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短編「JS落第いじめ」(3)

  (3)  思わぬ展開になった。  4階にある5年1組の教室を出て、1階にある保健室へと向かいながら、中津川明衣はため息をつく。  すぐに受け入れて、仲良くしてもらえるとは思っていなかった。しかし初日から、こんなことになるとは―― (でも、仕方ない。ぼくが落第したのが、原因なんだから)  手の中の下着の感触もまた、彼の心を辱める。  保健室に着くと、男子高校生の姿に若い擁護教諭が驚きの表情で出迎えた。しかしすぐに察した様子で、 「何の御用かしら?」 「ご、5年1組の、中津川、明衣です。その……しょ、小学校の、女子制服をお借りしたいんですけど……」  口にした瞬間、顔から火が出るかと思った。下着を手に持っていることとも相まって、完全に変態だ。  今日ご教諭も驚いた様子だったが、事情を説明するとあきれ顔になる。 「まったく、片瀬先生ったらしかたないわね。付き添うくらいできないのかしら。……はい、うちの女子制服。ベッドは空いてるから、衝立の陰で着替えてきなさい」 「はい、ありがとうございます」  明衣は制服を受け取ると、素直に衝立の裏で着替え始めた。  ブレザー、ネクタイ、ズボン、そしてシャツを脱ぐ。下着もすべて脱いで裸になると、およそ男子高校生とは思えない華奢な肢体があらわになった。  まずは下着から――秌子に渡されたのは、極めてシンプルな白地のコットンショーツだ。クロッチの部分に若干の使用感があったが、見なかったことにした。サイズは140だが、深ばきタイプで、伸縮性もある。理やりにでも穿けということなのだろう。 「んっ……」  足を通してするすると持ち上げると、思った通りかなりきつい。伸びきったゴムの締め付けが、ふくらはぎから膝、太ももに食い込みながら這い上がってゆく。  それでも我慢して、強引に引き上げる。ショーツはピチピチになりながらも、彼の陰部からお尻までを隠してくれた。  もっとも恥ずかしい場所が隠れてほっとしたものの、女児用下着の感触は少年の胸を情けなさで満たす。 (やっぱり愛衣とは違って、ぼくなんかには、更科学園は無理だったんだ……)  ため息をつきながら、桜の刺繍が入った白のハイソックスを履く。 (無理にこの学校を受けたから、合格したはいいものの授業についていけなくて、落第する羽目になった……自業自得とはいえ情けないな、ほんと……)  ショーツは受け取ったが、キャミソールなどは受け取っていない。明衣は素肌に直接ブラウスを羽織り、ボタンを留めてゆく。サイズ160とはいえ細身の女子用ブラウスが肌にフィットして、特に肩回りにはシワができてしまっていたが、着られないことはなかった。  そして、紺のジャンパースカート――自分が着るのは初めてだったが、数年前まで妹の着替えを手伝っていたので、迷うことはない。背中のファスナーを下ろしてその中に両足を入れ、閉じなおす。だがその着心地の恥ずかしさは、彼の想像を絶していた。 「う……」  上半身はブラウス以上にぴったりと密着しつつも、胸元がややゆったりしているのが逆に落ち着かない。ウエストから下は大きく広がるボックスプリーツスカートのせいで、まるで下着を穿いていないかのような頼りなさ。しかし身動きをするたびに、ざらつく生地が揺れてが太ももをこする。丈は膝近くまであり、下着が見える心配はないのだが――恥ずかしいものは、恥ずかしい。 「はぁっ……」  気づけば止めていた息を、大きく吐き出す。思った以上に熱っぽかった。  さらに襟元に深紅のリボンを結び、上品なグレーのボレロジャケットを羽織る。丈が短いため、ジャンパースカートのおなかのあたりがのぞいていて、ブレザーとの違いを意識せざるを得なかった。 (うう、着ちゃった……更科学園の、女子小学校制服を……!)  顔を赤くしながら、脱いだ服や下着をきちんとたたんで抱え、衝立の陰から出る。  校庭の体育の様子を見守っていた養護教諭は、その気配に振り返ると唇をほころばせた。 「あら、いいじゃない。さっきの男子制服より似合ってるわよ」  さらに赤くなる明衣に、養護教諭はついと指を突き付けて、 「ふふ、揶揄っているわけじゃないわ。ほら、自分でも見てごらんなさい」  そう言って、指を左へと向けた。  あまりにも自然に視線を誘導された明衣は、そこに置いてあった全身鏡で、自分の姿を見てしまう。 「えっ……? こ、これが、ぼく……?」  繊細な表情も、やや伸びた髪も、華奢な体格も、おどおどした立ち姿も――女子小学生にしては高い身長や、広い肩幅など違和感はあるが、とても男子高校生の女装には見えなかった。 「すっかり可愛くなったわね。それならクラスのみんなとも、仲良くなれるんじゃないかしら?」 「な、仲良くなれるかは、わかりませんけど」  驚きの表情を浮かべていた明衣の顔に、不安が兆す。しかし他に選択肢はなく、彼は改めて覚悟を決めるよりほかにない。 「でも――精いっぱい、頑張ってきます」   (続く)


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