(4) (ま、まずっ――!!) アキラは慌てて股間から手を放そうとして、しかし膨らんだままの底を見られるのも恥ずかしく、逆に両手で押さえて挨拶に誤魔化す。 「ひ、久しぶりだね、詩奈ちゃん」 最後に会ったのは2年前、詩奈が小学校に入学するときだ。あの時も小学1年生にしては背が高かったが、あれからさらに成長したようで、すでに140センチ近くある。高校3年生にも関わらず150センチ足らずのアキラにとっては羨ましい限りだ。 「うん、久しぶり! わぁっ、あたしの服、とっても似合ってる! どう、それ? あたしのお気に入りなんだけど、可愛いでしょ?」 「い、いや、どうって言われても……これ、やっぱり詩奈ちゃんの服なんだ……」 「そうだよ! さ、ちゃんと挨拶するから、リビングに来てちょうだい」 「う、うん……」 詩奈の態度に拭いがたい違和感と、とある疑念を抱きつつ、アキラはやや前かがみになるようにして脱衣所を出る。 案内されたのは、一階の半分ほどを占める16畳のLDKスペースだった。手入れの行き届いた庭先と、その向こうに見える道路が大窓の外に広がり、開放感にあふれている。もっとも今のアキラにとっては、外から見られる危険こそ最も恐ろしく、およそくつろげるものではなかったが。 部屋の中心にある6人がけのダイニングテーブルには、3人分の飲み物と、小皿に盛られたケーキが用意されていて、先ほどアキラを出迎えた美奈が、すでに席についていた。 彼女はこちらを見ると笑顔になって、 「いらっしゃい、アキラちゃん。ごめんなさいね、ちょうどいい服がなくて、詩奈の服を着せちゃって。私のだと、ちょっと大きいかと思ったから」 「い、いえ、その……ぼくがちゃんと着替えを持ってこなかったせいですから。むしろ、その、詩奈ちゃんは良かったの?」 美奈の向かいに座りながら、アキラは隣の従妹に尋ねる。 すると彼女は、 「うん! アキラお姉ちゃんなら、ぜんぜん大丈夫だよ!」 「お、お姉ちゃんっ――!?」 思わぬ呼びかけに、アキラは声を裏返す。 そしてすぐに、納得する。今まで抱いていた違和感と疑念の正体を。 「あ、あの! ぼく、男なんですけど……」 思い切って言った瞬間、親子はぽかんとした顔でアキラを見つめ、 「えぇっ!? あたし、お姉ちゃんだと思ってた!」 「ええ、私もてっきり、女の子だとばっかり――」 「な、なんでですか!? 前に会った時は、普通に男子制服を着てたから、誤解されるような要素なんて……」 「ごめんなさい。その、うちに泊めてくれって言うから、女の子だとばっかり……ほら、うち、基本的に私と詩奈しかいないでしょ? まさか男の子を泊めさせてくれってお願いしてくるだなんて……もう、姉さんったら昔から、大事なことを言わずになし崩しに押し付けてくるんだから……」 「それは、その……すみません。それで、詩奈ちゃんも……?」 「ええ。それに詩奈の学校は、女子校だけどパンツタイプやネクタイの制服も選べるのよ。だからズボンの制服を見ても、男の子だとは思わなかったのね」 「うん。パンツだけど、お姉ちゃんだとばっかり……アキラお姉ちゃん――じゃなくて、アキラお兄ちゃん、ちっちゃいし、可愛いし……」 「うぐっ……そ、そうなんだ……」 少女の無邪気な物言いに心をえぐられつつも、誤解は解けて、その理由もはっきりした。しかしいまだに問題は山積みで、 「ごめんなさい。まさか男の子に、そんな格好をさせちゃうだなんて……」 「う……」 改めて言われると、羞恥が再燃する。何しろ女子小学生の服と下着を、そのまま着せられているのだ。 「でも、困ったわ。女の子だと思ったから、部屋もそのつもりで用意してたのに……」 「いえ、その、お構いなく……服が届くまでですし、その、ちょっとくらい女の子っぽい部屋でも大丈夫ですから」 「そうじゃなくて――いいえ、見てもらった方が、早いかしら。アキラくん、二階に来てくれる?」 「は、はい」 立ち上がった美奈の後について、アキラはリビングを出て階段をのぼり、二階廊下へ。短い廊下の左右には2つずつ、突き当りにも一つドアが並んでいて、案内されたのは右奥の部屋だった。 「こ、ここって……!」 中に通されたアキラは、部屋を見回して絶句する。 白やピンクを基調にした内装。カーテンはピンクのギンガムチェックで、セミダブルと思われる大きなベッドはイチゴ柄。部屋の中心には白い丸テーブルが、ピンクのカーペットの上に鎮座している。勉強机は白く瀟洒なデザインで、女児用アニメのテーブルマットが敷かれ、横のフックには赤いランドセルと、通学用の黄色い帽子。本棚に並んでいるのは小学校の教科書と、少女漫画と、少女向けのファッション雑誌。あちこちに可愛らしい動物のぬいぐるみや、可愛い服を着せた「着せ替えぐるみ」が置かれていて、いかにも女の子らしい部屋だ。三面鏡のついたドレッサーまであり、その上には色とりどりのアクセサリーが並んでいた。 どこからどう見ても女児部屋。しかも生活感のある空間と、かすかに漂う少女の汗の匂いは、ここが現役で使われているものであることを示していた。 「し、詩奈ちゃんの、部屋……?」 「ええ。ほかに部屋もないし、女の子同士だから、詩奈と同室で生活してもらおうと思ってたんだけど……まさか、男の子だったなんて……」 嘆息する美奈。 アキラも何と答えればよいかわからず困惑していると、最後尾からついてきていた詩奈が、とんでもないことを言い出した。 「ねぇ、ママ。だったらアキラお兄ちゃんを、アキラお姉ちゃん――ううん、女の子のアキラちゃんとして、生活してもらったらいいんじゃないかな?」 「え――えぇっ!? ぼ、ぼくが、女の子に……!?」 「うーん……ここで生活してもらうとなったら、それしかないわね。詩奈より一つか二つ上の女の子としてなら、ご近所さんも変には思わないでしょうし。そのかわり、この家にいる間はずっと詩奈の服を着て、女の子のふりをしてもらうことになるけど……」 部屋のあちこちに掛かっている、詩奈の女児服。シャツにワンピース、スカートにショートパンツ――それらを着せられることを想像し、アキラは戦慄する。 「そんな……ほ、他に、方法は……?」 「無理ならこのまま、帰ってもらうしかないわね。いま洗ってる制服は後で、届いた荷物と一緒にまとめて返してあげるわね」 「い、嫌ですよ! ぼく、ぼくは……」 思わぬ事態に混乱しつつも、必死で頭を働かせるアキラ。 (こんな格好で家まで帰るなんて絶対に無理だし、だいいち、ぜったい東京の大学に通わせてもらえなくなっちゃう……だとすると、いまは我慢するしか……) 「じゃ、じゃあ、いまだけ、なら――だけどもし来年の春に、大学に通うことになったら、その時はちゃんと――」 「ええ。こっちで大学に通うことになったら、改めてちゃんとアキラくんの部屋を用意してあげるわ。その時こそ男子大学生らしいお部屋を、ね」 「あ、ありがとうございます。なら――」 アキラは唇を引き結んで、 「わかりました。ぼく――1週間、女の子として生活します」 (続く) ※挿絵に英語版を追加しました。Vardei様、ありがとうございます。
Vardei
2021-09-01 00:27:16 +0000 UTC