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短編「マネキンボーイ」(1)

「マネキンボーイ」  女子たちの着せ替え人形にされちゃう男子小学生のお話です。今回は導入。   *   (1) 「母さん、ただいまー! ランドセル置いたら、公園に遊びに行ってくるから――」  5年生の高倉秋生は小学校から帰宅すると、リビングにいる母親に廊下から顔だけ見せて、すぐに2階に上がろうとする。宣言通り、そのまま遊びに出かける構えだ。  しかし母親は容赦なく呼び止めた。 「おかえり、秋生。遊びに行く前に、今日のテストを出していきなさいね」 「うぐっ……!」  すごすごと引き返してリビングに入ると、テーブルで編み物をしていた母親が顔を上げて、じろりと息子を睨んだ。 「ちぇっ、誤魔化せるかと思ったのに」 「ダメに決まってるでしょ。毎週月曜日は漢字の小テストって、ちゃんと覚えてますからね。さ、早く出しなさい」 「へーへー」 「はいは一回!」  秋生は母親に怒られながらも、床にランドセルを下ろして中を漁り、教科書の間に挟まっていた小さなテストを取り出して、 「はい、これ」 「まったく、最初から素直に――」  説教の言葉がふいに途切れ、母親の目が驚きに丸くなる。 「95点? すごいじゃない!」 「へへっ、だろー……って、え?」  驚いたのは秋生も同じだった。そんな高い点数を取った覚えはない。  急いで母親の手の中のテストを覗き込むと、確かに点数欄には「95」の文字。しかしすぐ横の名前欄を見ると―― 「こ、これ、佐々木さんのだ……!」  秋生の悪筆とは似ても似つかぬ、綺麗に整った「佐々木亜美」の署名に、秋生の声が裏返った。  彼女は秋生の隣の席の女子で、テストの点を見ればわかるとおりの優等生である。挨拶をしたり、ちょっとした話をしたりする程度には仲がいい。 「何で佐々木さんのが、俺のところに――」  言いかけて、すぐに理由に思い当たる。国語のテストが返却された後の休み時間、友達と点数の見せあいをしていたのだ。同じようにすぐ隣で見せあいをしていた亜美たちのグループとも、テスト用紙ごと交換して見せあっていたところへチャイムが鳴り、担任の先生がやってきて――そのままうっかり、入れ替わってしまったらしい。 (やべっ、いつもみたいに適当に突っ込んで、佐々木さんのテストがランドセルの中でぐちゃぐちゃにならなくてよかった……)  秋生はほっと胸をなでおろすが、それはさておき。 「まったく、とんだぬか喜びじゃない。褒めたのを返してほしいくらいだわ」 「んな無茶な――でも、このままにはできないよな……」  これが男子同志だったら、笑って翌日取り替えればいいが、相手が女子――なかんずく佐々木さんとあっては、そうもいかない。 「……しょうがない。佐々木さんの家まで行って、取り替えてもらってくるよ」 「いってらっしゃい。ちゃんと親御さんにも謝ってくるのよ」 「へーへー」 「だからはいは――」  秋生は小言を言われる前にリビングを飛び出して、テスト用紙を綺麗に折りたたんでハーフパンツの尻ポケットに入れると、靴を履きなおして家を飛び出した。   (続く)


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