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連載小説「女装強要妄想ノート」(43)

4月4週目 「女装で駅前に連れ出される」(下)   (3)  駅ビルの8階。書籍・文具売り場とフロアを二分するように、女児服売り場が設けられている。  その一角に、真弓の母親がひいきにしている女児服ブランド――「アンジェリック・ベイビー」があった。 「いらっしゃいませ、佐々木様――あら」  春物新作のディスプレイが並ぶ店頭で出迎えた店員も、真弓の一家とは面識がある。いつものようににこやかに出迎えかけたが、すぐに目を丸くして、 「あの、真弓くん……ですよね?」 「う……は、はい……」  店員の反応に、真弓は赤面する。高校の男子制服にツインテール、しかも足元は女児用シューズとくれば、おかしな目で見られて当然だ。 (もしかしたら、怒られて、お店から追い出されちゃうんじゃ――)  そんな危惧に竦みあがっていると、 「ふふっ、とてもお似合いですよ、真弓くん。後ろで束ねただけより、ずっと可愛いわ」 「えっ……? あ、あの……似合って……?」 「はい。着ているのが男子制服なのは残念だけど――ふふっ、お洋服、うちで見てくださるんですよね?」 「それは……その、はい……」  真弓は耳まで真っ赤になってうなずいた。ツインテールにされてしまった以上、ここで女児服に着替えて帰るしかない。  母親も笑顔で、 「ええ、そのつもりよ。外を歩くのは初めてだから、お手柔らかにね」 「かしこまりました。なら、そうですね、最初なら、パンツタイプなどいかがでしょう?」 「真弓、どう? パンツタイプでいい? それともスカートやワンピースを――」 「パ、パンツでいいです!」  真弓が上ずった声で答えると、 「ふふっ、かしこまりました。それでは、こちらにどうぞ」  店員は言って、真弓たちを店内の一角――スカートが中心のボトムス売り場の中では比較的小さい、パンツ売り場へと案内しはじめた。 「そういえば――おうちの中では、もう女の子の格好を?」 「ええ。先月からちょっとずつ、ね。本人もずっと、女の子の格好がしたかったみたいで。ノートにこっそり、女装させられることを考えていろいろ書いてたみたいなのよ」 「まぁ、まぁ」  店員の視線に、真弓はヘビに睨まれたうさぎのように身を震わせた。 「それなら早く言ってくだされば、亜弓ちゃんとの姉妹コーデとか、色々楽しめたでしょうに」 「ほんとに、もったいないわ。ね、亜弓、いまから――」 「あたしは嫌だからね。これからはお兄ちゃんに着せてあげてちょうだい」 「まぁ、残念ですわ。ふふっ、でも亜弓ちゃんが卒業しても、真弓ちゃんが着てくれるなら嬉しい限りです」 (うう……家で女装してることや、ノートのことまでばらされちゃった……ぜったい、変態だって思われてる……!) (でも、最初はパンツにしてもらえるみたいで、まだ助かった。最初からふりふりのブラウスや、短いスカートや、女の子らしいワンピースをって言われたら、どうしようかと思ったけど……)  しかし真弓はパンツ売り場に来てすぐ、そんな自分の考えが甘かったことを思い知る。 「うっ……」  淡いピンクのギンガムチェックで、裾の内側にレースのついたキュロット。  お尻ポケットにブランドロゴが入った、花柄の七分丈パンツ。  たくさんのリボンがサスペンダーについた、真紅のかぼちゃパンツ。  どれもこれも、スカートに決して劣らない可愛らしさ。いや、スカートではないからこそ、しっかり女の子らしさを強調するデザインを取り入れているというべきか。 「さ、真弓。気に入ったのを選んでいいわよ」 (そんなこと言われても――これじゃ、恥ずかしいのはスカートと大して変わらないじゃないか……!)  並ぶ商品に、少しでもマシなものはないかと目を彷徨わせる真弓。しかしよさそうなものが見つかるどころか、次から次へと可愛いパンツを目にして、それを穿いている自分を想像してしまい、恥ずかしさがこみ上げるばかりだった。 「あらあら、お兄ちゃんったら、可愛いお洋服ばっかりで目移りしちゃってるみたい」  亜弓はくすくす笑って、 「ま、ゆっくり選ぶといいわ。他のお客さんたちが見てる前で――ね」 「っ!?」  言われてようやく、店内にちらほらと見える客の陰に気付く。  主に小さな女の子を連れた母子連れ。彼らの目は商品を見つつも、ちらちらとこちらに視線を向けていて、「ツインテールにして女児服を選びに来た男子高校生」に、抑えきれぬ好奇心を抱いているのが分かる。 (あんまり長いあいだ選んでたら、ますますたくさんの人に、この恥ずかしい姿を見られちゃう――) 「う……じゃ、じゃあ、これにする――」  いよいよ焦った真弓は、売り場の中では一番大人しいように見える七分丈のパンツを選んだ。 色は水色の無地。肩紐と裾についているフリルと、右ポケットのところに入っているブランドロゴ以外は、比較的おとなしいデザインだ。 (でも、もっと可愛いのを選べって言われたら、どうしよう――)  そんな懸念が頭をよぎるが、 「あら、いいじゃない。そのパンツ」  意外なことに母親はあっさりとうなずいて、 「とっても可愛いわよね。――お尻のところにフリルがついてて、まるでベビー服みたいで」 「えっ……!?」  言われて真弓は、慌てて商品の側面に回り込む。  正面からしか見ていなかったために気付かなかった。そのパンツのお尻側には3段フリルと、その間に挟まってレースがあしらわれていて、まるでベビー服のようなデザインになっていたのだった。   (続く)


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