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魔法少女の石像ライフ

「皆を元に戻しなさい!」 一つ目の怪物の肩に座る女の子に向かって、私は叫んだ。森の中に木々が生えていない開けた空間。そこに今、十体近くの石像が立ち並んでいる。どれも慌てて逃げ出そうとする姿勢だったり、驚きのあまり立ち尽くしているような格好のものばかり。しかし、これらは石像ではない。生きた人間……だった。あの子の怪物によって、石に変えられてしまうまで。 「いいよ~。でも、その代わり……」 彼女はとんでもない要求を述べた。私たち三人が彼らの代わりに石化するならいいよ、と。 「そ……そんなこと……」 蜜柑が狼狽えた。私も、桃子も。当然だ。単純に石になってもいいなんて人、いない。それに……私たち全員が石化されてしまったら、もうこの子のような存在から世を守る存在がいなくなってしまう。 私たちは、この一年ほどいわゆる魔法少女をやっていた。敵対していた悪の組織は既に撃退し、今は散発的に現れる悪いやつを相手にするくらいだったのだけど……。今回この町にやってきたこの魔女には私たちの力が通じず、あえなく多くの人たちが石に変えられてしまったのだ。しかも悔しいことに、私たちの浄化技ではこの人たちを元に戻すことはできなかった。まさかこんなことになるだなんて、思ってもみなかった。 「青子……どうする?」 蜜柑が不安そうな顔で私に意見を求めた。 「そうね……」 正直、あの我儘魔女っ子が約束を守るとは思えない。私たちを石化したあと、本当に皆を元に戻すか、その後悪事をしないか保証は……。 「わかった! 約束だよ!」 「えっ!?」 明るく返事したのは桃子だった。 「ちょ、ちょっと桃……」 「てへ。ごめん、勝手に決めて」 ピンク色のポニーテールを揺らしながら振り向き、見慣れた笑顔で主張した。自分たちの犠牲で皆が元に戻り、町に平和が戻るなら、いいじゃない……と。 この子はもう……いっつもこの調子。こうなっては止めてもきかないだろう。仕方ない。それに……私も人々を見捨てて逃げたくはなかった。 「しょうがないわね」 私と蜜柑も覚悟を決めた。代わりに、今後二度とこの町で悪さを働かない条件を加えるよう要請。 「いいよー。ふふっ、じゃあいっくねー」 「あ……」 幼い悪魔のような女の子は即断即決だった。返事する間もなく、彼女が素早く杖を振ると、私たちの体がほのかに光りだし、瞬時に全身が硬直してしまった。 (あっ……そんな) さっきまで私たちに石化攻撃は効かなかったのだが……受け入れると決めてしまったからだろう。自分で決めたこととはいえ、こうもすぐに実行されてしまうと流石に恐怖と困惑を抑えられない。間違ってしまったかもしれない。他に何か方法はなかっただろうか。 音もなく静かに、視界に映る二人の体がそのカラフルな色合いを失い、灰色の石材に変質していく。当然、私もだろう。自分で自分は見えないからわからないけど。 全身の感覚がどんどん硬くなっていく。柔らかかった肌も、さっきまで存在していたはずの関節も、その全てが急速に均質な石の塊に変容していく。動けない以前に「力を込める」ということすらできなくなってしまい、私はつま先から腰まで伸びる長い髪の切っ先まで、あっという間に全てがただの石と化してしまった。 (か……硬い。動け……ない) やがて全身から放たれていた光が失せ、私たちは金縛りから解放された。が、身動きできない。指一本、一ミリも動かせない。私たちは彼女の力で、とうとうただの石像に変えられてしまったのだった。 「うふふふっ、愉快愉快」 魔女は可笑しそうに笑い転げ、私は怒りと後悔で胸がムカムカした。悪に……負ける、なんて……。 「じゃ、まー、約束だから……」 ひとしきり笑った後、彼女は杖を逆方向に一振りした。キラキラした光がそこら中にまかれ、石になっていた人々が徐々に色を取り戻す。 