リリスに支配されたライムはギルドへの報告書をしたためていた。
報告は特に問題なし。
それを伝書鳩でギルドへ飛ばす。
これで仕事は終わりだ。
行方不明の冒険者がどうなったかは本当にわからなかったが、そんなことはどうでもよかった。
命令された仕事を終えた報告後に行われる調教の方がはるかに意識を奪われていたからだ。
あの洞窟でリリスの魔力で支配されて以来、ライムはリリスの従順な操り人形だった。
ライムの意識は夢の中にいるように、自分の記憶を第三者視点で見ているような現実とは思えない状態で、意識と身体が分離したように言うことを聞かないのだ。
「お疲れ様~」
ギルドへの報告書を書き終えたところで声がかけられる。
リリスだ。
あどけない笑みに胸が高鳴る。
偽りの好意。
作られたものなのに身体が熱くなる。
抵抗しろ!
そう思っても身体は真逆にリリスの足元に這いつくばっていた。
「これで次の冒険者はこないですね。ではご褒美をあげますね」
這いつくばるライムの頭を小さな足が踏みつけ、左右にグリグリと揺れる。
頭を足で撫でられている。
本来なら怒りがこみ上げてくるはずなのに、リリスに誉められた喜びに身体が震えた。
彼女の役に立つ、ご褒美を貰う。
それが今のライムの全てなのだ。
「はい、今日のご褒美よ」
そう言ってライムの前に差し出されたのは靴下だった。
それも先程まで履いていたもので、生暖かさが感じられる。
つまりこの靴下の中には蒸れた汗が染み込んでいるはずだ。
その匂いはどれほどのものだろう? 想像しただけで興奮してしまう。
今すぐ顔を埋めたい欲求が吹き出していた。
そんなライムの心を見透かした様にリリスは囁く。
「さぁ、嗅いで」
「ありがとうございます」
リリスの命令に逆らうことは出来ない。
だからライムは靴下の臭いを嗅ぐしかなかった。
勿論、拒否するつもりもなかった。
嗅げば最高の興奮を味わえるのだから。
すんすんと鼻息荒く、犬のように臭いを堪能する。
ああ……なんていい香りなんだ!
これこそが最高の幸せだ!
リリスの匂いに包まれて幸福感を得る。
気づけば靴下に顔を埋めていた。
黒ずんだ爪先が視界に広がっている。
汚い。
なのに、顔を離せない。
必死に顔をそらせと意識が叫んでも、身体はその臭いをさらに欲して靴下に顔をすり付けていた。
「クスクス……そんなにいい匂いだった? 昨日から洗ってないからとっても汚れてるけど……。綺麗にしてもいいよ? やりかた、わかる?」
「ひゃい~!」
さらに靴下にむしゃぶりつく。
もっと欲しい。
もっともっと!
ライムの身体は完全に堕ちてしまっていた。
だがまだ足りない。
こんなもので満足できるはずがないのだ。
一滴でもリリスの体液を求め、ライムは飢えたかのように足汗の染み込んだ靴下をしゃぶっていた。
「あらら。これはもうダメね。完全に私の足奴隷にちゃったね。そのままおしゃぶりしておくのよ?」
いつの間にか椅子に座っていたリリスは爪先を揺らしながらライムがしゃぶる靴下を器用に脱ぎ捨てる。
「ふふ、涼しい🖤」
ピンク色の健康的な爪と白磁のように白い肌はサキュバスとは到底思えない。
人と見分けがつかないだろう。
ライムの図鑑で読んだサキュバスの肌は紫色だと聞いている。
おそらく、これも擬態なのだろう。
獲物を騙すための。
そして、自分の領域まで連れていき、仕留める。
ライムはそれにまんまとひっかかり、こうなったわけだ。
「ライム、まだもう片方の靴下もあるのよ。お前のお口で全部私の汗をすいとりなさい。できるわよね?」
有無を言わさぬ口調は、幼い見た目とは思えない。
今まで何人もの人間に命令してきた慣れがあった。
もしかしたら、行方不明の冒険者は彼女に支配されていたのか?
なら、彼らはどうなったのか。
考えられるのは――。
ズボッ!
「んんん!」
乱暴にもう片方の靴下が口にねじ込まれ思考が途切れる。
口に広がる汗のすえた匂いとサキュバス特有の甘ったるい香りが混じり、喉から鼻に抜けた瞬間、思考はとまり、靴下をしゃぶることしか考えられなくなる。
「いい子ね。昨日のだけだと支配力が衰えていくの。でも、こうして体液や臭いをずっと与えておくと、そのうち何もしなくても私のことしか考えられなくなっちゃうんだよ?」
リリスはクスクスと笑いながら獲物を弄ぶ猫のように目を細めてライムを見下ろす。
逃げられない獲物をどうやって遊ぶか。
そんな嗜虐的で支配的な愉悦を含んだ眼差し。
自分が食われる側だと理解できたライムだが、恐怖と歓喜が同時に沸き上がった。
リリスに支配されている。
そして、このまま完全な支配を受け入れる。
今の第三者のリリスから逃げろと叫ぶ自分は消えてしまうのだ。
それは肉体だけが残る空っぽの器になると言うことなのか?
