(2) 「ごめんください、日下部アキラです」 「いらっしゃい。すぐに鍵を開けるから、玄関前まで入ってちょうだい」 七月下旬、うだるような暑さの中で、アキラは月形家へおとないを入れた。 都内西部の駅から、バスで10分ほどの住宅街である。都心の駅の広さはもちろん、そこからは離れた市の中心駅もアキラの住む県の県庁所在地の駅くらいの規模はあり、早くも圧倒されそうになっている。住宅街も地方に比べるとずっと密集していて、やや窮屈な印象を受けた。 (とにかく、ここで一週間過ごすんだ。月潟の叔母さんに口添えしてもらうためにも真面目なところを見せよう。でも一回くらい、都心に遊びに行きたいな――) そんなことを考えつつ門扉を開けて敷地に入り、ステップを通って玄関前まで来たアキラの目の前でドアが開いて、叔母――月潟美奈が姿を現した。 小学生の娘がいる30代の女性とは思えない、若々しい顔立ちと体つき。面長で彫りの深い美貌に、ウェーブした黒髪がよく似合っている。グラマラスなボディーラインを強調するかのような、ノースリーブのサマーニットワンピースも、「年甲斐のない」とは言わせぬ色香を放っている。 「久しぶりね、アキラちゃん。さぁ、上がってちょうだい」 「はい。おじゃまします」 「外を歩いてきて、汗がすごいんじゃないかしら? お話をする前に、シャワーを浴びてきたら?」 「えっ……あ、すみません。汗臭いですよね……」 アキラは靴を脱いで玄関に上がりながら、制服のシャツをつまんで匂いを確かめる。確かに外を歩いてきて、かすかに汗の匂いが漂っていた。 「脱いだ服は洗濯機に入れてちょうだい。着替えはまだ届いてないから、こっちで適当なものを用意しておくわ。さ、あっちが浴室よ。シャンプーやボディタオルも適当に使って構わないからね。荷物はこちらで預かっておくわ」 「ありがとうございます」 ポケットから出した財布やスマホを手荷物のバッグに入れ、疑いもせずに美奈に預けたアキラは、礼儀正しく頭を下げて、玄関からすぐ右手側のシャワールームに入る。 「ふぅ……」 脱衣所のドアを閉めると、緊張から解き放たれる。彼は軽く息をつき、脱衣所を見回しながら服を脱ぎ始める。周りにあるのはドラム式の洗濯機と、二段の引き出しがついた籐製のキャビネットが二つ。キャビネットの上にはそれぞれ、こちらも籐製のかごが置かれていた。 (タオルも出てないけど、あとで持ってきてくれるのかな?) 特に疑問にも思わず、財布とスマートフォンをかごに置いておき、Tシャツ、チノパン、さらに肌着を脱いで裸になる。 (シャワー室だって言っても、人の家で服を脱ぐのは恥ずかしいな。しかも、なんだか女性っぽい匂いが漂ってて、落ち着かない……い、いや、昂奮したらだめだ。これから慣れないといけないんだから……) アキラは呼吸を落ち着けてから、曇りガラスのドアを開けて、シャワールームへ。バスタブ側はカーテンがかかっているため、彼はシャワーで汗を流す。 (シャンプーも使っていいって言ってたな。ええと、これ、女性用だけど……まぁいいか。うーん、やっぱりシャンプーくらい、手荷物に入れて持ってくればよかったかな。こっちに来てからコンビニででも買おうと思ってたんだけど) 考えていたところに脱衣所の方でドアが開く音がして、 「アキラちゃん、着替えとタオル、用意しておいたわよ。下着は右下の引き出しの中から、適当に選んでちょうだい」 「あっ、ありがとうございます」 曇りガラスの向こうに動く女性の気配にドキドキしつつ、アキラはボディタオルを借りて体を洗い、髪を洗う。 (下着はかごの中? いくつかあるってことは、わざわざ用意してくれたのかな? ありがたいけど、気を遣わせちゃって申し訳ないな……) そんなことを考えながらも汗を流し終わった彼は、脱衣所のドアを開き―― 「え……た、タオルって、これ……?」 先ほどまではなかった、籐製のかごの片方に用意されていた「タオル」に絶句する。 それはシンデレラや白雪姫、人魚姫などお姫様のイラストがプリントされた、どこからどう見ても女の子――それも小学校低学年向けのバスタオルだったのだ。 さらにもう一方のかごに置かれていた「着替え」も、およそ男子高校生向けではない。 肩の部分が水色のフリルになっている、淡いピンクのTシャツ。胸元には大きなサクランボがプリントされ、「Cherrish Girl」の文字が躍っている。 ボトムスはスカートでこそなかったが、ある意味それ以上に恥ずかしいショートパンツ。色は水色で、お尻側にフリルまでついている。 「ど、どこからどう見ても、女児服なんだけど……これって、どういうこと……?」 混乱に陥ったアキラは体を拭くことも忘れ、 「ま、まさか、下着も……?」 言われたとおり、右側下段の引き出しを開いて確認する。 そこに入っていたのはある意味で予想通り――しかしアキラにとっては信じたくない、インゴムタイプの女児下着の数々であった。色はパステルカラーが中心で、赤、ピンク、イエロー、オレンジにブルー、ミントグリーンにラベンダー――柄もドット柄、チェック柄、イチゴ柄やサクランボ柄、花柄にコスメ柄、果てはアリスや白雪姫などの童話プリントから、女児アニメのキャラクターがプリントされたものまで。どこからどう見ても小学生、それも低学年向けである。しかも――あちこちよれているところを見ると新品ではない、着用済みのものばかり。 「お、オレに、これを着ろって言うのか……!?」 あまりの事態に立ち尽くすアキラ。しかし――その股間に垂れ下がっている少年の証は、かすかなこわばりを帯び始めていた。 (つづく) ※英語版を追加しました。Vardei様、ありがとうございます!
まんまちっち
2021-08-29 18:21:51 +0000 UTCVardei
2021-08-29 05:35:03 +0000 UTC