「思い出のワンピース」 6.シンデレラボーイ(2) レッスン室でレオタードに着替え終わったところに、トレーナーの女性が入ってきた。30代前半、元バレエダンサーらしく細身の女性だ。 「本日はご参加、ありがとうございます。トレーナーの西森です。どうぞよろしくお願いします」 「よろしくお願いしまーす」 博希とランも、声をそろえて挨拶を返す。間延びした言い方がいかにも子供っぽくて、博希は背筋がむずがゆくなる。 ちなみに保護者枠の愛那と斎藤夫人は、レッスン室の隅に並んで座り、「娘」の様子を眺めていた。 トレーナーはくすくす笑って、 「ふふっ、緊張しないで、楽しんでいってちょうだい。先生も、こんなに可愛い子たちを教えられて嬉しいわ。じゃ、最初に自己紹介をしてくれるかしら?」 「はい!」 元気よく手を上げて返事をしたのは、ランの方が先だった。上がキャミソールのようになったラベンダー色のレオタードのスカートを揺らし、 「斎藤ラン、5さいです! がくねんは、えっと、ねんちょー組です! よろしくおねがいします!」 「ふふっ、ランちゃんね。とっても元気でいいわよ。よろしくね」 西森トレーナーはランの頭を撫でてから、もう一人の参加者に視線を移す。 「う……ゆ、雪田、博希、18歳、です……が、学年は、高校、3年生、です……よろしく、お願いします……」 「あらあら、こっちの子はずいぶん恥ずかしがり屋さんね。でも、とっても可愛いわよ、そのレオタード」 「あ、ありがとう、ございます……」 褒められて、博希はますます顔を赤らめた。 彼が着ていたのは、水色を基調としたレオタードだった。胸元のヨーク襟とパフスリーブ、フリルのついたスカートの部分だけが白になっているのが、シンデレラのドレスを思わせるデザインだ。タイツはもちろん白で、水色のバレエシューズを履いていた。 (うう、ランちゃんよりよっぽど女の子みたいだよ……これじゃまるで、可愛いレオタードが着たくてバレエ体験レッスンに参加してるみたいじゃないか……) 事実が当たらずといえども遠からずなだけに、いっそう恥ずかしい。 数日前に決まったバレエレッスン参加だが、どんなレオタードが用意されたのかは「当日のお楽しみ」と言われて見せられていなかった。いったいどんなレオタードを着せられるのかと、ドキドキしながら過ごすことになったのを考えれば、母親の判断は正しかったのだろう。 そしていざ着替えの段になって、水色のシンデレラ風ワンピースを見せられて―― 「ぼ、ぼく、これを着て、バレエを……!?」 予想以上に恥ずかしいデザインに戸惑う博希だったが、それでも着ないわけにはいかない。 ジャンパースカートとブラウスを脱いで下着姿になり、白いタイツを履いて、その上からレオタードを着る。肌にぴったりと密着する着心地と、つるつるとした肌触り、なにより可愛らしすぎるデザインに、股間の疼きは早くもクライマックス。勃起していないだけ上出来である。 「うう、可愛すぎて恥ずかしいよ、これ……」 「くすっ、でも、可愛いレオタードのほうが嬉しいんでしょ?」 「う、うん……」 「それに――恥ずかしいほうが、好きなんでしょ?」 「……うん」 耳元で意地悪く囁く愛那に、博希は小さくうなずく。 さらにそこへ、 「わぁっ、お兄ちゃんのれおたーど、かわいいー!」 「ふふ、うちのランのより、ずっと可愛いわね」 シンプルなレオタードに着替えたランと、その母親にも笑われて、ますますいたたまれなくなったのだった。 (続く)