「……あ、あれ?」「俺は……?」「ん? え? 夜?」 困惑する人々をしり目に、魔女と怪物は宙に飛び去って行った。目線すら動かせない私には、その行方を追うことはできなかった。 (はぁ……) 皆がちゃんと元に戻れてよかった。唯一の救いだろう。……しかし、私たちが身を犠牲に助けたはずの人々は、石化が解けなかった私たちの周りに近づき、口々に勝手なことを言い出した。 「何これ?」「魔法少女?」「アニメみたい」 (あっ……ちょ、ちょっと、そんな……見ないでよっ) 表情すら変えられず、目線も固定。逃げ場のない極限の牢獄の中で、私たちは見世物となってしまった。悪に負け石像にされてしまっただけでも情けないのに、加えて……変身後の姿で石化されるということがどういうことなのかを、この人たちは嫌になるほどわからせてきた。ヒラッヒラでフリッフリの、まさしくアニメみたいなコスチューム……。正直、高校生でこんな格好で人前に出るの嫌だったのに、変身したら勝手にこうなるからって我慢してた格好。よりにもよってそんなコスプレ状態で姿を固定されて……ずっとこの格好のまま、二度とまともな服装に戻れないのだということに、今更気づいた。 (へ……変身解いてから石化してもらえばよかったっ……!) しかし……既に後の祭りだった。今や私は、私たちは無力なアニメの石像に過ぎない。それも、出所不明の……。遠慮なく写真を撮られまくり、私は悔しくて恥ずかしくてたまらなかった。この写真……魔法少女のコスプレで石化したとかいう最悪の姿がネットに拡散するのかと思うと……。 (やめてーっ、お願い) あなたたちを助けたのは私たちなのに、私たちが石になっているのはあなたたちの身代わりなのに。そう言いたかったけど、石の口から言葉を発することはできなかった。スカートを覗かれては撮られ、ベタベタ触られては無遠慮な感想を吐かれ、散々玩具のようにされること三十分、ようやく人々は森から町の方へ帰っていった。 (ああ……やっと静かになった) 暗い森の中で、一歩も動けず佇むばかり。何もできない。できなくなった。怖さと寂しさで泣きたくなってくる。軽く……考えてたかも。石になるってことは……永久に、ずっとこのまま……。動くことも喋ることもできずに森の中で……ただただ立ち尽くしているだけって……ことなの……? (い……いやぁ) 何とかならないか、身体を動かそうと努めたものの、やはりどうにもならない。今や私たちの体には骨も筋肉も存在せず、どこまでも均質な石の塊でしかないのだ。どうあっても再び動き出すことは不可能なのだ。 真っ暗な森の中で、月明りに照らし出される桃子と蜜柑の背中が見える。二人は今どういう気持ちでいるのだろう……。後悔してるんだろうか、していないんだろうか。夜の森は怖くないの……? いつまで……こうしていなければいけないのだろう。期限を設ければよかった。聞いてくれたとも思えないけど……。 固く冷たい石の身体の中で、私は石像としての最初の眠りに落ちた。 翌朝。起きてからしばらく混乱した。カチコチに固まったままの体。寝ていたはずなのに立っている自分。そして……昨日のことが夢じゃなかったことを思い出し、落ち込む。私も、二人も石化したまま動いていない。明日も、明後日も、そして……ずっと。 永久にこのまま、二度と動かない体という牢獄の中に半永久的に囚われ続けるのかと思うと、発狂しそう。何で意識と五感は残されたんだろう。町の皆はなかったみたいなのに。私たちが……魔法少女だから? 完全に石像にはならなかった、てことなのだろうか。 (……だったら) 私は脳内で必殺技や浄化技、そして変身解除を叫び続けた。が、石の身体では何一つ現実に実行することは許されず、ただ空しく時だけが過ぎ去るばかりだった。 その後、森の中に佇む魔法少女のすごい彫刻……という噂が広まったのか、人がたまに訪ねてくるようになった。