュアだった。とてもあざとく可愛いポーズをとった樹脂の塊は、白い台座の上でピクリともせず静かに佇んでいた。 「赤枝……さん?」 呼びかけても、答えない。赤枝さんと同じ格好をしたあざとい魔法少女フィギュアは、うんともすんとも言わない。恐慌が私たちを襲った。振りたくない。振らなければ死なない。が、永久にここに留まっていなければならないし、ていうか……留まらせてくれるのかもわからない。いつまでグズグズもしていれば何か罰ゲームがあるかもしれない。 悪原さんがネガティブさを発揮してその可能性に言及してしまうと、加古さんはダイスを振らざるを得なくなった。もう私たちは赤枝さんをああしてしまったのだ。進まないことは許されない。私たちが縋れる最後の可能性は……誰か一人ゴールできれば皆元に戻れる可能性……だけだった。 「いき……ます」 加古さんが震える手で手からこぼしたダイスは、ほとんど回転することもなく地面に落ちて跳ね返り、1を出した。加古さんのマスから一つ先は……石像。 加古さんはダイスを見つめたまま動かない。見えない壁が彼女をせり出す。最後に私たちの方に振り向いたが、かける言葉もなかった。 「あ……あ」 加古さんはほとんど悲鳴らしい悲鳴も上げないまま、灰色の光に包まれてしまった。光が収まると、固くて重そうな石の台座の上に、両脚を横に広げて座り込むように腰を下げた姿勢の悪魔娘の石像の背中が見えた。髪の毛は彫刻のように彫られて表現されている。フィギュアとは比べ物にならない存在感。赤枝さんが「消えた」とするなら、加古さんはまるで最初から石像であったかのようだった。 私の手中にダイスが出現した。次は私の番……。心臓が脈打つ。私も……ああなるの? 人形だか石像だかになって、二度と……動けなくなってしまうの? (嫌だ) 振りたくない。自分の運命を確定させたくない。いつまでも助かる可能性を残しておきたい……。けどそれは許されない。二人を見送ってしまった。私も行かないといけない。 (落ち着いて……落ち着いて。まだ死ぬって決まったわけじゃないもん) 心を強く持たないと。私がゴールして……あの二人を助けるんだ。自分にそう言い聞かせた。そして、あの二人が恐怖で怯える中、震える手でダイスを振ったことを思い出す。オカルトだけど……あの二人は内心ダメだと思いながら振ったからダメだったのかもしれない。だったら……どうせこれで人生最後なら……! 「ダイス……ロールっ!」 引っ込み思案の縛りの中、私に出せる最大の声量で、私は叫んだ。勢いよく両腕を振り、大きなダイスを地面にたたきつけるように投げた。運命のダイスは地面に一回当たってちょっとだけ跳ね返り、そして……5! 私の五つ先は…… 「……っ! やったー!」 思わず声が出た。一回休みだ。ゴールへの唯一の正解を引いたのだ。私はせり出されることもなく、自分でそのマスへ飛んでいった。途中、石像化した加古さんの前面を見ることになった。落ち着いた自然な笑みを浮かべ、胸の前で両手を祈るように重ねている。美しい。そう思ってしまった。美術の教科書でみた何とかの彫刻より、ずっとずっと綺麗で、まるで生きているよう……違う。生きてるんだ。加古さんは……彫刻なんかじゃない。胸が痛む。あと……ちょっとだったのに。フィギュアになった赤枝さんを飛び越すとますます心が痛んだ。二人とも笑顔でそれらしいポーズをとって固まっているけど、まさか二人の意志であるはずがない。勝手にこうなってしまったのだろう。ゲームの悪意に憤りを感じると共に、みっともなく泣き叫ぶ姿を永久に記録されるよりはマシなのかもしれないとも思ってしまう。 (でも……) 頭の両側面から生える二本のヤギの角。露出の多い衣装。蝙蝠の翼。黒い尻尾。そして……硬く冷たい石材で構成される、灰色の全身。加古さんはまるでガーゴイルのようだった。この変化の組み合わせ、偶然……なのかな? 私が「正解」を引いたことで、残り二人は僅かながら勇気をもらえたらしい。悪原さんが先二人よりかは落ち着いてダイスを振った。私からは出目が見えない。元々縮んでいるのと、加古さんのデカい図体が邪魔だった。台座で底上げされてるし。 しかし……どうやら5は出なかったらしい。狼狽し泣き叫ぶ悪原さんの姿が見える。見えない壁にせり出され、強引に進まされる彼女は、ずっと動かない二人を追い越し、私の一つ前に投げ出された。 「工藤さ……」 私に向かって手を伸ばした瞬間、彼女は茶色の光に飲み込まれて消えた。あとにはドレスを着た少女を模した、可愛らしいぬいぐるみが置かれていた。 (そんな……) 目の前で起こったこの光景に、私の心臓はなり続け、胸はギュッと締まる。すぐそこ、目の前だったのに……助けてあげられなかった。ゴメン……ごめんなさい……。 最後、土田さんが静かにダイスを振った。