狂気のオークションが閉会し、リルとアグニは城へ戻っていた。
「………………」
帰り道がどんなものだったかすら覚えていない。
アグニの脳裏にはあの会場の光景が何度も何度も再現され、目を閉じれば奴隷にされ、買い取られた男達の悲鳴が耳を苛む。
正常な精神をしているものには、まさしく悪夢と呼べる光景だったのだ。
目にした現実に徹底的に打ちのめされたアグニは俯いたまま拘束されていた。
だが、それも当然だろう。
今まで信じてきた価値観が全て覆されて平静を保てる方がおかしいのだ。
そんなアグニを足元に這いつくばらせ、リルは優雅に紅茶を飲んでいた。
(ンフフフ、もう壊れちゃったわね~。これからは私の従順な奴隷に仕上げないとね🖤)
アグニもまたエルヴィスやハルトと同じく奈落への道へと転がり落ちたのだ。
そしてそこから上がる術などリルは与えない。
壊して、壊して、壊して、壊す。
(全てを奪い尽くしてあげるわ)
リルにとって男は愛する対象ではない。
なぜなら、リルにとって男とは、支配する対象なのだから……。
「アグニ」
ジャラリ……。
「う……」
「返事!」
「は、はぃ!」
「フフフ、いい声ね♪ 私が呼んだらすぐ返事をなさい? わかった?」
「はい」
「リル様が抜けてるけど? 誰に対して返事をしたの?」
「はい、リル様!」
(フフフ、いい傾向ね。気づいてるのかしら? もう私の命令に従ってることに。女性を恐れていることに)
アグニの中に芽生えつつある感情にリルはニヤニヤが止まらなかった。
「そうよね? ところで、アグニってなんなの?」
小首を傾げながらわざとらしく訊ねるリルに、アグニは身体を縮めながら?を浮かべた。
「え? なんなの……とは?」
「んー、男なのかと思って」
「男……ですけど」
「そうよね、男よね。なら、アグニは人間じゃなくて奴隷よね?」
「え?」
「ね?」
「ひぃ! は、はい、リル様」
リルが少し凄んだだけで、アグニは頷いてしまった。
(アハハハハハ! あの会場の光景が衝撃的だったみたいね! やっぱり、この年の男は染めやすいわねー)
リルの政策にもっとも順応したのは子供だった。
(孤児院や村に設けさせた奴隷農場を査察した際の子供達は笑えるほど見事な挨拶をしてきたっけ)
若い価値観というのは柔軟と言われるが、逆に言えば染まりやすいのだ。
「賢い奴隷は好きよ。だから、ご褒美をあげるわ」
偽りの優しさで微笑みかけたリルは足首を動かし、ヒールを脱がす。
そのまま足をそらしてヒールを床に転がした。
カタン……。
冷たく輝くヒールが床へと転がる。
その靴に隠されていた白い艶のある美しい足。
足の裏は仄かな赤みを帯びて、整った指先や足の裏は湿っているのがわかる様に汗で光っていた。
「あ……」
(綺麗な足……。あれ?)
無意識に魅入ってしまった自分に気づくと、アグニは頬を赤らめた。
「あら、どうしたの? 顔が赤いようだけど、風邪でも引いたの?」
「ち、違います。大丈夫です……」
「フフ、可愛い子ね。それとも、私の足の臭いに興奮したの?」
「そ、そんなことありません!」
「嘘つきな子は嫌いよ」
「うぐ……」
「まぁ、そういうところは調教しがいがあるけどね」
リルの言葉にアグニはドキリとしてしまう。
(なんだよこれ!? 俺は何を考えて……)
「ほら、舐めなさい」
スッ……。
リルはアグニの目の前に右足を差し出した。
むっ、とすえた特有の臭いが鼻を刺すが、不快感はない。
すでにアグニの身体はリル臭いに反応するようにされていたからだ。
ここで耐えれれば、また運命は変わっていたのかもしれない。
しかし、アグニにはそれができなかった。
「はい……」
おずおずと舌を伸ばし、ピチャリ。
ペロペロ……。
「ん、ふぅ、はむ」
ペロペロ……。
口に広がる塩っぽい味とベタついた食感と暖かさ。
不快なはずのそれが、アグニにはとても美味しく感じられて、いつの間にか必死に舐めていた。
「もっと、丁寧になめなさい。この豚奴隷」
「ぶ、ぶた奴隷?」
「そうよ、だって、あなたは豚じゃない。私の奴隷だもの。奴隷が主人を不快にさせないために奉仕するのは当然でしょう? それとも、こんな惨めな姿を晒してるのに、否定するつもりなのかしら?」
「うぅ、はい。わかりました」
罵声を浴びせられているのにも、彼女に構ってもらえると言う喜びに感じられ、頭がフワフワしてしまう。
(く、屈辱だ。こんな奴の命令にしたがうなんて。でも……)
だが、逆らうことはできなかった。
リルに反抗すれば殺されるかもしれないという恐怖心。
そして、リルに隷属したいという欲望。
(な、なんだ、これは)
自分の中に芽生えた感情にアグニは困惑していた。
そして、そんなアグニにリルは優しく語りかける。
「いい子ねぇ、じゃあ次は左足も舐めましょうか」
「はい」
(おかしいぞ……。俺の心は一体どうなってるんだ)
混乱するアグニを尻目に、リルはゆっくりともう片方のヒールを脱いだ。
「ん……」
外気に晒された素足から熱が奪われねいく感覚。
ゾクリッ……。
リルはその心地よい刺激に身を震わせる。
さらにリルは薬瓶を手にとると、中身を傾けて爪先を濡らした。
「さぁ、こっちの足を綺麗にしなさい。お前の大好きなお薬つきよ?」
「ぁ……あぁぁぁぁぁ」
(もう、だめだ)
股間の疼きが思考より性欲を優先させてしまった。
そして、身体は知ってしまったのだ。
リルの足に服従する快感を。
もはや、思考することを放棄したアグニはリルの足へ口をつけた。
一国の王子が完全に落ちた瞬間だった。
ピチャ……ペチャ……。
「ん……、ちゅぱ……」
「フフ、いいわ。とても気持ちいい」
「あ、ありがとうございます」
「じゃあ、今度はしゃぶりつくように舐めて」
「はい」
ピチャ……ピチュ……。
「ん……、そう。上手ね」
リルは目を細めると、アグニの頭を足で撫でた。
「フフ、いい子にはご褒美あげないとね」
哀れな奴隷に落ちたアグニを見下ろしながら、リルはニッコリと微笑むのたった。