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SS「おさがり生活」(1)

  (1) 「リナちゃん、ずいぶん大きな荷物だね」  コンビニ帰りの洋平が声をかけると、お隣の少女――リナは笑顔で振り返った。彼女は車のトランクに、大きな段ボール箱を積み込んでいるところだった。 「あ、洋平お兄ちゃん。うん、いらない服とか、学校関係のものとか、処分することにしたの」 「そっか、リナちゃんももう、中学生だもんね。進学おめでとう」 「くすっ、ありがとう、お兄ちゃん」  リナは嬉しそうに笑う。そんな表情は、まだまだ子供っぽさを残していた。  今は三月末、リナも洋平も春休み中だ。そしてリナは、ほんの一週間ほど前に卒業式を済ませたところであった。 「小学校の頃は子供っぽい服が多かったけど、さすがにもう着られないから、まとめて古着屋さんに引き取ってもらおうと思って。ランドセルとかも、残しておいても仕方ないし」 「うーん、ちょっともったいないね。誰か着られそうな子とか、使いそうな子とかにあげればいいのに……」 「それもそうなんだけど、なかなかいい相手がいなくて」  リナは小さくため息をつく――が、ふとその目が、洋平に向けられる。 「ん? どうしたの、リナちゃん?」 「洋平お兄ちゃん、いま身長いくつ?」 「うっ……ひゃ、157だけど……」  高校2年生の男子にしては低い身長を口にして、洋平は少し赤くなる。リナよりも少し高い程度しかないのだ。  その答えを聞いたリナは、 「うん! お兄ちゃんでも、着られそうだね!」 「え……え?」 「決まり! お母さん! あたしのお洋服、洋平お兄ちゃんにもらってもらうことにするから!」 「あら、いいの?」  ちょうど家の中から段ボールを抱えてきていた母親が、目を丸くして娘と洋平を見る。 「あら洋平くん、こんにちは。リナはそう言ってるけど、本当に引き取ってくれる?」 「え、ええと、それは……」 「もったいないって言ったのはお兄ちゃんでしょ。お兄ちゃんなら着られそうだし、もらってちょうだい。ね?」 「お、俺がもらってもそれこそ着られないだろ!?」 「普段着にすればいいじゃない。部屋着とか、パジャマとか――学校以外でなら着られるでしょ?」  そういってリナは、トランクに入れていた段ボール箱を再び抱え上げると、洋平の腕に押し付けた。彼が反射的に受け取りながらも目を白黒させているあいだに、リナはさらに自分ももう一つの箱を抱え上げて、洋平の家へと歩き出す。 「じゃ、お兄ちゃんのおうちまで運ぶね!」 「ま、待ってよ、リナちゃん!」  慌てて止めようとする洋平だったが、リナはどんどん先に行ってしまっていて――  30分後。計4つの段ボールが置かれた自分の部屋の中央で、洋平は頭を抱えていた。 「ど、どうするんだよ、これ……」  とりあえず箱を開けてみながらも、洋平はそのたびにげんなりとした表情になっていた。  2つの箱に入っていたのは、リナのおさがり女児服。ブランド物が中心で、まだまだ着られそうなものも多いのだが――何しろ女児服である。しかも「男女兼用」といって誤魔化せるデザインのものは、まったくと言っていいほどない。  トップスはブラウス、カットソー、Tシャツにチュニック――どれもパステルカラーだったり、レースやリボンがついていたり、女児服ブランドのロゴが入っていたりする。  ボトムスはスカート、サロペットスカート、ジャンパースカート、さらにスカッツにスカパンが中心だ。ごく少ないパンツ類も、レースやフリルがついていたり、折り返しの部分が花柄だったり、ブランドロゴが入っていたり、ショーパンだったりと、とても男子高校生が外に着ていけるようなデザインではなかった。  ましてワンピースやフォーマルアンサンブル、ガールズドレスや女児用水着や女児浴衣ドレスに至っては、 「これ、もらったところでどうするんだよ……」  そう言うよりほかにない。  しかも難儀なのは、サイズ的には着られそうなところだった。どれもサイズ150、華奢な洋平なら問題なく着られる。  残る2つの箱のうち片方には、学校関係のものが入っていた。  パッと目を惹くのは、6年間使いこまれたにしてはきれいな、赤いランドセル。黄色い通学帽子と、「6ねん1くみ はやみ りな」とかかれた名札、ウサギの顔の形をした防犯ブザーまでついている。中にはちゃんと、6年生用の教科書も入っていた。  学外活動や行事の時などには着用義務のある制服も、丸襟ブラウスにダブルのイートンジャケット、吊りスカートと、夏冬両方そろっている。上履き入れには上履き、体操着袋には体操着、プールバッグにはスクール水着とゴムタオル。卒業式用の女児スーツと、透明なケースにはストラップシューズまでしまわれていた。  さらに鍵盤ハーモニカ、ソプラノリコーダー、アルトリコーダー。書道箱に裁縫箱と、まるで女子小学生生活スターターキットである。  そして、最後の4箱目―― 「せ、せめてこれくらいは、渡さないでおくべきだったんじゃないかな……」  洋平が声を震わせたのも、無理はなかった。  そこに詰め込まれていたのは、色もデザインも鮮やかな、女児下着の数々だった。キャミソール、タンクトップ、ショーツ、ソックス――確かに中学生が穿くにしては幼すぎるデザインで、一斉に処分しようとするリナの気持ちもわからないではないが、まして男子高校生の洋平がもらっても困るばかりである。まして新品ではない、女子小学生のおさがりなど―― 「まさか母さん、下着までリナちゃんのおさがりを着ろとはいわないよな……?」  リナからのおさがりをもらったことについて、洋平の母親は恐縮しきりで、 「リナちゃんにもらったんだから、ちゃんと着なさいね。あんたの服もちょうど古いのが多くなってきたところだから、今までのは全部処分して、制服以外はリナちゃんのおさがりを着るようにしなさい」 「そ、そんな無茶な……」  そんなやり取りがあったばかりなのだ。  しかしさすがにこのラインナップ。どう頑張っても、男子高校生が外に着ていけるような服はない。これを見れば母親も多少は考えを変えるかと思っているところへ、 「洋平、片づけは順調?」  入ってきた母親に、洋平は状況を訴える。 「とりあえず開けてみたけど、、外に着ていけるような服なんてほとんどないし――それに、し、下着までこんなにあるんだけど、ほんとに制服以外処分して、リナちゃんのおさがりで生活しろっていうつもり?」 「いいじゃない。何か問題ある?」 「問題しかないよ! こんな、小学生の制服だのランドセルだの、女児服だのもらっても――!」 「サイズ的には着られるんだから問題ないでしょ。それに、男子高校生だってわからなければ大丈夫よ。制服を着て、ランドセルを背負って、帽子と名札もつけて女子小学生になりきればいいじゃない」 「よくないから! だいたい、なりきってどうするんだよ!?」 「そうねぇ……さすがに小学校に通いなおすのは無理よねぇ……ま、そのあたりは後で考えることにして、とりあえずいただいた服を全部しまっちゃいなさい」  取り付く島もないとはこのことで、けっきょく洋平はクローゼットから自分の服をすべて取り出し、リナからもらった服と入れ替えるのだった。   (続く)

Comments

ですです

十月兔

以前あげていた絵の小説ですね

masa

むしろおさがりが上がってきます

水無月舞

ショーツは学校にも穿いていけるよね

ありがとうございます!

十月兔

楽しみです。


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