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短編小説:誰にも気づかれずに誘拐された女子高生(続き)

前回↓ ↓

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「ふぅ・・・ふーー・・ッ」


静まりかえった車内では美佑の荒くなった鼻息だけが響いていた。


(誰か・・・助けて・・)


ポツポツと歩いている通行人は走っている車に目もくれず、美佑のその願いは届く事はない。


時間にして20分ほど走っただろうか、日も傾き始め景色は暗くなり始めていた。

自分は何故誘拐されたのか、どこに連れて行かれるのだろうか、これからどうなるのか、

美佑は不安で頭の中がぐるぐるとして恐怖だけが支配していた。

夕陽に照らされた景色をを窓ガラス越しに伺うが、見たこともない景色で自分が今どこを走っているのか分からない。


「ぅぅぅ・・んむゥ」


マスクで覆われた美佑は苦しくて思わず呻き声が抑えられなくなっていた。

それだけじゃなく、口に詰め込まれた詰め物が唾液によって水分を含んでグショグショになっていた。


「・・・ん、・・んぐ」




苦しい……


なんとかできないかと口を動かすが、口に貼られたガムテープはびくともしない。

さらに溜まった唾は美佑の意思に反して舌が勝手に飲み込もうと動作をするが、パンパンに詰められた詰め物で上手く飲み込むことができず咽せそうになる。

その度、美佑の体力は大きく削られた。


「・・・んぐ、んぐぅ」フゥ フゥ-ッ


だめ、上手く息ができない…

溜まった唾液を上手く飲み込もうとしては咽せそうになるのを繰り返していた。

時折後ろ手に縛られた手のガムテープを何とかしようとテープが皮膚に食い込む痛みに耐えながら手首をくねらせたりするが解ける気配は一向になく、ただただ呼吸する体力が失われるだけだった。


「んぐ・・ンムゥ・・・・フウー・・・っフゥゥゥ」


そして、苦しさのあまり意思に反してつい呻き声が大きくなっていた。


「ちょっと、あんたうるさいわよ!」


そんな苦しさを知らない助手席に座っている女は美佑に甲高い声で怒号を浴びせた。

車が渋滞に巻き込まれたのかあまり進んでおらず、女はそれに苛立っているようだった。

美佑は怒らせると何をされるかわからない恐怖に、必死に息を最小限に抑えるようにした。

だがそんな努力はほとんど意味がなく、何秒と持たない苦しさが美佑を襲う。


「ンゥム・・フゥ、フゥウウ」


僅かな酸素では絶えれなくなった美佑は貪るように酸素を求めた。


「ちょっと!うるさいって言ってるのよ!」


女が再び美佑に怒号を浴びせたとき、


「おい、あれ……」


運転席に座っている男が女を呼び前方を指差していた。

美佑の席からは男が何を指しているのかよく見えなかった。

女はイライラを募らせ下唇を噛みながら、


「ち、仕方ないわね」


その言葉と同時に女はシートベルトを外し、運転席と助手席の間をまたぐように美佑の隣に来た。


「ちょっとあんたこっち向きなさい」


美佑はビクビクしながらも女の要求を飲むしかできず、女の方に顔を向けた。

それと同時に女は美佑に施されたその大きなマスクを鼻下までずり下げた。

マスクが下げられたことで美佑は少しだけ息をするのが楽になった。

そう思っているのも束の間。女は置かれていたガムテープを手に取り20cmほどの長さに千切り、そのまま両手で引っ張るように美佑の顔に近づけた。


「んゥゥ・・ンッッ?!」


その動作に美佑は思わず後ろに仰け反ったが狭い車内では逃げ場は無く、ガムテープは美佑の目を強制的に閉じさせるように貼られた。

そして、女は美佑の目に貼られたガムテープを隙間を無くすように手で押さえつけ、ピッタリ貼れたのを確認するとそのまま鼻下まで下げられていたマスクを鼻上まで上げ直した。


(何も見えない……)


さらに視覚を奪われ体を縮こませている美佑のコートを下ろし、テープの状態を確認した。


「問題はなさそうね…」


女はそう言い、コートを元どおりに羽織らせコートが落ちないようにキツく紐ベルトを結ぶと、つけていたサングラスを美佑の耳に掛けた。





美佑は自分が今何をされているのかどのような状態なのかわからず、体を小刻みに震えさせていた。


「いい?変な事するんじゃないわよ。」


女はそう言いながら美佑の横になって座り続けていた。

美佑は何をそんなに警戒しているのかわからなかった。やがて少しずつ車が進む感覚が感じられ、車のパワーウィンドウを下げる音がした。


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男と女は内心少し焦っていた。

普段ならこんな渋滞に巻き込まれることはなかったのだが、その渋滞の原因が前方で警官が検問らしきことをしていたのだ。

美佑を誘拐してから二時間近くしか経っていないが、時刻にして20時を回っていた。

恐らくなかなか帰ってこない美佑の家族が連絡が着かないことに不審に思い学校や警察に連絡していてもおかしくはない。スマホにGPSや位置情報がついててもおかしくはない為、美佑の持ち物はあの雑木林に捨ててきた。この車に美佑が乗っている事は分からないハズ…

