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クソザコ勇者の使い方~魔術王妃の魔術実験~


 時は遡り、カミルが勇者として選ばれ、王城に招待された頃--。

 

 リア王国。

 

 多くの勇者を輩出した大国だが、その構造は歪なものだった。

 

 年々、勇者は勿論、すぐれた女性が冒険者として抜擢され、国王の権威は大きく低下し、先代の魔王を討伐した功績で王妃となったエレディは今や国王よりも国民からの支持を受けており、この国の実質の支配者だった。

 

 そんな影の絶対的な支配者であるエレディとカミルは対面していた。

 

「…………」

 

「そう畏まらなくても大丈夫よ? ここ数年、男の勇者は出なかったから、貴方に興味があったの」

 

 勇者のスキルの検査後結果を待っていると、手入れの行き届いた花の咲き乱れる庭園でエレディのお茶に誘われたのだ。

 

 勇者の恩恵を受けたとは言え、昨日まで村人だったカミルにとって目の前の女性は天上人と言ってもいいほどの身分の相手。

 

 冗談抜きでこの国一番の権力者。

 

 本来なら一生縁のない相手などだ。

 

「エレディ様……………………」

 

 足音もなく現れたメイドの1人がエレディに何か耳打ちしていた。

 

 緊張でガチガチのカミルは何を言われていたかすらわからないが。

 

「あらあら、紅茶が冷めてしまったわね。新しいのと交換しましょう。今度のは特別私が気にいってるものなのよ?」

 

 エレディが指を鳴らすと、背後に控えていたメイドが素早くカップを新しいものに変えてくれた。

 

「こ、光栄です。エレディ様」

 

 琥珀色の液体に満たされたカップを傾けるが緊張で味などわからない。

 

 なんだか舌が痺れるような苦い様な味だが、これが高級品の味なのだろうか?

 

(それにしても、エレディ様って美人なのに、こんな下々のことまで気にしてくださるなんて……。女性優遇政策ばかりしてるって噂だったから、男が嫌いなのかと思ってたけど……)

 

 30代に差しかかるはずなのに、その肌は艶々で若々しく、胸についた2つの丘は紫色のドレスを下から押し上げて存在を強調している。

 

 宝石のような透き通る紫色の瞳に見つめられると、心の奥まで見透かされてしまう様でかドキドキしてしまった。

 

 手入れの行き届いた柔らかく長い髪からは離れていても、花のような優しい匂いがする。

 

 こんな綺麗で優しい人がいるんだ。

 

 村人だったカミルだが、母親を早くになくしたことと、エレディの女性優遇政策により男として生活しにくい日々を送っていた。

 

 当然、優しさを向けてくれる女性なんていないわけで--。

 

(しかも、元は魔法使いの素質のあった勇者だったなんて女神様が選んだ完全な存在なんだ……)

 

 この国で最強の存在と言えば、誰もが彼女の名前を口にする。

 

 何しろ、魔法使いは戦士と違い肉体の衰えで弱体化する比率が少ないのだ。

 

 魔力で肉体の若さを保てるし、使い方も歳を重ねる後に上達する。

 

 老人のほうが魔法使いとして大成している話が多いのはこのせいだ。

 

 そんなことを考えるカミルを見つめながら、エレディは微笑んでいた。

 

 何を考えているか分からないが、エレディに見つめられただけでカミルはドキリとしてしまう。

 

 母と子ほど歳が離れているはずなのに……。

  

「ふふ、随分緊張しているようね。気持ちを楽にしなさい。貴方にはこれから国に貢献して貰わないといけないのだから」

 

「えっと、勇者としてですか?」

 

「勿論よ」

 

「勇者の能力がわかったんですか?」

 

 どんな能力なのだろうかとワクワクするカミルに対して、何故かエレディは頬を赤らめていた。

 

 興奮しているエレディの顔に何故かゾワゾワと冷たい何かがカミルの背中を這い回る様な悪寒に襲われる。

 

「ふふ、女神様も粋な事をなさるわ。まさに私が欲しかった能力。これでこの国の女性優位は磐石なモノになるわ」

 

 瞬間、カミルの全身から力が抜けた。

 

 ズルリと椅子に身体が寄りかかり、姿勢を正すこともできない。

 

「な、ん……?」

 

「ふふ、薬が効いた様ね。お前の能力が判明したから一服盛らせた貰ったの」

 

 慈愛すらあった微笑みは消え、村で向けられる冷たい眼差しをエレディは向けていた。

 