彼女が自力で歩いてきたので、てっきり一回休みを引いたのかと思ったけど……。 「……申し訳ありません」 土田さんは背筋をピッと伸ばしたまま、私の横を素通りしていった。 「……土田さ」 彼女が光に包まれて消えた。後には何も残っていない。振り出しに戻ったのだ。 (そんな……) ゲームオーバーにならなかっただけ良かったと言うべきか。けどこのゲームをもう一度最初から、それも今度は……実質一人でなんて……。私だったら耐えられない。スタート地点はもうはるか後方で見えないし。 その後、後ろの方からパキっという乾いた音が鳴った。驚いて振り返ると、赤枝さんフィギュアの前にダイスが出現していた。一瞬、私は期待した。皆まだ生きてるんだ、ダイスは振らせてもらえるのだと……。しかし、ダイスはそのまま地面に落下。フィギュアとなった赤枝さんは笑顔で媚びたまま一ミリも動かず、ダイスをキャッチすることはなかった。ダイスは砂になって消えていった。赤枝さんは一歩も動かない。見えない壁が押してくれることもない。続けて、ガーゴイルの石像の前にダイスが出現した。同様に、加古さんの目の前でダイスは無常に床に落ち、誰に振られることもなく砂になって消えていった。 (あ……あ……) 私は絶望した。やっぱり、これはゲームオーバーなのだ。或いは……「永久に休み」なのか。私の手にもダイスが出現したが、瞬時に砂になって消えた。一瞬死ぬほど焦ったけれど、私は自分が一回休みを踏んでいることを思い出し、大きく息を吐いた。 デフォルメの効いた可愛らしいドレス少女のぬいぐるみの前にもダイスが出現したが、床に落ち砂になった。それからしばらく待ち時間だった。赤枝さんの前にダイスが出現しない。私の手にも。おそらく、ずっと後方で今土田さんのターンなのだろう……。 一言も喋らなくなってしまった三人を見つめながら、居心地の悪い数分間を過ごした。するとようやく赤枝さんの前にダイスが出現し、全く同じように床に落ちて砂になった。続けて加古さん。そして……私のターンがやってきた。 (う……) 運命を決するターン。3以上が出ればゴール。でも1が出れば振り出し。2が出たら……「ゲームになる」。ゲームになるってなんだろう。ゲーム機にでもなるのかな。いずれにせよ、間違いなくゲームオーバーのマス目なのだろう……。 (わた……私が倒れても、まだ土田さんが生きている……) いや。そんな弱気じゃダメだ。さっきは強気でやって上手くいったんだから。確率的には勝ちの方が可能性高いんだから。大丈夫。きっと……上手くいく。1でもまだチャンスは残る。破滅の目は2だけ。 (待っててね、みんな……) 意を決して、私はダイスを持ち上げ、勢いよく放り投げた。床に落ちたダイスは転がる。私は目を見開いて瞬きもせずその行方を追い続けた。全てがスローモーションのようにゆっくりに見え、息もできなかった。 ダイスが止まる。出目は……5! 「……っ!」 私は両手で口を覆い、歓喜の涙で目を滲ませた。やった……やった! ゴール! クリア! やったよみんな! 最後に皆の方を振り返り、クリアしたことを伝えようとしたが……引っ込み思案の呪縛で上手くいかなかった。でもまあ笑顔で両手をフリフリはできたし十分伝わっただろう。……みんなに意識があれば。 土田さんを残していくのが気がかりだったが、私のターンが終わらないと土田さんはダイスを振れない。心の中で彼女に挨拶し、私はゴールのマス目へ飛んだ。ゴールの枠を通過した瞬間、全身が淡く優しい光に包まれ、眩しい閃光が放たれた。思わず目をつぶった瞬間、全身の感覚がなくなり、私の意識は途切れた。 (……んっ?) 目を覚ますと、私は床に倒れていた。ゆっくりと起き上がると、部室であることがわかった。私は……ここは? (あっ……そうだ、ゲーム! 呪いのゲーム! みんなは?) すぐにさっきまでの記憶を呼び戻し、周囲を見回した。すると、机上に例のすごろくが開かれていた。それはいいのだが……ゾッとするものが脇に置かれていたのだ。魔法少女フィギュアとドレス少女のぬいぐるみ。胸騒ぎがして部室から出ると、部室棟の脇にとてつもない存在感を放つ大きな石像が置かれていた。ガーゴイルの少女を模したそれは、両脚を広げて腰を落とす姿勢で、両手を祈るように重ねた、見たことのある石像だった。彼女の足と台座は切れ目なく繋がっていて、同じ石から掘り出したのでなければありえない状態だった。 (あ……あ) 部室に戻り、私はフィギュアを観察した。この服装、ポーズ、間違いない。紛れもなく……赤枝さんだ。そしてこのぬいぐるみは……悪原さん。 (嘘……そんな) 皆は助からなかった。一人がゴールすれば皆助かる……そういうルールではなかったらしい。ゲームオーバーはゲームオーバーであり、これまでの受けた変化全て据え置きで現実世界に戻される。