写真を撮られたり品評されたり、子供に落書きされたり……。一貫して私たちは石像として扱われ、みなされた。誰一人として、「ひょっとしたら石にされた人間かも……」なんて言い出す人はいない。当然と言えば当然かもしれないけど、私にはそれが無性に悔しかった。 (誰か……誰か気がついて、助けて。私たちは……人間なの。魔女に……石にされてしまったの……) 誰かが来るたびに頭の中で呼びかけるも、その意志が相手に届くことはない。あの日あの時から髪の毛一本揺れることなく、私たちは静かに無力な石像として立ち尽くすことしか許されなかった。 どれだけの日数が経ったのかも曖昧になったころ、にっくき魔女が目の前に再び現れた。退屈だから遊んであげる、と宣言し、杖を一振り、私たち三人の体はふわりと宙に浮き、夜の空に舞い上がった。 (ひゃああっ、何するのよ!) 落ちたら割れちゃう、折れてしまう。受け身もとれないのに……。自由を奪われる、生殺与奪を握られるというのはこんなにも惨めなものなのか……。身をもって痛感させられる。 やがて私たちはふよふよ浮いたまま知らない洋館の中に連れ込まれた。そこにはいくつかの石像が台座に載せて飾られていた。ここは何……美術館? 「よっと」 私たちは何も飾られていない大きな台座の上にそれぞれ乗っけられた。まさか……私たちをここに展示する気!? 彫刻として!? (ふざけないで! 私たちは見世物なんかじゃないわ! それよりいい加減に元に戻しなさい!) 彼女が私たちの思考を聞いているのかいないのか定かじゃないけど、近い答えが返ってきた。 「この美術館ねー、なんかお客が少ないらしくて~」 魔女は言った。ゲームをしましょう、と。もしもこの美術館の来客数を四倍に出来たら、私たちを元に戻してあげる……と。 (ほ……本当に!?) 「それじゃ、頑張ってね~」 (あ……ちょっと!) 魔女はサッサと姿を消した。けど……これはチャンスだ。いよいよ……ようやく、元に戻れるかもしれない。永遠に石像のまま森に放置されるのだと絶望していた私にとって、これはとてつもなく素晴らしい展開に思えた。ただ、一つ問題があるとすれば……。 (が……頑張れって言ったって、どうするのよ……) 表情筋の一本すら動かない石像のままでは、やれることがないということ。ただ黙ってここに飾られているだけじゃ、頑張りようがない。ただ願うことしか……。 (もしかして……達成できっこない条件だけ押し付けて、「元に戻れないのは自分のせいでしょ~」とかって言うつもり?) 縁もゆかりもない美術館の新たな展示と化した私は、あの魔女に懐かしいムカムカするような怒りを抱いた。 とはいえ、生きているかのように精緻な魔法少女の石像三点というのは中々話題性があったのか、三日ほどで目に見えて来客は増えた。 (まあ……そりゃそうよね。ミケランジェロだってダヴィンチだって、こんな像は彫れなかったはずなんだから) 森の中に打ち捨てられていた時とは異なり、真剣な感心を示す人が多く、私はちょっと自尊心をくすぐられた。特に綺麗だとか美人とか言われると……ね。同時に、石像として評価されてるのを嬉しいと感じるのはおかしい、染められてきていると忠告する自分もいた。でも森の中で過疎配信者のネタにされていた時よりかは……ずっと扱いも気分もいいのは否定しがたい事実だった。美術館に飾られるってだけで、こんなに違うんだ……。私たちは指一本の位置さえ変わってないのにね。 (しかし、四倍というのは中々ぶち上げられたもんね……) 一週間、二週間経っても、私たちは元に戻れずいた。つまり……条件を達せていないということだろう。……あの魔女に戻す気があるとすれば。 (ど……どうしろっていうのよ。どうしようも……ないわよ) ひとたび話題の新鮮さが薄れれば、すぐに客は少なくなった。初日ほどのスッカスカではないが……。どう見ても四倍には到底届かないラインで安定してしまったようだった。