 口調も上品な丁寧なものとは変わり、残酷さが滲み出る残虐なものに変わっていた。

 

「目が覚めたらちゃんと教えてあげるわ。ふふ、もう二度と日の光は浴びれないから、この光景をしっかり覚えておくのよ? ふふふ!」

 

 口元を扇で隠しながらそう告げられたのを最後にカミルは襲い来る睡魔に逆らえずに意識を失ったのだった。

 

 ◆

 

「うっくぅ……」

 

 身体の違和感で目が覚めたらカミルの目に飛び込んでいたのは、陰気な石造りの部屋だった。

 

 窓はなく、地下の貯蔵庫とかで味わったことのある独特の濁った空気は地下特有のものだ。

 

 ここは地下室?

 

「うっ……」

 

 ジャラ!

 

 身体を動かそうとしたカミルだが、両手と両足には鋼鉄の枷がつけられており、その枷に繋がれた鎖が天井から垂れ下がり、カミルを宙ずりにしていたのだ。

 

 しかも、壁には鞭や棘のついた棍棒、先端に平たい円形の鉄がついた焼印様の鏝などの恐ろしい器具が並んでいる。

 

 まるで拷問を受ける囚人を拘束するかの様に……。

 

「なんで? どうなってるの!? 勇者になったはずだよね? なんでこんなことになってるの!? 悪いことなんて何もしてないよ!」

 

「そんなこと当然わかってるわよ。お前の能力が原因よ?」

 

 カミルが絶叫していると、分厚い扉が開き、エレディが姿を見せる。

 

「の、能力?」

 

「そう。お前は施しの勇者。端的に言えば、戦った相手が得れる経験値を大幅に増やす、と言うものね。言うよりも体験した方が早いわ」

 

 そう言うと、エレディは壁にかけてあった焼印様の鏝を手に取った。

 

「本来は暖炉とかで熱さないと意味がないけど、私なら一瞬でこの通り」

 

 エレディが先端に目を向けると、ジュッと熱した鍋に水をかけた様な音がして一瞬で先端はオレンジ色になるほど発熱した。

 

 エレディの魔力で焼鏝を瞬時に熱したのだ。

 

 煌々と輝く焼印には奴隷証となる蹄を模したマークが刻まれている。

 

 お前たちは踏みつけられる立場の生き物だと理解させるためにこのマークになっているらしい。

 

「や、やめて……」


「くす! いい表情ね!」

 

 涙目で懇願するカミルを無視し、エレディは笑いながらゆっくりと近づいて行く。

 

「や、やだ! いやだ!」


 カミルの制止を無視して近づいてくると、エレディは焼きごてを胸に押し当て……ジュッという音と共に胸一面に焼印が刻まれた。

 

「ぐわああああああああああああ!!!!!」


 胸の中央を焼かれたカミルはあまりの激痛に絶叫する。


 だが、エレディはそんなカミルに構わず、今度は腹や背中など全身に焼印を刻み始めた。

 

 ジュ、ジュ、ジュュ!

 

 本来なら1箇所で良いはずの焼印を全身に刻まれ、自分が奴隷よりも下の形容できない何かへと貶められているような錯覚を陥る。

 

「うがあ! あづいぃいい!」

 

 ジュュ!

 

「ふふ、良い声で鳴くわね」


 エレディは笑いながらカミルの身体に焼印を刻む。


 まるで、その痛みで泣き叫ぶ様を楽しんでいる様に……。

 

(なんで? なんでこんなことするの? 僕は勇者になったはずなのに)


 そんな疑問が頭に浮かぶが、すぐに痛みに塗りつぶされてしまう。

 

 痛みに吹き出す涙に視界が滲み、ヨダレと鼻水がとまらない。

 

 やがて、全身くまなく焼印を刻み終わったエレディは満足そうに眺め、

 

「ふふ、良い出来ね」


 カミルの全身に刻まれた焼印はまるで入れ墨の様に皮膚に焼き付いており、一生消えることはないだろう。


 しかし、そんなカミルを見下ろしながらエレディは焼鏝をまだ下げていなかった。

 

「んふ、やっぱりココにも焼鏝を刻まないとね~」

 

 そう 言うと魔力で作り出した手でカミルの髪を乱暴に掴んで顔をあげさせた。

 

「ひっく、うぅ、あぁ……」

 

 涙や鼻水、ヨダレでグチャグチャのカミルの顔を見て汚物でも見るような冷たい眼差しをエレディは向けたまま、

 

「醜い顔ね。ほら、ここにも烙印を刻まないとねぇ?」

 

 ジュゥゥ!

