(25) かくして、月乃ちゃんと日奈ちゃんをはじめとする7人の女の子たちもレオタードに着替えて、バレエ教室が始まった。 まずみんな、来るときの格好さえぼくみたいなおめかし服じゃなくて、シャツやパンツのような普段着だったのも恥ずかしかったけれど、 「な、なんでみんなのレオタードは、黒や紺ばっかりなの……? しかもスカートも飾りもついてない、シンプルなキャミソールタイプばっかり……」 「それはね、裕一くん。この年頃の女の子はお腹がポッコリしてるから、黒や寒色系の方が細く見えていいですよって、アドバイスしたからなのよ。決して、『みんな黒や青にすれば、ひとりだけ黄色のレオタードを着た裕一くんが恥ずかしい思いをして可愛いだろうな』とか、そんな理由じゃないわ」 「違うって言う割りにやけに具体的ですね!?」 くすくす笑う井上さんの説明に、ぼくは精いっぱいのツッコミを入れる。 「ううっ、女児用レオタードを着てるだけでも恥ずかしいのに、バレエ教室で、他の女の子たちと一緒に、それも一人だけ女の子っぽい色のレオタードだなんて……」 何度も言うように、レッスンルームの一面は鏡張り。鏡に背を向けてでもいない限り、常に自分のレオタード姿が目に入り続ける。肩のフリルとスカート、あしらわれた花レースがいかにも女の子らしいレオタードが。 けれど、 「でも裕一くんは、恥ずかしいのが良いんでしょ?」 「ん……!」 井上さんの言葉を否定できず、ぼくは真っ赤になって黙り込むしかない。 「くすくすっ……さぁみんな、着替え終わったら、こっちに来て。裕一お兄ちゃんの周りに、集まってちょうだい」 「はーい!」 「わぁっ、お兄ちゃんのレオタード、可愛いね!」 「あたしのよりずっと、子供っぽーい!」 「う、ううっ……みんな、今日はよろしくね」 はしゃぐ女の子たちに囲まれて戸惑いつつも、年長者として注意する。 「ほら、月乃ちゃんのママが、お話するみたいだよ。みんな前を向いて聞こうね」 「はーい!」 元気よく返事して、井上さんの方を見る子供たち。 井上さんはにっこり笑って、 「ありがとう、みんな。裕一お兄ちゃんを見習って、いい子にしててちょうだいね」 「はーい!」 ううっ、ぼくは子供たちの「お手本」役か。まぁ年長者なんだからとうぜんだけど、着ているのは一番幼く、女の子らしい黄色のスカート付きレオタード。そのギャップがまた恥ずかしく――昂奮、してしまう。 (ま、まずっ……) レオタードの中で立ち上がりそうになるものを、ぼくは必死でこらえる。スカートを付けていてよかった。つけていなかったら、股間が持ち上がっているのが一目でバレてしまうところだった。 幸い、子供たちは全然気づいていない。というか、ぼくの股間の位置がちょうど彼女たちの胸元くらいのところなので、そんな高さでイキらせているのはまた背徳感があったんだけど――気付いてないなら、それでいい。 問題は保護者達で、ぼくの股間をじっと見て、ひそひそとなにやら囁き合っていた。ううっ、バレてる。アレ、ぜったいバレてる。 とにかくそんな爆弾を抱えつつ、ぼくは女の子たちと一緒に、ウォームアップとストレッチを開始した。 バーをつかんで足を揚げたり、手を伸ばしたり、股間を広げたりするんだけど、なにしろ鏡が正面にあるから恥ずかしいことこの上ない。自分の姿だけじゃなくて、周りにいる子供たちや保護者まで、バッチリ見えてしまう。逆に彼女たちから、じっと見られていることも。 (勃っちゃダメだ、勃っちゃダメだ、勃っちゃダメだ、勃っちゃダメだ……!) ぼくは必死に自分に言い聞かせながらも、井上さんに言われるがまま、「お手本」としてストレッチする。子供たちはそんなぼくを見て、真似するようにストレッチしていたのが可愛かった。月乃ちゃん以外は本当に見様見真似だったけど。 ストレッチの後は、音楽に合わせて体を動かす練習。バレエというよりお遊戯みたいで、その中に混じっているのはいっそう恥ずかしかったけど―― 問題は、レッスンが一通り終わった後だった。 保護者の一人がカメラを手に、記念撮影を提案したのだ。 「せっかくだから、みんなで写真を撮りましょうね~。可愛いレオタード姿を残して、おうちに飾りましょう?」 「はーい!」 「え、え……? あの、じゃあぼくがカメラを……」 「だめに決まってるでしょ? この子たちもすっかり懐いてるのに、お兄ちゃんだけカメラで仲間外れなんて。ねぇ?」 「うん!」 「お兄ちゃんも、一緒に写真撮ろ~よ~!」 ささやかな抵抗もむなしく、ぼくは保護者と子供たちに押し切られるように、写真に写ることになってしまった――それも、一番真ん中の目立つところに、日奈ちゃんと月乃ちゃんをはじめとする女の子たちに囲まれて。 「はい、チーズ!」 井上さんが合図を出してシャッターを切り、フラッシュが浴びせられる。 カメラを持ってきていた保護者はにっこり笑って、 「ふふっ、写真は後で現像して、みなさんにお配りしますね」 「ありがとう。ふふっ、アルバムに大切に残しておかなくちゃ」 「写真立てに入れて、リビングの目立つ場所に飾りましょっと」 「わたしはSNSにアップするわ。うちの妹と、お友達と――お兄ちゃんのバレエ教室の写真ですって」 ううっ……みんなわざとぼくに聞かせるように言ってるのは判っているし、どこまで本気かも怪しいけど、とにかく恥ずかしいものは恥ずかしい。 月乃さんはくすくす笑って、 「それじゃあ今日のレッスンは、これで終わりです。みなさん、お疲れ様でした」 「お、お疲れさまでした……」 「この後、ちょっとしたお茶会を用意してあるから、よかったら参加してちょうだいね。それと、裕一くん」 「は、はい、なんでしょう!?」 「ずいぶん汗をかいてるみたいだから、着替えの前にシャワールームを使ってもいいわよ。ゆっくり、ね」 意味ありげに言う井上さんに、ぼくは顔を引きつらせる。 つまりこれって、アレだよね……? 「あ、ありがとう、ございます。お言葉に甘えて、使わせてもらいます……」 そう答えるのが精いっぱいで――井上さんと周りに保護者達はそんなぼくを見て、にんまりと笑ったのだった。 ちなみにこの日から、井上さんは月一でのバレエ教室を再開し、ぼくも「インストラクター補佐」として、レッスンに参加することになってしまった。井上さんの手伝いもあるからレッスン代は無料で、レッスンの後はシャワールームを「使わせて」もらえるという破格の待遇なんだけど、 (やっぱり、恥ずかしい――) 「お手本」として女児用レオタード姿を女の子たちに見られる恥ずかしさに、ぼくは毎月のように、スカートの下で股間を疼かせるのだった。 (続く)
十月兔
2021-07-31 05:50:03 +0000 UTCelli-kasuga
2021-07-31 05:26:59 +0000 UTC