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連載小説「通販カタログから」(31)

  (31)  楽しくも波乱に満ちた夏休みも終わり、2学期が始まってすぐの放課後。 「衣装合わせするから、接客担当の人はこのあと残ってください」  おさげに眼鏡の文化祭委員の連絡に、クラスに軽いどよめきが走った。  10月半ばに行われる文化祭。ぼくのクラスでは、カフェをやることになっていた。来客に軽食とドリンクを出す、簡単なものだ。当初は普通に接客するだけの予定だったんだけど、7月初めに少し流れが変わった。  きっかけは、ぼくだけではなく亮や明春までもが女装を始め、さらに一部の男子が女装に興味を持つようになったこと。 「せっかくだからメイド喫茶にして、男子も女装メイドとして働くことにしない?」  文化祭委員――いま目の前で連絡事項を述べた地味な子が、そんなことを言い出したんだ。あとで発覚したことだけど、今まで目立たない真面目なだけの生徒だと思われていた彼女はバリバリのオタクで、特に男の娘や女装BLモノが大好物らしい。彼女は運営側と粘り強い交渉の末、普通の喫茶店だったはずの出し物を、「男女混合メイド喫茶」に変えることに成功してしまったのである。オタク強い。  というわけで放課後、文化祭委員は教卓の間で、用意してきたメイド服を取り出していた。パフスリーブで襟付きの黒いワンピースに、白いフリルエプロンを付けたオーソドックスなものだ。 「えーっと、アンケートで一番人気だったクラシカルロングメイドが、SからLLまでサイズ違いで4着。でもって、一着だけデザインの違うメイド服もあるんだけど――」  そう言って取り出した最後の一枚に、クラスメイト達は色めき立つ。  デザインはほぼ同じ、襟付きのワンピースに、白のフリルエプロン――しかしワンピースの色は淡いピンクで、黒の中にあって明らかに目立つ。しかもスカート丈はミニで、合わせるための白いオーバーニーソックスまでセットになっていた。  一目見た瞬間に「これを着たい」と思ってしまうデザインに目が釘付けになっていると、 「ふっふっふっ、やっぱり瀬川くんはこれが気になるみたいね。んじゃ、説明を聞きながらでいいから、とりあえず着てくれる?」 「え……? い、いいの?」 「うん。だってこれ、瀬川くんたちが担当する係のメイド服だもん」 「あー……なるほど」  文化祭委員の意図を察し、ぼくはさっそく着替え始めた。  セーラー上着を脱いで、上はブラジャー1枚になったところで、周囲の男子からの視線を感じて慌てて背を向ける。お前ら、男の体にサカるな。 「前に取り決めたとおり、『男女混合メイド喫茶』は基本的に接客係4人、厨房係5人、呼び込み係1人の3つのグループで回していきます。このうちメイド服を着るのは接客係と、呼び込み係ね。特に呼び込み係は可愛いメイド服で、お客さんを呼び込んでもらいます」 「それ、羊頭狗肉って言うんじゃ……」  クラスメイトのツッコミをスルーして、文化祭委員は話を続ける。 「前も決めたように、『男女混合』のコンセプトを強調するために、呼び込み係は全員男子――瀬川くん、三善くん、四方山くんにやってもらいます。よろしくね、三人とも」 「あ、ああ」 「おう……」  あらかじめ決まっていたこととはいえ、さすがに現物を見て「これで呼び込みをやってね」と言われると恥ずかしいのか、亮も明春も歯切れが悪い。  そしてそれは、ぼくも一緒だった。 (このメイド服で、呼び込みを……?)  パフスリーブワンピースを着たあと、下に穿いたままのプリーツスカートを脱ぎ、フリルエプロンを重ねて、リボンを背中側で結んで凛にもらう。きゅっ、とウエストを締め付けられる感覚に、背筋がピンとなる。フリルのついたカチューシャを頭に乗せ、最後にオーバーニーソックスを履けば―― 「おおー……」  ピンクのメイド服を着たぼくの姿に、男女双方から声が上がる。 「うぅ……ぼく、ほんとうにこのメイド服で呼び込みを……?」  肩回りや胸囲など、全体的にサイズはぴったりなんだけど、なにしろスカート丈が短い。ほとんどパンチラ寸前で、まるでアニメの美少女メイドキャラのように、オーバーニーソックスの間に絶対領域ができている。  こんな格好で、外部からの人もたくさん来る文化祭の呼び込みを……? 入口の廊下のところだけじゃなくて、校門前にも立つことになっているんだけど、風でスカートがめくれたら大変なことになってしまう。しかも「男女混合」の部分を聞かれるだろうし、もしも尋ねられたら、自分が男子だってことまで言わなくちゃいけない――  考えるだけでドキドキしていると、 「ええ、もちろん! 瀬川くんと三善くん、それに四方山くんには、その格好で呼び込みをしてもらうの。ふひっ、男子が恥ずかしがりながら可愛いメイド服で呼び込み……最高ね……」 「アンタ、素が出てるわよ」 「はっ、いけないいけない。えー、というわけで、グループごとに誰がどのサイズを着るのか決めるために、みなさん試着してください。場合によってはグループの変更もしなくちゃいけませんから。それじゃ、まずは五十音順に――」 (そっか。このメイド服、亮や明春も着て、ぼくと同じように呼び込みをするんだ。ならそんなに、恥ずかしくないかもしれないな)  文化祭委員の言葉を聞きながら、ほんの少し安心する。  しかしその一方で、心の奥底ではまったく別の感情がうごめいていた。それは言葉にするとあまりにも罪深い、しかし目を逸らすことのできないもので―― (なぁんだ――ちょっと、残念だな) (もっともっと、恥ずかしい目に遭いたい。一人だけ、もっと変態的なメイド服姿を見られたい――)  って、なにを考えているんだ、ぼくは。 「お、お待たせ。ぼくはぴったりだったから、次は亮だね」 「おう」  一瞬、脳裏に走ったどす黒い欲望を振り払うように、すでに試着を待ちかねてブラショーツ姿になっている亮のために、メイド服を脱ぎ始めたのだった。   (続く)

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