 

 無慈悲にカミルの額に焼印を刻むため、熱した鏝を押し当てる。

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「ふふふふ! いい声だわ~。クズでも肉の焼けるのはいい匂いね~。ふふ、まぁ、お前は自分の肉が焼ける臭いなわけだけど?」

 

 頭が真っ白に塗り尽くされ、視界で火花がスパークしている。

 

 痛いアツイ痛い熱いイタイアヅイイダイ--!

 

 痛いと熱い以外の感覚が喪失したのでないかと言える程の地獄。

 

 毛穴と言う毛穴が開き、汗が噴き出し、吐き気が堪らない。


「ぎゃぁぁぁぁ!」

 

 魂から絞り出したかの様な絶叫をひたすらカミルはあげる。

 

 そうしていなければ発狂してしまっただろう。

 

「あがぎゃぁぁぁぁぁぁ!」

 

 ガチャガチャガチャガチャ!

 

 痛みから逃れようと悶えるカミルを嘲笑うの手足を拘束する鎖が激しく鳴るが、カミルの力ではビクともしない。

 

 頭を鈍器で殴打され続ける様で命の危機だと身体が必死に訴え続けていた。

 

 数秒から数十秒の時間が永遠にも感じられる。

 

「ぎゃぁぁぁ----」

 

 やがて、喉が裂けてしまうのではないかと思えるほどの絶叫が唐突に途絶える。

 

 ガクリ、と暴れていた手足は人形の糸が切れたように垂れ下がり、全身の力が抜けていた。

 

「あ、気絶しちゃったのね。ふふ」


 エレディはカミルが気を失ったことを確認すると、焼印を刻み終えた焼鏝を放り捨てた。


 そして、カミルに刻まれた奴隷証の蹄マークを眺めていた。


 一部は炭化する程の力で当てたせいで黒くボロボロとなっていたり、暴れたカミルのせいや、すぐに冷やさずに水膨れの様に膨らみ、マークが歪み、ほとんどが失敗作と言えるものだった。


 顔に刻んだマークもそうだ。


 カミルが暴れたせいで、お世辞にも綺麗とは言えない歪んだマークだった。


 これではとてもではないが、売りには出せない失敗印だろう。

 

 だが、エレディとしては焼印の出来栄えなど、どうでもよかった。

 

「ふふ、痛めつけるだけで経験値が入るのね。しかも……」


 エレディが自分のステータスを確かめている間に、ボロボロのカミルの身体に明確な変化が起きた。


 あれだけ刻印された焼印が見る見るうちに癒えていく。


 身体だけではない。


 顔もまた焼印を押す前の女のような可愛らしい顔立ちへと戻っていたのだった。


「超回復も見事なものね。壊れないサンドバックなんて、女神様からの最高の贈り物ね」

 

 これだけの回復力があれば、気兼ね無く責め立ててれる。

 

 それこそ、どんな魔法の実験台にしても問題ないだろう。

 

 --丁度新しい魔法の実験台が欲しかったのよね。

 

 --それにこんな能力で戦場に出て敵を強くされたから困るもの。コレはここで永遠に飼い殺しにしておかないのね……。

 

 この国に生まれた以上、この国に尽くすのが義務であり、この国の国民全てはエレディのモノだ。

 

 なので、これほどの能力を使わない手はない。

 

 これからはより優れた女性の冒険者を増やし、さらに女性の地位を磐石にするために役立ってもらう。

 

「クス、本番はこれからなのに、困ったものね」

 

 エレディはコツコツ、とヒールを鳴らしながら、細い杖を手に取ると、ペロリと唇を舌で濡らしながら、残酷な微笑みを浮かべているのだった。

 

 ◆

 

「!! うぅぅ……」

 

 呼吸した瞬間、鼻腔にこびりついていた肉の焼ける臭いにカミルは冷や汗とともに意識が覚醒させられた。

 

「っはぁはぁはぁ!!」

 

 まだ頭に熱が残っているのか、心なしかクラクラする。

 

「あら、やっと起きたのね?」

 

「ひぅぃ!?」

 

 心配そうな声を聞いたカミルは小さく悲鳴をあげた。

 

 言葉こそこちらを慮ってのものだが、偽りの優しさに満ちているのがわかったことと、カミルの意識を奪った帳本人であったからだ。

 

「そんな声を出して失礼ね。お前の傷ならもう治ってるわよ?」

 

「え?」

 