それがこのすごろくのルールだったらしい。 力なくその場に崩れ落ち、私は理不尽さへの怒りと恐怖ですごろくを投げ飛ばしてやろうと思ったが、土田さんのことを思い出した。まだ彼女が中にいる……はず。一人で……頑張っている。 数分後、私は自分がどうなっているかがようやく気になった。スマホのインカメラで見てみたけど、羽根はないし人間サイズで、制服も着ている。どうやら、クリアしたら無事元に戻れるらしい。私はホッとすると同時に、恐ろしい結末を迎えた三人に申し訳なくって、顔向けできなかった。 それからニ十分ほど待つと、パキっという乾いた音が鳴り、すごろくの脇に新たなフィギュアが出現した。それは無数のフリルとリボンで彩られた、可愛らしいアイドルメイドのフィギュアだった。はちきれんばかりの笑みを浮かべるその顔は、アニメチックにデフォルメされていたが土田さんだとわかった。 私は声もなく再度崩れ落ち、一人泣き明かした。 その後、私は先生たちに呪いのすごろくのことを話したが、誰にも信じてもらえなかった。どうやら一人ではゲームが起動しないらしく、証明することができなかった。私と二人、複数人なら再挑戦できたのかもしれないけど、結局先生が犠牲になるだけだし、私自身もう二度とあの世界には行きたくない。呪いのすごろくは発動することなく、再びゲーム部の棚の奥に仕舞われることになった。フィギュア化した赤枝さんと土田さんはゲーム部のフィギュアということになり、そのまま部室に飾られることになった。私が持ち帰るべきだったかもしれないけど、怖かった。私一人だけが無事に帰還したのをいつまでも無言で責め続けられるような気がして。ぬいぐるみ化した悪原さんもしばらくゲーム部に置かれていたが、いつの間にか姿を消した。あとで家庭科準備室に置かれているので見つけたので回収した。そしてガーゴイル娘の石像と化した加古さんは、美術室に置かれた。誰も彼女が生きた人間だったなんて、加古さんだなんて思っていない。悪趣味なエッチな石像、スペースとって邪魔……そんなことを目の前で言われたい放題。彼女の心中を思うと心が痛む。でもどうすることもできない。皆を助ける方法なんて知らない。私には……どうしようもないんだもん。自分にずっとそう言い聞かせながら、私は残りの高校生活を憂鬱な気持ちで過ごした。 三年の秋、部活を引退する際に、私はもう一度あのすごろくを取り出した。家で印刷しておいた注意書きと、覚えてる限りのことを書いた体験談を箱の中に添えた。新たな犠牲者が出ないように、そして……万が一元に戻す方法を知っている人が現れたらわかってくれるように。 卒業の日、私は部室を訪れた。あの日から変わらぬぶりっ子魔法少女フィギュアでい続ける赤枝さん。可愛いメイドアイドルフィギュアと化した土田さん。二人に向けて最後の謝罪と別れを告げて、私は部室を後にした。そして最後に美術準備室へ寄り、加古さんにも別れを告げた。 「ごめん……ごめんなさい。さようなら……」 後ろ髪を引かれる思いだったが、私は行かなければならなかった。ガーゴイル娘の石像として自然な笑みをこれからも永久に浮かべ続けるであろう加古さん。いつか……いつの日か、元に戻れる日が来ることを願う。 帰宅後、私は自室で枕の脇に置いている悪原さんに卒業証書を見せた。一緒に卒業できれば良かったのに。こんなことになるなんて思ってもみなかったよ。 ああ……でも、なんであんなすごろくがあるんだろう。しかもよりによってウチの高校のゲーム部の部室に。あれさえなければ皆揃って……。どこから生えてきたんだろう、あの呪いのすごろくゲーム……ゲーム? 私は一年半前のあの日、誰も踏まなかった最後のマスを思い出した。「ゲームになる」……確かそんなマスがあった。そして、ある発想が閃いた。あのすごろく自体が、もしかしたら誰かの成れの果て……。 (いや……まさかね) だとしたら更に元の呪いのゲームが存在したことになる。そんな怖いこと……ないない。考えすぎだよ。私は悪原さんを抱きしめながら、静かにベッドに転がった。

Comments

コメントありがとうございます。変化後も意識はあると思います。

opq

もしこれらの変化の組み合わせがゲームになった人の趣味であれば フィギュア石像などになっても、意識を保てるという意味でしょうか フィギュアクリームの被害者たちと違って、助かる見込みが全くなく、かわいそうな感じ

弥生萌えよう

感想ありがとうございます。そこはご想像にお任せということで。

opq

面白く読みました。 ゲームになるに到達すると、どのような結果が出るのでしょうか? 作品内で表現されなくて残念です

festo


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