「ここは……」
レオは硬い床の感触に目を覚ました。
目を開けて視界に飛び込んできたのは暗い石の天井と埃と湿った土の臭い。
(また夢? いや、さっきのが夢?)
どちらも妙にリアルだった。
何より、射精した際の気だるさが身体に残っている。
(何かの魔法なのか? くそっ! 魔力さえ使えれば)
もどかしさに歯噛みするレオだが、魔封じの枷を外す手段はなかった。
魔王軍と人間軍の戦いはどうなったのかもわからない。
くそっ!
ガン、ガン、ガン!
レオは鉄格子を必死に揺らすが、堅牢な格子はビクともしない。
「そんなことしても~、その檻は外れませんって~」
気だるげな声がしたと思ったら、半透明の肌をした少女が格子越しに現れた。
「誰だ? 魔物……?」
「まぁ~、スライムから進化したから魔物っちゃ~魔物ですかね~。でも、リーネって名前もちなんで、それで読んで欲しいですね~」
スライムといえば最下級のモンスターだ。
なんとかリーネを捕らえて鍵を開けさせられないか?
ここにいるなら、彼女は鍵番の可能性は高いはず。
手の届くところまで近づけさせれれば……。
どうすれば近づけさせられるか、と考えるレオだが、それを裏切るようにリーネはペタペタと床を濡らしながらレオが捕らえられた檻へと近づき、
「そ~そ~、魔王様が勇者を呼んでるんですよ~」
瞬間、リーネの身体がドロリと変化。
まるで獲物を捕らえる蛇のようなしなやかな速度でレオの身体にまとわりつく。
「な、なにをする!?」
ただのスライムなら魔力なしでも引きちぎれる。
そう思って力を入れるレオだが、リーネの身体はまるで鉄の様に硬く、身体を縛る液体ボディを広げることすらできない。
「このぉぉぉぉぉ!」
「アハハ! 勇者ってば受ける~。これでも~私って~幹部クラスの強さなんで~ただの人間がどうにかできるわけ~ないんですよね~」
腰からしたが蛇の身体になってレオを縛り上げ、上半身は少女の姿のリーネはまるでラミアの様だ。
「ほら、いきますよ~」
ドッ!
レオを縛ったまま腰を真横に捻ったリーネの動きに合わせ、レオは硬い床に叩きつけられる。
「がっ!」
受け身もとれず、呻くレオを下半身でとらえたまま、リーネはズルズルと這いながら、レオを連れていく。
「は、はなせっ!」
人間とは到底思えない、動物ですらない扱いに屈辱で顔を歪まずレオだが、リーネは気にした様子もなく、
「暴れないでもらえますか~? どうせ逃げられないんですし~? あぁ、面倒だから、気絶させますね~?」
ミシミシミシミシ!
「あがぁぁぁぁ!」
身体に巻き付いていたリーネの身体が更に硬化したと思ったら、そのまま万力の様に全身を締め上げてきたのだ。
「痛いですか~? まぁ、死んでなければダークプリーストもいるから治してもらえますって~。はい、じゃ~もう一息で落としますね~」
残忍な台詞を平然と呟いたリーネはふっ、と息を吐くと、一気に力を入れてレオの意識を落としにかかる。
メキメキメキメキメキィ!
「あががっぐっごぁがぁぁぁは!」
巨人に握り潰される様な力で首までも締め上げられたレオは酸欠と激痛の中、意識を手放してしまうのだった。
◆
「ねぇ、リーネ」
玉座に座り、脚を組むエリスは足元に転がるレオをブーツな爪先でつつきながら頬杖ついていた。
「どうされました~? 魔王様~」
「勇者を連れてきなさいって言ったけど、なんでこんなボロボロなの?」
慈悲に与えたボロきれも破れて、裸になり、肌も真っ赤に擦れ、全身内出血で暴行も受けた様だ。
「あ~連れてくるとき暴れたので~、少し痛め付けただけですよ~」
「まぁ、首から上が動けばいいか。手足が折れてるならかえって調教もしやすいわね」
エリスは少し考えてからリーネを咎めるのをやめ、このまま今日の予定を進めることをした。
「起きなさい! 負け犬」
ゴツ!
