(23) 「話がある。ついて来い」 「……うん」 放課後、三善亮に声をかけられた時には、すでに覚悟はできていた。 まさかスカートを盗んだままにはしないだろうし、向こうから何らかの話をしに来るだろうとは思っていたのだ。源太のジャージを借りたままの姿で、亮についていく。 連れて行かれた先は、校舎の端の方にある空き教室だった。中に入ると、眼鏡をかけた学級委員――四方山明春と、大柄なバスケ男子――五反田信樹が待ち構えていた。 亮は手近な机に座って腕組みし、 「こっちの要求は簡単だ。もう女みたいな恰好するのはやめろ」 「先生は黙認しているが、校則違反には違いない。クラスメイトが風紀を乱すのは、学級委員として看過できない」 明春もしかつめらしい顔で言う。信樹だけは無言で、ぼくを見つめている。 しかし―― 「別に問題ないだろ? 先生も黙認してるってことは、誰にも迷惑かけてないってことなんだから」 亮と明春は顔色を変える。まさかぼくが、ここまで強気に出るとは思っていなかったんだろう。よし、あともうちょっと、挑発してみよう。 ぼくはセーラー服のスカーフをつまんで見せて(ちょっと恥ずかしい)、 「だいたい、何がそんなに気に入らないんだよ。けっこう似合ってるだろ? 女子からも好評だしさ。凛とか、桃花とか……」 「それが気に入らないと言っているんだ!」 桃花の名前を出した途端、明春が苛立ったように言い――失言を後悔するように口ごもったものの、咳払いをして、逆に開き直ったように続ける。 「女子制服を着て、女子のようにふるまって、女子と仲良くなって――二宮とまで仲良さそうにして、女装してまで近づくなんて、恥ずかしくないのか」 「別に、女子に近づくのが目的で女装してるわけじゃないんだけどな……」 「同じことだろ、着替えまで女子と一緒になりやがって」 と、こちらは亮。 ぼくはうなずいて、 「なるほど、つまり二人とも、ぼくが女装して、女子と近づいているのが面白くないってことか。信樹は?」 「いや、俺は――」 信樹は苦笑いして、 「ま、亮に付き合ってるだけだ。こいつ、お前が女子と仲良さそうにしてるのが、あんまりおもしろくなさそうなんでな」 「おい、信樹。余計なこと言うな」 じろりとにらむ亮に、信樹はますます苦笑する。 うん、大体三人とも予想通りだ。なら―― 「なら――二人ともぼくみたいに女装して、女子と仲良くなればいいんじゃないの?」 ぼくは教室の外にも聞こえるような大きい声で、そう言った。 「は? いや、それは……」 「なっ、ふざけ――」 明春と亮が、一瞬面食らったのちに反論しようとした、その時だった。 ぼくのすぐ後ろのドアが開いて、 「え、なになに? 明春も女装したいの?」 「三善くんもセーラー服着る?」 「前から、ふたりとも女装したら可愛くなるだろうなーって思ってたんだ!」 現れたのは、桃花を筆頭にした女子数人。どっと入ってきて、たちまちのうちに二人を取り囲む。 「え……お、おい、なんだこれは! 待て二宮、服を脱がせようとするな!」 「なによ、裕ちゃんのことがうらやましかったんでしょ? だったら同じように、女の子の服を着せてあげるって言ってるのに。明春は細いから、前から一度女装させて見たかったんだよね」 「二宮……!?」 桃花に押し切られて、そのまま制服を脱がされる明春。 いっぽうの亮も女子たちに囲まれ、たちまちセーラー服を着せられていた。 「はっはっはっ、思惑通りに進んでよかったな、裕一」 「うん……けっこうドキドキしたけどね」 女子たちの後から遅れて入ってきた源太に、ほっとしながら答える。 ――この三人がぼくを目の敵にする理由について、凛がほぼ正確に言い当てていた。 「亮ってば、むかしは運動が得意で女子に人気だったんだよね。でもさいきんは身長のせいでそんなでもないし、裕があたしたちと仲良さそうにしてるのが面白くないんじゃないの? 明春は桃花と幼馴染だったのがここのところ疎遠だったし、そのセンだと思うんだ。五反田は――たぶん、亮に付き合ってるだけだと思う。あいつら仲いいし」 「なるほど……でも、それで恨まれても、困るんだけどなぁ……」 「ふふーん。だからね、あの二人も、女子と仲良くなれればいいんだよ。裕と同じ方法で、ね」 「え……それって、つまり――」 というわけで、放課後に入る前から作戦会議を立てていたため、無事に亮たちの呼び出しをしのげたのだった。 うーん。ぼく視点だと、「女子に女装させられて、そのままなりゆきで女装通学している」だけなんだけど、一部の男子から見たら「女装して女子と仲良くなりやがって」になるのか。でもまぁ、それなら彼らもぼくと同じように、女装して女子と仲良くなればいいだけだよね。 ――ちょうど目の前でセーラー服を着せられた、亮と明春のように。 「わぁっ、可愛い~! やっぱり三善くん、ちっちゃくて可愛い顔してるから、女装がよく似合うわぁ!」 「うんうん! なんだか妹みたい!」 「か、可愛いとか、妹とか言うな! オレはこんな、女装なんて――」 「明春、どう? あたしの制服の着心地は?」 「に、二宮……その、体温が残って、落ち着かないんだが……」 「もう、女の子同士なんだから二宮じゃなくて、桃花って呼んでよ。あ、あたしもこれからはハルちゃんってよぶわね」 「は、ハルちゃん……!?」 ワイワイと盛り上がる亮と明春、そして女子たち。 「お、おい、信樹! 助けてくれよ! こいつら、オレを女装させ――信樹?」 顔を真っ赤にして女子の輪から逃げ出した亮が、親友に助けを求める。 しかし信樹は亮を真顔で見つめ、しばらく口元を押さえたのち、 「お前――可愛い、な……その、これからも女装しててほしいんだが……」 「なっ……!? おい、信樹!? 正気に戻ってくれ、オレは別に可愛いなんて言われたって、嬉しくは……」 いっそう顔を真っ赤にする亮と、真面目な顔の信樹に、女子はいっせいに囃し立てる。 源太は呆れたように、 「はぁ……とにかくこれで、一件落着だな」 「うん」 この後すぐに、亮からスカートを返してもらって着替え――翌日から、ぼくのクラスに女装通学男子が二人増えることになったのだった。 (続く)