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連載小説「女装強要妄想ノート」(42)

4月4週目 「女装で駅前に連れ出される」(下)   (2) 「うぅ、ツインテール……」  ヘアセットを済ませて美容室から出たところで、真弓は落ち着かなげに側頭部に手をやった。  もともと長い髪を左右の高い位置でひっつめ、赤いリボンのついたヘアゴムで括って垂れさがるツインテールだ。スタイリストの腕もあって実に艶やかに決まっているのだが、真弓の表情は晴れない。  何しろ街を歩いていると、視線があちこちから突き刺さるのを感じるのだ。ツインテール自体は、それほど珍しい髪形ではない。大の大人やがしていれば多少は人目を引いただろうが、140センチ足らずで容姿も美少女めいている真弓であればほとんど違和感はなかっただろう。  しかし、問題は―― 「どうしたの、お兄ちゃん。せっかくかわいい髪形にしてもらったのに」  すぐ隣の妹に訊かれ、真弓はいよいよ恨みがましそうな眼つきになる。 「わ、わかってるくせに……っ!」 「えー、わかんないなー。どうしてお兄ちゃん、そんな不機嫌なのー?」 「だ、だって、こんな、ただでさえ、いかにも女の子って感じで、恥ずかしいのに……」  真弓はいっしゅん口ごもってから、 「こんな――男子高校生の服装のままだなんてっ、中途半端な、状態で……!」  絞り出すように、そう言った。  赤いリボンのヘアゴムがついたツインテールに、黒のハートバックルシューズ。下着も女児アニメ柄のキャミソールとショーツのセットに、レースのついたショートソックス――ここまで女児物でそろえているにもかかわらず、肝心の服が、高校の男性制服のままなのだ。そのせいで、男子とも女子ともつかないような、小学生の妹がそのまま兄の制服を着せられているような、実にちぐはぐな状態になってしまっているのである。  それでも先ほどまでは、表から見えるのはシューズだけだったからよくよく注意しなければ目立たなかったのだが――ツインテールのせいで、何もかもが台無しである。 「ふふっ、やっぱり中途半端な状態は、よくないわよね」  母親はにこにこと、いよいよ本当の目的に向かって誘導する。 「どうせなら、ちゃんと服装まで、女の子らしくしないと。というわけで――駅ビルの女児服売り場に、行きましょうか」 「う、うぅ……出かけるときは、『まだ女装させない』って、言ってたのに……最初っから、このつもりで……」 「ええ。『まだ』とは言ったけど、『このお出かけでは女装しなくていい』なんて言ってないもの」  母親は悪びれる様子もなく、さらにとんでもないことを付け加える。 「それになにより――旅行の前に、女の子でのお出かけに慣れておかないとね」  まんまと嵌められた――今さらながら気づいた真弓は唇を尖らせながら、逃げることも引き返すこともできず、おとなしく母親の後について、駅ビルへと向かっていく。  だんだん増える人と視線に、真弓はいっそう委縮しながらも、 「旅行……さっきも言ってたけど、ほ、ほんとにオレ――あ、あたしお、女の子の格好で、旅行に行かないとダメ……? さすがにちょっと、恥ずかしすぎるんだけど……」  真弓の家では、ゴールデンウィーク中に小旅行に行くのが習わしになっている。だいたい日帰りか一泊二日で、関東近郊の観光地に行くのだが、もちろん女装して出かけたことなどない。出先での女装に不安を感じるのはとうぜんだったが、 「くすくすっ、お兄ちゃんったら、心にもないことばっかり」  妹は、そんな兄の反応を鼻で笑う。 「あのノートにも、ちゃーんと書いてたくせに。『GW中の旅行に、女装したまま連れて行かれる』だっけ?」 「あ、亜弓っ……!」  痛いところを突かれて、真弓の顔が真っ赤になる。  「ノート」とは、真弓がこっそりと、「こんな風に女装させられたい」というシチュエーションを書き溜めていたものだった。先月母親に見つかってからというもの、リビングのマガジンラックに陳列されるという辱めを受けたあげく、そのノートをもとにあれこれ女装させられているのだ。 (もともと自分が書いたものだから、「こういう風にされたいんでしょ」って言われたら断りづらいし……でも、思った以上に恥ずかしいし……) (いまじゃもう、学校に行くとき以外はずっと女装で、恥ずかしいったらないよ……) (しかも、恥ずかしいだけじゃなくて――) 「うっ……!」  男子制服のズボンの内側、さらに言えばその下に穿いている女児アニメプリントショーツの中で、先ほど欲望を吐き出したばかりの雄が、再び疼き始める。  もともと例の「ノート」も、女装させられるシチュエーションの妄想でオナニーするためのものだったのだ。それが実現してしまったからには、昂奮するなという方が不可能だった。しかも、女子小学生に間違えられるほどの容姿にもかかわらず、彼の男性機能は立派なもので―― (うう、さっき出したばっかりなのに、気を抜くと、また勃っちゃいそう……) (我慢、我慢……せめて家に帰るまでは、もう勃起しないように気を付けないと……!)  真弓は必死で自分に言い聞かせながら、間近に迫った駅ビルを見上げるのだった。   (続く)


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