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連載小説「ベビーステイ」(1)

  (1) 「月潟の叔母さん、ご無沙汰してます。日下部アキラです」 「こんにちは、アキラちゃん。久しぶりね。ずいぶん声も大人びたんじゃない?」 「は、はい、ありがとうございます!」  月潟美奈はリビングのソファに腰掛けながら、電話越しの甥が緊張した様子で話しているのを、ほほえましく聞いていた。  受話器の向こうからは、かすかに蝉時雨が聞こえてくる。美奈の住んでいる住宅街では、あまり聞かれなくなった声だった。 「母さん――母から聞いてると思いますが、来週からそちらのおうちにお世話になることになりました。ご迷惑をおかけしますが、どうかよろしくお願いします」 「ええ、構わないわよ。私の若いころを思い出すわ。アキラちゃんと同じように、東京の大学に出るって無理を言って、姉さんに――アキラちゃんのお母さんにも迷惑をかけたけど」 「叔母さんも、ぼくと同じように……な、なら!」 「ええ。だからアキラちゃんの気持ちもわかるわ。でも姉さんの心配ももっともだから、ひとまずは上京している間は、うちに来てちょうだいね」 「はい……」  意気込んだ甥っ子の声が失望に変わるのを、美奈は苦笑する。  電話相手の「アキラ」は、美奈の姉である日下部真奈の息子だ。現在高校3年生、来年の春には大学生となる。地元を離れて東京の大学に通い、ひとり暮らしを始めたいと切望していた。  しかし、上京を不安に思う母親は簡単に許してはくれず、ひとつの条件を出した。都内在住の妹――アキラにとっては叔母に当たる月潟美奈の家に、ホームステイすることである。 「ふふっ、仕方ないわ。アキラちゃんはしっかりしてると思うけど、背が低いとどうしても……ね」 「それは……そうですけど。でも、もうぼくも大学生ですし……」  彼自身にも、母親が心配する理由はよく分かっていた。  アキラの身長は、150センチ足らず。18歳の少年としてはかなりの低さで、華奢な体格のため腕力にも乏しく、顔立ちも女の子と間違えられそうなくらいである。ひとり暮らしをしていたらどんなトラブルに巻き込まれるか、分かったものではない。  しかしそれはそれとしても、「東京の大学に通って一人暮らしをはじめ、自由を楽しみたい」という気持ちは押さえがたいのだった。 「安心してちょうだい。アキラちゃんがしっかりしてて、ひとり暮らしをしても大丈夫なようなら、私からも姉さんに口添えしてあげるから。うちの近くにはアパートもたくさんあるし、そういう所なら姉さんも納得すると思うわ」 「は、はい! その時は、お願いします!」  電話口の向こうで頭を下げているのが見えるようで、美奈はまた小さく笑う。 「それと、詩奈ちゃんにも迷惑をかけないように気を付けますので、よろしく伝えてください」 「ええ。でも、詩奈なら大丈夫よ。アキラちゃんと会えるのを楽しみにしてるわ」 「そ、そうですか……よかった……」  詩奈は今年小学3年生の、美奈の娘である。  気難しい年ごろの少女がいる家に滞在することを不安がっていたアキラも、まったく心配していない美奈の言葉に、胸をなでおろしたようだった。 「それでは、前日になったら改めて電話させてもらいますので、来週から、どうぞよろしくお願いします」 「ええ、心配しないで。アキラちゃんのことは私たちが、ちゃんとお世話してあげるからね」  美奈の口調が、ややねっとりとしたものを帯びたが――あいにくすっかり気を抜いていたアキラは気づかず、そのまま「それでは失礼します」と言って切れてしまった。 「ふ、ふふっ……」  通話の切れた受話器を膝におろし、美奈はにんまりと笑う。 「ええ、ええ。アキラちゃんがうちにホームステイする準備、ちゃんと整えてあるわよ。ねぇ、みんな?」  そう言って振り返った先、ソファの背中側にあるダイニングテーブルには、3人の少女と1人の女性が座っていた。 「うん、バッチリよ、ママ。3人でちゃんと計画を練っておいたし、友達やご近所さんへの説明も済ませておいたから」 「私の方も準備万端よ。必要なものは揃えて、あちらへの根回しも済ませておいたから」  彼らの答えに、 「ふふっ、協力ありがとうございます。詩奈たちも、ありがとうね」  美奈はくすくす笑ってから、うっとりと呟いた。 「アキラくんのホームステイ――いいえ、『ベビーステイ』が楽しみだわ」  滞在先の家で、そんな陰謀が繰り広げられているとは知る由もなく。 「おばさんの家に、一週間――なるべく早くひとり暮らしできるよう口添えしてもらうためにも、なるべく頑張って、成長したところを見てもらわないと! まずは準備を、ちゃんとしなきゃ……」  電話を終えたアキラは意気揚々と、段ボールに着替えや参考書などを詰め込んで、叔母の家に滞在するための準備をするのだった。   (続く) ※挿絵に英語版を追加しました。Vardei様、英訳ありがとうございます。

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Comments

Well then, I hope you don't mind taking care of me next week. Sure, don't worry about anything. We'll take good care of you, alright? Full of excitement after his phone call, Akira readies himself for his stay at his aunt's place. Little did he know about the plot that was going to unravel at the home where he'd be staying… (I'm not sure if I'll go about translating the story itself, but i'll translate the images anyway.)

Vardei

ありがとうございます~! いったいどんな目に遭わされてしまうのか…♥

十月兔

プロローグからもうドキドキしますね❤ベビーステイというタイトルからしてもうハァハァ❤しちゃいます❤アキラちゃんどうされちゃうのか…今後が楽しみ❤

まんまちっち


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