ここはとある貴人の部屋。
防音設備は徹底され、カーテンにより、外からの監視も防がれ、鍵のかけられた扉の中で何が起きているかなど、誰も知ることはできない。
だからこそ、この狂った関係は維持できているのだが……。
「はぁ、はぁ、リル様」
荒い吐息を漏らしながら苦しげに呻くのは、全裸のハルトだ。
人間が身に付けているはずの衣服は剥ぎ取られ、変わりにつけているのは犬のために誂えた首輪で正面には金属プレートのタグで『ハルト』の名前が刻印されている。
この国で最高の身分のはずのハルトはあろうことか床に四つん這いで這っていた。
その姿は家畜そのもので、銀色の貞操帯が鈍く輝いている。
「なに? ハルト?」
その背中に足を投げ出すリルは、ハルトの背中に乗せている足を退屈そうに組み替える。
王子とは思えない小さな背中はまったく貴族とは思えない情けないものだ。
「しゃ、しゃ、せいを……」
苦しげに呻く声を叩き潰す様に私は言葉を重ねてやった。
「ん? なに? 射精? なんで?」
何を言っているのかわからない、と言いたげに首を傾げるリルにハルトは悲痛な声をあげた。
「もう二週間です。苦しくて!」
フフ、知ってるわ。
でも、苦しめるためにしてるのよ?
「だからなに? お前が苦しいからって私に関係あるの? そんなことより、もっとちゃんと舐めなさいよ。鍵、捨てられたいの」
だが、その態度が逆にリルの機嫌を損ねることになった。
リルは踵で背中をグリグリと踏みにじりながら脅すように呟いた。
(まったく、まだ奴隷としての意識が足りないみたいね。お前が射精するのは私の気分次第なのに)
「な、舐めます! だから捨てないでー!」
悲鳴に近い声をあげながら、ハルトは床に揃えて置かれたヒールに顔を近づけ、舌を出した。
ぴちゃ、れろ、ぴちゃ……。
少し怒ったふりをするだけで、そんな怯えるなんて……調教の成果はしっかり出たわねぇ。
「もっと丁寧に舐めなさい。お前のマゾ王子」
もはや、王子としての敬意や、人間に対する尊厳、遠慮、ペットに対しての慈愛すらない。
文字通り、道具。
今のハルトの身体はリルにとっては、ただの足置きに過ぎず、その舌はただの靴の艶出しのための布代わりにだった。
「クスクス。今日はお前の人生でもっとも大事な日になるんだから、しっかり磨いてほしいわ」
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「フフ、きちんと出来たら『しゃせい』。させてあげるからね🖤」
「本当ですか!?」
「私は嘘はつかないかいわよ♪ お前が今日することはわかっているわよね?」
バカな男だ。
これの頭には性欲が脳みその変わりに詰まっているのだろう。
自分が何をするか教えられているのに、逆らいもしないなんて。
「はい! リル様」
「なら、部屋に戻って準備なさい」
足を背中から降ろしたリルはハルトの顔を軽く蹴り、用済みとばかりに退室させた。
「はっ!」
「フフ、ついにここまで来たわ。さぁ、フィナーレよ🖤」
フラフラするハルトを見送りながら、リルは唇を舐めて湿らして小さく呟いたのだった。
◆
大聖堂。
最も聖なる領域で、とある儀式が行われている。
「ハルト・D・リンドブルム。汝をリンドブルム第17代国王としてここに王位を認めるものとする」
教皇から片ひざを折って跪くハルトの頭へ王冠が被される。
新たなる国王の誕生に参列した貴族が爆発したような歓声を上げた。
「…………」
◆
わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
城のバルコニーに姿を現すと眼下の民衆から歓声があがった。
それに応えるように両手をあげたハルトは堂々とした姿でマントを翻し宣言する。
「私は父と母、そして神々に誓い、この国を、民をより豊かな国にすると約束する! そして、新たな伴侶とともにお前たちを導こう!」
そして、ハルトは横にそそとして佇む女性――リルを紹介するため、横へ一本移動した。
「彼女こそ私の伴侶となるリル・クラウスである!」
「………………」
微笑みを浮かべ会釈したリル。
そして、全ての民の前でハルトが王位を継いだことを証明するのだ。
「では、最後に王として祝福の杯を」
「神々に誓います」
並々と注がれたのは苦い果実を絞った渋汁。
あらゆる苦悶に応えると誓い、これを飲み干すのが儀式だ。
とはいえ、さすがに飲めませんでしたでは洒落にならないから、事前に飲み慣れる様に王位継承が確定時点でハルトは何度かこれを飲まされているから、吐き出したりせず注がれたそれを飲み干せた。
「新国王の誕生である」
わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
教皇の言葉に地響きの様な歓声が響き渡る。
この日、新たなる国王の誕生が歴史に刻まれるだろう。
異無
2021-10-11 22:11:39 +0000 UTC