ここからどう客数を伸ばすか……考えては、いくら考えても無駄だと却下するループに私の脳はハマってしまった。だって、どんないいアイデアを思い付いたところで、物言わぬ石像の身では、決して実現することはできないのだから。 (り……理不尽よ) 何か……何かさせてくれたっていいじゃない。ちょっとぐらい……試行錯誤のチャンスをくれたって。ただ黙って飾られているだけなんて……結局、元に戻す気なんてなかったのね。このまま田舎の美術館に飾られるマニアックな彫刻として生きていくことしかできないの……? 悶々としていた日々の中、三度魔女が現れた。苦戦しているようね、とクスクス笑いながら。なんて憎たらしい。 (ああ……あなたね! こんな体じゃどうしようもないでしょうが!) 「うふふ……今夜から新ルールを追加してあげる」 彼女が指をパチンと鳴らした。……何も起こらない。 「じゃーねー」 魔女は説明もせずに姿を消した。な……何だったの一体。新ルールって何。説明しなさいよ。それともただ、からかいにきたってだけ……? その日の深夜。誰もいない静かな館内で、突然私たちの体が光った。 (な、何?) 急速に全身が温まり、血が通いだした。無機質な灰色に塗りつぶされていた私たちの全員が、元の色合いを取り戻す。 「……!」 体が動く。横を向くと、桃子と顔があった。彼女も驚いている。現実じゃお目にかかれない、鮮やかなピンクのポニーテールが蘇っている。 「これって……」 最初に蜜柑が声を発した。久しぶりに聞く仲間の声。泣きそうだった。 「元に……戻った?」 「ええ……そうみたい」 「てことは……ゲームに勝ったんだ!」 嬉しそうに飛び跳ねた瞬間、桃子はカエルが潰れたような悲鳴を上げた。 「ぐぇあ」 「えっ、何、どうしたの!?」 「頭……が……」 彼女は自分の頭を抱えて座り込んだ。続けて蜜柑が叫ぶ。 「壁! 見えない壁がある!」 「うそ!?」 手を伸ばしてみると、本当だった。見えない厚い壁が私の四方に……桃子の様子からすると、頭上にも広がっている。どうやら、台座の範囲内から出られないよう閉じ込められている。 「ちょっとー、なんでー! 出してよー! 約束が違う!」 三人で仲良くそれぞれの壁……いや、透明なケースをドンドン叩いたが、壊せない。必殺技を打とうとしたが、エネルギーが集まらない。どうやら、完全に魔女に許してもらえたわけじゃないらしい。 「くっそー、あいつ……」 元に戻すとは言ったが、ここから出すとは言ってない……ってこと!? 「やー、でも……よかったよぉ。また皆と話せて」 桃子が言った。 「ホントごめんね。私のせいでみんなまで……」 「別に、桃子が謝ることじゃないでしょ。私が同意したんだから」 ケースに阻まれ、お互い触れることはできない……が、久々の会話が私たちには心から嬉しかった。絶望は消え去り、安心と安堵が心を温める。例え力を封じられているとしても、身体さえ動けばやりようはある。明日職員の誰かが来たら助けを求めればいいだけだ。 ……と、思っていたのも束の間。突然、私たち三人の体が白く光りだした。 「え?」「あれ?」 あれよあれよという間に、私の全身は硬直した。温まっていたはずの身も心も、急速に冷凍されてしまい、私は全身を再びカチカチの石材に置き換えられてしまった。 (そ、そんな……なんでよ) 指一本動かせない。さっきまでと一緒だ。一体どうして……。何なのよ。 横から声も物音もしない。二人も私同様、また石像に戻されてしまったらしい。せっかく元に戻れたと思ったのに……。こんなの卑怯よ。酷すぎる……。 深夜に突然、短時間だけ石化が解かれる現象はそれから毎日続いた。三日目、蜜柑が察して言った。 「これ……多分、新ルールだね」 そういえば三日前に魔女が何か言っていたっけ。どういうこと? 元に戻れたわけじゃない……の? 