「恭子……結婚してくれ」
「啓介さん……喜んで」
この日、俺は二年間交際していた彼女にプロポーズして結婚を誓った。
人生で最高の日を迎えた俺は喜びながら、家へと帰って休みをどうすごそうかと楽しく考えていると――。
ピロン♪
「ん?」
着信?
誰からだ?
もう終電も終わりの時間に会社ではないよな?
L●NEだし。
首を傾げながら携帯の画面を見た瞬間、俺は背筋を正した。
彼女の白雪恭子が、世界で最も愛しい女性だとするなら、この相手は世界で最も崇拝している女性からだった。
文面は短く、俺を下僕として見ているのがよくわかる内容だった。
「終電過ぎたから迎えに来なさい。●駅よ。一時間以内に」
「はい! 礼子様!」
誰もいない部屋で返事を反射的にした俺はあわてて車のキーをとると、部屋から飛び出す。
エレベーターに飛び乗りながら、すぐにL●NEに返事を打った。
「現在自宅に降りますので、早急に迎えに参ります」
「何時につくの?」
●駅ならすぐだ。
「30分以内には伺えます」
「じゃ、ロータリーにきたら連絡なさい。カフェにいるから」
足として扱われているのが、メッセージ越しでもありありと感じられ、俺は股間を熱くした。
礼子様に出会ったのは三年前。
彼女が高校生の時だ。
パパ活相手募集と言うサイトであって、高校二年間はホテルなどはいかなかったが、カラオケなどでいじめられたことはあった。
そう……会ってすぐに礼子様は俺がマゾだと見抜き、パパではなく奴隷として飼育されたのだ。
可憐な高校生とは思えない大人びた眼差しで俺を見下していた礼子様の姿は今でも脳裏に焼きついている。
初めて忠誠を誓わされ、履き潰されたボロボロのローファーは家の神棚に飾られ、家に遊びにこられた時は必ず拝見されていた。
その度に笑われ、バカにされるだけで、俺はパンツにシミを作ってしまう。
「そろそろか……」
礼子様との惨めながらも輝かしい
日々を思い返していると、駅についてしまった。
楽しい時間はすぐに過ぎるな。
俺はすぐに携帯を開き、礼子様へと連絡をいれる。
「到着しました。礼子様」
「早いわね。そこで待ってなさい」
どこかで監視しているのだろうか。
こちらからは見えないのに、礼子様にはこちらの動きを把握されていると思うと、支配されていると実感できてゾクゾクした。
すでに終電を過ぎた駅は無人駅の様に、閑散としていて、人気はほとんどない。
婚約した恭子に罪悪感を感じながらも抑えられない欲望に俺は礼子様との関係を切れなかったのだ。
コンコン。
「お待たせ♪」
窓ガラスが叩かれ、笑顔の礼子様が姿をお見せになった。
飼い主が現れたことへの喜びもあったが、俺はそれ以上に動揺していた。
大学生になられたはずの礼子様は何故かセーラー服を纏われ、お一人ではなくもう一人同じセーラー服の女子がいたのだ。
ご学友なのだろうか?
だが、礼子様との関係を見せていいものか?
