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「変態女装子メイカー」(11)

 命令3.変態女装子マミは電車で痴漢してもらう   (1) スクールデイズ 「……よし」  鏡の前で、マミは小さくうなずく。  登校前の、身だしなみチェックである。きれいに整えられた、やや前下がりのボブカット。制服は紺のブレザーに赤系のリボンとスカートで、胸元から覗く白いブラウスが良く映えている。 (ほんと、うちの制服可愛いよな……自分が着るんで無ければ、もっとよかったのに……)  小さくため息をつき、鏡の前に置いてあるブラシを手に取ると、最後に軽く髪に整える。  マミが覗き込んでいるのは、クローゼットの内側に貼られた鏡ではない。三面鏡のついた、真新しいドレッサーだった。白と曲線を多用した、いわゆるプリンセス調の瀟洒なデザインは、いかにも女の子向けだ。  もちろん化粧台が、もともと普通の男子だったマミの部屋にあったわけではない。「女装子なんだから、身だしなみにも気を遣いなさい」と母親に言われて注文し、数日前に届いたものである。使って見れば便利だったため、今ではきちんと鏡を見るようになっていた。  ちなみに台の上にはヘアブラシだけではなく、化粧水や乳液といった基礎化粧品から、ファンデーション、アイブロウブラシ、アイシャドウ、マスカラ、ルージュやリップグロスといったメイク用品まで並んでいて、その気になれば充分メイクもできそうなのだが――さすがにそこまでする気にはならず、いまのところ使っていない。 (これじゃほんとに、女装趣味の人みたいだよ……オレ、好きで女装子になったわけじゃないんだけどな……自業自得だし、仕方ないか……)  半月ほど前、ちょっとした出来心と好奇心で始めた「変態女装子メイカー」なるスマホアプリ。ろくに説明も読まずにプレイを始めたところ、プレイヤーを本当に「変態女装子」に変え、周囲からの認識さえも塗り替える「現実改変」の力があるトンデモアプリだった。マミが通うはずだった共学校さえ、女子校に変えてしまうのだから尋常ではない。  本当ならすぐにプレイを中断したいところだが、仕様で簡単にやめることもできないため、マミはやむなく「変態女装子」として通学しているのだった。 (一ケ月……あと半月の、我慢なんだから……) (でも……中断しても、ちゃんと元の生活に戻れるのかな……)  マミはチラリと、化粧台に置いてあるフォトスタンドを見る。  横長の額に入っているのは、入学式の時に撮影したクラス集合写真だった。中央には担任の女性教諭、その周りに40人の女子高生たちが姿勢正しく並ぶ中――前列やや右側のマミだけが、みずからの手でスカートをたくし上げ、ショーツをずり下して、ペニスを露出した状態で映っている。 (あの時は「変態女装子らしいポーズを取りなさい」って言われて、おちんちんを出して撮影されたけど……もしもプレイを中断して、普通の生徒に戻ったら、これはいったいどう処理されるんだろう……) (今みたいに「何もおかしいことはない」って認識されればいいけど、そうでなければ――入学式の集合写真で露出した変態ってことになって、いじめられたり、退学処分になったりする可能性が……?)  恐ろしい想像に、マミはぶるぶると首を振り、 「うう、そのあたりはやめるときにまたちゃんと確認しないと……とにかく今日の、命令は……」  アプリではその日の服装とともに、ひとつずつ命令が出される。これらを守らないとペナルティになり、一週間「初級」モードから「上級」モードに切り替わるため、きちんと確認しておかないといけないのだ。 (まぁ今までは入学式の時みたいに、周りに合わせて逆らわなければ、そのまま命令も達成できてることが多かったんだけど――)  「公園でブランコに立って乗る」という命令では、学校帰りにクラスメイトに誘われて公園に立ち寄り、ブランコに乗るように言われた。女子がブランコに座り、マミが立って乗ったうえ、その女子がふざけてマミの下着を下ろしたため、彼女の眼前にペニスを揺らしながら漕ぐことになってしまった。  また「メイド服で買い物に行く」という命令が休日に出た時は、母親におつかいを頼まれ、その日の指定の服装であったピンクのふりふりメイド服のまま、近所のショッピングモールに買い物に行く羽目になった。ただでさえ目立つメイド服、胸元の名札には「変態女装子マミ」とバッチリ書かれていたため、他の客の視線が痛いほどに突き刺さる。しかも買い物リストは多岐にわたり、スーパーではバナナ、ドラッグストアでは生理用品、書店ではJK向けファッション雑誌などあちこち回らなければならなかった。  ともあれ、恥ずかしい目には遭うものの、だいたい周りのお膳立てに乗っていればすんなり命令を実行できたのだが―― 「こ、今回のは、そうはいかないな……」  表示された命令に、マミは唾を飲む。 「通学電車……できれば行きに終わらせちゃいたいけど……ダメなら、帰りで……」  恥ずかしさに決心が固まらないまま、 「――っと、そろそろ家を出ないと、遅刻しちゃう」  最後に鏡の前で襟元のリボンを引っ張って、角度を整える。そんな自分の無意識の仕草に、 (ううっ、オレ、このままだとほんとに女の子――いや、変態女装子になっちゃいそう……)  次第にこの生活になじんでいく自分に不安を覚えながら、マミはスクールバッグを手に取って、玄関へと降りてゆくのだった。   (続く)


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