三人で話し合った結果、恐らくまだ来客数四倍を達成できていない。とはいえ何もできずただ待っているだけじゃゲームにならないから、「何かやる」余地を用意されたんじゃないか、という結論に至った。 「何するのよ、こんな短い時間で……」 「うーん……」 桃子は腕組みして、悩む素振りを見せた。それから 「……とりあえず、可愛くしてみない?」 と恥じらいながら小声で提案した。 目に見えないケースで台座の中に囚われ、力も封じられている今の私たちにこの短時間でやれる唯一の行動。それは……ポーズや表情を変えることだった。 その日から、私たちは深夜に石化解除されるたびに、意識して可愛いポーズを……石像映えするような躍動感、或いは大ぶりな捻りなども考えながら、とるようになった。最初は嫌だった。だって自分で、自ら石像として可愛くポージングするだなんて……あまりにも屈辱的だもの。でも、やるしかなかった。来客数を四倍にするため、今の私たちにできることはただ一つ。客を呼び込むような、美しい石像になることしかなかったのだから。 とはいえ、いきなり媚び媚びするのはプライドが許さず、私は抗った。最初は美術の教科書や資料集を思い出しながら、美しさを意識したポーズで、キリっとした表情で固まって見せた。でも……それでは今一つウケが悪かった。何故なら、私は魔法少女だったから。大きなリボンを胸に腰につけた、フリフリの可愛い衣装。それでギリシャの彫刻のような雰囲気を出そうとしても、かえって滑稽なだけだったのだ。桃子や蜜柑は早々に現代風の、アニメみたいな可愛いポーズを心掛けるようになり、明らかに評判が良かった。……ので、私も屈さざるをえなかった。引きつりながらも笑顔を浮かべて、アイドルみたいなポーズを……ほかならぬ私自身の意志で、とるようになった。毎日、毎夜。強制的にポーズを操られたりする方が心情的には幾分マシだった。自分でアイドル通り越してぶりっ子みたいなポーズで固まるたび、羞恥心で顔が赤くなる錯覚をしてしまう。 (うう~、わ、私……好きでこんなポーズとってるわけじゃないですからね……仕方がなくやってるんですっ) 目の前で感嘆する来客たちに、よくわからない言い訳を心の中で叫びながら、私は日に日にぶりっ子っぽさを増していき、アニメの美少女キャラみたいなノリを強めていった。 (うう~ん、ま、まだダメなのぉ……?) ぶりっ子魔法少女像と化すようになってからどれだけの日数が過ぎただろう。台座の上から下りられる日はまだ来ていない。結構お客さん増えたような気はするけど……まだ四倍には届かないのだろうか。 ある日とうとう、蜜柑が最後の……うすうす脳裏によぎってはいたけど、誰も口にしていなかった方法を提案してしまった。……エッチな石像にならないか、と……。 「そ……それは、ちょっと……」 「う、う~ん、ちょっとはずかしいかも……」 私も桃子も反対した。流石にちょっと、その一線は超えたくなかった。自分を売るようで。もう戻れなくなってしまうし、それでもダメだったら私たち……もう打つ手が、可能性が無くなってしまう……。 「じゃ、じゃあ……このまま永久に、ここで可愛く固まっているだけの人生送るの?」 「……」 それを言われると言い返せない……。このまま永久に媚び媚びの格好で石像として展示され続けるだけの人生……。石化が解けないのであれば、当然そうなる……。 それから数日頑張ってみたものの、来客数は大きく増えることはなく、私たちは可愛さの限界を悟らされるだけだった。 「しょうが……ないよね……」 「うん……これしか、ないもん、ね……」 お互い正当化し合いながら、私たちはとうとう……ラインを踏み越える決断を下した。エッチな石像になるしかない。これ以上客を増やすには……人間に戻るには。この台座から下りるには……。 とはいえ、いきなり酷くエッチなポーズなどできない。そこまで急に吹っ切れないし、お互い気恥ずかしいし。