地下室のさらに奥にある隠し部屋。
防音設備が完全に施されたこの部屋の存在はリルとロキ、そして拷問される生け贄しかしらない。
だが、今日は二人きりだ。
しかし、生け贄は存在した。
「はぁ、はぁ!」
ガチャ、ガチャ!
必死に鎖を引きちぎろうとするのは、ロキ。
いつもは生け贄を拘束するはずの鎖が、今回はロキを獲物に自由を奪っていた。
「ねぇ、ロキ。本当に信じられないわ」
どこか暗い感情を宿す声で呟くのは、この国の女王となったリルだった。
拘束したロキを豪奢な椅子に座って、じっと見つめている。
そこにはいつもの様な愛情はなく、静謐な怒りが静かに爆発するのを待つように、渦巻いている。
本来ならここでの椅子はハルトだが、ロキにも服従してしまったハルトを連れてくることはできない。
万が一にでも、ロキを自由にされたら困るからだ。
両手足を拘束して大の字に壁に固定したリルは足を組み、頬杖をついてため息を吐く。
「あんなに愛してあげたのに、この私を裏切るなんてね……フフフ」
怖い。
ロキは心の底から震えた。
今までの敵にした猛獣や、反乱した貴族の軍よりもリルが怖い。
奴隷時代から姉としての序列がやはり本能まで刻み込まれているのだろうか?
「ち、違うんだ! リル!」
「何が違うの? 解放してあげた恩を忘れて他の女と寝るなんて……許すと思うのかしら?」
ヒュ! バヂィィィィ!
乾いた音が炸裂し、ロキは苦悶に顔を歪めた。
「うぐっ!」
脇腹に赤く浮き上がった線の痕はリルが今しがた振るった鞭の痕だ。
可愛さ余って憎さ百倍。
自分を裏切ったロキに対し、注がれていた愛情が憎悪へと全て反転されたのだ。
「さすがに痛みには強いわよね。ロキは剣奴だったわけだし?」
ハルトやエルヴィスに向けていた氷の微笑を湛えたリルの腕が再び動き、
バヂィィィィ!
今度は振り下ろした獲物に鞭が食らいつくように下から掬い上げられ、同じ場所を的確に打ち据えた。
「くっぅぅ!」
連続で同じ場所を打たれ、熱がロキに痛みを伝えてくる。
「やめっ」
「やめて欲しいの? 私が受けた痛みがこの程度だと言うのかしら? え? は?」
許しを乞うロキに対して怒りをあらわにしたリルの鞭が嵐のように振り回される。
バチ、バヂ、バチィ、バチィン!
「かはっ! やべっ! ぐぅ!」
振り下ろし、引き打ち、振り上げ、横打ち……。
あらゆる角度から振り回される鞭をロキは防御することすら許されなかった。
圧倒的な怒りの暴力がただ静まるのを待ち、耐えるしかないのだ。
身体中が焼けるような痛みには覆われる中、ロキは歯を食い縛ってリルの怒りが収まるのを待つしかないのだった。
◆
「リル……ゆるして……」
全身を真っ赤に腫れ上がらせたロキはなんとか言葉を絞り出した。
拘束台から解放されたロキだが、動けないように手枷と足枷はつけられたままで、芋虫のように硬い床へと這いつくばっていた。
息は荒く、汗が滝のように流れていて、目はかろうじで開いているが、灯る光は弱々しい。
気を抜くと意識を失いそうな状況だった。
そんなロキを見下ろすリルの目は冷たい。
まるで虫けらでも見るような冷酷さをもった瞳だ。
「許して欲しいの? なら、わかるわよね? 許しを乞う時は……どうするのか?」
リルの目に嗜虐的な光が帯びた。
組んだ脚を解くと、爪先をロキの顎へとひっかけて無理やり上を向かせる。
「私って気紛れなのね。あれだけ大事に思ってたロキが今はただのゴミに感じてしまうのよ」
一言一言がまるで剣の様に、ロキの身体を抉る。
リルが本気になれば、今のロキですら死ぬ。
なにせ、ロキの地位はリルの寵愛を得たからのものなのだから。
「ごめんなさい……許してください……お願いします」
その事実を思い出したロキの顔が青ざめる。
プライドも何もかも捨て去って、必死になって土下座をした。
どんな屈辱的で恥ずべき行為であっても構わない。
とにかく今殺されてしまえばすべてを失うことになってしまうからだ。
「ふーん……それで? 謝罪の言葉も何度も聞いたし、誠意は伝わってるつもりだけど?」
「僕は……リルを愛しています……だから……もうこんな事しないと約束します……許してください……」
「本当に?」
「はい……誓います……!ですから……どうか命だけはお助けください……!」
「そう、わかったわ。それじゃあこれで許してあげる。私の愛したロキに戻る事を期待しているわ?」
ロキの懇願を聞いたリルは今まで見たこともないくらいに優しい笑顔を浮かべると、
「じゃ、その愛を見せて頂戴?」
ヒールを脱ぎ、パンストに包まれた爪先を露にした。
もわっ、と湯気が立ち上るほど蒸れた爪先。
汗を吸いきれず変色したパンストからは、ポタリと汗が落ちていた。
「………………」
「ほら、嗅ぎなさい? さんざんやってきたわよね? 私の力でここまでこれた奴隷の分際で私を侮辱したのよ? これくらい当然よね?」
言葉の鞭が容赦なくロキを打ちすえ、精神をいたぶった。
「ほら、嗅げ」
冷徹なリルの眼差しは一切の慈悲はない。
なにがなんでもリルはロキに臭いを嗅がせるつもりだった。
(くそ……なんでこんな事に……)
惨めで情けない気持ちになるが、仕方ない。
やらないわけにはいかない。
痛みに比べたら我慢できなくもないはずだ。
ロキは自分に言い聞かせながら、ゆっくりと鼻を近付けた。
「すぅ……」
ズキィ!
