(15) ピンポーン―― 昼過ぎになったチャイムに、女子大生の星山静はインターフォンの画面を見て、 「あら、お隣の詩奈ちゃん。いらっしゃい。そっちの子は?」 『いとこがうちにしばらく泊まりに来ることになったので、ご挨拶に来ました!』 「ふふっ、そうなの。ちょっと待っててね、いま行くから」 答えて玄関に向かいつつ、静はほくそ笑む。 詩奈の後ろに見えたもう一人の子――詩奈より少し背が高い体に、大きな丸襟にリボンが縫い付けられたパフスリーブの女児用ブラウスと、ピンクギンガムチェックの肩ひも付きブルマーを着て、ピンクと白のしましまニーソックスを履いた「いとこ」。その服装といい、短い髪を赤いボールのついたヘアゴムで強引にくくっているのといい、小学校低学年くらいの女の子に見えた。 いや、正確には――まるでもっと年上の少年が、女子小学生の振りをしているように。 「ふふっ、どうやらうまく行ってるみたいに。あの表情からすると、銀子ちゃんと千香子ちゃんにも、ずいぶん可愛がってもらえたみたいだし、私が仕上げをさせてもらいましょうか」 そう言って玄関を開けると、そこにはすでに二人が待っていた。 「いらっしゃい、詩奈ちゃん。ご挨拶に来たのは、そっちの子?」 「うんっ! ほら、キララちゃん。ご挨拶して!」 「う……は、はい……」 詩奈の斜め後ろに立っていた「いとこ」が、顔を真っ赤にして一歩前に出る。恥ずかしいのか先ほどからずっと、内股気味の膝や、股間の前で合わせた手を、ぶるぶると震わせていた。 「く、日下部、ァ――キララ、です……詩奈お姉ちゃんの、いとこで……しょ、小学二年生の、女の子、です」 「あらあら、ふふっ、二年生なのにちゃんとご挨拶できてえらいわね」 聞いていたよりもかわいいのね――そう言いたくなるのをぐっとこらえ、静は「キララちゃん」にぺこりと頭を下げる。 「初めまして。私は大学生の星山静よ。趣味はお洋服づくりで、近所の幼稚園でアルバイトもしているの。よろしくね、キララちゃん」 「は、はい、よろしくお願いします」 そう言ったキララが、頭を下げたときだった。 「ひっ……!」 短い悲鳴とともに、膝や手の震えが、ガクガクとはた目にもわかるほどに大きくなる。そして次の瞬間、動きがふいにピタリと止まり、 「あ、あ、あ……!」 半開きになったその口から、虚ろな声が漏れる。前かがみに股間を押さえ、頬が赤く染まり、目が潤み、息を荒くしたその様子は欲情しているようにも見えたが、そうではないことを静は知っていた。 「あれ? キララちゃん、ひょっとして――おもらししちゃったの?」 「うっ……!」 その様子に、無邪気に首をかしげて訊ねる詩奈と、言葉に詰まったままなおも動けずにいるキララ。 二人のやりとりに、静は笑いそうになるのをこらえる。 (ふふっ、詩奈ちゃんもなかなか、演技上手じゃない) 彼女はキララの――いや、アキラの身に何が起きているのか、正確に察していた。 アキラが手で押さえているその下半身――その膀胱から漏れ出したものが、ブルマーの下に穿いているおむつの吸水パッドを濡らしているのだ。 わずかに少量のおもらしから始まり、いったん切れた堰からなおも大量のおもらしが溢れ出し、止まらなくなる。意識的な排尿とは違い、制御不能な小水がちょろちょろと尿道をくすぐる感覚は、自分で脇腹をくすぐるのと、人にくすぐられるのとで違うほどの差がある。 男子高校生にもなって、おむつにおもらし――その恥ずかしさ、情けなさは察するに余りあるが、彼の心に屈辱を刻むのは不快感だけではない。苦しいほどに我慢していたおしっこが、少しずつでも漏出していく解放感は、純粋な不快感だけではない気持ちよさをも与えていることだろう。それがまた、少年の心に惨めさを植え付けているはずだ。今にも泣きだしそうになりながらも、どこか恍惚と焦点の定まらないその目から、容易に察することができる。 (ああ、最高――!) 目の前の少年の様子に、静自身もゾクゾクと背筋を震わせる。 「もう、キララちゃんったら、いくらおむつをしてるからって、おもらしすることないじゃない。もしかして、まだおもらしが治ってなかったの?」 「ち、ちがっ――キララ、そんなんじゃ、ないもんっ……!」 女子小学生のような口調で言い返すアキラ。詩奈に仕込まれたせいもあるのだろうが、それはまるで、おもらしのせいで本当に幼児退行してしまったかのようだった。 「うぅ……なんで、どうして、おもらしなんて……」 自分の身に起きたことをいまだに理解できていないアキラは、涙声でつぶやく。 むしろ静の方が、なにが起きたのかほぼ正確に推測していた。おそらくは「挨拶回り」の前に、詩奈から「暑いから水分補給してから行こうね」とでも言われて、即効性の利尿剤入りドリンクを飲まされていたのだろう。 「あらあら、キララちゃん、まだおもらしが治ってなかったのね。もう、小学二年生なのに」 静はにっこり笑う。目の前の「キララ」が、本当は男子高校生であることを知ったうえで。そして今の自分の言葉が、二重の意味で彼を辱めるものであることを分かったうえで。 「さ、よかったらうちに上がってちょうだい。お姉さんがおむつを替えてあげるから。ついでにお姉さんが作ったお洋服を着てくれると嬉しいわ。キララちゃんが着られるサイズのお洋服もあるから、ね」 「は、はい……」 静の言葉の意味を深く考える余裕もなく、アキラは小さくうなずいて、星山宅へと足を踏み入れた。ここが新たな恥辱の舞台として、準備万端整えていることも知らず。 (続く) ※挿絵に英語版を追加しました。Vardei様、ありがとうございます!
Vardei
2021-09-20 11:58:35 +0000 UTC