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SS「おさがり生活」(2)

  (2)  そして―― 「わぁっ、お兄ちゃん、可愛い!」  しばらくして様子を見に来たリナは、玄関前で出迎えた「洋平お兄ちゃん」の姿に賛嘆の声を上げた。  白の丸襟ブラウスに、紺のダブルボタンイートンジャケットと、吊りスカート。頭には黄色い通学帽子、胸元には名札、背中には赤いランドセルを背負い、足元は刺繍入りの白ハイソと上履き――下着もリナからもらった綿のキャミソールとショーツをつけている。「せっかくもらったんだから着て見せるのがマナーでしょ」と母親に言われて、恥ずかしながらも着て出迎えたのだ。  しかしそれは、リナにまた誤解を与えたようで―― 「うんうん、まさかすぐに着てくれるなんて思ってなかった! お兄ちゃん、実はそういう格好好きだったりしたの?」 「ち、違うよ! これはその、もらったんだから着て見せるのがマナーだって思って……」 「ふぅん……ま、そう言うことにしておいてあげる。じゃ、出かけよっか」 「出――えぇっ!?」  当然のように言うリナに、洋平は声を裏返した。 「な、なんでさ!?」 「せっかくかわいく着替えたんだから、おでかけしないともったいないでしょ? さすがに学校には通えないけど、通学路を歩いて、女子小学生気分を楽しむなんていいんじゃない?」 「よくないよ! そんな――」 「ほらほら、シューズも出てるんだし、履き替えて。大丈夫、誰かに聞かれても、あたしの妹の洋子ちゃんですってことにするから!」 「ぜんぜん大丈夫じゃない……」  さらに家の奥から母親もやってきて、 「いいじゃない、外に出る練習だと思って、行ってらっしゃい」 「ほら、お母さんもああいってるんだし、ね?」 「う、うん……」  こうなっては逃げ場なし。洋平はあきらめて、リナに連れられて外に出るのだった。  向かった先は、かつて洋平が、つい先日までリナが通っていた近所の小学校。 (まさか小学校の制服――それも女子用の制服を着て、赤いランドセルを背負って通学路を歩くことになるなんて……)  歩いて5分ほどで、小学校の前までやってくる――が、春休み中とあってとうぜん校門は閉まっていた。 「はぁ、中には入れないか。残念だったね、洋子ちゃん」 「う、うん」  リナへの答えとは対照的に、開いてなかったことに胸をなでおろす洋平。  しかし災難はその帰り路――行きとは別のルートを通っていたところで起きた。 「あ、洋子ちゃん! 学習塾なら、洋子ちゃんでも小学生コースで通えるんじゃない?」 「じゅ、塾に……!?」  リナが指さしたのは近所にある、小さな学習塾だった。受験対策というより、ふだんの勉強についていくための塾である。 「い、いやだよ! なんで俺が、小学生の――」 「しっ、あんまり大きな声で『俺』なんて言ってたら、お兄ちゃんだってばれちゃうよ?」 「う……」  押し黙る洋平。さらに悲劇は、立て続けに襲い掛かってきた。 「あら、ふたりとも、入塾希望者かしら?」  学習塾の中から、女子高生が現れたのだ。キャメルのブレザーとチェックプリーツスカートは、有名私立女子校の制服だ。  彼女の顔を見て、洋平は引きつった声を上げる。 「か、加奈子さん……?」 「んー? あなた、あたしのこと知ってるの?」  女子高生は目を細めて洋平を見た後、すぐに目を丸くして、その「女子小学生」が、中学時代の級友であることに気づく。 「うっそー!? やだ、もしかして、ヨーヘイ? 何その格好、女子小学生みたいじゃん!」 「えへへ、あたしのおさがりを上げたんです。そしたら着てくれて」 「へぇー、そうなんだぁ。あのヨーヘイが、ねぇ。なに、じゃあここに来たってことは、女子小学生として塾に入りたいってこと?」 「ち、ちがっ……!」 「はい、そうなんです!」  洋平の声を遮って答えるリナ。  女子高生――加奈子はうんうんとうなずいて、 「なるほど、そういうことね。じゃ、もうちょっとしたら小学生クラスの授業が始まるから、ちょっと参加していきなさいよ。あたしが優しく、教えてあげるから」 「い、いいから! 別に女子小学生になりたいわけじゃ……」 「そんな可愛い格好で言われても、説得力ないわよ。さぁさぁ、とにかくいらっしゃい」 「待ってったらぁ……!」  洋平は加奈子に塾の中へと連れ込まれ――結局小学生クラスで、一緒に授業を受ける羽目になるのだった。  そして、一か月後。  高校から帰った後、ブレザーの男子制服からおさがり女児制服に着替え、赤いランドセルを背負って出かける洋平の姿があった。  今日は、九九のお勉強だ。洋平は吊りスカートのプリーツを揺らして、夕暮れの中を学習塾へと歩いて行ったのだった。   (終わり)

Comments

実際にお下がりが年下からまわってくるので わかりみ。

水無月舞

ありがとうございます~!

十月兔

おさがりを貰う系は、好きなので、すごく好きです。

ありがとうございます~! 短くまとめるのを心掛けたので、上手くいってなにより! わたしもお隣の女の子におさがりもらって、女児として塾に通わされたい… 

十月兔

良いっ❗🤩👍 洋平=洋子ちゃんの生活が羨ましいですね🎵🥰💕 積み残していた設定が短くきれいに纏まって、素敵な小品になりましたね☺️

elli-kasuga


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