私たちはお互い無言でチラチラ横目で牽制し合いながら、ちょっとずつ……スカートをたくし上げた。私のスカートの下から、水色のスパッツが露となる。石になってしまえば皆灰色一色だけども。 (ううぅ……) 恥ずかしい。そして、死ぬほど悔しかった。こうするしか……ないの? 本当に、これしか……なかった? タイムリミット。全身が硬直し、いよいよ私たちは……羞恥の表情を浮かべながら、スカートを両手でたくし上げ股間と太腿を露にする今までにない格好で、静かに石像と化した。 朝日が昇り、美術館に人がやってくると、私はたちまち後悔の念に襲われた。反応は様々……。ニヤニヤする男、失笑する女性、真剣に穴が開きそうなほど眺めるおじいさん……。 (み、見ないでぇ……) 自分でとったポーズなのに、私は必死に見るなと脳内で叫び続けることしかできなかった。固まった指はスカートと一体化してしまい、一ミリも動かせない。たくし上げたスカートを下ろすことができない。隠したい。やっぱり無かったことにしたい。でも……できない。私は自分のとったポーズに責任を取り続けることを余儀なくされた。 (あ……うう、ぅ……) その日の夜、私たちはたっぷり客の悪口を言い合い、お互いを慰め合った。プライドを捨て、これほどの恥をかいたからには無駄であってほしくない。が、一日では効果のほどはわからない。つまり……最低でももう数日は、スカートを自らたくし上げて股間を露出する格好の石像であり続ける必要がある。 「くぅ~」 惨めだった。またスカートをたくし上げて、そのまま全身の時を止められてしまうのは。誰に強要されたわけでもなく、私たちが自発的にやっているということが信じられなかった。誰かの差し金であった方がずっと救いになる……。でも、私たちは自ら勝手に、エッチな石像になりつつあるのだ……。それが何よりも耐え難かった。 幸か不幸か、効果はテキメン。日に日に来客数はドンドン増えていった。可愛いポーズの最盛時より多い。こうなるともう……止められない。やめる切欠を、理由を、私たちは得ることができない。魔法少女の衣装は身体とピッタリ密着して脱ぐこともズラすこともできないため、表情とポーズだけで何とかするしかない。私たちは段々煽情的な表情を身に着け、胸を自ら揉んだ格好で固まったり、M時開脚したり、自らを下品な石像に作り変えていった。 そんなある日、久々に魔女が姿を現した。どうやら四倍を達成したらしく、約束通り私たちを完全に元に戻してくれた。台座から下りることもできた。しかし、やり方がやり方だったので、お互い死ぬほど気まずくて、素直にヤッターとも叫べず顔を紅潮させてモゴモゴするばかりだった。 私たちが石像になっていたのは結局……半年以上。ああ、最悪。もう二度とごめんだ。こんなこと……。うう、私たちの痴態がネットで、人々の間で、語り草になっているのかと思うとやりきれない。これからどんな顔して表を歩けば……変身すりゃいいの。 「いやー、面白かったわ。ぷくくっ」 魔女をぶっ飛ばしてやりたかったが……また石にされては敵わない。ここはもう、一旦大人しく帰ろう……とした時。美術館の館長に引き留められた。館長というにはずいぶん若い彼は、私たちのおかげでこの美術館は盛り返せた。いなくなったら大変困る……と泣き縋る。 「し、しりませんよそんなの!」 「ごめんなさい、でも……私たち、彫刻じゃないんです」 私たちを助けようともしなかったくせに。見捨てて帰ろうとすると、魔女が心底楽しそうな邪悪な声で笑った。 「それなら……い~いアイデアあるわよ」 「いや~、本当にありがとうございます! これでこの美術館も安泰です!」 (いや……私、正直、納得してない……) 私たちは魔女に新たな力を与えられた。一方的に。それは……「石像に戻れ」というと、自分を石化する力を。十二時間以上経てば、自分で解除することができる。全く持っていらない能力ではあったが……。