(24) 肩の部分がフリルになった、淡いピンクのブラウス。 それと合わせるのは黒の、サスペンダーつきティアードスカート。下に穿いたボリュームを出すためのパニエが、白いレースをのぞかせている。 足元はレースのついたショートソックスにストラップシューズで、上品なブラウスとスカートによく似合っていた。 まるでお盆で帰省するときや、あるいはお習い事に行くときの女の子のような、セミフォーマルのコーディネート。でも着ているのは――もちろん、ぼく自身だ。いくら女の子っぽくしているとはいえ、体格も顔立ちも男のままで着ているんだから違和感はある。 しかしそんな中学生の息子の姿を、母さんは満足げに眺めて、 「いいじゃない、これならどこに出かけても、恥ずかしくないわね」 「い、いや、これで出かけるのはかなり恥ずかしいんだけど……」 女子制服通学、女児服外出と、もはや内外問わず女装しているのがデフォルトになりつつあるぼくだけど、やっぱり恥ずかしいものは恥ずかしい。まして、リアル女児でもしないような上品なセットを着せられていると、非日常感が背筋をむずがゆくさせる。 ましてやこの格好で―― 「ぼく、ほんとにバレエ教室に通うの……?」 声に出すと、その異常性に脳の芯がしびれるような気分に襲われた。 きっかけは、月乃ちゃんのママ――井上さんが、ぼくが新しく買ったレオタードを目撃したことに始まる。 「あら、裕ちゃん、レオタードを買ったの? ならうちで、バレエの練習をしてみない?」 「ば、バレエを、ぼくが……!? しかもそれって、まさか、これを、着て……?」 「ええ、もちろんよ。といっても、正式なバレエ教室じゃなくて悪いんだけどね」 話によると、井上さんは昔ちょっとしたバレリーナで、引退後はバレエ教室を開いていたらしい。しかし10年ほど前に、結婚して娘ができたことを機にやめてしまったとか。 とはいえいまだバレエへのあこがれは止められず、レッスンルームはそのまま残して、娘にバレエを教えたり、たまに近所の子供たちを集めて、簡単なバレエ教室をしているらしい。 「は、話は分かりましたけど、でも、ぼくが……?」 「ええ。心配しなくても大丈夫よ。裕ちゃんならきっと可愛いバレリーナになれるわ。こんなかわいいレオタードを買うくらいだし、本当はなってみたいんでしょう?」 「そ、それは……はい」 ごまかしても仕方ないと、ぼくは消え入りそうな声で答えてうなずく。 井上さんは大喜びで、 「だったら夏休みの間、裕ちゃんのためにバレエ教室を開いてあげるから、ぜひいらっしゃい。もちろん女の子として、ね」 「は、はい……ありがとうございます」 というわけで、ぼくは夏休みが始まったこの日、おめかし服に着替え、セーラー風のお習い事バッグにレオタードを入れて、井上夫人のバレエ教室に向かったのだった。 教室があるのは月乃ちゃんの家。何度か遊びに訪れたことのある、川沿いのお宅だ。一軒家に隣り合うように「スタジオ」――教室ほどの広さの別棟が併設されている。 (ここでこれから、レオタードに着替えて、女の子みたいにバレエの練習をするんだ――) ドキドキしながらおとないを入れると、すぐに井上さんと月乃ちゃんが顔を見せて、 「いらっしゃい。あら? ずいぶんおめかししてきてくれたのね。嬉しいわ」 「い、いえ、その……ありがとうございます。今日は、よろしくお願いします」 「ええ、よろしく。先にスタジオに入って、着替えを済ませておいてちょうだい」 「え? は、はい」 井上さんの言葉に、ぼくは素直にうなずく。 通されたのは、一面がガラス張りのレッスンスタジオ。改めて、おめかしブラウスとスカートを着た自分の姿を見るのは恥ずかしかったけど、まだこんなのは序の口だ。ぼくはおめかし服を脱いで下着姿になると、純白のタイツを履いて、レオタードを身に着ける―― 「うっ……!」 体をぴったり包む着心地は、水着とそっくり。しかしここはプールではない。体育館のようなレッスンスタジオだ。そして鏡張りの一面に目をやれば、淡い黄色のレオタードを着た自分の姿が映っていて―― 「あ、あ……」 思わず勃起しかけて、ぼくは前かがみになる。男子中学生でありながら女児用レオタード――それもとびっきり可愛い、淡い黄色のフリル袖レオタードを着ているなんて。 「か、隠さなきゃ……」 これもこれで恥ずかしくはあったけど、セットのスカートを穿いて股間を隠す。けどちょっとでも油断すると、フル勃起はスカートすらも貫通してテントを張りそうで、ぼくは必死に呼吸を整えて愚息を落ち着かせながら、教室が決まってから購入したバレエシューズも履いて、準備万端整える。 あとは井上さんが入ってくるのを待つだけ――そう、思ってたんだけど。 「あ、裕ちゃん! もうレオタードに着替えたんだ!」 スタジオのドアが開いて入ってきたのは、井上さんではなく月乃ちゃんだった。 「つ、月乃ちゃん? もしかして、月乃ちゃんも一緒に……?」 「うん! あ、月乃だけじゃないよ?」 「え……?」 その言葉にぼくが青ざめている間に――月乃ちゃんの後ろから日奈ちゃん、そしてさらに5人ほど、同じくらいの年頃の女の子たちが、お母さんやお姉さんといった保護者に付き添われてはいってきて―― 「え、え……? もしかして、この子たち、みんな……?」 「ごめんね、裕ちゃん」 最後に顔を見せた井上さんが、申し訳なさそうな――しかしちょっとおかしそうな顔で、 「久しぶりにバレエ教室をやるって言ったら、参加したいって子たちがたくさん出ちゃって。もちろん裕ちゃんのことはみんな知ってるから、安心して大丈夫よ。本当は中学生のお兄ちゃんだけど、今日は女の子として一緒に参加します、ってね」 「そ、そんな……」 言葉を失うぼくに――女の子たちと、その保護者の女性たちは、捕食者を取り囲むハイエナのように笑った。 (続く)
十月兔
2021-07-29 07:31:44 +0000 UTCelli-kasuga
2021-07-29 07:15:17 +0000 UTC