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SS「悪夢の入学式」(2)

  (2)  全裸の妹は嬉しそうに笑うと、改めて女児用スーツのハンガーを持ち上げて、 「じゃあこれも、ママが着せてあげる」  そう言って、グレーのボレロとピンクのジャンパースカートをハンガーから外す。最後に残ったブラウスも、ボタンを外して大きく広げ、妹は俺の背後に回り込んだ。 「お兄ちゃん、手を広げて座ってちょうだい」 「うん」  軽く左右に開いた手の先に、ブラウスの袖が入る。  すると俺の腕を、滑らかなサテン生地がするする這い上がっていって、あっというまに羽織る形になっていた。妹にぴったりなくらいのサイズ――つまりは130サイズのブラウスだったにもかかわらず、「ちょっと窮屈かな」くらいの違和感しかない。さらに言えば、40センチも身長差がある俺に、妹はいったいどうやって着せたのか――  考え始めたらきりがない疑問は、しかしどこかのっぺりとした感覚のまま、掘り下げられることはなく、 「ボタン、留めてあげる」 「ありがとう、ママ」  再び正面に回って背伸びした妹の手が、ボタンを留めてくれる。本来であればボタンに留めるどころか羽織ることすら不可能なサイズにもかかわらず、妹の手はいともたやすくボタンを留めていき、俺の体は女児用ブラウスにぴったりと包まれてゆく。  いや、ひとつだけ、ピッタリではない点があった。丈だ。袖丈は肘をちょっと出たくらい、裾丈に至っては、へそにも届かないくらいのところまでしかない。そこだけが、女児用ブラウスを強引に着こんだような不自然さを残してみっともなくなってしまっている。  しかし妹は、襟元にも大きな白いリボンを付けてくれて、 「うん、いいわね」  そんな戯画めいた俺の姿にも、なにもおかしいことなどないかのように微笑んだ。 「次はジャンパースカートね。パンツの時みたいに、ママの手に肩を置いてちょうだい」 「うんっ」  目の前に広げられたジャンパースカートに足を入れ、今度はそのまま膝をついて、着せてもらう。肩までひっかけたところで妹は背後に回り、ホックとファスナーを閉じてくれる。  またも不自然なほどの、サイズぴったり。けれど――やはり裾だけは足りず、ジャンパースカートはチュニック程度の丈にしかならなくて、スカートの三段フリルはおへそのあたりに広がるばかり。大きくテントを張ったショーツは、露出したままだ。  なのに妹はまったく気にも留めず、 「最後はボレロね。羽織らせてあげるから、手を左右に広げて、そのままにしてちょうだい」 「うん」  これまた袖丈以外は問題なく着用し、前でホックを留める。  仕上げにコサージュを付け、頭に黄色い安全帽子、背中に赤いランドセルを背負えば―― 「いいじゃない。とっても似合ってるわよ、お兄ちゃん」 「ほんと? ありがとう、ママ」 「ええ、ほんとよ。鏡を見てごらんなさい」  そう言ってママは、ベッドの横に置いてある姿見に視線を向ける。  そこに映っていたのは―― 「わぁっ!」 (うっ……!)  口から出た声と、心の声が、乖離する。  身長170センチ、ごつくはないとはいえ男である自分の体が着ているのは、ピンクとグレーの上品な女児用スーツ。たとえ体にぴったりなものだったとしても、みっともないことになるのは免れないのに、まるで横幅だけ広げて仕立てたように丈ばかりが足りてないものだから、余計に戯画めいた光景になってしまっている。頭には黄色い通学帽、肩にはランドセルのベルトがかかっているのも、何かの冗談としか思えないありさまだ。  けれど妹も、俺も、それを見て満足げにうなずき、 「さ、これで入学式の準備は完璧ね。シューズも出しておいてあるから、先に外に出ていてちょうだい。ママも着替えて、お出かけの支度をするから」 「うん!」  本当に、この格好で入学式に――?  正気とはおもえない。子供たちに騒がれ、保護者に通報され、学校に入れてもらうことなんてできるはずがない。なにより――こんな恥ずかしい格好で、そもそも外に出られるわけがなかった。  そんな理性的な判断にも関わらず、俺の体は勝手に動いて、階段を降り、玄関へと向かう。土間に置いてあるピンクのストラップシューズを履くと、丈の足りない女児スーツの下から勃起パンツを丸出しにした姿で、家の外に出ていた。   (続く)


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