例によって桃子が、引き受けてしまったのだ。館長さんが可哀相だし、お客さんも残念がるだろうから……と。 (せっかく、元に戻れたのに) しかし、桃子一人を美術館に収蔵したまま帰るわけにもいかない。結局、私たちは……一人ずつ、交代制で石像になることになった。一日間、この美術館で展示される。それが……私たちの新しいルールとなった。 勿論、もうエッチなポーズなんてとらない。絶対に。三日ごとに自分の番が回るたび、私は凛々しいポーズで固まって見せた。……が、ハッキリ評判が悪かった。意思疎通が可能になったことで、石化を解除した際に、館長は気さくに私たちの評判や評価を伝えてくれるようになったのだ。アニメみたいな可愛いポーズで固まって見せる桃子と蜜柑に比べ、私は……イマイチらしい。こうなってしまうと、もう凛々しい路線は維持できない。意地だ。私も徐々にまた媚び媚び路線に引き戻されることとなり、アイドルみたいなポージングで石像になるようになった。たまに桃子や蜜柑が日中に様子を見に来ると、死ぬほど恥ずかしかった。 (はぁ~。いつまでこんな変な生活続けるんだろう……) 美術館で一人石像になっていると、全く自分がアホに思えてくる。こんなことする必要ないのに、もはや何一つ石像になっている理由などないのに……。私は三日ごとにこうして自ら美術館の彫刻として展示されている。桃子が早く飽きると……いいんだけど。 しかし、知人の噂やネットで自分が……石像化した自分を称賛するような評判を聞くと、ちょっとゾクゾクしちゃうところは正直……あった。桃子や蜜柑が私より褒められていると、ライバル心も湧いてきてしまう。二人より可愛い石像になってやる。そんな気持ちも隠し切れない。 (このまま私たち……ひょっとしたら、石像になっちゃうのかも……?) 連休中、三人揃って石化し飾られていると、信じられない未来を思い描いてしまう。このままズルズルいったら……なし崩し的に……。 (そんなこと……ないよねぇ?) 私含め誰一人、「いつまで続けるの?」と言い出さない、石像生活。目の前で可愛いとか綺麗とか老若男女問わず褒められちゃうと、中々……。 「さっ、明日もあるからポーズ決めちゃおっ」 閉館後、石化を解除してしばらく体を休ませた後桃子が言った。う~、せっかくの連休なのにぃ……でもまあしょうがないか。 「それじゃあ、いくよ~。『石像に戻れ』~!」

Comments

感想ありがとうございます。幸せかはわかりませんけど。笑

opq

彼らはビジネス関係を結んで幸せな結末を成しましたね。笑笑

1XzJrDsHIgSfLe7

コメントありがとうございます。似ているところがあるかもしれませんね。

opq

I think what happens is that they take turns, so every 72 hours they have to be a stone for 12 hours.

Red Scizor

The final arc has that same "本末転倒" flavor, where actions are voluntary for the greater good and not for survival.

Red Scizor

コメントありがとうございます。まさにそういう思いを込めて表現しました。

opq

感想ありがとうございます。気に入られて良かったです。

opq

「石像になれ」じゃなくて「石像に戻れ」というのが、本来の姿が石像で生身の姿が仮初のものだという感じがしていいですね。

いちだ

客を惹きつけるためにエロ石像になること、気に入った。そういえば、昔はエロチックなポーズで固められた描写は少なかったような

弥生萌えよう


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