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「マネキンボーイ」(3)

  (3) 「……ええと、3人とも、落ち着いてくれた?」  5分後。  高倉秋生と佐々木亜美、そしてふたりの少女の計4人は、部屋の真ん中にあるテーブルを囲んでいた。  少女たちが悲鳴を上げてすぐ、秋生は事情も分からぬまま「ごめん!」と叫んでドアを閉め、そこに1階から亜美がすっ飛んできた。彼女はすぐに事情を察して中に入り、ふたりの少女にあれやこれやと説明して――改めて飲み物を用意して、いまに至るというわけだった。ちなみに秋生は彼女が戻ってくるまで、廊下で待たされたままだった。 (ええと、千代田さんと、権藤さんだったよな……)  どちらもクラスメイトで、亜美の友達だった。彼女たちの様子をそっとうかがいつつ、秋生はあいまいな記憶を手繰る。  秋生の右隣りでのほほんと紅茶を飲んでいるのは、千代田喜久子。今どき珍しく腰まで伸ばした豊かな黒髪を、前も、耳の横も、そして後ろも、定規でも使ったかのようにぱっつんに切りそろえた女子だ。日本人形のような髪型はやや大時代な印象だったが、楚々とした容姿に上品な挙措のため、違和感がない。なんでも華道、茶道、書道から日本舞踊、和琴までたしなんでいるとか。  普段はブラウスにスカートやカーディガン、ジャンパースカートなどの上品なコーディネートをしていることが多かったが――今はなぜか、黒のタンクトップにピンクのオフショルダーシャツ、デニムの七分丈パンツというラフなスタイルであった。  裸を見られたことはあまり気にしていないのか、秋生に対しても笑顔で「こちらのお菓子、おいしいですわよ」と普通に話しかけてくる。  ただ、問題は―― 「うっ……」  正面からのきつい視線に、秋生の背筋を冷たいものが伝う。  権藤楓。こちらは裸を見られたことにご立腹のようで、じっと秋生を睨んでいるのだが――純粋に怖い。なにしろ、ここにいる他の3人より頭半分ほど高い、150センチ半ばの身長と、男子顔負けの体格を持っているのだ。半月前、女子を泣かせた男子と取っ組み合いの喧嘩になって勝利したのも、彼の記憶に新しかった。  男子れあればさぞイケメンと言われただろう、凛々しい顔立ち。短い茶髪は逆立ちながら波打ち、さながら獅子のたてがみのようだ。外見通りの運動能力で、5年生では女子はおろか男子でさえ、短距離走や高跳びで敵うものはいない。  しかし―― (なんで権藤さん、そんな可愛い格好をしてるんだろう……?)  いつもは男子のようなシャツやジーンズばかり着ている楓。しかし今は、胸元が開いた黒いパフスリーブワンピースの下に、丸襟のピンタックブラウスを重ね着したような、レイヤード風のワンピースを身にまとっている。しかもサイズが合っていないのか全体的にパツパツで、丈の短い裾からは膝頭が覗いている。特に胸元も窮屈そうだ。 (そういえば、けっこう大きかったな――じゃなくて!)  一瞬ちらりと見えた楓の胸元が、同じ年ごろの少女にしては大きかったのを思い出す――が、そんな秋生の内心を見透かしたように、楓がますます怖い顔になった。  そんなふたりの無言のやり取りに、喜久子がころころと笑って、 「楓ちゃん。高倉くんがすっかり怯えてますわ。あんまり赤い顔で睨んでると、赤鬼さまみたいですよ?」 「だ、誰が鬼だ!」  楓はいっそうむくれる――が、一触即発の緊張感からは解放された。 「その……ごめん。中で着替えてるとは、思わなくって」 「ごめんね、楓ちゃん。あたしも注意するの忘れてたの」  並んで謝る秋生と亜美に、楓も怒気をやわらげて、 「まぁ、そういうことならしょーがねぇけどさ……って、高倉! なんでじろじろ見てるんだよ!」 「い、いや、その、権藤さんがずいぶん可愛い格好してるから、珍しくて――」  すごまれて、思わず本音が出る。  それを聞いた楓はさらに赤くなって――失敗だったかと青ざめる秋生の耳に、 「――楓」 「え?」 「権藤じゃなくて、楓って呼べ。その名字、ゴツくて嫌いなんだ」 「あ……ああ、楓……さん」  思わぬ反応に毒気を抜かれながらも素直に答えると、楓はぷいっとそっぽを向き、両隣のふたりがくすくす笑った。 「私のことも、喜久子で。代わりに私も、秋生さんって呼んでいいかしら?」 「うん。よろしく、喜久子さん」 「じゃああたしのことも、亜美って呼んでくれる?」 「え……う、うん! もちろん! じゃ、じゃあ、オレも――」 「ええ。秋生君って呼ばせてちょうだい」  亜美からの申し出に、ぽーっととなる秋生。  その様子を、楓は面白くなさそうに、喜久子は笑いながら見ていたが、 「そうそう、それで、楓さんが可愛い格好をしている理由ですけれど」  思い出したように説明を始める。 「実はわたくしと楓さんで、着ているものを交換していましたの。いま私が着ているのが楓さんの服で、楓さんが着ているのが、私の服なんですよ」 「あっ、それで……」 「なんだよ。どうせ似合ってませんよーだ」  楓はべっ、と舌を出してみせる。  日頃は強面で苦手意識のあった女子の、意外な一面――さらに可愛いレイヤード風ワンピースを着ていることも手伝って、秋生は思わず吹き出してしまう。 「ちょっ、笑うな!」  とうぜん楓は、さらにおかんむりになる――が、 「ごめんごめん。楓さんが舌を出したりするのが、意外だったからさ」 「なんだよそれー」 「くすくすっ、楓さん。秋生さんは、楓さんの可愛いところを見て戸惑ってるんですよ」  喜久子の適切な解説に、楓と秋生はそろって赤くなる。  さらに亜美まで、 「あらあら、焼けちゃうわね」  冗談とも本気ともつかない口調で言って、火に油を注ぐ。  楓はいよいよ真っ赤になって秋生を睨んでいたが、 「……ったら」 「?」 「こうなったら、秋生! お前も参加しろ! あたしひとりだけが恥ずかしい思いをするのは理不尽だ!」  立ち上がって叫びながら指を突き付ける楓に、秋生は思わずのけぞって、 「ええっ!? そ、それこそ理不尽だろ! だいたい、参加しろってつまり――」 「はい。私たちの着替え交換に、ですわ。私と楓さんが好感してますから、秋生さんは――」 「……あたしと、交換ってことね」  亜美はそう言って、秋生を見る。リボンがあしらわれた白のタートルネックに、タータンチェックのジャンパースカートを着た少女は迫力のある笑顔を浮かべて、 「秋生くん。あたしの服、着てくれるよね?」 「う……うん……」  断れるはずが、なかった。   (続く)


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