NokiMo
jugatsu-usagi
jugatsu-usagi

fanbox


「雛祭りの呪い」(2)

 ルビを忘れていたのですが主人公の名前は「桃瀬 陽太(ももせ ひなた)」になります。  ではどうぞ。   *   (2) 「ふふっ、すっかり可愛くなっちゃったわね。どうして女の子の格好になっちゃったのかはわからないけど、意外と似合うじゃない」  のほほんという母親の声に、陽太はようやく、思考停止状態から立ち直る。  男子高校生から、ツインテールの女児へ――突如として一変した自分の髪型と服装に、理解が追い付かずあっけにとられていたが、ともあれこれが現実であると認識するにつれ、次第に女児服の着心地が生々しく感じられ始める。  少女用のブラウスの、滑らかながらもぴったりとした肌触り。  ゴムが入った袖口部分が、手首を締め付ける感覚。  足首に当たる、チクチクとしたレースの刺激。  そして何より――ウエスト部分から大きく広がるスカートの、ほとんど太腿が露出している頼りなさと、その内側に感じる、ゴムが入った下着の穿き心地。明らかにトランクスではなく、小学校のころまで穿いていたブリーフに近い。それもそれで恥ずかしいのだが、彼はさらに別の可能性に思い至っていた。 (まさか、下着も女の子用の――い、いや、さすがにここで確かめる気はないけど!) 「よ、よく分からないけど、着替えてくる!」  まるで全身を凌辱されているかのような恥ずかしさに耐えかねて、陽太はそう叫んで和室を飛び出そうとする。  そこへ母親が真剣な声で、 「あっ、ちょっと待ちなさい、陽太!」 「な、なんだよ!?」 「せめて写真を一枚――」 「断る!」  陽太はそう叫ぶと、今度こそ脱兎のごとく和室を出た。玄関の前を通り、階段を上がって2階の自分の部屋へ―― 「な、なにこれっ……!?」  扉にかかっているモノに、陽太は再び絶句する。 「ひなちゃんのおへや」  白い楕円形のボードに、百均などで売っているプラスチック製の切り抜き文字を貼り付けて作ったネームプレート。文字の色はピンクで、ボードの縁には黄色いギンガムチェックのフリルと白いレースがあしらわれ、右上には大きな赤いリボン、文字の前後にはハートマークと、なんとも可愛らしいデザインになっている。  まるで――この部屋の主は男子高校生の「陽太」ではなく、ちっちゃい女の子の「ひな」であるかのように。 (い、いや、そんなはずは――)  悪い想像を振り払うように、陽太はドアノブをつかんで乱暴に開ける。  その先に広がっているのはいつも見慣れた自室。やや汚れてきた白い壁と天井、板張りのフローリングに、青いカーテン。家具は小学生のころから使っている素朴な勉強机、男臭さの染みついたグレーのベッド、少年漫画とスポーツ雑誌が並ぶ本棚と、最近ようやく増えてきたメンズが入っているクローゼット――  では、なかった。  壁紙は淡いピンクと白のストライプ。天井は濃いピンクで、シャンデリアのような照明が吊り下がっている。カーテンはピンクに花柄の遮光タイプと、薄く白いレースの二重。床に敷かれたカーペットは、これまたピンクのハート柄だった。  木製の素朴な勉強机は、白を基調にしながらも、引き出しや椅子のクッション、背もたれのハートなどにピンクをあしらった女の子らしいデザインのものに。机上のシートには女児向けアニメの、変身ヒロイン5人とマスコットの小動物が描かれていた。前の本棚に入っているのも、高校の教科書や参考書ではなく、幼児向きの絵本やひらがなドリルである。  壁際のベッドはなんと天蓋付きで、ゆめかわ系の淡いラベンダーを基調に、掛布団カバーやピローケースにはフリルやレースがあしらわれている。さらにその奥には、可愛いワンピースやドレスを着たウサギやイヌのぬいぐるみが、壁に背を付けるように座って並んでこちらを見ていた。  本棚の少年漫画やスポーツ雑誌も一切見当たらず、代わりに少女漫画や絵本、女児向けの雑誌が並んでいる。ところどころにある空間には、リスやネコ、ウサギやカピバラのぬいぐるみが飾られていた。  クローゼットもオープンラックタイプに変わっていて、しかもそこに吊るされているのは当然のように女児服ばかり。それもいま陽太が着ているような、ちょっとお嬢様っぽい感じで、ブラウスとスカート、ワンピースも襟のついたフォーマル寄りのものが多い。パンツ類も一応あるようだが、お尻のポケットがハートだったり、裾にフリルがついていたり、パステルカラーのギンガムチェックだったり、女児服ブランドのロゴが入っていたりと、一目で女児用とわかるものばかりである。  そして壁の一角には、制服と思われる一式が掛けられていた。  ピンクのダブルボタンジャケットに、水色のプリーツスカート。  大きな丸襟のブラウスに、黄色いリボン。  そして胸元にはチューリップの形をした赤い名札。隣のハンガーには、丸い縁と黄色いリボンのついた白い帽子に、黄色い肩掛けバッグが並んでいるのを見れば――何の制服か、一目瞭然であった。 「な、なんだよ、これ……」  呆然と目をみはる陽太の口から、虚ろな声が漏れだした。 「まるで、これじゃ――幼稚園の女の子の、部屋みたいじゃないかっ……!」   (続く)


Related Creators