「雛祭りの呪い」(7)
Added 2021-03-21 04:07:06 +0000 UTC(7) 「はぁ……」 出かける前に、「支度をしてくる」と言っていったん自室に戻った陽太は、改めて室内を見回して、大きくため息をついた。 (うう、自分の部屋には戻ってきたものの、知らない女の子の部屋にいるみたいで落ち着かない……部屋の中だけでも元に戻して、男の格好をしたいけど、それさえも許してもらえないなんて……) (せめてもうちょっと大人しい……スカートじゃない服で出かけさせてもらうことにしよう……) (ユニセックスでも通せそうな青系のTシャツとか、ズボンとかがあればベストなんだけど……せめてハーフパンツとか、ちょっと女の子っぽいくらいのなら……!) 最後の抵抗で、大人しい女児服がないかとオープンラックを探し始める陽太。 しかしそこに並んでいるのは、トップスはほとんどがブラウス系で、他に辛うじてあるのはセーラーカラーのチュニックだったり、黒とピンクの小悪魔系タンクトップだったり、重ね着風の襟がついたニットだったりと、少なくともユニセックスに見えそうなものは一着もない。 ならばとボトムスに目を向けても、ほとんどがスカートとジャンパースカート、ワンピース。それもブラウスと合わせることを前提にした、ちょっとお上品なプリーツスカートやティアードスカートばかりだ。色は清楚な黒・紺系か、可愛らしいパステルカラー、レトロな雰囲気の赤・オレンジ系ばかりで、いかにも女児服といった雰囲気なのだが――そのサイズはいずれも陽太が着られそうなサイズで、 (サイズ感が狂って、逆に自分の体が縮んでるような、変な感覚……!) (せめて、せめてパンツ系のはないのか……!?) 陽太は幾重ものスカートのカーテンをかき分けて、 (あ、あった! (あった、けど……こ、これ……!) 確かにそれは、スカートではなかった。 しかしピンクのギンガムチェックで、お尻ポケットはハートの形で女児服ブランドのロゴが入り、裾にもフリルのついたサスペンダー付きショーパンでは、 (太腿は丸出しだし、これじゃスカートの方がマシなくらいなんじゃ……) (い、いやでも、スカートみたいにひらひらしないし……) (物は試しだ、一回このパンツに着替えてみよう) 他にはスカート以外のボトムスはない。陽太は心を落ち着けて、まずはジャンパースカートを脱ぎにかかるが―― (えっと、これ、どうやって脱げば……?) 前にも、横にも、外せそうなボタンやファスナーの類は見当たらず、陽太は混乱する。しかしお尻に手を伸ばした時にファスナーの金具が指先に触れ、辿って行った先の襟足にようやくつまみを見出して、ファスナーを開いてゆく。 (ううっ、背中に手を回すの、やりづらい……!) 羞恥と焦燥で手つきが怪しくなりながら、それでもどうにかファスナーを下ろしきり、ひっかかっていた肩の部分を左右にずらすと、ジャンパースカートはすとんと落ちた。 胸をなでおろし、大きく安堵の吐息をついたのもつかの間。 「ひっ!?」 白いブラウスの裾から覗く、ピンクの三角形を視認して、陽太はさらなる驚愕と羞恥に見舞われる。 いつもであれば化繊のトランクスに包まれている、少年の下半身。 しかしそこを覆っているのは、インゴムによってウエストと太ももの付け根をしめつける、ピンク色のコットン生地―― (や、やっぱり! なんか着心地がおかしいとは思っていたけど、女の子用のショーツじゃんか、これ……! それもせいぜい、小学校の低学年くらいの子が穿くような、インゴムタイプのっ……!) おまけにその中心は、少年のモノによってもっこりと隆起している。これだけ女の子の髪型、服、下着、部屋、さらには幼稚園女児という身分すらも用意されているにもかかわらず、そこだけが少年の名残をとどめているのは、いっそ残酷なまでに滑稽であった。 (し、下着っ……下着はどこにっ……!?) 今までの流れを考えれば、この部屋のどこを探しても男物の下着などあろうはずがないことは自明であった。しかし女児用ショーツを穿いた自分の股間を目撃した陽太には、もはやその判断もできない。 パニック状態で手近な引き出しを開くと、そこにはぎっしりと詰め込まれた下着類。無地、花柄、ドット柄、チェック柄、フルーツ柄にアニマル柄にコスメ柄――色も柄も様々な、さながら見本市のように女児用ショーツが入っていたが、もちろんどこにも男子用のものはない。もはやティーンズが穿くような、アウトゴムタイプのショーツすらも入っていなかった。 別の引き出しを開くと、こちらはキャミソールやタンクトップ、ソックスの類。どれもショーツに負けないほど可愛らしく、ソックスもレースやフリルのついたもの、フルーツやリボン、編み上げ柄がデザインされたものばかりであった。 「そんな……オレ、これからずっと、女の子用の下着で……!?」 呆然とつぶやいて、その場にへたりこむ陽太。足を開いたままお尻をつく、いわゆるアヒル座りだ。体が柔らかいのをいいことに小さいころからやっていたもので、さいきんでは女の子っぽいからとしないようにしていたポーズだが、とっさの時には出てしまう。 しかし今の陽太には、その座り方がよく似合ってしまっていた。丸襟ブラウスの裾からピンクのショーツをのぞかせ、太ももは大きく露出して、足はレースのついた純白のソックスに包まれている。 ふと横を見た時、陽太はそこにある姿見で自分の姿を見てしまい―― 「あ、あ……!」 完全に女の子――というのは無理があるものの、見苦しくはない程度に可愛らしく、それでいて滑稽なくらいに幼い自分の装いに、陽太の目が大きく見開かれる。 (オレ、ずっとこんな格好で、桜木さんの親子と――) (しかもこれからは、幼稚園に通うことに――) (恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい――) 様々な思考が空転し、羞恥に心臓が大きく脈打つ。いや、ただの羞恥であればまだ有情であっただろうが、その胸の高鳴りは、吊り橋効果のような作用をもたらして、彼の心理にさらなる危機をもたらした。 すなわち―― 「そ、そんなっ……!」 陽太は自らの肉体に生じた生理的反応に気付き、愕然とつぶやく。それは高校生の少年にとって、およそ認めがたい現実であった。 「なんで、オレ――こんな時に、勃起しちゃってるんだよ……」 (続く)