焦りが募る中、少しずつ車は進み、やがて複数人いる警官に止められ、その内の一人が運転席の横に立つと男はパワーウィンドウを下げた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「お忙しいところすみません。この近くで事件がありまして、検問を敷かせて貰っています。お時間少しよろしいですか?」


警官は男にそう尋ね、申し訳なさそうな顔をしながらも車内の様子をチラチラと伺っていた。

誘拐犯である二人からしたら、あまり芳しくない状況だったが、車内の様子を伺っている警察官の目を逸らす為に平常心を装い男は


「少し急いでいるんだけど、すぐ終わる?」


「はい。できるだけ早く終わらせるのでご協力お願いします。運転免許証の提示よろしいですか?」


ここで相手の要求を拒むと後々面倒になると踏んだ男は渋々了承しながら話を進めることにした。

そのやり取りを聞いていた美佑は目を塞がれ外の様子こそわからなかったが、話の内容からおそらく警察だろうと思い、自分の今の状況に気づいてもらう為に勇気を決して呻き声を上げた。


「ンッッ!ンゥゥーーッ」


分厚いマスクに覆われた声はくぐもった声になってしまい、周りの車の騒音にかき消されないか不安になる。

気づいてもらえるかわからない美佑は必死に助けを求めた。

その声に警官の視線は美佑の方に向き、暗い車内でよく見えないのか美佑の様子を伺うように確認しながら


「そちらのお嬢さんは……どうかされたんですか?」


そのような疑問を投げかけた。


「………チッ」


警官の質問に対し隣に座っていた女は罰が悪そうに舌打ちをした。

それを美佑はチャンスだとばかりに思い呻き声を上げ続けた。


「ンッッンゥムゥーーッ!」


美佑の口を塞いだガムテープを隠すためとはいえ、女の子にはミスマッチとも言える目元から顎下まで覆い隠す大きなマスク、それに女子高生にはオシャレとも言えない目元を隠すような黒いサングラスをかけた姿の美佑に少し不信感を抱いたのだろう。


「ち、ちょっとッッ!」


そのうめき声を静止するように女は美佑の肩を掴んだ。


「ンッッンゥムーーーッゥゥゥ!」


そんな女の焦りの声を好機とばかりにうめき声を出し続けた美佑に思わぬトラブルが襲いかかった。唾液を吸いきった詰め物が呻き声を上げたと同時に口の中で大量の水分を放出したのだ。


「ッッ!?」


「グフッッんグフッっグフッ」


絞るように詰め物から出た唾液は美佑の器官に流れ込み、咳き込むように咽せた。





「すみません。学校帰りなんですが、この子、高熱で咳も出てて急いで病院に連れて行くところなんです」


警官の疑問に女は咳き込む美佑の背中をさすり心配する素振りをしながら応えた。


「グフッッ、ンフッング、グフッ」


そんな女の言葉を否定することが出来ず、口を塞がれてしまっている美佑は思うように咳ができない。器官に入ってしまった唾が上手く取り除けず、死ぬんじゃないかとも思える苦しさに襲われた。

今すぐこの汚物を吐き出したい。


そう思ったが厳重に貼られたガムテープはそれを許す事はなく、長時間貼られているにも関わらずその粘着力が弱まる事はなかった。


「グフッ、ッッ、ン・・・ッフゥーフゥ」


今の美佑にできるのはなんとかその苦しさから脱する為に必死に鼻息を整え肺部分の痛みに耐えながら呼吸が整うのを待つことだった。

そんな呼吸が整わない最中、


「ほら、大丈夫?」


苦しそうな美佑に女は思ってもいない言葉を投げかけた。

肺の痛みこそは治ってきていたが、美佑の体力は肩で息をするほどに酸素が足りておらず、頭はクラクラとし、詰まるようなうめき声しか出すことができなかった。


「あなた、すごい高熱なんだから無理したらだめでしょ。」


初めは警官も少し訝しげな表情で美佑を見ていたが、心配の声をかける女と美佑の様子を見て何か納得したように男に話を戻した。


「そういうことでしたか、お時間取らせてしまって申し訳ありません。すぐに終わりますので、最後に車のトランクの中だけ確認させてもらってもよろしいですか?」


「……わかった。早くしてくれよ。」


男はそんな美祐から遠ざけるように、そそくさと車のトランクのカギを持ち運転席から降りると警官と共にトランクのある後方へと歩いていってしまった。



だめ……、行かないで。

視界を奪われている美佑は警官の姿こそわからないが最後の希望とばかりに窓に寄りかかった。


「……ちッ、命が惜しかったらあまり調子に乗ったことするんじゃないわよ。」


女は警官がいなくなったと同時に窓の方にもたれかかる美佑を窓から引き離すように肩を掴み、そう囁いた。


「ん、ンゥゥ・・ゥ」


美佑は恐怖と絶望が折り混ざる中、女の要求に従うしかなかった。

数分も経たないうちに美佑の後方でトランクの扉が閉まる音がして男は運転席に戻ってきた。


「ありがとうございました。お急ぎかと思いますが事故にはくれぐれも気をつけるようにお願いします。」


検問チェックを終える警官の声に男はパワーウィンドウを上げ、その場から遠ざかるように車を走らせたのだった。

美佑は僅かな希望が断たれてしまい、思わず溢れてきた絶望とも思えるうめき声だけが車内に響いた。

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