「…………」
悩んでいる俺に対し、礼子様は空気を吸うように命令した。
「なに呆けてるのよ。早くしなさい」
「は、はい!」
俺の動揺など気にもとめず、礼子様はいつもの様に、車のドアの前で待たれていた。
ドアの開け閉めは俺の仕事だと教えられている。
慌てて運転席から降りると、すぐに後部座席のドアを開く。
「お待たせしました。礼子様」
「ね? 言った通りでしょ? ちゃんと迎えがくるって」
「礼子ってばいつの間に彼氏作ったのよ? しかも、年上の社会人とか」
「彼氏のわけないでしょ? こいつは私の奴隷なのよ。だから、迎えにこいって言えば何時でも来るし、なんでも言うこと聞くわよ?」
「まじで!? 嘘でしょ?」
「嘘じゃないわよ! じゃ、証明してあげるわ」
礼子様は面白い見世物でもある様に笑うと、カツン、とブーツのヒールを鳴らしてアスファルトを踏みつけた。
セーラー服だったからローファーかと思ったが、お二人ともブーツを履かれている。
まるでコスプレだ。
いや、今日は遊園地に出かけられると仰っていたからコスプレして行ったのか。
などとバカな考えをしていた俺だが、ヒールの音で反射的に足元へ視線が落ちた。
「ほら、とっとと舐めなさい。バカ犬」
礼子様の目付きがいつの間にか俺を調教する眼差しへと変化していた。
あぁ……。
あの蔑みと傲慢さが入り交じった冷たい眼差しに貫かれると、どうしようもなく心が浮き立つ。
ここが外で、見ず知らずの女性が見ているのに、俺はいつものように土下座していた。
硬く冷たいアスファルトの痛みが火照る身体にここが外だと言うことを思い知らせてくる。
ご学友様が興味津々で俺を高みから観察されていた。
一回り近い年下の少女二人に道端で土下座させられている。
端から見れば異常な光景だろう。
だが、俺にはそれが心地よかった。
闇の中でも黒い輝きを放つブーツ。
何度もご奉仕したブーツ、いやブーツ様だ。
「本日も下等な私を礼子様の足として使っていただき誠にありがとうございます」
「フフ、ほら、感謝してるならわかるわよね」
土下座した頭を硬い爪先で小突かれた。
なんて惨めなのだろう。
全裸だったら、興奮して射精したからもしれない。
すでに俺の股間からは我慢汁がでているのが、わかる。
そのまま顔をあげると、俺は礼子様のブーツへと舌を這わした。
ペロ、レロ、ペチャ。
「ね? 本当でしょ?」
「うわ~、ブーツ舐めるとかまじで引くわ~、変態じゃん」
礼子様の後ろにいた女性が小馬鹿にした口調で笑っていた。
礼子様のご学友もかなりのサディストなのだろう。
「ねぇ? ブーツって美味しいの?」
引くといいながら虫を枝でつつく子供のように足で俺をつつきながら訊ねられてくる。
「おいひぃれふぅ」
「きゃはは! まじで? こんなのが美味しいんだ? なら、私のも舐めてみる?」
「ほら、愛のブーツも舐めなさい」
ペロ、レロ、ペチャ。
奴隷スイッチが入った俺は思考を捨て、人形のように礼子様の命令に従い、目の前にあるブーツを舐めた。
「……」
「うわっ、本当に舐めてるよ~! 美味しい? お兄さん?」
「おいひぃれふぅ。愛様」
「ハハハ! 愛様とか受ける~!」
二人の少女は笑い合うと、ブーツを舐めさせていた。
一人は当たり前のように、もう一人は奇妙な生き物を観察するかのような眼差しで……。
俺は、これから行われるであろう行為を想像すると、幸福感に包まれた。
期待に胸が高まりすぎて心臓が破裂してしまうのではないかと思うほどドキドキしている。
「あはは、ち●こ勃起させてる。もう待ちきれないみたいね!」
「いやいや、こんな駅でち●こ出させたら、それこそ警察来ちゃうから!」
「そうね。それに君って礼子のアッシーだから射精なんかいらないわね♪」
「まぁ、でもただアッシーにしてもつまらないし、今日はお前の変態っぷりをもっと愛にも教えてあげましょう♪」
「え? なに? なに?」
「フフ、それは見てのお楽しみよ!」
二人は俺を踏みつけながら楽しげにそんなことを言うと、ブーツで踏みつけていた足をどかしていく。
ゆっくりと地面から立ち上がった俺は、震えていた。