 エレディの言葉にカミルは唯一動かせる首を動かして恐る恐る視線を下に--自身の身体へと向けた。

 

 あれだけ焼印を押されて見るも無惨になっているはずの肌は確かに痣ひとつなく白く健康な色に戻っていた。

 

「ふふ、超回復も勇者の恩恵みたいね。ふふ、あれだけの傷が何もせずに癒えるんだから今度は魔法の実験台にしてあげるわ」

 

 椅子に座って優雅に脚を組んでいたエレディは組んでいた脚を解いてゆっくりと立ち上がる。

 

 その手には細く魔法使いが使う杖が握られていた。

 

「素晴らしい恩恵だと思わない? お前は私の魔法の実験台になれて、私に経験値を献上するのよ? ふふ、最強の私がさらに強くなるための踏み台になれるの。これ以上ない栄誉ね? 」

 

 ペロリと赤い舌で杖を舐めたエレディはサディスティックに微笑み、杖先をカミルヘと向けた。

 

「ミニマム」

 

 エレディが魔法を発動した瞬間、カミルの視界が大きく揺れた。

 

 急に部屋が遠ざかるように天井が遠くなっていく。

 

 それだけではない。

 

 自由を奪っていた手足枷がズルりとすっぽ抜けたのだ。

 

 エレディの意思で外したわけではない。

 

 カミルの手足が縮んだから、サイズが合わなくなって抜け出たのだった。

 

「あわあわあわあわ」

 

 混乱するカミルを他所に身体は急激に縮み、揺れた視界が収まった頃にはカミルはエレディの杖よりも小さな小人サイズへと変えられてしまっていたのだった。

 

 途方もなく巨大なエレディが小人となったカミルの姿を見下ろしながら、満足気に笑っていた。

 

「クス! ちゃんと効果があった様でよかったわ! 開発局も喜ぶでしょうね! 私に逆らう馬鹿な連中もこの国を脅かす魔物共もどれだけいても関係ないわ! だって、ぜ~んぶ虫けらサイズに変えちゃえば、倒すのも簡単だものね? こうやってしまえば終わりだもの……」

 

 そう言って紫色のハイヒールを履いた足を持ち上げると、小さくなったカミルの頭上へと近づけ--。

 

「虫けらなんて踏み潰せばいいだけだものね?」

 

 カツン!

 

 落下するギロチンの様な勢いで足を降ろした。

 

 その先には小さくなったカミルが呆然と立ちすくんでいたが、一切の抵抗もなくヒールに踏み倒され、石畳へと叩きつけられる。

 

 ヒールの裏に刻まれた滑り止めが無数の細かい刃の様にカミルの柔肌に食い込む。

 

「ぐぎぁぁぁぁ!」

 

「ふふ、踏み心地はまぁまぁかしらね? あら、また経験値が入ってきてるわ」

 

 エレディは腰に手を当てると、カミルを踏みつける足に力を込めていく。

 

 バキ、ボキ、ブチャ、グチャ!

 

 骨の折れる音とは違う腐った果実が潰れる様な音とともに口から血が吐き出され、鉄臭い味が口に広がる。

 

 折れた骨が刺さったか、踏みつけられた圧力で内臓が破裂したらしい。

 

「あぎぃ、ひぅ、ぐぅっ!」


 全身の骨と言う骨を砕かれたカミルは白目を剥き、泡を口から吹き出して気絶した。

 

 そんなカミルの姿を見てエレディはようやく足をあげた。

 

「ふふ! 無様ねぇ? でも、この程度で死なないのはわかってるのよ?」

 

 エレディが見ている間にカミルの肘を突き破って飛び出していた骨が体内に収まり、破裂した内臓が癒えていくのがわかった。

 

「ふふ、縮小魔法の効果はしっかり確認できたわ」

 

 縮めてさえしまえば、どんな相手も容易に排除できるだろう。

 

 突っ込んでくる敵軍全体に発動してしまえば、こちらは無傷で蹂躙もできる。

 

 地形が変わるほどの大魔法で戦えば、残るのは荒廃した大地だけとなり、復興からしなければならないのだ。

 

 生き物だけを縮小させられるのなら、敵地の建物も資源もそのまま奪える。

 

(まぁ、実際はレジストされるから簡単にはいかないけど……拷問にも使えそうね)

 

 昆虫の様にピクピク痙攣しているカミルを見下ろしながら、新しい魔法の使い方を考えて楽しげな妄想に浸るのだった。

 


クソザコ勇者の使い方~魔術王妃の魔術実験~

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