(32) 実のところ、この時まではまだ「そんなバカな理屈が通るわけがない」と思っていた。 何しろぼくは男子中学生――来年には高校に入学する予定の年齢だ。女子校の初等部に一年生として入学できるわけなんてない、と。 でも―― 「はい、確かに願書を受領しました」 母さんと一緒にバスを乗り継いで向かった先、聖ジョアンナ女学園初等部の受付で、事務員の女性に笑顔で言われて、逆にぼくは顔を引きつらせてしまう。 「あ、あの……本当に?」 「はい。ふふっ、大丈夫ですよ、瀬川さん。緊張するのは判りますけど、確かに初等部への入学希望を受け取りましたから」 「は、はぁ……あ、ありがとうございます……」 ぼくが間の抜けた声でお礼を言うと、事務員さんはくすくす笑って、 「あとは10月に試験があるので、それまでに準備しておいてくださいね。特に瀬川さんの場合は、普通の初等部の試験のほかに、特別な面接を受けていただくことになりますから」 「は、はい!」 そう言われて、ようやく実感がわいてくる。 (ぼく、ほんとうに女子高の初等部への入学試験を受けるんだ――) ゾクゾクと背筋を走る緊張と高揚感に、ぼくは大きく身震いする。 いまぼくが着ているのは、紺のアンサンブルスーツ。長袖の丸襟ブラウスに紺のダブルボタンジャンパースカートとボレロ、赤いリボンを合わせたセットだ。ちょっと前に、「受験勉強するならこれを着ないとね」と母さんに言われて買ってもらったもので、高校受験の勉強をしているときは、半袖ブラウスにジャンパースカートを着ている。 初等部に願書を提出するにあたってぴったりだと思って着てきたこのアンサンブルが、改めて初等部の受験を実感すると、相乗効果で「お受験」の雰囲気を高めてしまう。 そんなぼくに、受付のお姉さんはさらにとんでもないことを言う。 「そうだ。初等部の試験を受ける際には、附属幼稚園の制服を着用することもできますよ。お取扱店での注文になりますが、よろしければ是非ご利用くださいね」 「よ、幼稚園の制服も……?」 「ええ。瀬川さんは外部からの受験ですし、まして本当は男子中学生――いえ、高校生の年齢ですから、どうしても女子小学生になりたいという気持ちを示すなら、園児服での受験をお勧めします。普段から着ていれば、もっといいと思いますね」 「ふ、ふだんから、園児服を――」 思い返せば、女装のきっかけになったのは女子小学生の制服。あれからさらに、体操着のブルマーやスクール水着、赤いランドセルなどで女子小学生になりきり、譲られた女児服やセーラー服を着たり、女児用レオタードやファッション水着まで着てきたぼくだけど、さらにその下、園児服を着ることになるなんて思っても見なかった。 しかし―― 「は、はい。初等部に入学するまで、園児服を、着て、生活します……」 ドキドキしながらそう答えると、母さんと、受付のお姉さんは、嬉しそうににんまりと笑った。 「それじゃあ早速、制服店に行って用意してもらいましょうね。前に行ったあの制服店なら、すぐに用意してくれるでしょうし」 「す、すぐにはさすがに無理なんじゃ……」 「さて、どうかしら? とにかく行ってみましょうね」 そんなわけで、ぼくは願書を提出した後、再びバスに乗って駅近くの「文月制服店」に連れて行かれ―― 「ううっ、まさか本当に、注文が通るだなんて……」 帰宅後、ぼくは今日一日の恥ずかしさに、ベッドに転げまわってもだえた。 文月制服店でもあまりにもスムーズに注文が通り、採寸ののち、来週にはぼくのサイズの幼稚園制服が届くことになってしまった。さらに黄色い通園バッグや名札も購入して、準備万端だ。 「幼稚園の制服が届いたら、それからはずっと、幼稚園の制服で生活……しかも、じょ、女子小学生になるための受験をして、もし合格したら、来年からは女子小学校に――」 およそ現実とは思えない。悪い夢としか思えないけど、しかしお約束通りにほっぺたをつねってもばっちり痛む。 「確かに今まで、女児服を着たり、バレエ教室に通ったりしてたけど――まさか本当に、女子小学生になるなんて……もしかしてこのままずっと、女の子としてやり直しに……?」 考えるだけで陰嚢がすくみ上る。これから先の不安と昂奮に、しかし勃起は止まらない。お受験スーツで外を連れまわされたことを思い出すと、重いプリーツスカートの下でも激しく怒張しはじめて―― 「……夕飯前に、抜いておくか」 ぼくはジャンパースカートの裾をめくりあげると、早くもショーツの中から飛び出した劣情の化身を握りしめたのだった。 (続く)