(21) そんなやり取りから、一週間後の週末。 「お兄ちゃん、みて~」 「月乃たち、水着買ってもらったんだよ~」 ぼくの目の前で、少女二人がそれぞれおニューの水着を披露していた。 「へー、とっても可愛いなぁ。日奈ちゃんと月乃ちゃんに、よく似合ってるね」 「えへへ~」 ぼくたちがいるのは、近所にある市営プールの更衣室。ここのところすっかり暑くなったから、日奈ちゃんたちに誘われてプールに泳ぎに来たんだ。 ちなみに更衣室は女子のほうである。受付の人には正直に、自分が男子中学生であること、男子用の更衣室を使うことを申し出たんだけど、「その格好で行っても他の利用者が混乱するだけだから女子用を使ってください」と言われて、女子用に通されたのだった。 笑み崩れる少女たちを前に、ぼくは二人の水着をじっと見つめる。 日奈ちゃんはひまわり柄の、オレンジのワンピース水着。腰回りには、パンツ部分を隠す程度のスカートがついている。 月乃ちゃんは紫色に星と月がプリントされた、パレオ付きのビキニ水着。 どちらも彼女たちの雰囲気によく似合っている。正直なところ、ぼく自身も着てみたくはあったけど、さすがに130センチの彼女たちの水着を貸してもらうことは無理だろう。 「それで、お兄ちゃんの水着は?」 「ぼ、ぼく? ぼくのは――」 ぼくはまだ、新しく買ってもらった水色花柄のキャミソールを着たまま。元々プールに来るつもりで、服の下に水着を着ていた日奈ちゃんたちは脱ぐだけだけど、誘われて急遽来ることになったぼくの水着は、プールバッグに入ったままだ。 「日奈ちゃんたち、先にプールに行っててくれる? ぼくも着替えて、すぐに行くから。あ、でもまだ、プールには入らないでね。準備体操もしなくちゃいけないし、先にシャワーを浴びておいて」 「そう? うん、わかった!」 「先にいってるね、お兄ちゃん!」 プールが楽しみで仕方ないのか、日奈ちゃんたちはすぐにプールへ向かう。 さて。恥ずかしいけど、いちおう年長者――つまりは保護者のぼくも、早く着替えて行かないと。 幸い、他の利用者はいない。ぼくはピンクに大きなイチゴ柄のプールタオルをかぶり、その中でキャミワンピを脱ぐ。そして新しく買ってもらった「水着」を着用し―― 「う……やっぱり、ちょっと、ちっちゃかったか……? でも今さらやめるわけにはいかないし、い、行かないと……」 タオルを外して、水着を着た自分の姿を見下ろしてつぶやく。心臓が跳ねそうになるのをこらえつつロッカーを閉め、廊下を通ってプールへと向かった。 市営プールは二階建ての体育館と同じ建物のため、二階分の高さがあるぶん天井が高く、また窓が多い。そのため以上に開放感があり、外に出たのと同じような緊張感があった。しかもこの暑さとあってか、ぼくたち以外にもちらほらと利用者がいる。 日奈ちゃんを探すのは大変か――と思いつつシャワーを浴びていたら、まだプールサイドにいた彼女たちはすぐにぼくを見つけて近づいてきた。 「お待たせ、二人とも……」 「わぁっ、可愛い!」 「お兄ちゃんの水着が、一番女の子っぽいね!」 「う……あ、ありがとう……」 リアル女子小学生たちの言葉に、ぼくは真っ赤になって目を逸らす。 ぼくの水着は、ワンピースタイプの女児用水着。淡い黄色のギンガムチェックに、イチゴがプリントされた可愛らしいデザインだ。しかも首周りにはレースのフリルがついていて、いっそう女の子らしい。 ひまわり柄のオレンジのワンピース水着。星月柄のビキニ水着。二人のどちらよりも幼いデザインで――しかも股間を隠すスカートやパレオはない。そのため股間には、委縮しているとはいえ隠し切れない男子の証が、かすかに盛り上がってしまっていた。 しょうじきこれを隠すために、一刻も早くプールに入りたいんだけど――「保護者」としては、そうもいかない。 「ふたりとも、プールに入る前に、準備運動しようね」 「うん!」 「はーい!」 ラジオ体操を思い出しながらストレッチすると、二人ともぼくと一緒に動いてくれる。きちんと筋肉を伸ばしてから入らないと、プールの中で足がつりでもしたら大変だ。だから入水前のストレッチは大切――なんだけど、 (やっぱりこの水着でストレッチするの、恥ずかしい……!) デザインが可愛いからと選んだ140センチサイズの水着は、150センチちょっとのぼくには小さすぎたようで、肩も、股間も、ぴっちりと食い込んでしまっている。やっぱりデザインがお姉さんっぽくても、もうちょっと大きいサイズのを選べばよかったか――そう思っても後の祭りだ。 しかもぼくがお手本になる都合上、日奈ちゃんたちと向かい合うかたちになるため、二人の視線が恥ずかしくて仕方がない。 (せめて普通の旧スクにしておけばよかった――いや、あっちもあっちで恥ずかしいけど、これよりはまだ……) しまいにはそんなことさえ考えてしまうくらいだったけど、 「お兄ちゃん、もう入っていい?」 「うん。深いところもあるから、くれぐれも気を付けてね」 「はーい!」 「うふふっ、まるでお兄ちゃんみたい」 「も、もう、月乃ちゃん……」 月乃ちゃんに揶揄われて真っ赤になりながら、ぼくも二人と一緒にプールに入り―― 「あ……気持ちいい……!」 水中に入った時の、水着の内側に冷水が入ってくる感覚。今までスクール水着で何度も味わってきたけれど、可愛い女児用水着だとまたその心地よさは格別で―― 「えへへっ、プールに来てよかったね、お兄ちゃん」 「う、うん……」 日奈ちゃんの言葉に、ぼくは素直にうなずいて――二人と一緒にたっぷり1時間以上、プールを楽しんだのだった。 (続く)
十月兔
2021-07-26 13:11:39 +0000 UTCelli-kasuga
2021-07-26 12:50:58 +0000 UTC