「うごぅっ! ごふっ!」
鼻を刺す様な激臭に思わず噎せ返った。
これが足の臭いか!?
臭すぎるぞ。
ヒールの皮の臭いと幾重にも熟成した足汗の匂い、丸1日蒸れてかいたコップ一杯にも近い汗。
それらが通気性、吸水性の悪いパンストの中で混ざり合い、凝縮した汚臭となって爪先から漂っていたのだ。
「ごほっ! ごふっ!?」
「アハハ! いい反応ね~🖤 今まではロキに気を使ってたけど、私の足って実はめっちゃ臭いのよね♪」
笑いながら爪先を羽菜に押しつけるリルは心の底から笑っていた。
復讐は蜜よりも甘い、と言うが本当だった。
憎い相手が苦しむ顔がこれほど胸がすく心地よさを味わわせてくれるなんて思わなかった。
ハルトやエルヴィスや他の貴族を苦しめた何倍もの快感をリルに与えてくれた。
「こんな程度で私の傷が癒えると、ロキの償いになるなんて思わないでよ? この後はわかってるわよね?」
グリグリと顔を踏みにじり、臭いをこすりつけるリルは晴れ晴れとした笑みを浮かべる。
「何をすれば……」
「決まってるじゃない……舐めるのよ。この足を」
リルは汚臭を放つ足指を閉じ広げしながら、躊躇いなく言い放つのだった。
「おえぇ……ぐぉ……んん」
舌に広がる塩辛い苦味。
鼻を突き抜ける悪臭。
ロキの顔は涙と汗でグショグショになりながらも、夢中で靴下の汚れた親指を口に含んでしゃぶり続ける。
「あら? 随分上手じゃない? 実は舐めたことでもあるのかしら? アハハハハ!! 」
「ん……そんな……ごと……なび……」
「へぇ? そうなの? 初めてにしては上手ね。実は奴隷の素質があるのかしら? あ、元奴隷だったわね🖤」
「はい……」
「卑しい奴隷。それが今では城の騎士団長……。私自らこうして召あげさせてあげたのよ。光栄に思いなさい?」
「はひぃ……ありがほうございます……んぷっ……お……おぉおお!」
リルの挑発に答える余裕などあるはずもなく、ロキは必死になって舐め続けた。
ピチャ、レロ、レロ、ジュプ。
込み上げる吐き気や臭い、舌に
広がる辛さを耐えながら、奉仕を続けるしかった。
リルの意思ひとつで奴隷に戻らされかねないし、ロキは他の貴族の様に、帰る場所などない。
もう以前のような生活は嫌だ。
その想いを込めてロキは奉仕を続けた。
(くそっ! くそっ! 畜生!)
「今日はここまでにしてあげるわ。また明日もよろしく頼むわね? ロキ」
「はひっ」
パンプスを履き直したリルは上機嫌で部屋を出ていった。
舌を黒く汚し、拘束させたロキを放置したまま……。
◆
「ロキ様!?」
新しい屋敷に戻ってきたミーシャが慌ただしく飛び込んできた。
「ああ……ミーシャ……か」
「大丈夫ですか!? 何があったのではす!?」
「くふっ……」
床に座り込んでいたロキが弱々しく笑う。そしてそのまま仰向けに倒れ込んでしまった。
「ロキ様!?」
「何がありましたの!?」
ミーシャ以外にも訪れていたロキの信奉者の1人である貴族令嬢――レイチェル――も駆け寄ってくる。
ミーシャが慌てて抱き抱えると、ロキは大きく息を吐き、
「今日は色々あってな……」
「とてもお辛い目にあった様ですね」
「お痛わしい」
「あぁ、この仕打ちはお前達で晴らしてやるか」
立ち上がったロキの言葉にミーシャとレイチェルは嬉しそうに目を輝かせるのだった。
「仰せのままにロキ様」
「私達はロキ様の下僕ですから」
「あぁ、今日は調教部屋で楽しむとするか」
ロキの言葉に期待で目を輝かせたミーシャとレイチェルを連れて三人は特別な防音処理を施した部屋へと向かうのだった。
「あぁ! ロキ様~!」
「いい臭いです~」
「ははっ! 二人とも犬みたいだな! かわいいぞ」
フカフカの椅子に座ったロキの足元に跪いたミーシャとレイチェルは美味しそうに足を舐めていた。
ペロペロとくすぐったい感触と、貴族を這いつくばらせる愉悦が、屈辱の傷を癒してくれる。
あのおぞましい記憶を塗り替えようとロキは爪先をそらし、無理やり二人を責め立てた。
ジュル、ジュポ、ジュプ。
「ロキ様を苦しめるなんて許せませんわ」
「いくらリル様でもやっていいことと悪いことがありますわね」
「フッ、まぁ、見てろ。それもいつまでも続けさせんさ」
強気な態度のロキに二人はうっとりと表情を蕩けさせた。
ロキが玉座に座り侍る日々を待ち焦がれる。
「私達はロキ様の下僕です」
「ロキ様の望むことならどんなことでも叶えますわ」
「あぁ、作戦が思いついたらお前たちにも働いてもらうぞ」
「「はい!」」
指を咥え、舌を這わせた二人を見下ろしながら、ロキは楽しげな妄想を膨らませた。
玉座に座る自らの姿を想像して――。
異無
2021-12-09 03:12:12 +0000 UTCastaloto02
2021-12-09 01:46:56 +0000 UTC