「っ!」
頭に硬く尖ったものが強く当てられ、レオはなんとか意識を取り戻したが……。
(痛いぃ!)
全身を焼けるような痛みが走り、身体はまったく動きもしない。
しかも――。
「な、なんだ、この、どけろ」
「あらあら、威勢がいいわね」
エリスのブーツが頬を踏みつけていたのだ。
紫のレザーブーツ。
その靴底には細かい滑り止めがまるで歯のようにレオの皮膚を捕らえ、食い込んでいた。
そんなもので踏まれている。
勇者として、誰からも尊敬されてきたレオにとって他人に顔を踏まれるなどありえない行為。
屈辱でしかない、この行為だが、折れた手足ではそれを振り払うこともできないのだ。
「でも、その威勢もこの後の報告を聞いても、もてばよいのだけど……」
「報告……だと?」
「キルメイサ……報告を」
グイ、と頬を押して横を向かされたレオ。
床と靴底に挟まれたまま、レオは玉座の間に膝まずく魔族の姿を見せつけられる。
(こいつら全員、魔力さえ戻れば!)
足置きにされているレオに蔑みの眼差しと嘲笑を向ける魔族に憎悪すら感じられた。
「はっ!」
エリスが呼ぶと、黒い人間の軍服の様な装束をきたダークエルフが一人、膝まずいていた。
女将校みたいだ。
(ダークエルフまでも俺達と敵対してるのか……。魔族だけでなく亜人までもか)
獣人らしい配下も見えたのを考えれば、人間以外が魔王軍についていると見てもよいのだろう。
いや、人間すら魔王軍に内通している者もいる。
この戦争に勝ち目など初めからなかったのではないのだろうか。
圧倒的な種族数の差にレオの目の前は真っ暗になりそうだった。
絶望するレオに追い討ちをかける様にキルメイサはエリスに求められた報告を述べる。
「エスキア要塞での戦いは、我々が勝利しました。原住民と兵士を含め、約2000人の人間を捕らえております。処分はいかが致しましょうか?」
「そうね~、見せしめに処刑してもいいけど、それも手間ね。生かしておくのも反抗されたら困るし、どうしましょうか。どっちでも私としては構わないのだけど……」
「なっ!?」
キルメイサの報告とエリスの呟きにレオは絶句した。
エスキア要塞と言えば、人間と魔族の境界線に建てられた要塞だ。
あそこが落とされたともなると、魔王軍の侵略は一気に次の要塞まで簡単には進められてしまう。
人間領は大きく狭められてしまう。
それに2000人もの捕虜をとれるほど圧倒できたのか?
レオは勇者不在の人間軍の弱さを嘆くしかない。
同時に彼らをエリスは人質にしている、と言外に言っているのだろう。
だからこその、この強気な態度なのだ。
そして、エリスはサディスティクに目を細めると、爪先を動かし、踏みつけるレオの顔を上へと向けた。
ブーツ越しにこちらを覗き込む深紅の瞳と目が合う。
「ねぇ、勇者としてはどうする?」
「どうする……だと」
エリスは選択肢などないと理解していた。
勇者が自分の命可愛さに人間を見捨てられないことを……。
(こいつは俺の口からわざわざ言わせるために……!)
なんて性格が悪いやつなんだ。
だが、答えは決まっているのだ。
「彼らを……助けれるのか?」
勇者である以上、選択肢はないのだから。
「フフ、それを望むならそうね~。レオが私に屈服した証でも立ててもらおうかしらね~」
エリスは勝ち誇った笑みで髪をかきあげると、顔を踏む足を揺らしながら愉しげに言った。
「屈服した……証?」
「そう……敗北の証として……私の足を舐めなさい🖤」
「なっ!?」
捕虜2000人と引き換えに出された要求にレオは絶句したのだった。
異無
2022-07-24 10:01:26 +0000 UTCカボチャ紳士
2022-07-23 17:54:21 +0000 UTC