「……お母様、今年の誕生日は奴隷が欲しいです」
「あら、レキったらおませさんね♪ いいわよ。練習用に一匹あげるわ」
「……お母様大好きです!」
「レキはかわいいわね」
会話を聞いていなければ微笑ましいのだが、六歳の少女とその母親の会話ではない。
上質な紅茶と高級なケーキがテーブルにおかれ、二人の親子は楽しげにティータイムを楽しんでいた。
その二人が座るのは四つん這いの男だった。
首輪から伸びた手枷に足枷、さらに金玉をつきださせて拘束するハンブラーによって四つん這いでしか動くことは許されなかった。
小柄な少女と成熟した母親は当たり前のように男の背中に腰かけていた。
男の価値など皆無な奴隷国家。
その女王と王女。
この国でもっとも高貴な二人は実に楽しそうだった。
その下で何時間も座られた奴隷が苦悶の顔を浮かべていることを無視したままティータイムをしているのだ。
「ちょうど私の昔の屋敷に一匹調教済の奴隷がいるから連れてくるわね。しっかり練習するのよ?」
「はい! リルお母様! ありがとうございます」
レキの愛くるしい笑顔にリルは満足気な笑みを浮かべる。
自分と同じ嗜虐性を見て――。
◆
レキは生まれながらにして男が奴隷として扱われる環境にいた。
母親であるリルの制度によって生まれた男は家畜として育てられ、レキと同じ年の男は皆家畜だった。
思想教育は厳しく青年の男の多くの
が抵抗し、戦争で鎮圧された。
数多の屍の上にリルは完全な奴隷国家を建国した。
そんな母親の下で育ったレキも、いつしか好き勝手に扱える奴隷が欲しいと思っていた。
まさかあんなにあっさり貰えるなんて思ってなかった。
最低でも奴隷を個別に持てるのは十歳を越えてから。
六歳の自分ではまだ早いと言われると思ったからだ。
でも、母親は断らなかった。
むしろ、娘の成長を喜ぶように笑っていた。
(専属奴隷か~、どうやって躾ようかな?)
私は次の誕生日をワクワクしながら待つのだった。
◆
向かう先は王宮の地下にある秘密の部屋。
そこには様々な実験器具や資料が置かれており、まるで実験室のような場所だ。
いくつもの猛獣でも閉じ込めるような檻の中に私の奴隷がいた。
首輪から伸びる鎖で両手両足を繋がれている男性は20代前半ぐらいだろうか?
目立つ顔立ちは整っているものの、目の下に隈ができていて不健康そうだ。
着ているのは粗末な布切れ一枚だけで、全身は痩せ細り肋骨がくっきり浮き出るほどで、怯えきった眼差しはお母様が調教したからだろう。
城では調教を完全に施され、用途に応じた機能に特化した奴隷しかいない。
例えば、ティータイムで椅子にしていた奴隷とむち打ち用の奴隷とで鞭打ちの耐久テストをすれば、必ずむち打ち専用の奴隷が勝つ。
だが、専属とは所有者となった私の意思のままに扱える奴隷だ。
椅子にしようと足蹴にしようと鞭で打とうと私好みに調教していい都合のいい奴隷だった。
私はお母様が奴隷を調教するのを真似、ブーツで軽く格子を蹴った。
カァン、とソールと鉄格子がぶつかって甲高い音がなる。
「ねぇ、眼があったよね? 挨拶は?」
私がわざとらしく訊ねてやると、奴隷は悲鳴をあげそうな顔になりながら私の足元に土下座した。
「も、申し訳ありません。私は本日よりご主人様であるリル様からレキ様へお仕えするように命令された奴隷です。」
「へぇ~お母様の奴隷だったんですか?」
私は土下座する奴隷の後頭部を踏んでやった。
檻越しだから絶対に安全だし、お母様が調教した奴隷なら反抗なんて万が一にもありえないだろう。
街では調教に失敗した不良品がご主人様に反抗するケースが希にあるそうだが、護衛もいるし私には関係ない。
「はい、リル様の奴隷として生きておりました」
私に踏まれて喜んでいるのか小刻みに身体を揺らしている奴隷に私は笑いかけて質問する。
勿論、頭を踏みしめ、互いの立場を明確にさせながらだ。
「お前、名前は?」
「私はエルヴィスと申します」
◆
僕の目の前には天使がいた。
数年ぶりに屋敷から連れ出された僕は崇拝していたリル様に新しい飼い主に仕えるように命令されたのだ。
廃棄処分された事実に目の前が真っ暗になり、今すぐ死にたいとすら思うほどの絶望に押し潰されそうだったが、リル様からの最後の命令だと泣きながらそれを踏みとどまったのだ。
そして、絶望しながら新しい飼い主と会う日。
「ねぇ、眼があったよね? 挨拶は?」
そこにいたのは、女神様の姿を幼くした様なリル様のお若いときに似ていた幼女だった。
とても幼いのに、その言葉には威圧感すらあり、僕の身体はかつて躾られたままに土下座していた。
そして、幼女様は平然の僕の頭を踏みながら名前を訊ねたのだ。
絶望して死にたいとすら願った僕を拾ってくださったのは、女神たるリル様のご息女であり、新しい飼い主であるレキ様だった。
僕は新しい飼い主様をリル様のご命令通りに絶対服従しようと心に誓うのだった。
◆
(これが私の奴隷。ふ~ん、見た目は悪くないわね)
土下座するエルヴィスを見下ろしながら、私は満足気に笑った。
専属として飼育する以上は見た目から拘りたい。
なので、私のお眼鏡に叶ったエルヴィスに満足したのだ。
でも、それは品定めの第一段階に過ぎない。
本番はここからだった。
このエルヴィスの忠誠心を全て自分へ向けさせる。
中古の調教済の奴隷には以前調教された主を忘れられず、新しい主への忠誠心が鈍い奴隷もいると聞く。
まぁ、そんな奴隷の末路は悲惨なものだけどね。
新薬や新装備の実験台から、手足をもがれて便器として代わる代わる使われたり、果ては豚の餌にまで……。
廃棄処分の行き先は全て聞くだけで奴隷が震え上がると言うし。
エルヴィスはちゃんと私に従えるのかしらね?
まずはエルヴィスについて色々と知らないと。
「ねぇ、エルヴィスはお母様にどんな調教を受けたのかしら?」
「私は――」
エルヴィスは嬉しそうにお母様に施された調教について語った。
年上のお姉さまに施された調教……人間から奴隷へと転落させられ、家畜、挙げ句に便器にまで落とされ、廃棄処分されたと言う悲惨な人生を辿ったらしい。
憐れね。
そんな仕打ちを受けたと言うのに、お母様を崇拝しているなんて……。
だからこそ、その忠誠心の全てを私に向けさせ、私色に染め上げた時の達成感は最高なのだ。
「これからは私に尽くし、私のために生きて、私のために死んでいく。よろしくね? エルヴィス」
「はい、レキ様」
髪を掴んで無理やり顔をあげさせて目をあわせた私にエルヴィスは幸せそうに私を見上げて頷く。
私は尻尾を振るような犬と被るエルヴィスをどう調教しようかとサディスティックな炎を燃やしながら唇を濡らすのだった。