寒さによるものではなく、興奮からだ。
「ほら、変態。いつもの準備しな」
「はい……」
俺はこれからの行為を想像してしまい、緊張と興奮で胸が高鳴ってしまう。
あぁ、壊れる。
礼子様の笑顔が蔑みが心地よくて、俺は人の尊厳を出会うたびにうしなっていく。
◆
「ほら、早く靴を履いて」
「はい……」
「これ、カツラ? 本格的~♪」
「でしょ? こいつは根っからのマゾだからね。危ないプレイは大好物なのよ」
俺は促されるまま、ショートブーツに脚を通した。
履き慣れないハイヒールはひどく歩きづらい。
「アハハハ! 綺麗だよ? おに、おねぇさんかな?」
「なんだっていいわよ♪ ま、こんなの変態で十分だけどね」
「そうね。いくよ、変態」
初対面の愛様もブーツを舐めるような男を人と見なしていないらしく、容赦なく俺を小馬鹿にしてくる。
さすが、礼子様のご友人。
俺は二人に連れられ、裸に黒革コートという姿で駅の中に入る。
終電の時間はすでに過ぎ、駅は閑散としているが、人がまったくいないわけでもない。
まばらにいる人々は奇異なものを見るような目でこちらを見ているが気にしない。
どうせここで起こったことも他人はすぐに忘れる。
「あら、ちょうどいいところに駅員がいるじゃない?」
礼子様の声に振り向くと、若い男性が改札近くであくびをしながら立っていた。
あぁ、ダメだ。
もう汁が垂れている。
「すみません」
礼子様が声を掛けると眠そうな目を向けられた。
「はい、どうしましたか……?」
「この人をお願いします」
男性職員の前に押し出された俺は、礼子様に言われた通りの言葉を口にする。
「私、変態です」
恥ずかしさで声が震えた。
「へ、変態? どういうことですか?」
当然の反応だろう。
いきなり現れた全裸の男が突然おかしなことを言い出すのだ。
頭がおかしいと思われても仕方がない。
だが、礼子様の娯楽になれるならこんなことでも喜んでできる。
「私、露出狂なんです。全裸になって歩いてました。それで、今すぐヤラシイことがしたいんです。ほら、見て下さい」
俺は股間に手を持っていくと、勢いよくイチモツを振り上げた。
「え!?」
「きゃはは!」
「きっもぉぉぉ!」
驚いた表情の職員を前に礼子様達は大笑いをしていた。
あぁ、礼子様の声、愛様の声がいい。
「あのですね、冗談でもこんな公共の場でそういったことは言わないようにしましょうね?」
「本当ですよ! ほら」
俺は股間を指差す。
そこには先ほどまでの萎えた性器はなかった。
あるのは硬く天を仰ぐ己の分身のみ。
「マジ……なのか」
信じられないという顔の男性を見ながら、礼子様達が爆笑している。
「では、失礼致します」
それだけ言うと踵を返し、駅を出ていった。
その後ろ姿を呆然と見送る職員の顔は忘れられないだろう。
お二人を乗せ、自宅まで送迎中、礼子様と愛様は愉しげに笑っていた。
「面白いわね。あなたって人前であぁいうことができるんだ~?」
愛様が興味深そうに聞いてくる。
「いえ、礼子様の命令ですので……」
「へぇ~、でも、お前もしてみたかったんじゃないの?」
後頭部に礼子様のブーツが当たる。
後部座席でふんぞり返った礼子様のおみ足が頭を蹴ったのだ。
俺は気まずげに視線を逸らす。
「またやってみたいと思いまして」
「アハハハ! ちょ~へんたい!」
「ね? こいつって最高の玩具なのよね」
「いいな~私も探そうかな~、変態のお・も・ちゃ」
二人は俺の返答に満足したのか、高らかに笑いながら話していた。
年下の少女達に心の底から軽蔑され、見下されている。
惨めで情けなくて胸が潰れそうなのに――。
俺の勃起はとまることはなかった。
「じゃね、変態♪」
「ご苦労様🖤」
自宅の近くでお二人を降ろした。
礼子様も愛様も俺のような変態には家を知られたくないそうだ。
召し使いとしては情けない言葉だが、仕方ない。
命令された公園の駐車場に止めると、すぐに後部座席をあける。
二人は颯爽と席を降りると、そのまま住宅街へと歩いていく。
俺は二人の姿が見えなくなるまで見送ると、静かにお辞儀をして自宅へと戻るのだった。