(くそ! なんとか俺の身体を俺の意思で動かさないと!)
だが、リリスが側にいる限りそれは不可能だ。
ライムの精神はリリスに支配されている身体を悔しげに眺めるしかないのだった。
「さて、次はどうしようかな? あ、そうだ。お腹空いたからご飯食べたい。用意して」
「はい」
ライムはリリスの足置きとして床に正座していた。
リリスの食事を用意するために、足から離れ立ち上がる。
冒険者として自炊は必須技術なので、ライムは当然料理ができる。
すぐに暖かい湯気がたちのぼるスープやパンが用意された。
テーブルにはリリスの分、そして、奴隷である自分の分は床に用意する様に命令された。
用意された皿の場所だけで立場の差を思い知らされる。
「それじゃ、いただきます」
「はい」
リリスにあわせて食事をとろうとすると、悪戯を思いついたかのように笑いながら床を指し、
「あ、待って」
「?」
「手を使わずに食べるの。犬みたいにして食べてみて? 私の足以下の負け犬だって自覚するのよ」
そう言われ、ライムはリリスの前で四つん這いになった。
「いただきます」
「あっさりしちゃったね。まぁ、靴下しゃぶってた時点でプライドがないのはわかってたけど、惨め~!」
リリスが右足を振り上げ、ライムの頭を踏みつける。
さらに左足をスープに浸してきたのだった。
指の間の垢や糸屑がスープに混じり、汚れが浮かんできた。
これを飲むのか。
絶望するこころに対し、身体はご馳走を見つけた犬のように眼を輝かせている。
「ほら、早く食べなさい。私の足汗が溶けて美味しいわよ~」
「ん……れろ……」
スープを啜る様に食べるライムの舌がリリスの足を何度も触れるが、リリスは首を横にふり、
「うーん、全然気持ちよくない。下手くそ。やっぱり直接じゃないと駄目みたい。ちゃんとお口を開けておちん○んしゃぶるように丁寧にやってね。わかってると思うけど、もし歯を立てたりしたら、わかるよね?」
「ひゃい!」
ライムは震え上がり、必死に足裏をなめ回す。
スープの油でヌラヌラと光る足を踵から爪先まで舌で磨くように舐めあげた。
「うん、いい感じ。あと何回かやったら、ご褒美あげるからね」
「はいぃ……」
ライムは夢中になってリリスの足の裏をしゃぶり続けた。
味がなくても、リリスの笑顔が向けられているのがわかると永遠に舐められそうだ。
「はぅ、はふ」
ある程度舐めるとリリスはスープにまた足をつけ、舐めさせるを繰り返し、足を綺麗にさせた。
「ふふ、じゃあそろそろいいかしらね」
皿のスープがなくなるのを確認したリリスはようやくライムの顔から足を放した。
「私の足から食べたスープは美味しかったかしら?」
「美味しかったです!」
「そうなの。じゃ、次は反対の足も綺麗になさい?」
リリスはスープに浸していない足を顔を近づけ
「あ、舐める前に臭いを覚えなさい? 私の体臭全てで興奮できる身体になるのよ?」
そう楽しげにいい放ち、鼻先に足指を近づける。
靴下とは比べ物にならない濃厚な足の臭いがダイレクトに脳髄を痺れさせてくる。
「ふふ、くっさいの臭いでもっと頭ドロドロにしてあげるね」
このままだと本当に逃げられなくなる。
心までもリリスに支配されてしまう。
ライムのリリスの支配から逃れたほんの精神の一欠片も簡単に擂り潰されてしまうだろう。
(女神様どうか俺を……)
もはや、神頼みしかできないライムの顔に足が押し付けられる瞬間――。
カン、カン、カン、カン!
