小人が存在する世界で、彼らは害虫として扱われていた。
人権はなく、労働力としても使えず、備蓄などを食べたり、漁るネズミやゴキブリの様な存在。
だが、彼らは生きている。
そして、彼らの祖先は元は縮小病と言う病によって縮んだ人間だったらしい。
実際、唐突に現れた小人は俺は人間だと錯乱している者が多いし、急に人間が縮むのを見た者もいるので間違いないだろう。
小人は元々人間。
だが、元に戻る方法はないらしく、元が人間だろうと、小人となってしまえば、人間には駆除すべき対象なのだろう。
ド、ド、ド、ド。
コツ、コツ、コツ、コツ。
僅かな地響きと共に響く硬質なヒールの音。
恐怖を掻き立てる音に小人達は冷や汗を流す。
もうすぐ、この部屋の支配者がやってくる。
何人が生き残れるのだろうか……。
明日をも知れない運命に今すぐ逃げ出したくなる。
もっとも、俺たちに逃げることすら許されないのだが……。
暗く狭く湿った酸っぱい汚臭の漂う空間で俺達は陰鬱な空気に包まれていた。
俺達を閉じ込めている空間は遥か高い場所に出入口があって、ハシゴもないし登るのはとてもではないができない。
互いに今日は誰が『生贄』になるんだ、と顔を見合わせていた。
俺たちに選ぶ権利などないが、視線から逃れれば生き残れるかも、などとありもしない希望を抱いてしまうのだ。
やがて、足音が聞こえなくなり、俺達を遥か高みから覗き込む女性の顔が見えた。
「あは! 虫けらちゃん達は今日もくさ~いブーツの中でキチンと生きてるかな?」
小人である俺達をブーツの中に押し込み、支配するOLの雅だった。
雅は、俺達を虫けらと呼び、小人を見下している。
「今日も元気かな? 私の虫けらどもは」
雅が笑いながら俺たちの閉じ込められたブーツに足を入れた。
--瞬間、爪先からムワッとした熱気と共に酸っぱさと生臭さの入り混じった臭いが立ち込めた。
その臭いは、俺達の鼻に突き刺さり、思わずむせてしまう。
「あはっ! ゲホゲホしちゃってる! あ~あ……お前らの臭い息で私の可愛いブーツちゃんが汚くなっちゃうじゃーん!」
雅のブーツは1ヶ月ほど前から、既に黄ばんでいて、足の臭いが染み付いてしまっている。
そして、その臭いを俺達は今、至近距離で嗅がされているのだ。
臭くて堪らない。
しかし、雅は苦しむ俺たちを見て、手を緩めるどころかますます楽しげに笑うのだ。
「……私の可愛い可愛いおみ足で虫けらちゃんを踏み潰すとさ……グチャって潰れちゃってとっても気持ちいいんだよ~♪」
俺達を踏み潰そうと足をジタバタする雅は恍惚とした表情を浮かべていた。
『うう……臭い! 苦しい!!』
俺達が苦しみ呻くと、雅は恍惚とした表情を更に歪ませるのだった。
「あははっ! 臭い? 私の足が臭いの!? あはっ♪ でも、お前ら虫けらちゃん達だって臭い息で私のブーツを汚したじゃない! だから……おあいこだよね?」
雅はそう言うと俺達をブーツの中に押し込み、足を動かした。
『あああああ!!』
頭上から迫ってきたパンストに包まれた足はまさに壁で、上から踏みつけられた俺達は中敷に全身を押し付けられて身動きをとることすら許されなくなる。
ーームワッとした熱気と共に酸っぱさと生臭さの入り混じった悪臭が更にキツくなる。
「苦しい? 惨めだね? まぁ、お前らが苦しもうがどうでもいいんだけどね」
雅は俺達のことを虫けらと呼び、蔑んだ。
「あはっ♪ 虫けらちゃん達、今日も私のブーツの中で苦しんでね?」
雅の足がグイグイと俺達を押し潰すように動く。
メキメキと全身が軋み、悲鳴がそこら中で聞こえる。
「あはっ♪ あははっ! あ~……気持ちいい! あ~……最高っ! お前たち虫けらと違って毎日働いてムレムレなのよね~。お前達の身体で足つぼマッサージさせてあげる」
雅は、虫けら呼ばわりしておきながら、俺達のことをマッサージ機のように足を乗せて動かす。
ーーグチャ! グチャ!と俺達の骨が軋んで潰されていく。
誰が死んでしまったのではないのかと恐怖を感じる。
視界も閉ざされ、感じられるのは凄まじい圧迫感と激臭のみ。
『うぐっ!』
「あはっ♪ 痛い? あ~……でも、お前ら虫けらちゃん達は私のブーツの中で死んでいく運命なんだからさ……我慢してよ」
雅の足の動きは更に激しさを増す。
密着したパンスト足からヌルヌルした汗が染み出てきて、吐き気がする。
吐き気がしそうな臭いに俺達が苦しんでるのに対し、雅は何度も足を揺り動かし、足の裏に俺達をめり込ませてきた。
ゴリ、ゴリ、ゴリ。
「あははっ! あ~……気持ちいい!ほらほらっ! お前らも気持ちいいでしょ? ね?」
俺達をいたぶることに快感を感じている雅は恍惚とした表情を浮かべ、グリグリと足を深く押し付けてくる。
『ぐああっ!』
雅の足の臭いと熱気に俺達が苦しめられていると言うのに……。
「あ~……もっと力を強くしてあげるよ」
ーーグシャッ!グチャ!グチャッ!!グリグリッ! 雅は更に足に力を入れて俺達を踏み潰した。
鉄臭い臭いと破裂した音、湿った音と断末魔の声を聞いた瞬間、俺は背筋が凍った。
間違いなく誰かが踏み潰されたのだ。
俺もこのままだと。
雅の足の臭いも、熱気も更にキツくなり、俺達の身も心も追い詰めていく。
「あはっ! あはっ! あ~……最高っ!よっわ~ 虫けらちゃん達で足つぼマッサージなんて贅沢だよね~? 私の疲れを取るためだけに命を使い潰されてさぁ~!! でも、私が気持ちいいんだから我慢しなさい♪」
雅はそう言いながらグリグリと足を捻るようにして俺達を踏みにじる。
ーーその顔は恍惚とした表情そのものだ。
『ぐああっ!』
もう駄目だ……俺達は死ぬのか……。
そう思った瞬間、雅は俺達をグリグリと踏みつけたままピタリと動きを止めた。
「あ~……全滅させちゃうとこだったわ。危ない危ない。もっと楽しませてもらわないとねぇ?」
優越感に蕩けた声とともに俺達を踏みつけていた足がブーツから引き抜かれていく。
暗闇から光が差し込んだ瞬間に見えた雅の足の裏には赤黒い汚れがハッキリとついていたのだった。