※(7)の末尾に文章を追加しましたので、そちらもご覧ください。 (8) 「ひっ――」 アキラは目に映る世界の彩度と解像度が一気に上がり、全身の感度が数倍になったかのような感覚に、短い悲鳴を上げた。 空の青さ。木々の緑の鮮やかさ。立ち並ぶ家々はその中に住んでいる人の存在を感じさせ、いつ出てくるかわからない恐怖となってアキラの胸を締め付ける。湿気を含んだ熱い微風が汗ばんだ肌をくすぐるように撫で、ふだんはほとんど露出することのない上腕から、肩の付け根、胸元、そして脚は太ももからほぼすべてが露出していることを、文字通り身をもって教えてくれる。さらには短いタンクトップの裾からおへそや背中までがちらちらと出そうで、いまの自分の姿――サイズの合わない女児用タンクトップとミニスカートを着ていることを、いやがおうにも自覚させられた。 「あ、あ……!」 「どうしたの、お兄ちゃん――じゃなかった、キララちゃん? まだ玄関から出たばっかりなのに、そんなに膝をガクガクさせちゃって。もしかして、人見知りだった? くすくすっ、可愛い~」 数歩前のステップから振り返り、意地悪く笑う詩奈。 しかしアキラは怒る余裕すらなく、まるで狼のいる森において行かれた子供のように、びくびくしながら立ちすくむばかりであった。 「ち、ちが――オレ、こんな格好で、外に出るなんて……!」 「もう、仕方ないでしょ? キララちゃんだって、さっきのままの説明で、納得したはずじゃない。今さらうじうじいうなんて、男らしくないわよ――本当は男子高校生の、お兄ちゃんでしょ?」 「う……そ、そう、だけど……」 「あと、言葉遣いもちゃんとしないと、本当は男の子だってバレちゃうわよ? あたしのおさがりのガールズを着て女の子の振りをしてるのに、本当は男の子だってバレたら恥ずかしいでしょ? さ、お出かけの前に練習したとおりに、『自己紹介』してごらんなさい」 「う、うぅ……あ、あたしは、日下部、キララ、です……キララは、詩奈、お姉ちゃんの、従妹です。キララは、しょ、小学、に、二年生の、女の子です……」 「うん、よくできました。いいこ、いいこ」 答えたところを、すかさずすぐ近くに来て頭を撫でる。それは、飼い主が命令を聞いた犬をすぐに褒めて躾けるような行為であることにアキラも気づいていたが、頭を撫でられると胸が甘く疼くのを止めることはできなかった。 「恥ずかしかったらその『自己紹介』を思い出して、自分は女の子なんだから、女児服を着てて外を歩いてもおかしくないんだって言い聞かせるのよ?」 「は、はい、わかりました……詩奈、お姉ちゃん、ありがとう……」 出かける前に何度も練習させられた「自己紹介」。それはご近所さんへのあいさつ回りの予行演習であると同時に、女児女装のまま出かけることに臆するアキラを、心まで女の子にしてしまう「おまじない」――いや、もはや「呪い」に近いものだった。 (ま、まずい……これじゃただの演技じゃなくて、本当に詩奈ちゃんの「妹」にされちゃいそうだ……!) (ちゃんと自分を保て、日下部アキラ……! いまは一人暮らしのために、仕方なく女の子の格好をしてるだけで、オレは本当は男子高校生なんだぞ……!) 改めて決意を固めるアキラの目の前に――詩奈の、小さな手が差し出される。 「じゃあキララちゃん、こっちにいらっしゃい。お姉ちゃんがついていてあげるから、何も心配はいらないわ」 「う、うん……」 ついうなずいて、その手を取るアキラ。自分よりずっと小さく可愛らしい少女の手が頼もしく見えて、思わずすがりつくように握ってしまっていたことに気付いて、アキラはまた唇を震わせる。 そのまま歩き出す詩奈に手を引かれるように、玄関からステップへ。何の変哲もない「歩く」という動作さえ、女児用のミニスカートを穿いているだけで途方もない違和感がある。足元も、詩奈が去年履いていた女児用のラメ入りサンダルなのだ。鮮やかなピンク色というだけではなく、ヒールまでついているので歩きにくく、 「わぁっ!?」 「大丈夫、キララちゃん?」 「う、うん。大丈夫……ありがとう、詩奈、お姉ちゃん……」 バランスを崩して転びそうになるのを、詩奈に抱き留められる。 「どういたしまして。くすくすっ、でも次は、もうちょっと女の子らしい悲鳴をあげようね?」 「うん……」 (オレ、高校生のお兄ちゃんなのに……どんどん詩奈ちゃんに頼りきりになって、甘えちゃいそうになる……! だめだ、もっと、しっかりしなきゃ……!) 取り繕うように自分に活を入れるアキラだったが、 「さ、それじゃあ行きましょっか。行き先は近所のドラッグストア――キララちゃんのお股に生えてるものを隠すために、キララちゃんでも穿けるサイズの紙おむつを、買いに行かないとね」 「う……うん……」 詩奈「お姉ちゃん」の言葉に、またしても情けない表情で肯くことしかできないのだった。 「おちんちんが膨らんで目立っちゃうなら、おむつを穿けばいいじゃない」 数分前、美奈が告げた「秘策」がこれだった。 「お、おむつって、なんで……」 「薄手のパンツだと押さえきれずに目立っちゃうんでしょ? なら、もっと分厚くてもこもこしたおむつなら、おちんちんのふくらみも押さえてくれるわ」 「で、でもそれって、おむつを穿いてることはすぐわかっちゃうんじゃ……!」 「ええ。逆におむつに気を取られて、おちんちんのふくらみも誤魔化せるわよ。それとも――もしも外で大きくなっちゃって、男子高校生だってバレる方が良いかしら?」 「う、ぁ……わ、わかり、ました……」 そう言われたら、断り切れるはずもない。 アキラは女児女装のまま、ご近所へのあいさつ回りの前に、股間のふくらみをごまかすためのおむつを買いに、詩奈に手を引かれてドラッグストアに連れて行かれたのだった。 (続く) ※挿絵に英語版を追加しました。Vardei様、ありがとうございます!
まんまちっち
2021-09-12 16:55:25 +0000 UTCVardei
2021-09-06 13:35:57 +0000 UTCVardei
2021-09-06 13:24:01 +0000 UTC