耳障りな鐘の音が鳴り響いた。
「んもぅ! いいところで!」
足がひっこめられ、ライムの心の大半はがっかりと絶望で支配されたが、かろうじて助かったと言う思いもあった。
「魔物ね。ライム、倒してきなさい」
まるで隣町で買い物でもしてこいと言わんばかりに気楽に命令されたが、この村に戦力はない。
どうにも、リリスに支配されるまで気づかなかったが、彼らもまた何か操られているような状態だったのだ。
と言うよりも、生きているが、死んでいるとも言える感じで、決まった動きだけを決まった時間に繰り返しているのだ。
そして、元々村人なので戦力でもなかったが。
「おまかせを!」
「くすっ! いい子ね。帰ったらご褒美をあげるわ。ちゃんと逃げずに戻ってくるのよ?」
リリスに命令されることを喜びに感じてしまうライムは嬉しげに魔物を狩りにいくのだった。
◆
ライム視点――。
草や土の臭いが不快だ。
リリスの足の匂いと言う最高の香りを嗅ぎ損なった俺は最悪の気分で森にいた。
弓や防具や道具など処分されていると思ったが、納屋にしまわれていた。
おそらく、リリスは俺を支配下に完全におき、番犬としても使うつもりだったのだろう。
村に魔物の被害が増えれば他の冒険者がきて、正体のばれるリスクが増えるからだ。
あぁ、早く帰って続きがしたい。
目を閉じれば視界に広がるのはリリスの足の裏だ。
口に残るスープと舌に残る靴下の味を思い出すと、下半身が疼く。
「畜生風情が邪魔をしやがって」
ぽき!
俺は呪詛を吐くと、枝をへし折り、八つ当たりした。
(魔物は村の近くにいたんだ。そんな遠くにいけるはずがない)
ぱき!
「!」
近い。
枝の折れた音は俺の出した音じゃない。
なら、今の音を出したのは――。
俺は気配を殺し、木の背後に姿を隠した。
間違いなく側にいる。
ガサガサと草木を掻き分けにながら、魔物はいた。
枝葉で日光が遮られて薄暗い森でもシルエットで魔物の正体はわかった。
それにしても……。
(くせぇ!)
魔猪と呼ばれる猪の魔物だが、鼻が曲がるような異臭を放っていた。
(毒でも持ってるのか? くそっ! 鼻がばかになったら、宿屋でのご褒美の意味がなくなるだろうがっ!)
腐敗した様なそんな臭いを撒き散らしながら、地面を掘っている魔猪を今すぐ倒そうと俺は弓を構えた。
(隙だらけだ! これなら!)
一瞬も躊躇わずに俺は矢を放つ。
ザシュ!
あやまたずに頭に命中した。
ぷぎょ!
射られた衝撃でよろめく魔猪。
普通ならそのまま横倒しになるはずだが、俺は計算違いをした。
というよりも、一刻も早くリリスの元に帰りたくて焦ってしまったのだ。
魔物がこんな簡単に倒せるはずがない。
ぐりっ!
魔猪の顔がこちらを向いた。
こめかみに矢が刺さり、血を流しているが生きている。
固い頭蓋骨を貫けなかったのだ。
(くそっ! 威力が足りなかったのか!)
本来なら罠にかけたり、魔法で矢の威力を引き上げて仕留めるが、それを忘れ、焦った自分が恨めしい。
ぷぎぃぃぃ!
怒りに目を光らせる魔猪は一直線に俺めがけて突っ込んできた。
左右に生えた牙でつかれたら槍で刺されるのと大差ないぞ!
「うおっ!」
矢を構えて狙う余裕がないと焦った俺は全能力向上のポーションを使い――。
「くそがっ!」
回転扉の様に身体を捻って魔猪の突進を避けると、そのまま解体用のナイフの塚で矢の刺さっていた場所を思い切り叩く。
ばきゃ!
何かが砕ける音とともに、魔猪の体液が俺を濡らした。
ずじゃ!
頭蓋骨を砕かれて絶命した魔猪はそのままの勢いで地面を滑り、木にぶつかって沈黙する。
「あぶねぇ」
ポーションを使うほどの相手ではなかったが、焦りのせいでいらない危険を招いてしまった。
それにしても臭い。
(どこかで洗わないと……?)
俺ははっと顔をあげた。
さっきまで頭のなかを支配していたリリスへの性欲が治まっている。
おそらくはポーションの効果で魔力耐性もあがっているからだろう。
今なら逃げられるぞ!
いや、宿に戻ってリリスを討伐すべきか?
逃げるにしても魔猪の血と脳漿で汚れている。
この臭いは耐えがたいし、他の魔物を呼び寄せかねない。
どうする?
・宿に戻る

空を明るい内からコウモリが空を舞っている。 今ならリリスを倒せるはすだ。 魅了の魔力に打ち勝てた俺は心を静め、宿屋へと近づく。 火矢で建物ごと燃やすべきか、操られたままの振りをして近づき、ナイフなどで仕留めるか。 俺は後者を選択した。 一人で火矢を放っても宿屋に火が回る前に...
・川で洗ってから、逃げる
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