奴隷競売。
貴族の令嬢達が行う男奴隷の競りだ。
雄奴隷として調教を受けたもの、飽きられて廃棄されたたが、殺処分ではなく、中古品として出品されたものが令嬢達によって売買される。
奴隷に意思はなく、買い取られた令嬢の所有物として扱われるのだ。
「やっと来たの? 遅かったわね」
「申し訳ありません。リル様」
「ミーシャが悪い訳じゃないでしょ? どうせ、これがちゃんと歩かなかったからでしょ?」
高みからこちらを見下ろすリルは侮蔑と愉悦を含んだ眼差しでこちらを見下ろしていた。
「…………」
「あら、ずいぶん従順ね。薬が効きすぎちゃったのかしら?」
「二本飲ませたから、服用させ過ぎましたか」
「いいわよ別に。それだけのんだら、効果はより強くなるから。あぁ、でも、素顔を晒すのは困るし、顔は隠さないとねぇ」
わざとらしくマスクでもないからしらと、呟いたリルは周りを見回し、それらしいものがないと確認すると、ミーシャを呼び、耳元で囁いた。
「クス! 畏まりました」
楽しげに頷いたミーシャはリルの足元へ恭しく膝まづく。
リルはそれにたいして、仁王立ちの形で足を開いていた。
そのままミーシャはリルのドレスの中に顔を入れると、
スルスルスル……。
衣擦れの音と共に紫色の薄い布を手にして頭を出す。
「これ、何かわかるかしら?」
「…………」
わからない。
ヒラヒラのレースが編み込まれ、高級なものだとはわかるが、思考の鈍った頭では答えにたどり着かない。
「まぁ、知能の低いお前でもこうしたら理解できるかしらね?」
「は~い、奴隷候補にひったりのマスクですよ~」
リルが顎で指図すると、ミーシャが布を頭に被せた。
二つの穴の間それを被せられた姿が鏡にうつる。
「…………」
パンツだ。
脱ぎたてで、暖かさの感じられるパンツが顔をかぶせられている。
本来なら激怒して脱ぎ捨てているはずなのに、この惨め極まる姿が気持ちよく感じられてしまう。
股間の疼きが一層強まり、頭がさらに熱をおびてきていた。
鼻に被さった部分から漂う濃厚なチーズの様な臭いに頭がクラクラする。
雄の本能を刺激する臭いは余計にアグニの性欲を刺激し、股間からはわずかに透明な汁が垂れていた。
恥辱の快感に溺れつつあるアグニの耳に新たな足音が近づいてきた。
カツ、カツ、カツ。
「リル様、オークションの準備が整いました。お席にご案内いたします」
「あら、サリー。いつもありがとうね」
「クスクス……新しい商品ですか?」
「フフ、まだ秘密よ。上手くいったら、来年は外国の奴隷も入荷できるかもしれないわ」
「それは素晴らしいですね。リル様の威光がさらに広まるのは我々の望むとこですら」
「私もそのためなら努力は怠らないわ。この子もその一匹なの」
「まぁ! 国外からの奴隷だなんて。今日のオークションは気合いが入りますわね!」
「フフ、気合いなんかいれなくても、ありのままを見せてやればいいわ。それで、十分、男の価値と言うものが伝わるでしょうから!」
「光栄ですわ」
ホホホホ、と笑い合う二人は実に楽しげで、アグニは、自分のことは忘れられているように感じられてしまい、どこか寂しさを感じられた。
(どうしちゃったんだ。本当に、こんな感情を抱くなんてありえないだろう?)
こんな仕打ちを受け、性癖や心までも変えられているのに、アグニはそれすら心地よく感じつつあったのだ。
「ほら、アグニ いらっしゃい。お前には特等席で、男というものがいかに下等で卑しい生き物か見せてあげるから」
チャリン!
リルはアグニのリードを乱暴に引っ張ると颯爽と奥へ進んでいく。
「うっうっ!」
苦しげに呻きながら、四つん這いでその後ろを引きずられるアグニの姿はまるで囚人だった。
◆
「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
蝶々を模した仮面をつけたリルと、同じく仮面をつけた女性が優雅に挨拶していた。
オークションは身分差をつけない、と言うとこで、正体を隠せるようにのサリーの配慮だ。
会場には何人もの男達がアグニと同じように全裸で、家畜のようにはい回っている。
ただ、アグニとは違い拘束されて四つん這いにされているわけでもなく、首輪やこんなパンツを被らされているわけでもない。
「あら、その子は? 出品するわけでもないですわね」
「えぇ、男の価値が理解できていない、躾の一環で連れてきたの」
「そうでしたの? 確かにここなら男の価値はすぐにわかるわね」
仮面の女性は何やら思い付いた様に笑うと、手にしていたタバコを咥えると、
「灰皿!」
会場に響くような鋭い声をあげる。
「はいぃ!」
悲鳴のような声が背後で響いたと思ったら、四つん這いの男がドタドタと女性の側まで走ってきた。
四つん這いとは思えない速さは日常的にそうやって過ごしているからだろうか。
「遅いわよ! 灰が落ちて絨毯を汚すつもりかしら」
「も、申し訳ありません」
「まったくクズね、ほら」
「あ、ありがとうございます!」
理不尽な言葉を浴びせられていた男は正座のまま、仮面の女性を見上げると、大きく口を開いた。
え?
なにを?
トントン。
まるで付き人が差し出した灰皿に灰を捨てるかのように仮面の女性は男の口の中に灰を捨てた。
「ありがとうございます。女王様」
しかも、男は心の底からそう感じているように床に額を擦り付けて土下座していた。
「ほら、もういきなさい」
「はい」
チュ。
男は仮面の女性のヒールに恭しくキスすると四つん這いのまま何処かへ行ってしまった。
そのやり取りをアグニは呆然と見ていた。
なんなんだ?
なんで嬉しそうなんだ?
あんなことをされて……。
「理解したかしら? 男なんてその辺の灰皿と変わらないのよ?」
そんなアグニの混乱を嘲笑うように仮面の女性はいい放つと、ドカッと席に座るのだった。